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第49話 竜公都市ルキフグッサ 【敵陣突破】



 ルキフグッサの東門から市内に突入する。


 城門や城壁は目だった破損が見当たらなかったが、市内に入ってからは悲惨な光景が広がっていた。


 家は全てベージュ色の煉瓦と石膏でできている古い中央アジアの街のような造りだが、その壁面は大半が煤で汚れていた。

 まるで火事に見舞われて中の木造部分が延焼したような。


 実際、火炎ブレスで焼かれたのだろう。

 石畳舗装のされた大通りを走行していると、所々に、黒焦げの塊が落ちていて、よく見るとそれが人の死体であることが分かった。


『ひどい……』


 エチカが砲手席から思わずつぶやく。


『本当だったんだね……』


 これはラティーナから。

 彼女が唾を呑む音も聞こえた。


 本当に惨憺たる有様だ。

︎︎ルキフグッサは人口八万人の都市だったと言うが、確かに、道の脇にうず高く積まれた焼死体の数は、モニターに映るだけでも数百はある。


 中心部に向かうにつれ、焼死体の数が多くなっていく。


『モトム、坑道入口までは操縦手に判断をお願いするね』


 車長のラティーナからの指示。

 ここから先は、ルート選択が肝になるとみての権限移譲の判断だろう。


「まかせろ。エチカ、周囲の索敵お願いしてもいいか」

『了解しました。おまかせください』


 建物と瓦礫で視界が遮られているし、現状ラティーナは外へ出ることができないので、索敵はエチカの空間識覚に頼るところがある。


 エチカの空間識覚は、何と砲手レベルが上がるにつれて少しずつ広がってきているという。

 元々は半径五十メートル程度の範囲だったが、【レベル28】の現在、半径五十五メートルに広がっている。

 市街地一ブロックを丸ごと、次の通りまで含めて把握できる広さだ。

 

 目標の坑道の入口までは直線距離で約一キロメートルほど。

 しかし真っすぐ行くと敵が集中していると予測される中央ブロックにぶつかってしまう。


「ラティーナ、いったん都市の左端まで進んだ後、左端の通りを進み、その後右折して右端に進行する」

『了解』

「エチカ、左端から右端に行くまでは、正面に出てくる敵の撃破だけでいいよ」

『了解しました』


 ルキフグッサは円形都市だが、内部の路地は碁盤の目状に区切られている。

 俺たちの進む方向で言えば、地図上の左端は都市の南側の外周にあたる。


 正面の中央通りを突破すると、敵が密集しているブロックに突っ込む可能性が高い。

 だから一度左端まで迂回し、敵をそちらに誘導してから右端へ抜ける。


 敵の大半は地上歩行がメインの火竜だし、体が大きいから、敵を発見した場合、一旦中央の大通りに出てから移動する可能性が高い。

 もし、左端で戦闘が開始されたら、敵は砲声を聞きつけて、敵は戦力を左端に集中させてくる。

 対して俺はルキフグッサの通路のうち、戦車が通れる通りがどこかは覚えているから、火竜が通りにくい狭い道を選択することができる。


 こちらのカメレオンネットはまだ効いているから、敵の空間識覚に引っかからない限りは、敵は音に誘導されて延々と同じ方角に集まり続けるはずだ。


 火竜たちが部隊で動くわけではなく、連絡も統制も取れていないのが助かるな。


『ご意図、理解しました。敵はかなりの数が市街にいますが、この作戦なら、障害も少なく目的地にたどり着けると思います』

『私も賛成だよ!』

 

 エチカもラティーナも同意をくれた。

 路面状態をモニターと履帯の反発で把握しながら、速度を適切に維持する。


 都市の左端まで来たら、右に旋回。


『正面、捕らえました。【脅威値450】。火竜です。発砲します』


 エチカが即座に敵を認識し、三百メートル先にいる火竜を射殺する。


『命中しました。敵撃破』


 都市左端の大通りとはいえ、火竜が倒れこんで道幅が狭くなっている。

 俺はその死骸の一つ前の路地を右に曲がる。


 そのままこの路地を突っ切って都市の右端まで行く予定だ。

 案の定、戦車がぎりぎり走れる程度の幅員のため、火竜たちはこの路地を通らないようだ。


「エチカ、どうかな? 適切に誘導できた?」

『はい。先ほど右に折れる直前、大通りに火竜たちが出てきて、そのまま通りを取って殺到しているのが確認できました』


 エチカはどうやって、火竜たちが殺到している様子を確認したのか?

 たぶん例のセミアクティブ走査――五百メートル先を十メートル四方で切り取る探査――で大通り沿いを洗ったのだろう。


 よし。

 作戦通りに進んでいるみたいだ。


 その後、都市の右端まで行く必要はないと判断し、都市の三分の二程まで進んだら、左に折れ、真っすぐに西側の端、鉱山の入り口を目指す。


『ラティーナ、モトム様、都市中央で変身しようとしている赤竜がいます』


 途中でエチカの報告が入った。

 空間識覚で異変を察知してくれたのだ。


『モトム、もうネットを放棄してもいいかな?』

「そうだな。大半の赤竜が左端に集中しているなら、もう迷彩が無くても走り切れるだろう」


 ラティーナの言葉から、そろそろ勝負を決める時期だと判断した。


 多分、都市中央で変身中の赤竜は司令官クラスだ。

 頭をやられれば、敵も混乱するだろう。

 変身中か変身しきったころに倒せば、より敵に与える衝撃は大きいと思う。


『了解しました。旋回砲塔を使って、敵赤竜を狙撃します』


 エチカがそう言った後、しばらくして、


 バスン――バスン――バスン――


 ときれいに四秒間隔で後ろ向きに斉射された砲声が聞こえてくる。

 多分全弾命中だ。

 適切に変身した赤竜たちの命を刈り取ったのだろう。


『終わりましたが――すみません、ネット破れてると思います。砲塔は露出していると思ってください』

「了解。もうあとは坑道入口まで一直線だから大丈夫」


 やがて、正面に目指す坑道の入り口が見えてきた。


『最後の通りですが、左右から敵が来ていますね。左に火竜、右の低空に赤竜です』

「了解」


 エチカの声は冷静だから、今向かっている敵は、状況的にさほど脅威ではないのだろう。

 たぶんもう、90式が坑道に潜り込むのを阻止することはできないタイミングなのだと理解した。


 案の定、坑道入口寸前で、カメラモニターの端に赤い炎が映った。

 左の火竜か右の赤竜かどちらかが吐いたのだろうが、側面装甲に当たっていたとしても、短時間では90式にとっては大きなダメージではない。


 そのまま俺は車体を坑道内に滑り込ませた。

 坑道の入り口は三メートル程度の高さ。

 90式なら余裕があるが、背の高い赤竜や火竜は身をかがめないと入り込むことが難しい。


 追跡は不可能なはずだ――――









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