第3話 ホバルク村2 【クラフト】
村から移動するとは決めたものの、今いる全員をどうやって連れていくかが問題だ。
先程確認したところ、生き残りはラティーナとエチカを入れて全部で十二人。
俺は思いついたことがあった。
さっき異世界に来たばっかりの時に見た青ウインドウ。
あれをもう一度出せないか試みる。
――できた。
何となく念じれば出てくるわ。
大声で「ステータス」とか叫ぶ方式じゃなくて助かった。
さてさて。
そんで俺が欲しかったもの……
――あった。
――ウインドウの右上、ヘルプメニューだ。
そしてそこに、ちゃんとマニュアルがあった。
さっそく拝読。
――なるほど。
どうやら、整備主任は戦車の交換部品や備品が作れるらしい。
自己修復能力ありっていう表記は見たけど、大規模破損したらさすがに追いつかなさそうだしな。
交換パーツの造り方だが、素材を粗加工して所定の場所に入れると、相応の重量の部品に変換してくれるらしい。
ちょっと物理学超越しているところが驚き桃の木だが、もう異世界転移してしまっているから今更何を、という感じ。
何にしろ、これなら、村にある木材と車載工具で、原始的なサスペンション式の荷車的なものが作れそうだ。
「ラティーナ、エチカ、話があるんだが……」
俺は二人に自分の計画を話した。
「馬車の荷台ですか……そうですね……全員移動させるにはそういうものも必要ですよね」
「村にも一つあったんだけど……」
ラティーナが村の一角を見る。
どうもドラゴンの攻撃が当たったのか、馬車らしきものはただの残骸になっていた。
このままでは使えなさそうだけど、部品の素材にはなりそうだ。
「じゃあ、ここの廃材と、崩れた家の部材、もらっていっていいかな? 二人は、旅に必要な道具を集めてくれ」
二人は不思議そうな顔をしていたが、頷くと俺の言うとおりに行動してくれた。
さて、乗り心地を左右するのはサスペンション。
スプリングを作るのは中々むずかしいから、板ばね式で行こうと思うが、木製だと強度が心配だなあ。
二重にして脱輪防止で……などと俺は頭の中で馬車荷台の設計を考案する。
俺は木材を持ち上げて、戦車の砲塔後部のバスケットの中に入れていく。
本来ここは荷物置きの場所だが、マニュアルによると、ここに入れればイイ感じに仕上げてくれるらしい。
バスケットに入れられないサイズだと加工できないのが少し不便ではあるが、まあ仕方ない。
90式は工作用車両ってわけでもないし、限定的な機能なんだろう。
素材を入れた後、ウィンドウから作りたいものを選択する。
そして置いた板をしばらく見ていると、うお、なんかじわじわ板が曲がっていく……
なるほど、一瞬で変わるわけじゃないんだね。
まあそうか……
でも五分ほどで望んでいる形になった。
「おお、ちゃんと弾性がある……ばね用の曲げ板になってる」
部品ができたら後は組み立てていくだけ。
倒れた家屋から金物も改修してきた。
村の一番大きな建物に使われていた柱も、加工して、2メートルの角材にした。
これを金物でつないで、戦車で作ったねじと鋲で止めていく。DIYみたいな作業だ。
……ふむ、これでフレームはできた。
あとはこの上に座席ブロックを置いて……
板を鋲とほぞで止めて組み立てていく。
実際、部品さえ揃えば後はプラモデル方式。
元々やっていた整備員の仕事に比べたら、楽勝楽勝。
部品作成が三時間、組み立て二時間で全長5メートル、幅2.2メートル程度の馬車荷台が出来上がった。
かなり急ピッチで作ったのだが、それでも完成したころには空に赤みがさしてきていた。
「ええええ?! すごい!」
途中でラティーナが見に来て、大きく口を開けて驚いていた。
「なるほど、この荷台を<戦車>で引くんですね」
エチカもやってきた。
「そういうこと。毛布とか、クッション用の藁を積んで、快適にしようか」
二人の顔が希望の笑顔に変わっていく。
俺も嬉しくなってきた。
幌も貼って、立派な天井付き荷台が完成する。
子供たちが持ち寄った毛布やシーツ、藁なんかでそれなりにクッション材も整った。
二人の他に子供たち十人引き連れての旅程、最初は大変だと思ったが、この馬車があればそれなりに快適に進めそうだ。
エチカたちは、俺が作った馬車の機構自体には驚いていないようだ。
マスケット銃が既にある世界らしいから、サスペンション付馬車も普通に普及しているのかもしれない。
出発前に子供たちを点呼する。
他の生き残りを揃えて見るのはこれが初めてだ。
ラティーナとエチカが最年長だっていう話なので、他は小さい子ばかりだ。
みんな頬や額が煤で汚れていて、服は破れている子もいるし、泣き疲れて眠そうな子もいる。
だけど、全員すごい容姿が整っていて綺麗な子ばっかりだな。
異世界は美形の人が多いのか……?
