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第44話 リバイアストン自由都市1 【出撃準備1】



「赤竜公に勝つ方法が見つかっただと?」

「本当かそれは?」


 マルクとルイドルフの兄弟も半信半疑で聞いてくる。


 俺は思いついた作戦をみんなに公開した。


 最初は全員が驚愕していたが、説明をするうちにみんなの顔に納得の表情が浮かんでいく。


「あの邪智暴虐な竜公が、そんな行動を取るとは……しかし、お前さんの説明を聞いていると、そうならざるを得ないような気もしてくるな」

「死ぬのか。あの赤竜公が……」


 作戦の内容を理解したマルクとルイドルフが感慨深げに頷く。


「モトム……すごいよ……良く思いついたね」

「さすがモトム様です。やっぱりモトム様は最高の氏族長です」


 ラティーナとエチカは喜色満面で賞賛をくれたが、俺は少し二人に申し訳なく思った。


「ラティーナもエチカも……この作戦でいいのか? 二人に迷惑をかけることになるかもしれないが」

「もう。私たち、90式戦車チームは一心同体でしょ?」

「ホバルク村で助けていただいた時から、私たちの命はモトム様のものです」


 二人共、何やら照れ臭そうに笑いながら、二つ返事で了承してくれた。


 作戦が上手くいかなかったら、心中する羽目になるかもしれないのに。

 本当にいい仲間を持てた……胸が熱くなるな。


「よし。この作戦で行くとして。成功確率を上げるためには、もう少し細部を詰める必要があるな。さっき説明した通り、ルキフグッサの近辺で、加工をできる場所があればいいんだけど」


 この作戦の要として、ヘラドーンと対峙する前に、90式にはある加工を施す必要がある。

 そうでなくても、ダンタリオ坑道の地下遺跡に入ったら、カメレオンネットみたいな潜伏用の装備は収納して戦いやすくする必要があるしな。


 俺がそう言うと、マルクが熱い目線で見てきた。


「お前さんと出会ったのは運命のような気がしてきたよ」

「神が言っているんだよ。赤竜公を葬れと」


 ルイドルフもだ。


「ん? 何? どういうこと?」


 二人が何を言いたいのか分からなかったので、俺は首を傾げた。


「ルキフグッサの住人は、全員何もせずに殺されたわけじゃない。赤竜公が虐殺を指示した時も、逃げおおせた者もいたはずだ。特にドワーフはのう、いくつもの秘密の坑道や、地下住居を持っているからな」

「もともと、それらの坑道を使って、虐殺前から赤竜公に対する抵抗組織レジスタンスが結成されていたんだ。彼らは地下で根強く活動していて、虐殺の時には逃げ込んできた住民を匿ったはずだ」


 そうか、確かに赤竜たちが襲ってきたとしても、八万人全員が一気に殺されるなんて、ちょっと考えにくいな。


 坑道がいくつもあって二十キロメートルも続いているなら、みんなそこに逃げ込むだろうしな。

 さっき資料室で見た感じだと、坑道の入り口も一つではなく、山脈中に何百とあった。


 次いでマルクやルイドルフが言ったことによると、ダンタリオ坑道には赤竜や火竜が入れない細い坑道や、その先に連なる居住区がいくつもあり、少数の人口ならそこで養えるそうだ。

 

 抵抗組織レジスタンスの協力を得ることができて、地下の秘密居住区に匿ってもらえるなら、ルキフグッサ潜入後にも俺たちの拠点として使うことができる。


「資料室に戻って、ルキフグッサ周辺の地理について説明したいが、まだ展示室の絵を見るか?」

「一応、全部一通り見てみたいな。他に何か参考になることがあるかもしれない」 


 俺とラティーナとエチカは、一緒に大展示室の絵を一つ一つ見て回ることにした。


 可愛い女の子二人と並んで絵を鑑賞する。

 そんなことをしていると、決戦のための情報を探しに来たわけなんだが……美術品としても見応えがあるので、観光しているみたいな気分になってくるな。 


 大展示室の壁に飾られた絵の手前には、一つ一つ台座が設置されていて、その台座には、おそらくはコクトー評議員の筆によると思われる解説文が、かなり詳細に記述されていた。

