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第30話 第一次リバイアストン会戦2 【機動戦】



 マステマーシュから取って返し、90式を最高速度でリバイアストンへ向けて走らせている途中、エチカがふと思い出したように言った。


『モトム様、ギャンガラドはひょっとしたら磁力ブレスを吐くかもしれません』

「磁力ブレス?」

『本当の磁力と同じかは正確にはわかっていないのですが……』


 本当に磁場が発生するとしたら、電子機器や車体の大半に鉄鋼を使っている90式にとっては相性の悪い相手だ。


「磁力っていうと、鉄を引き付けたりするの?」

『それが、実際はブレスを着弾させたところに、反発させたり引き寄せたりする効果を与えるらしいです』


 訳が分からないブレスだな……。

 だが、それが本当なら、今頭の中で考えている作戦に対してはちょっと都合が悪い。

 何とかブレスを吐かせないような工夫をしないといけないか。


 そうこう考えて、マステマーシュから五キロメートルほど走ったところで、難民の集団に追いついた。


「リバイアストンへ移動する難民か……」


 凄い数だ。

 二、三万はいるだろう。

 荷台に家財道具一式を積んでいる人たちもいれば、着の身着のまま逃げ出してきたのか、荷物一つ持っていない徒歩の人たちもいる。

 人々の背中は全て憔悴しきっているように見える。


 無理もない。

 長く暮らした村を焼け出されて、新しい移住先でも落ち着ける保証はない。

 俺が異世界に来た時のホバルク村の少女たちと同じだ。

 

『右前方、敵がいます! 恐らくは地竜です! 距離75メートル!』


 エチカの叫びがインターコムに入り、俺は我に返る。


「なに!? どこだ?」

『エチカ、何も見えないけど……』


 ハッチから上半身を出して偵察していたラティーナが疑問を呈す。


『周囲に紛れるタイプの地竜だと思います』


 そうエチカが追加報告した次の瞬間、難民の列の右側――俺たちの前方で、巨大なエリマキトカゲのようなモンスターが突然姿を現し、咆哮を放った。


 キシャアアア!


『民衆の一団が近すぎるので、同軸機関砲で狙います!』

『M2も行くよ!』


 列を乱して恐怖に逃げ惑う難民たちとは裏腹、俺の戦車クルーたちは冷静に次の行動を申告する。


「頼んだ! もし外したら体当たりするから!」

『『了!』』


 エチカの7.62ミリ機関砲、それにラティーナのM2が一斉に火を噴く。

 蜂の巣になりながらも、怪物は余勢を駆って難民の列に襲い掛かろうとした。

 俺はアクセルを目いっぱい踏み込み、90式で体当たりした。

 巨体が跳ね飛び、エリマキトカゲは体液を撒き散らしながら、地面を滑っていく。


 そのまま動かなくなった。

 周囲に紛れ込むための迷彩能力に特化しているせいか、防御力は低かったようだ。

 完全に周囲に同化できるタイプのドラゴンもいるのか……驚きの生態だ。


 エチカの生体感知でも死亡が確認できたが、念のため降車して確認する。


「危険はなくなりました。お騒がせしました」


 前に出てきた難民の年長者らしき人物に挨拶し、再び戦車へ戻る。


 難民たちはみんな呆然としていた。

 先ほどトカゲが襲い掛かった時は悲鳴を上げていたが、状況が回復してみれば、何のことか分からなかったのだろう。


 戦車を進発させてしばらくすると、難民の列から歓声が上がった。

 俺たちはやっと笑顔になることができた。


 車長のラティーナが手を振って応える。

 90式は、感謝の視線を背後に受けながら難民たちの前に躍り出る。


 リバイアストン迄は後三十分ほどの道程だ。





 マステマーシュからの三十キロを四十分弱で走破し、リバイアストンに到着した俺たちは、市の西側のテント村前から迂回し、南門前から西に三キロの地点に到達した。

 そこから南門までは緩やかな坂になっており、坂の下側、南門の前の窪地が一望できる。

 

『すごい数の地竜がいるね。やっぱりこっちが本隊だったんだ』


 キューポラから索敵していたラティーナが、敵の布陣を教えてくれた。


「エミリーヒルは標的になっていないんだな?」

『うん。ただの丘として無視されているみたい』

「ラティーナ、一旦停止する。敵の配置を教えてくれ」

『了解。作戦会議しよう』


 砲塔上に三人集まって、作戦を練ることにした。


(手早く、敵の配置を確認して、突入しないと……)


