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第27話 廃都市マステマーシュ2【廃都防衛】



 左側の教会跡地の影から、ラプトルに似たシルエットが三つ、地面を蹴り上げて飛び出てきた。


 獰猛で俊敏――これが小型地竜か!


『敵単独脅威値【50】』


 エチカのアナウンス。

 90式の砲手スコープの視界にも入ったようだ。

 脅威値【50】は低いように見えるが、カンテラート大森林でリオドールたち十人の冒険者が戦っていたピコグリフォンは【45】だったそうだ。

 つまり、歩兵にとっては十分に脅威だ。


『12.7mmでも狙うよ!』


 ドドドッ、というブローニングⅯ2の重い連射音が響く。

 左端を走っていた一匹が、蜂の巣になって地面を転がった。

 キエッ、という鳥のような嬌声が轟く。


 しかし敵はまだ二匹残っている。

 俺は慌てて、5.56mm小銃を構え、真ん中の個体を狙い撃つ。


 バババババッ!

 

 フルオートで五連射。

 全弾命中――が、血飛沫が飛んだというのに、小型地竜はまだ倒れない。

 のっそりとその大きな顔を持ち上げ地竜がこちらを睨む。

 俺は一瞬躊躇してしまった。


 隣から、バン、バン……そして遅れてバンと三連弾の音が聞こえてくるが、どこか遠くの出来事に思える。


 地竜が大口を開き、嬌声を上げた。

 キャアアアアと、ミキサーで果物を砕くような大音量の嬌声を上げた直後――右のこめかみが弾けた。


 そいつは、その場で崩れ落ちていく。


「村長~? ちゃんとトドメささないと危険だよ?」


 少し離れて俺の右隣にいたステフが、眉をへの字にして、心配そうに言った。

 彼女が真上に掲げたライフルの銃口から、硝煙が立ち上っていた。


「ああ、悪い……アシスト、助かった」


 汗がしたたる頬を袖でぬぐいながら、礼を言う。


(俺の小銃斉射、魔法障壁で減衰されていたな……)


 だが、ステフとフェンリのライフルはちゃんと通っていた。

 どうやら障壁越しの射撃にはコツがあるらしい。

 二人はそれを掴んでいるようだ。


(まずいな。少し気圧されている。気を引き締めないと……)


 そう思った時、ラティーナの叫び声がインターコムに入る。


『上空、敵投射攻撃!』


 投射攻撃――?

 すぐに敵の来ている方角、西側の空を見る。

 見上げれば、視界を埋めつくして、雲霞のような黒い粒がこちらへゆっくり落ちてくる。

 すごい数の矢の雨だ……!


 俺は慌てて木箱バリケードの影にしゃがみ込む。

 半拍遅れで、さっきまで俺が立っていた場所に、何十本もの矢が突き刺さった。


 自由落下になっていても、当たったらかなり痛いなこれ……


 弓矢の放物線投射攻撃は、単に遠くから上に向けて放っているだけだ。

 だから、命中率はほとんどないが、数が多すぎて遮蔽物の影から出られない……ちょっと、矢の数が異常に多い気がする……。


 取っ手を付けた圧延鋼板を盾代わりに構え、防御しながら周囲の様子をうかがう。

 左を見れば、千人規模のカンテラート連隊の陣地全体に矢が降り注いでいる。


 これ、本当に五百騎の射撃か……?


『五百騎は間違った。三千騎はいるね、これ。あはは……』


 ちょっと半笑いで言うラティーナ。


(大分違うな、おい!)


 しかしラティーナが見積もりをそこまで誤るとは。


 敵は兵力を少なく見せかけるのが上手いのか?

 モルガナ族も歴戦の部族だからか?


 こんな矢の豪雨、戦車も盾も持っていない連隊の歩兵の方が辛いはず――どうやって凌ぐつもりなんだ?

 俺はそう思って、また隣の連隊陣地を見た。


 よく見ると、陣地全体の上空に、薄い光の膜が張られていた。

 矢がその膜に触れると、水面のような波紋が広がり、矢は次々に速度を失い、土嚢の上にぽとりぽとりと落ちる。


(魔法障壁で防御していた……)


