第46話 ダンタリオ山麓1 【敵地潜入】
市立博物館でヘラドーン打倒の作戦を思いついてから五日後、ニンテンブルグ鉄工所での砲塔後部バスケットの改造が終わった。
開けて本日、早朝、俺とラティーナとエチカ、90式戦車チームは敵の首都であるルキフグッサを目指して進発する。
エミリーヒルの他のみんなには、作戦の詳細は伝えなかった。
以前のシルミウスの時のように、あるドラゴンの討伐任務があるとだけ伝えている。
エミリーヒルの経営はハンス、ユンファ、ナスリンの年長組に任せた。
防衛はステフとフェンリを主軸に、リオドールたちのパーティーを護衛として雇ってある。
もし一週間経っても俺たちが戻らなかったら――エミリーヒルの子供たちは、コクトー評議員やデミスタンに託すことになっている。
荷物積み込みが終わり、乗員がそれぞれの席に収まると、車長のラティーナが遠征の開始を宣言する。
『戦車前進!』
90式のエンジンが唸り、ゆっくりと動き出す。
必達目標はヘラドーンの打倒。
命に代えても、敵の首魁を討つ。
エミリーヒルを出発し、巡航速度でモナド平原を突っ切る。
草原の風を感じながら快走し、一時間ほどで中継地のマステマーシュに到着した。
市の西側には、俺たちが地竜を迎え撃った陣地の名残がまだ残っていた。
城門はほとんど新造されており、カンテラート連隊の歩哨が警戒に立っている。
ジバル准将の後任となった守将に挨拶し、西門をくぐる。
かつて地竜が殺到していた乾いた大地が目に入ってくる。
ここからはカメレオンネットを起動。
90式の外装がゆっくりと周囲の色に溶けていき、この世界から完全に姿を消す。
ダンタリオ山脈までは、ずっとステップ地帯が続いており、周囲には地竜たちもうろついている。
ここで敵に発見されないか冷や冷やしたが、幸い何事もなく……ダンタリオ山脈の麓の森林地帯までたどり着く。
そのまま森林の中の街道を進み、山道の入り口に差し掛かった頃、地図で覚えていた位置に、中規模の大きさの湖が現れた。
予定通り、ここで丁度日没の時間になった。
俺たちは湖のほとりの森でキャンプを張ることにした。
湖岸の森の中に戦車を停める。
カメレオンネットの代わりに通常の森用のカモフラージュネットをかぶせ、近くの木から葉っぱがついた枝を切って取り付け、偽装を整える。
俺とラティーナとエチカの三人だけで野営するのは久しぶりだ。
シルミウス戦の時のキャンプを思い出す。
今回は火は起こさず、テントも迷彩塗装して同じく樹で偽装している。
戦闘糧食の缶詰で食事をしたら、できることもないので早めに休むことにした。
とはいっても、まだ早い時間なので、目が冴えている。
湖のほとりで見張りがてら、三人で話をすることにした。
湖へ向かう途中で見た木こり小屋のことを話題にした。
小屋はいくつかあったが、全て無人だった。
それだけではなくて、扉は全部開け放たれていたし、家具は散乱し、台所の鍋はひっくり返ったままだったが、人の気配は完全に消えていた。
「ルキフグッサだけじゃなくて、周りの村も襲われたのかな?」
ラティーナの言う通りの可能性は高い。
「マステマーシュの時も、そうだったからな」
「木こり小屋に関しては壊れていなかったから、慌てて逃げだしたのかもしれませんね」
エチカが冷静な分析をした後、しばらく俺たちは話すことがなくなって沈黙した。
黒い鏡のような湖面に、三つの月がゆっくりと映り込み、淡い光を反射し始めた。
空の月光と、湖面の反射光が重なり、湖畔は周囲の森や荒野よりもかなり明るい。
エチカがふいにこちらを向いた。
「モトム様……少し、お話ししてもよろしいですか」
「うん、なに?」
エチカの声には、どこか思い詰めたような響きが感じられた。
俺は何でもないことのように、できるだけ平静を装って返事した。
「以前、戦車の中でないと話せないと言ったことを覚えていますか?」
もちろん覚えている。
赤竜王マカフシュが語った、竜族が人類を恐れる理由のことだろう。
そして、領土獲得目的以外に、竜族が人類を侵略する理由。
マカフシュが言うには、どうもそれについての真相を、エチカが知っているということだった。
「今お話しします。それにはまず、私の生い立ちと、私の種族ディコーンについてお話しなければ」
俺は一度ラティーナを見た。
ラティーナは首を振った。
「ううん、私も聞いたことない」
俺より長い付き合いのラティーナも、それについては聞いたことがないのか。
「ラティーナも聞いてください。本当は、二人にはもっと早くに話すべきでした」
エチカはそう言って、ゆっくりと自分の半生について語り始めた――




