第2話 ホバルク村1 【新任務】
レッドドラゴンを撃破した直後、俺たちは戦車から降り、互いの無事を確認した。
まだ周囲に残存脅威がないとは限らない。
油断は禁物だ。
手早く、二人の体に負傷がないかチェックしようと思った。
すぐ側に降りた金髪の子の姿がまず目に入る。
すらっとした白い脚の上に短いスカート、腹部と胸元が大胆に開いたシャツ。童顔なのに、身体のラインは妙に大人びている。
髪の隙間から横に突き出た長い耳が目につくが……もしかして
「私はラティーナ。見ての通り、エルフだよ」
俺が見ているのに気づいて、青い瞳がこちらを向く。
明るく、よく通る声。
やっぱりエルフなんだ。
次に隣に立った紫髪のセミロングで山羊角の子を見る。
こちらは対照的に、控えめな雰囲気だ。
髪と同じ色の、袖無しのチャイナドレスのような服装で、見た目は中学生くらい。
「私はエチカと言います。……見ての通り、ディコーン族です」
ディコーンというのは、聞いたことがないが……。
エチカという少女、種族名を言うときだけ、少し声が沈んだ。
なんだろう?
ざっと見たところ、二人共ちゃんと両足で立っているし、特段怪我はしていないようだ。
「藤原求だ。この戦車の整備員……この鉄の塊をいじる仕事だ」
俺が手を差し出すと、二人は順番に握ってくれた。
挨拶を終えた後、俺たちはレッドドラゴンの死体を一巡した。
戦車砲から発射した、多目的榴弾《HEAT-MP》が至近距離で命中だ。
胴体の真ん中にバスケットボール大の穴が開いて、仰向けにぶっ倒れ、大量の血の海に沈んでいる。
心臓を中心に内部で爆発が起こったんだろう。
まあ、死んでいると思うが、確認は必要だ。
「すごい……レッドドラゴンを一発で。こんな魔法、見たことないよ」
「魔法というより、武器……機械のようでしたね。火縄銃をすごく強力にしたような」
二人とも反応が鋭い。
状況をすぐ理解して、情報をくれる。
頭の回転が速い子たちなんだなと感心した。
「機械……? 異界のものだとは思うけど……すごく学問が進んでる国からきたってこと?」
ラティーナの耳がぴこぴこと動く。
驚きと好奇心がそのまま耳に出るのが面白い。
「でも……どうしましょう。赤竜公の眷属を殺してしまった……」
エチカは竜の死体を見ながら、不安げに呟く。
それに釣られたのか、ラティーナのエルフ耳が、ぺたりとしな垂れていく。
「こいつ、やっつけたらまずかったのか?」
俺は頭を搔きながら、二人の後ろから話しかけた。
「モトム……赤竜族はとても傲慢な種族なんだよ。人間も亜人種も虫けらみたいにしか思っていない」
ラティーナは俺の方を見ると、眉をへの字にしながら、思案げに言った。
「赤竜族……もしかしてこの化け物が他にもいっぱいいるってことか? そういえば、エンシェントレッドドラゴン・リテイナーって表示が出ていたな」
「リテイナーっていうのは眷属のことだよ。こいつ、やっぱりヘラドーンの眷属なんだ……」
「ヘラドーンっていうのは?」
「西の山脈に住む、この辺りの赤竜族の統領です」
エチカからの解説、統領という単語に、俺は少し背筋が冷えた。
階級的なものがあるということは、組織的に動く集団ということか。
「話し合いはできないのかな? こいつから襲ってきたんだろ?」
「残念ですが……赤竜自体がプライドが高い種族ですし……ヘラドーンは特に短気で頑迷な竜として知られています」
「自由都市何個もつぶしたんだよね。神話の話だけど」
報復される可能性が濃厚ってことかな?