みんな種族はまちまちだった。
人類種という俺の世界では人間だった種族が四人、
エルフが二人、
ミームという、エルフほどではないがちょっと耳のとがった種族が二人。
そして猫耳みたいなのが付いた子が一人、
狐耳みたいな子が一人だ。
実を言うと、全員の名前はまだ聞いていない。
ちょっと早くこの村を離れたいので、割と焦って準備しているから。
「目標の都市はどこなんだ?」
「北に三十キロメートルです」
結構遠いな。
今までこの村、よく自給自足でやってこれたな……
ちなみにメートル法で距離を教えてくれているように聞こえるのは、自動翻訳の力らしい。
実際はエチカは聞きなれない単位でしゃべっていた。
「三十キロか……徒歩なら一日コースだな。馬車なら半日。戦車なら一時間もかからんが……牽引していることと不整地を考えると、三時間から四時間はかけた方が良いかな」
となると、途中で食事休憩と野営したほうがいいな。
子供たちが集めてきてくれた保存食や果物、戦車に積んであった救命キットの非常食や、戦闘糧食もある。しばらくは食いつなげそうだが……
戦闘糧食は燃料と同じで、無限補給っぽい気がするが、乗員分しかないので、一度に全員に分けることが難しい。
燃料の問題もある。
90式にとって、普通の舗装路なら三十キロメートルの距離は余裕だけど、不整地だと……
「自動補給は便利だが、補給速度は一定。つまり、消費が補給を上回れば普通にガス欠か……。牽引しながら不整地を走るとすると、三時間で半分ぐらい消費するかな」
俺が一人でぶつぶつ言っていると、ラティーナとエチカが興味深そうに聞いているのが見えた。
「あ、ごめん。意味不明なこと言ってるよな、俺」
「ううん、大丈夫。確かに初めて聞くことばかりなんだけど……」
そう言ってラティーナはエチカと目を合わせた。
なんだろう? 何か言いたそうだ。
俺が不思議に思っていると、エチカが唾を呑んだあと、口を開いた。
「あの、私たち、モトム様の言っていることが実は何となく分かるんです。いえ、分かるようになってきたというか……」
「そうなんだよ。最初は全然分からなかったんだけど……」
うん?
もしかして俺から話すことも翻訳効果が効いているってことかな?
だとしたらすごい親切だな、この異世界。
*
夕方に出発し、村のあった丘陵地帯を出たころには、夜になっていた。
以前旅行で行った北海道の宗谷丘陵、それをもっと広大にした風景。
その西の空に、夕日が沈んでいく。
俺たちは丘陵の終わりかけ、平原との境界にある低木林のほとりにキャンプを設営した。
暗くなる前に保存食で夕食を軽くとって、一旦宿泊することにする。
夜の見張りは俺がすることにした。
子供たちは、村や同胞を失ったばかりだ。
そして村の後始末と、移動のための大仕事で疲労困憊してるせいか、野原の簡易テントでもすぐに眠りについていた。
ゆっくり休ませてやりたい。
びっくりしたことだが、この世界、月が三つあって、しかもなにやらサイズが大きいので、夜でも結構明るい。
夜が更けたころ、毛布にくるまって木の幹に寄り掛かって見張りをしていると、小さな人影が俺の方に近づいてくるのが見えた。
雲一つない月明りのせいで、割と形がはっきりわかる。
頭の上についた猫耳。
確かこの子は、ナスリンという子だ。
「どうした、眠れないのか?」
ナスリンは返事をしないで、俺の目と鼻の先まで来ると、しゃがみこんで、俺がくるまっている毛布の中に入ってこようとした。
「お、おい……」
「怖い……」
俺の顔を見上げるナスリンの頬は濡れているみたいだ。
無理もない。
体のサイズからすると、十歳前後というところの小さな子だ。
親や兄弟姉妹を失ったのかもしれない。
仲間がいるとはいえ、故郷も離れて、こんな荒野で野宿だ。
ナスリンは俺にしがみつくように体を預けて、そのまま寝息を立ててしまった。
俺は黙ってナスリンの背中に、そっと手を当てて毛布をかぶせてあげた。




