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第39話 リバイアストン市街区食堂 【聴取終了】



 二階VIPルームの扉が勢いよく開け放たれると、入口に燃えさかる炎のような赤髪の女性が立っていた。


 服装はいつもエチカが着ているようなチャイナドレス風のスリット付き長衣だが、こちらは目の覚めるような真紅のファイアパターン柄だ。

 そして気の強そうな美人顔の両側には、マカフシュと似たような形の角が付いている。


 彼女はドカドカと部屋の中を歩いてくると、椅子に座っていたマカフシュの前にひざまづいた。


「マカフシュ様、こちらにおられましたか! もう! 勝手に居なくなるから……何日探したと思っているのですか!」

「ギネア……ごめんね、心配かけて」


 ギネアという名前を聞いて、エチカの顔が一瞬で硬直したのを俺は見逃さなかった。

 もしや、この女性についても、エチカは心当たりがあるのか?


 姿形からして、おそらくはマカフシュと同じ赤竜族で、お付の女性と言っていたのはこの人のことなのだろう。


「ギネア、こちらは藤原求さん。ギャンガラドを討った人、と言えばわかるかな?」

「なんと、貴殿が次々と高位の竜族を討伐されている勇者殿か」


 ギネアは、目を見開いて俺を見た後、喜色満面で握手を求めてきた。


「あっ、どうも」


 手を握り返したが、何というか、とても色っぽい女性なので恐縮する。


 はっ、いかん。

 この女性もレッドドラゴンかもしれないんだよな。


 ちょっと豊満なナイスバディに目を取られてしまった……気を引き締めないと。


「なるほど。ちと見た目が若すぎて貫禄がないが、なかなか私好みの面構えだ。どうだ、私とつがいになる気はないか?」

「なっ……」


 いきなり何を言ってるんだ、このお嬢さんは?

見た目のことを言うなら、このお嬢さんは二十歳前後というところだ。

 断然この子の方が若いと思うが。


 俺がなんと返答したものか困っていると、エチカが俺とその女性の間に割入るように入った。


「むっ?」


 ギネアは行動を咎められたと思ったのか、怪訝な表情になる。


「ギネア、よりによってモトム兄さんにアプローチなんて……その人、赤竜公と戦おうとしているんだよ。君が粉をかけたら問題あるんじゃない?」


 横から、マカフシュが言い添えた。


「なんと! よもや赤竜公と相見えようとされているとは。やはり屈強な戦士に違いない。ますます気に入りました……それに、障害があるほど熱情は燃えるものです」

「君がそれでいいなら、いいけどね……」


 障害?


 なんのことだろう?

 それにこの人、マカフシュの恋人ではないのかな?


「ああ、ギネアは僕の世話係兼冒険者仲間で、別に恋仲って訳では無いから」


 俺が疑問そうな顔をしているのを悟ってか、マカフシュが説明してきた。


「マカフシュ様は手のかかる弟みたいなものでしょう」


 ギネアは腕組しながら追随する。


 なるほど。

 割り切ったサバサバした仲なのか。



 保護者であるギネアさんと合流できて、飢え死にする心配が無くなったということで、マカフシュは俺たちと別れることになった。

 別れ際に、餞別だと言って、マカフシュは一言残していった。


「何か参考になるかもしれないかと思って。ヘラドーンは、ルキフグッサ市内に出てくるつもりは無いみたいだね。僕が訪問した時も、都市の近くにある鉱山の中の神殿にいたよ。その場所なら、工夫すれば勝算があるんじゃないかな?」


 これはもしかしたら有益な情報かもしれないと思った。


 巨大なドラゴンが通れる鉱山の中の神殿というのが何なのか気になるが、もし少数の護衛しか入れない狭い場所なら、潜入しての暗殺が可能かも。


「あともう一つ。同郷のよしみとして。高山に登ったら、遠くを見渡してみるといい。この世界の秘密がひとつ分かるかも」


 これは一体どういう意味の言葉なのだろう?


 高山に登ると分かる世界の秘密とは?

……地形的なことかな?


 そういえば、新大陸全体の地図なんかは見たことないな。


 エチカとラティーナは、結局マカフシュとはほとんど会話しなかったし、ギネアとは一言も言葉を交わしていない。


 敵相手だから、萎縮してしまっていたのもあるだろうけど、元々彼女たちはホバルク村の友人たちを竜族に虐殺されているから、たとえ友好的な竜族だったとしても、わだかまりがあるんだろうな……


 先程の会談の内容については、いくつか彼女たちに確認しておかなければいけないこともある。


 特にエチカだ。


「エチカ、彼女についても心当たりがあるの?」

「はい……。ギネアという名前で思い付くのは、灼熱竜公主バーニング・ドラグプリンセスヘラギネア。赤竜公ヘラドーンの、長女です」


 何?!

 なんてこった……。

 あの女性、ヘラドーンの娘のくせに、敵の俺を口説こうとしていたのか?


 自分の父親を暗殺しようとしている男だぞ……。


 それを知らなかったとしても、父親の敵であることは知っているはずだ。


 なんというか、イカれているというか……

 竜族の価値観は、どうも人間とはかなり違うようだ。


 バーニング・ドラグプリンセスという二つ名もどうかと思うが。


 現代日本だと中二病的な異名だが、こっちの世界じゃ普通だったりするのかな?


「そういや、俺のことを見た目が若すぎるとか言ってたけど、よく分からんお世辞だよな」


 これは本当に、何のつもりで言っているのか分からなかったので、俺は頭の後ろをポリポリと掻きながら不思議に思った。


 しかし、その俺の言葉に反応して、ラティーナとエチカが顔を見合せながら何か言いたそうにしている。


「どしたの?」

「えっとね、気付いていないのかな? とは思ってたんだけど」


 ラティーナが俺の顔を覗き込むように近づいてきて言った。


「?」

「モトム、最初に会った時より大分見た目が若くなっているよ」

「は?」


 ラティーナはとても真剣な顔で言ってきたが、俺は意味が分からなかった。


「前のイケオジ風の見た目も、お父さんみたいで好きだけど、今も素敵だよ……」と、モジモジしながら言う。


「初めてお会いした時も、とても魅力的なおじ様だと思いましたが……今はどう見ても十代後半から二十代前半というか、若々しくて壮健な見た目をされています」


 エチカまで、そう言って頬を赤らめた。


 とういことは何か?


 この数ヶ月で、俺の見た目が若返っているってこと?


 それに別に俺は若い頃も、見た目でそんなに褒められたことはなかったんだけど……


 ……そういえば、確かにこの世界に来て今まで、鏡をろくに見ていなし……あ……髭を一度も剃っていない!


 ということは普通なら無精髭でボサボサになっているはずなのだか、咄嗟に顎をさすってみたが、ほとんど伸びていなかった……なんだこれ?


 そういえば、90式のマニュアルに気になることが書いてあったんだよな……あれってもしかして、このことなのか?


【搭乗員レベルが上がると、身体の状態が当該搭乗員として適正な状態に調整されていきます】


 何やら肉体改造じみている文言で、気味が悪かったが、まさか本当に体を適正年齢まで戻す効果があったってことか……?


……今度、ちゃんとした鏡見て確認してみないとな。





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