 人類と竜族の大戦である、<新竜戦争>の経緯はそれでかなりわかった。


 発端は今から百十年ほど前にさかのぼる。

 その頃はもう、旧大陸の人類は竜族からの独立戦争を始めていて、劣勢ではあったものの、着実に竜族を消耗させていた。

 元々少数であるため、戦力の損失に焦りを感じた竜族は、突如旧大陸の帝国を撤収して、一斉に新大陸に移住したのだという。


 空を飛べない地竜や、翼が小さい火竜はどうやって大洋を渡ったのか謎だったが、他の絵にその様子が描いてあった。


 元々太洋を渡ったのは、赤青緑金銀白黒の色竜カラードラゴンだけだそうだ。

 地水火風の頭文字を冠するドラゴンは、エレメンタル・ドラゴンという名前で、新大陸での現地雇用なんだとか。

 

 新大陸に上陸した色竜たちは、特に防備をしていなかったシャルマニア帝国などの旧大陸の国家の植民地群に襲いかかり、その領土の大部分を切り取った。


 住民や軍人は当然激しく抵抗したが多数が殺害され、ほぼすべての植民地軍隊は敗走した。

 その混乱期にやってきたのが、シャーマン部隊や三号突撃砲の部隊、ということだった。


『一万人以上の人口を持つ三十五の都市が攻撃を受けて廃墟になった。竜族の侵攻で直接的に殺害された民衆の数は二百万人を超える』


 ある解説文にそんなことが書いてあった。

 凄まじい犠牲者数だ……。


「当時は開拓ラッシュでしたが、治安は悪くなく、人口統計はかなり正確だったそうですので……この数字はそこまで誇張ではないと思います」


 エチカが補足をくれた。


 犠牲者については傷ましいとしか言いようがないが、ちょっと気になったのは、ドラゴン側の戦力。

 一体何匹いたのか? という推察をするときに、足がかりになるのはグラオギルスやギャンガラドが伯爵だったってことだな……


 俺の知っている知識だと、ヨーロッパでは公爵の下の侯爵は、公爵のきれいに十倍の数で、同じように伯爵は侯爵の十倍だって話。

 昔何かの本で読んだような気がする。


 ドラゴンの爵位制度が人間と同じ比率だった場合、公爵であるヘラドーンの下にはグラオギルス級が百体はいるという計算になってしまうな……。


 さらに竜帝の下に竜公が一人ってことはないだろうし。

 竜帝自体も赤青緑金銀白黒の七色いるから……公爵が竜帝の下に十体だとすると、伯爵クラスだけでも、ええと……七×十×十×十で……七千体近くいる可能性があるのか! 


 これはヤバいな……二百万人が犠牲になるわけだ……。


「うーん、何か他に役に立つ情報があった?」

「いや……だけど勉強になったな。何より絵が綺麗だ」

「確かにそうですね」


 苛酷な戦争を描いた絵だったのに、ちょっと和んでしまった。

 ゲネリッヒ氏の絵は、写実的で超絶的な技巧だから、質の高い美術館を観光したような満足感が得られた。


「そろそろ資料室に行くか……」


 マルクとルイドルフの兄弟は一足先に資料室に引き上げていた。

 俺たちも後を追うために展示室を出ることにする。


 最後にもう一度、展示室正面に描かれたヘラドーンの姿を目に焼き付けてから、振り向き、出口を目ざす。

 途中、部屋の中央を通った時に、モニュメントに刻まれていた碑文に目が留まる。


「これは戦没者に対する慰霊碑のようですね」


 これもコクトーさんの書いた文なんだろうな。

︎︎文体や修辞が一緒だ。


『<新竜戦争>の全ての犠牲者への慰霊を込めて――』


 その文を読んだ後、改めて展示室中に描かれた絵画を眺めてみる。


 二百万の犠牲の意味を後世に伝えるための絵か……

 ゲネリッヒはこの展示室の絵をどんな思いで描いたのだろうか……。


 自分の故郷や親族や友人を焼いたかもしれない、宿敵ヘラドーンの姿を克明に残したのは、何かを伝えたかったからなのかも。


 確かにこの絵は俺たちに、ヘラドーンに勝つ最大のヒントを与えてくれた。


 それは単なる偶然だったのだろうけど――全てを奪われたゲネリッヒの執念が、俺たちをこの地に呼び寄せたのかもしれないな――




 



 






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