結構ヤバいやつの部下を殺してしまったのか。
仕方なかったとはいえ、少し早まったか……
俺は苦笑して、頬をポリポリとかいた。
「まあ、いざとなったら90式……この戦車で……」
「モトムの破城槌、すごいと思うけど……ヘラドーンには……」
ラティーナが苦笑する。
ヘラドーンっていうのはそんなヤバい怪獣なのか……
「ラティーナ! みんなを見に行きましょう!」
そこでエチカが叫んで飛び出した。
そうだ、他の生存者も確認しないと。
俺はラティーナとエチカの後について走った。
村の奥に入ると、建物はあらかた吹き飛ばされて崩れていた。
木造の家屋は、倒木や木くずの山になっていて、炎上している部分は三分の一ってところ。
燃焼効果が普通の炎とは少し違う気がするが。
異世界のドラゴンが吐くブレスだから、良く分からんな。
村の中央まで行くと、隠れていた子供たちが、ラティーナとエチカに駆け寄ってくる。
「エチカ……」
「ナスリン……他の子たちは……?」
猫耳が頭の上に付いた黒髪の小さな少女が、エチカの問いかけに首を振っている。
エチカが口を押えた。
……叫ぶのを抑えているのだろう。
俺が助けに入ったとはいえ、あの竜はそれより前に村を攻撃していた。
きっと、かなりの数の村人が犠牲になったのだろう。
*
生存者の確認が終わった後、しばらく、皆が死者をいたんでいるのを眺めていた。
そこで俺は不自然さに気づいた。
村の中央に集った、生き残りたち。
この子たち、みんな女の子だ。
「これで全部か? 大人はいないのか?」
ラティーナが目を背けながら、村の一角を指さした。
村の西の奥、少し開けた場所に、円形の穴があった。
そして――そこには、おそらく成人女性と思われる下半身が横たわっていた。
「ひどいことをしやがる……」
「村長です……」
エチカがうつむきながら、涙声で言った。
「すみません、埋葬を手伝っていただけますか?」
「ああ……」
埋葬を終えた俺たちは、戦車の所へ戻った。
ラティーナとエチカ、この二人が生き残りの中で最年長らしい。
二人共、気丈な様子で背筋を伸ばしているが、肩は震えていた。
「少し、事情を教えてくれないかな?」
エチカとラティーナが俺の目を見てうなづいた。
「この村は、前は廃村だったんですけど、先ほど埋めていただいた方……村長がみんなを集めて作ったんです」
エチカの説明に、俺ははっとなった。
中世に近い文明水準の世界だ。
そして女子ばかりが、一か所に集まっている。
ということは、つまり――
「もしかして、君たちは……」
「はい、みんな近隣の街から売られた奴隷でした。村長が私たちを解放してくれて」
「そうだったのか……」
何ともいえない気分になった。
「あのドラゴンは何故この村を襲ったんだ?」
「分かりません。この村はヘラドーンの領域からは離れているんですけど」
「……竜族の考えていることは分からないんだよ」
ラティーナが言った。うつむき、唇を噛みながら。
「そうか、これからどうする? 少なくとも、ここにいてもな。畑があったようだが……」
さっき見てきたが、その畑はよく分からない状態になっていた。
作物は全部やられていたが、燃えているのが半分、酸で焦げたような状態が半分……どちらにしろ、取れ高は期待できそうにない。
「ね、ねえ……モトム……ちょっとお願いがあって……」
ラティーナが俺に向いて、言いにくそうにうつむき加減で話す。
エチカも隣に来て、同じようにうつむいた。
「……近くの都市まで、護衛してくれないかな? その……戦車ってやつで」
「引き受けた」
「私からもお願いします。……もちろんお礼はできる限りのことを……あなたの望むことならなんでも……えっ?! 引き受けてくれるんですか?!」
エチカが言葉をつづける前に俺は二つ返事で回答した。
二人が驚いて顔を上げる。
「被災者支援は俺の業務の一つなんでね。遠慮しなくていい」
困った子供を放っておいたら自衛隊の名が廃るからな……
俺は皆を安心させるために、精いっぱい大人の笑顔を作った。
エチカやラティーナの目が潤んでいるのが見える。
俺はヒーローなんて柄じゃないと思ったので、気恥ずかしくなって後頭部を搔いた。




