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第37話 赤竜王マカフシュ1 【秘密会談】



 よく見るとその少年は頭から角が出ていた。

 エチカの角に形がよく似ている。


 本物か? これ。

 もしかしてディコーン族?

 奴隷だったりするのだろうか。

 とにかく、さっきこの子が言った言葉を確かめないと!


「君! 今、自衛隊って言ったよね?」

「えっ、えっ? 僕何か言いましたか?」


 あれ?

 何か様子が変だな。


「それよりお兄さん、僕お腹がすいちゃって。お兄さんなら、なんかおごってくれそう」


 うん?


「お腹がいっぱいになったら、頭もスッキリして、さっき言ったことも思い出すかも……」


 こいつ……もしかして、交換条件てことか?


 まあ見た目すごく痩せてるし頬もこけているし。

 もし、同じ地球人だとするなら、同郷のよしみもある。

 確かに放っておくのは気がひけるし、別にいいけど。


「わかった。何か食べさせてやるから、さっきのこと。<自衛隊>っていう言葉をどうして知っているのか、理由を教えてくれ」


 俺がそう言うと、少年の顔がぱあっと明るくなった。

 本当に飢えているらしく、薄汚れているのに蒼白な顔をしている。

 

「モトム様、その子は……? 迷子ですか?」


 エチカとラティーナが、バザーがある建物のファサードの下から広場に歩いてきた。


「エチカ、ラティーナ、悪いけど、食堂へ行きたいんだ。この子に何か食べさせてやりたい」


「アメジストの瞳、まさかエスタミシュの?」


 俺が二人に向いて事情を説明した時、背になった赤毛の少年が口を開いた。

 その言葉を聞いて、一瞬でエチカの表情が険しくなる。


「――その名前を知っていて、その角、その髪――」


 なんだ?

 ただならない空気になってしまった。


 <エスタミシュ>っていう単語、エチカの過去と何か関係あるのか?

 この子、やっぱりディコーンか?


 俺がその子に振り向いてもう一度観察しようとすると、少年は力尽きたように地面に倒れこんだ。


「あ、おい」

「なにか……食べ物」


 何かと秘密の多い子のようだが、餓死寸前というのは本当のようだ。


 俺はその赤髪角頭の少年に肩を貸してやり、バザーに近い一軒の食堂兼宿屋に連れていくことにした。

 ここは元は潰れかけていた店舗だったか、俺の我儘で、竜退治の賞金を使って店主ごと買わせてもらった。


 割と見た目も中身も小綺麗なので、リバイアストンに用事がある時の宿泊先にもしている。

 店主は新しい料理の研究に夢中になりすぎて、経営を疎かにしてしまう人だったので、金銭的支援と同時に、俺の野望を実現するための研究をしてもらうことにした。

 俺の野望、それは、リバイアストンに入ってくる各地の香辛料を使って、自衛隊カレーを再現することである。


 俺たちはその子を二階のVIPルームに招いて、開発中のメニューを食べさせてあげることにした。


「こ、この匂いはもしかして……」

「おや、嗅いだことがあるのかな?」


 やはり、地球にゆかりのある人間か。


 席について、まず食前のオードブルを食べさせてあげると、少し落ち着いたようだ。

 少年は息をついた後、挨拶をした。


「改めて、僕の名前はマカフシュです。よろしく」

「ああ、よろしく……藤原求だ……?」


 いきなりエチカが、ガタッと椅子を引いて扉側の壁際に飛びすさり、懐に入れていた9ミリ拳銃を取り出して構えた。


 自衛隊装備の扱いも様になってきたなあ――


――って、そんなボケたことを考えている場合じゃない。


 何で急に拳銃を抜いた?

 この目の前にいる少年、そんなにヤバい奴なのか?


 敵――なのか?


「エチカ、どうしたんだ?」

「モトム様、こちらへ来てください。その子から離れて! ラティーナも!」


 俺たちは言われるまま、エチカが動いた入り口側へ歩く。


 ん?


 ラティーナが俺の背中に両手をつけて、まるで隠れるような仕草をした。

 おまけに、その手ははっきりと分かるぐらいに震えている。


「エチカ、あの子一体何者なんだ?」

「マカフシュという名前を持つ者は、この新大陸では一人だけです」


 確かに変わった響きの名前だが、エチカは相変わらず拳銃を下そうとしない。

 そこまでするほどの人物ということか?


「赤竜王マカフシュ……赤竜帝の息子です」


 エチカの言葉の意味、一瞬呑み込めなかった。


 え? 赤竜王……?


 竜族、っていうことなのか?


「どこからどうみても人間なんだけど……」

「モトム、高位の竜族は人間に変身できるの」


 背後からラティーナが震えるような細い声で訴えてきた。

 まるで悲鳴みたいな響きだ。

 彼女がこんなに怖がっているのは、相手が赤竜王だからなのか?


 <王>ということは、今戦っている赤竜公ヘラドーンより格上ということになる――


「待って待って! 敵対するつもりはないから! 僕は本当に食事したいだけ!」


 マカフシュと名乗った少年は、両手をあげて降参のポーズをした。


 その様子は、銃を突きつけられて慌てているようにしか見えなかった。


 俺はエチカの銃の上に手を当てて、銃口を下ろさせる。


 丁度その時、ドアが開いて、店主が無言で入ってきて、机の上に料理を置いた。


「あのー、これ、食べてもいいかな?」


 目の前の赤毛の少年は、涎を垂らしそうなほど口を開けて、料理を覗き込んだ。


 俺がため息をつくと、エチカも殺意をしまいこむ。




「懐かしい味……神保町で食べたスープカレーに似ているかも」


 大きなスープ皿に入ったスパイススープをガツガツと食べている赤毛の少年。


 そんな感想が出るなんて、これ中身ぜったい、日本人だろ。


 しかし、エチカの言うように赤竜王という情報も間違い無さそうだな。


 どういうこと?


 まさか、転生者ってやつか?



「ああ、美味しかった。本当に命拾いしました。この御恩は一生忘れません」



 少年、もう間違いないだろうからマカフシュと呼ぶが、彼は腹がくちくなったら、途端に元気になったのか、席に座ったまま、わりあい優雅にシャルマニア式のお礼の仕草をした。


 頬もツヤツヤし出した気がする。

 そんな早く消化できるのかな。

 オードブルの分かな?


 マカフシュは立ち上がると、お腹をポンポンと軽く叩いた後、てくてくとドアに向かって歩き出した。


「さて、気まずくなっちゃったし、僕はこれでお暇しますね」

「待て待て」


 俺は隣を通り過ぎようとするマカフシュの襟首を捕まえた。


「えええ、何で⁈」


 マカフシュが驚いて声を上げる。


「何でじゃない。何帰ろうとしてんだ。まだ自衛隊を知ってた理由も、それから神保町についても聞いていないな。色々話してもらうぞ」


「モトム、大丈夫なの? 平気?」


 ラティーナがエルフ耳をしなだれさせて聞いてきた。

 耳がこうなっている時は、心配しているか、不安なときなんだが……


「え? 何が?」

「だって……その子……レッドドラゴンなんだよ」


 やはり、まだ怯えているのか。


「ラティーナお姉ちゃんの心配は杞憂だよ。モトムさんたちに敵対する意思はないし、さすがに建物の中じゃあ、僕も変身できない。天井に頭が当たって痛いしね」


 ……その程度のレベルの問題なのかよ。





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