第40話 エミリーヒル本館2 【情報整理】
︎︎俺たちはエミリーヒルに戻ると、本館に作った教室に入り、リバイアストンで得た情報を整理してみることにした。
「いやー、色々聞いちゃったねえ」
︎︎マカフシュとの会見では、言葉が少なかったラティーナだったが、家に戻ってきたら大分落ち着いてきたようだ。
「ごめんな、ラティーナ。エチカも。その、もしかして辛かったか?」
「えっ?!︎︎……あ、別に仇だと思ったわけじゃないよ。あの竜たちはホバルク村に来たわけじゃないし、敵意がないのは分かったし。でも、やっぱり身分の高い竜族は怖いな。情けないこと言って申し訳ないんだけど」
︎︎そういって若干八の字になるラティーナの眉と、しな垂れる長耳。
「モトム様、実は竜畏怖というものがあってですね」
︎︎エチカが言うには、竜族は近くにいる人類を威圧するオーラみたいなものを常に放っているらしい。
︎︎精神の弱い者だと、それだけで恐慌状態に陥ってしまうそうだ。
「へぇー、俺は全く感じなかったけどな。何でだろう? それにエチカも怯えているという風ではなかったような」
「モトム様は元は異界の方ですから、この世界の理からはご自由なのかもしれませんね。ディコーン族に対しては、ドラゴンの特性の大半が無効なんです」
「私も90式に乗っている時は平気なんだけど」
︎︎もしかして、90式は状態異常効果も無効にするのかな?
︎︎デイコーン族は、ドラゴンに対しては色々と特別なんだな……
︎︎そういえば、マカフシュがエチカを見て何か言っていたな……<エスタミシュ>とか……
「ところで、マカフシュが時々言ってたことなんだけど……竜族が人類を侵略する理由や、恐れている理由について……エチカ、何か知ってるの?」
︎︎これはマカフシュの会談の内容を思い出す限り、エチカにとっては、どうも話しづらいことのようだった。
︎︎しかし、もしかしたらそこにヘラドーンを攻略するヒントがあるかもしれないから、聞いておきたい。
︎︎エチカは俺の言葉を聞くと、真剣な表情になった。
︎︎そして教室の席に座ったまま、横目で周囲の様子を伺う。
「すみません、ここではちょっと……後で戦車の中で話します」
︎︎なんだ?︎︎今の様子……誰か他の人間に聞かれるとまずいみたいな。
︎︎この教室の外で聞き耳を立てていても、聞こえないと思うが。盗聴でもされている可能性を疑っているのか?
︎︎確かに異世界だしな。
︎︎機械式の盗聴器は当然ないだろうけど、俺の知らない盗聴手段があるのかも。
︎︎盗聴魔法とか?
……ラティーナをはじめ、エルフは異様に耳が良いから、もしかしたら教室の外からでも聞こえるのかも。
「分かった。じゃあ、一旦その件は保留で、今持っている情報と課題を整理してみようか」
「そうですね」
「賛成!」
︎︎カツカツと教室の黒板にラティーナがチョークで文字を書いていく。
︎︎しかし、俺の記憶を元に教室を作ってもらったせいか、大昔に通っていた高校にそっくりだ。
︎︎思い出して懐かしくなるな。
……ラティーナの後ろ姿、スタイルが良くて学生服着たら似合うだろうな。
「今わかってるところはこんな所かな?︎︎ん?」
︎︎ラティーナが急に振り向いて俺の方を見たので、ドキッとする。
︎︎な、なんだ?
「あっ、モトムが私のことエッチな目で見てくれてる!」
︎︎い、いきなり何を言うんだこの子は!
「もしかして、異界のモトムの好きな服を思い出して、頭の中で私に着せてたとか?」
︎︎馬鹿な……
︎︎エルフは心が読めるのか?
「私も時々そういう視線を感じて、私でも需要があるんだなと感じて嬉しくなります」
︎︎エチカまで!
……単に女性特有のエロ目線に対する鋭さでした。
「くっ……」
「その服作ってくれたら、今度着たげるよ」
「私も着ます」
……何だと?
……なんて優しい子たち!
︎︎いや、そうじゃなくて。
「ゴホン。本題を進めようか」
︎︎スクールデイズを満喫するのは次の機会にすることにして、今は状況の整理だ。
︎︎
『ヘラドーンはニューシャルマニア全土の征服を狙っている』
︎︎ヘラドーンは、竜帝の地位を欲しているので、そのために領土を獲得したいという話だった。
︎︎この条件は土地だけでよくて、住民はどうでもいいらしい。
︎︎なのでヘラドーンは復讐と狂気を優先して、占領地の人類を虐殺し回っている。
︎︎基本的に人類とは相容れない存在になっちまっている。
︎︎ヘラドーンの標的はリバイアストンだけではないから、ニューシャルマニアの中では、逃げられるところは無いってことだな。
︎︎新大陸の東海岸には他に、北に別の国の植民地がいくつかあるらしいが、そこはそこで、<北方魔王>の侵略と戦っていて余裕が無いらしい。
『ヘラドーンはルキフグッサ市内ではなく、鉱山の中の神殿にいる』
︎︎これはマカフシュが最後に教えてくれた情報。
「そういえば、俺の世界のお話だと、何となくドラゴンって、洞窟の奥に住んでいるってイメージがあるな。こっちの世界ではどうなの?」
「こちらでもそうですよ。元々ドラゴンは迷宮の守護者として生まれたという伝承があります。だから迷宮のような場所に住みたがるそうです」
︎︎なるほど。
︎︎なんで空飛べたりブレス吐けたりする強味を全部台無しにしてしまう場所に住みたがるのか謎だったが、習性なのか。
「ルキフグッサの鉱山ってどんな所か知ってる?」
︎︎敵の本拠地の情報や地形が分かれば非常に作戦が立てやすい。
︎︎しかし、これには二人とも頭を振った。
︎︎二人とも、流石にヘラドーンの治める都市までは行ったことは無いだろうしな。
「ルキフグッサのことなら、住んでいた人たちに聞くと良いのではないでしょうか?」
︎︎あ……!