 ラティーナから敵の陣容を聞いているうちに、俺の焦りは強くなった。


「投石機型が五体か」


 マステマーシュにもいた、アンキロサウルスに似た地竜――アノクサラスだ。

 尻尾の先端がバスケットになっていて、そこに石をセットして投げる。

 石は補助の小型地竜が運搬してバスケットに設置していた。

 分業ができるとは。

 見た目の割には、思ったより知能が高い。


『原始的だけど、侮れないよね』


 実際にリバイアストンには大きな被害が出ている。

 双眼鏡で城壁を見た時、堡塁や城門がかなり破壊されていた。

 直径二メートルもの岩石を五百メートル先から放り投げているのだ。

 落下エネルギーが凄まじい。


 現在、敵の地竜軍は南門に戦力集中している。

 布陣は、南門から五百メートルほどの所に、投石型の地竜が五頭、横一列に並んでいる。護衛として、首長竜型の恐竜が二頭いる。


 そこから、二百メートルほど進んだところに大型の突撃型地竜が十六頭。

 そして、二重城門の外門と内門の中間、いわゆるバービキャンに、今、犀かトリケラトプスのような獣に、赤銅色の鎧や飾りをそこかしこにつけて、棘と角だらけの一際巨大な地竜がいる。


 他の地竜の三回りほどの巨体。

 おそらくあれが、ギャンガラドだろう。


 ちょうど一つ目の門を破壊し終わったところだった。


 ギャンガラドはバービキャンから離れると、自陣側へ振り向いてゆっくりと歩いていく。

 恐らくはバービキャンを体当たりで破壊したのだろう。

 今度は、内門を一気に破るつもりだ。

 助走を付けるために距離を取っているのだ。

 

 南門の石橋、破壊が間に合わなかったのだろう。

 戦車も通れる丈夫さが仇になった。

 前衛塔が壊れた今、内門までは一直線に進路が開けてしまっている。


 ちょうど俺たちの作戦も固まった。

 意を決して、俺はラティーナとエチカ、二人の瞳を見つめ、決意を促す。


「急ごう。リバイアストンを救援する」

「「了!」」


 急遽迂回して、エミリーヒル側から敵の後背を突く。

 足の速い前衛地竜に捕捉される前に、後陣の砲兵部隊を殲滅する。


『エチカ、アノクサラスにはAPFSDSで行こう。ディノサラスにはHEAT弾で』

『了解。トロワサラスは側面ならHEAT弾でいけます』

『モトム、打ち合わせ通り、砲兵をつぶしたら大型地竜隊に肉薄して、引きつける。そのあと西側に誘導、でいいよね?』

「ああ、大丈夫だ。まかせてくれ。了!」


 キーを回し、エンジンを全開。


『状況開始』


 車長のラティーナの号令が下る。

 ギアを入れて、アクセルを踏み込む。

 