︎︎そういえば、住んでいた人たち、知ってるわ。
︎︎リバイアストン鉄工所のニンテンブルグ兄弟だ。
「今度、鉄工所に行ったら二人に聞いてみようか」
︎︎俺がそう言うと、エチカもラティーナも頷いた。
『九十年前の戦車がヘラドーンとどうやって戦ったか書いた本が市立図書館にあるという話だが、まだ見つからない』
「これは、もうちょっと探してみるしかないかな」
︎︎これについては二人とも異論はないようだ。
『ルキフグッサまで敵に気づかれないで侵入する手段』
︎︎この項目、ラティーナは何度も消して書き直していたのだが。
︎︎どれだけ考えてみても、やはり俺たちがヘラドーンに勝利するには、乾坤一擲、ヘラドーン本人を打倒するしかない。
︎︎その成功確率が一番あるのは、ヘラドーンが独りでいる時間を狙うことだ。
︎︎ヘラドーンが鉱山の地下深くに潜んでいるというなら、90式戦車で乗り込めれば直接対決という手も取れる。
︎︎あるいは、鉱山の出口を砲撃で塞いで生き埋めにするとか。
︎︎まあ、出口が何個もあったら使えない手段だが。
︎︎その辺は、ニンテンブルグ兄弟とか、ルキフグッサのことを知っている人たちに地形を聞いてからだな。
︎︎何にしろ、敵に気づかれないでルキフグッサまで到達できないと話にならないが。
︎︎うーん。
︎︎二人に以前思い付いた迷彩の話をしてみるか。
「一つ思い付いたことがあるんだけど、もし、視認できないような装備を90式に付けたら、ドラゴンに見つからないように進めるかな?」
︎︎俺がそう言うと、二人とも目を丸くして驚いた。
「可能性は高いと思うよ! シルミウスもそうだったけど、基本最初は目で索敵してるんだよね」
︎︎おお。
︎︎いつもキューポラから顔を出して一番ドラゴンを観察しているラティーナが言うなら間違い無さそうだ。
「私もそう思います。ドラゴンは鼻が利くんですけど、何故か金属の匂いは判別できないんです。空間識覚も、目で見つけられなかったら探査してみようとは思わないでしょうし」
︎︎エチカも追認してくれた。
︎︎二人の意見で可能性が見えてきたかもしれない!
「後は姿を完全に隠せる方法か……」
「90式のクラフトでそういうものができたらいいんですけどね」
「そういえば、これ何かに使えない?︎︎さっきポストを見たら届いていたんだけど」
︎︎ラティーナがポシェットに入れていた封筒を俺にくれた。
︎︎その表面に書いてある差出人欄を見る。
「冒険者協会からの手紙?」
「多分これ、剥ぎ剥ぎの権利のことでしょ」
︎︎封筒の封を解いて、中の書面を見る。
「リバイアストン素材オークション開催のお知らせ……」
︎︎多分これは最近倒したギャンガラド以下、地竜軍団から剥いだ素材のオークションだろう。
コクトー評議員が優先して買い取る権利をくれるって言ってたな……
︎︎地竜討伐から二ヶ月ちょっと経っている。
︎︎開催を早いとみるか遅いとみるか……
︎︎地竜素材で何か使えるものがあるかな……
「あっ?!」
︎︎俺は閃いて、思わず大声を上げてしまった。
「あれだよあれ! エリマキトカゲだ!」
「なにそれ?」
︎︎俺が何言ってるのか理解できないらしく、ラティーナがきょとんとした顔をする。
「ギャンガラドと戦う為に、マステマーシュから、リバイアストンに急行した時倒しただろ?︎︎姿が見えなかったやつ!」
「ああ、あの、きしゃあああって叫んで難民に襲いかかっていた地竜」
「あ!︎︎その鱗や皮を素材に、戦車クラフトで何か作るってことですか?」
︎︎さすが参謀長エチカ。理解が早い。
「エチカ、行けると思う?」
「……行けると思います。私もあの地竜の姿は目では完全に見えませんでしたから」
︎︎エチカの顔にも希望の笑みが湧いてくる。
︎︎ラティーナも遅れて意味を理解し、口を大きく開けた。
︎︎
︎︎よし。
︎︎そうと別れば、オークションに出席して、素材の買い占めだ!