 90式は坂を一気に駆け下り、右に大きくカーブした後、アノクサラス五匹の死角、背後に回る。


 進行中にも砲塔が旋回し、長距離砲撃で射出されたAPFSDSが、アノクサラスの一匹を屠った。


『命中、次行きます』


 地竜たちが砲声に気付き、こちらへ首を向けようとしたとき、再装填が終わり、続けて二射目が発射される。

 当然のようにタングステンの杭がもう一匹のアノクサラスの脇腹を貫き絶命させる。


 走行中にもかかわらず、寸分違わぬ精度をもたらす90式の射撃管制装置《FCS》。

 世界の常識が覆る瞬間だ。


 突撃の準備を終えていたギャンガラドも、異常に気付いてこちらに向き直った。


 遠目だし、ドラゴンの表情は理解が及ばないから、何を考えているかまでは分からないが。


 十分に注意は引けた。


 90式はそのまま直進して、砲兵部隊の中央に乱入する。

 すれ違いざまの射撃で、一匹のアノクサラスを屠る。


『残り二匹』


 完全に後ろ向きになった砲塔から第四射目。

 そのまま、前衛大型地竜たちの待ち構えている場所まで行く間に五射目。


 行進間射撃で敵の砲兵部隊は全滅した。


 直後、アノクサラスに岩石を供給していた小型地竜は逃げようとするが、エチカの主砲同軸機関砲と、ラティーナのM2ブローニングの掃射であえなく撃破される。


『敵砲兵部隊、沈黙しました』

『了解。モトム、予定通りお願いね』

「了解!」


 次は俺の出番だ。

 前衛の巨大地竜の鼻先を掠めて、急激に右ターンを行う。

 あまりハンドルを切りすぎるとドリフトしてしまうので加減が大事だ。


 ターン中に、エチカが旋回させた砲塔で、地竜たちに機関砲の掃射を浴びせ、やつらの表皮に無数の丸い傷跡が付く。


 バックモニターに、怒り狂った大型地竜たちが、一斉に90式を追い始める様子が映る。

 俺からは全景は見えないので、ラティーナに状況を聞く。


「ラティーナどうだ? 全部引き付けられたかな? ギャンガラドは?」

『大丈夫。予想通り全部食い付いたよ。一列になって追いかけてきている。ギャンガラドは静観しているね』

 

 大型地竜たちは、激怒しているせいか、全く陣形を組めていない。

 ただ一列に団子になって追いかけてきている。

 大型地竜のほとんどは、トップスピードでもせいぜい時速四十キロ。

 地盤のしっかりした草原なら常に時速五十キロは出せる90式に追いつける道理はない。

 しかし追いつけないと思われても都合が悪いので、多少減速して引きつけながら、エチカの行進間射撃で大型地竜を一頭一頭始末していく。

 

 バスン…………バスン…………バスン…………バスン


 ほとんど装填にかかる四秒の間隔ごとに発射される砲弾。

 着実に数を減らしていく大型地竜たち。


『残りはトロワサラスだけになりました』

「了。じゃあ、反転して脇を抜けるね」


 トロワサラスは前面の皮膚や鱗が硬いので、万が一HEAT弾が逸らされてしまった時のことを考えて、側面から攻撃する。


 ここまでの戦い、一見余裕に見えるが、実は大きな問題がある――


――残弾が足りない。


 90式の砲弾は、スキル【無限補給】の対象だが、《《無限即時補給》》ではない。

 無限補給スキルはかなり制約があり、砲弾の場合はエンジンを切って停止している間にしか補給されないのだ。

 

 通常の90式の搭載総弾数は四十発。

 その内訳は、きれいにAPFSDSが二十発、HEATが二十発。

 そのうち、すぐに発射できる位置にあるのは、砲塔後部の自動装填装置弾薬倉の分だけで、APFSDSが十発、HEATが十発の計二十発のみだ。

 残りはどこにあるかというと、車体右前面の予備弾薬格納庫に入っている。

 つまり戦闘中に即座に使えるのは二十発だけだ。

 

 今、大型地竜は全部で二十三体いたので、実は途中で残弾が尽きてしまう。

 大型地竜戦の後にはギャンガラド戦が控えているのは明白なので、何とかして途中で予備弾薬庫から砲弾を補給しないと。


 バスン!  バスン!


『……すみません、撃ち尽くしてしまいました』


 それは計算通りなので仕方ないが、残っているトロワサラスは追撃をやめたようだ。


 無理もない。

 すでに死屍累々だ。 

 

 普通の軍隊なら、兵員の半数が離脱したら、全滅判定なのに。

 最初敵の大型はギャンガラドも含め、二十四体いたが、今は四体だけだ。


 とてつもない損耗率に、開いた口が塞がらなくなるのも当然だ。

 今、残りのトロワサラスたちは、このまま追い続けても、死体の仲間入りをするだけだと思っているだろう。


……実際はこちらの主砲の残弾はゼロなのだが。


 90式は砲塔をトロワサラスたちに向けたまま、動きを停止させた。

 トロワサラスたちも、砲口を向けられて、それがいつ死を吐き出すかを想像してしまい、動けなくなってしまっている。


 さて、このままハッタリが利いてくれたら、次の作戦に移れる。


 トロワサラスたちが後ずさりする中、ゆっくりとこちらに向かってくる、地獄のような威圧感。


――予想通りだ。


 痺れを切らして、親玉のギャンガラドのお出ましだ。









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