 見ると、祭壇の上にいる魔導士たちが、光り輝く杖を空にかざして、何かぶつぶつと詠唱している。

 なるほど、彼らが障壁を張って陣地全体を守っているんだな。


……あっちの方が安全そうにすら見える。


「はわわっ?!」


 これはさっき、「この方が狙いやすいから」とか言って装甲荷台の上に上っていたフェンリの声だ。

 あいつ、まだ荷台の上にいたのか。


「フェンリ、一旦荷台の中に隠れよう!」

「大丈夫、私は障壁で防げる!」

「そうなの? じゃあ借りるわね」

「ええ??」


 フェンリに習って装甲荷台の天井に上がったステフは、フェンリの足の間に隠れて矢の雨をやり過ごすことにしたようだ。


 く……俺はどうするべきか――そう考えた直後に、隣の90式の前方あたりから、爆音が響いた。


「なんだ?!」

『モルガナの爆裂矢だよ。戦車には効かないから、大丈夫』

「ラティーナはキューポラから顔出していて大丈夫なの?」

『私は魔法障壁で逸らせるよ!』


 なんかズルいな……

 俺も魔法使いたい。


 爆裂矢も、どうやら魔法の矢で、使いこなせる人が少ないらしく、あまり数は無いようだ。

 着弾しないと爆発しないみたいで、戦車の装甲には意味はないだろうけど、爆発した破片がステファニーやフェンリエッタに当たったら――


 そう考えて不安になったが、二、三十秒ほど矢の雨を耐えていると、矢がまばらになってきた。


『遠距離攻撃から中距離攻撃に切り替えるみたいだね。来るよ!』


 ラティーナが叫んだ瞬間、バリケードの数か所が破られて、巨大な猛獣の頭が顔を出した。


 くぼんだ眼。

 涎がしたたるトカゲの口。

 半開きのその口の隙間から見える、何本もの牙。

 暴君という言葉を猛獣にしたらこうなる、という代表例のような表情。

 

(これは……ティラノサウルスだ!)


 俺は思わず心の中で叫んでしまった。


……実は子供の頃から、恐竜好きなんだよな。


 異世界で憧れのティラノサウルスが動いているのを見ることができるなんて、感動ものだ――


 そう感慨を感じていた時、バスン、という炸裂音がしたかと思うと、そのティラノサウルスの眉間に、赤い花が咲いた。


 そして巨体と暴君の顔が、ゆっくりと横に倒れていく。

 大地を揺るがす音が、地面を振動として伝わってくる。


『敵、<ディノサラス>一頭。撃破しました』


……地竜としての名前は<ディノサラス>っていうのね、あれ……。


 ティラノサウルスが一撃か……。

 当たり前と言えば当たり前だが……。


 敵とは言え、なんかわびしいな……


 しかし、そんな悠長なことを考えている場合ではなかった。


 倒れた大型地竜、<ディノサラス>の横倒しになった死体を踏み越えて、小型地竜が数匹わらわらと這い出してきたのだ。


 パパパパ、とエチカが主砲同軸の7.62mm機関砲を斉射する。

 侵入しようとしていた五匹のうち、三匹がたちまち絶命する。

 が、運よく死を免れた地竜が、カンテラート連隊の陣地の前を斜めに疾走する。

 目にも止まらない速さ――まるでチーターのようだ。


 その動きに反応して、連隊のカノン砲が散弾――ぶどう弾を何発も放つ。

 移動速度を見越したその射撃のうち、いくつかが命中する。

 さすがに小型地竜もカノン砲弾の直撃には耐えられず、体を弾けさせると、傷口から体液をまき散らし、力尽きて、陣地前に築かれた土嚢の山の手前に滑りながら倒れた。



――それから何度か、ティラノサウルス型の地竜二匹、トリケラトプス型の地竜が二匹、城壁の隙間のバリケードを破って侵入しようとし、エチカの百発百中の120mm砲弾の前にあえなく撃破される。


 そしてその死体を踏み越え、隙間を縫って小型地竜があらわれ、それをラティーナの12.7mmや、俺たちの小銃で撃退するということを繰り返した。


 俺自身でも十頭以上は小型地竜を倒したかな……


 まるでモグラ叩きのような一方的な状態になったのには理由がある。

 マステマーシュのある場所は、大河二つに囲まれた中州のようになっており、敵は西の狭い中州をしばらく進んでからしか、西門に到達できないのだ。



――戦闘開始から、四十分ほど経ったころだろうか。


 とんでもない音がして、地面が揺れ、その後、建物が崩れるような音が響いた。


 なんだ?! と思った次の瞬間、カンテラート連隊の陣地の真正面に、巨大な岩が落下した。


「なんだこれは?!」

『どうも、投石攻撃のようですね。六百メートルほど先に、投石型の地竜がいるのが確認できます』


 投石攻撃……

 しかも六百メートル先から?!


 岩の大きさは直径二メートルはある。

 普通の投石機で投げられるような大きさじゃない。


 こんなことをできる地竜がいるのか……

 中世の最も優れた投石機、トレビュシェットでも最大射程は三百メートルほどだと聞いたが……全くとんでもないな。


 しかしこの投石、かなり脅威だ。

 戦車は直撃を食らったとしても、車体は壊れはしないと思うが、上部構造物は損壊してしまうかもしれない。


 人間にはピンポイントには中々当たるものではないが、カンテラート連隊の陣地は広い分、数を撃てば被害が広がっていくだろう。

 魔法障壁で防御できる類のものじゃなさそうだし。


 これはちょっと……すぐに対策を考えないと。


『モトム、戦車に乗って! 機動戦に移ろう』

「大丈夫なのか? その……フェンリやステフは」

『うん、もう小型地竜は近くにいないよ。あとは大型だけ。西門の外に出て、私たちで大型をやっつけよう!』


 ラティーナ車長の頼もしいお言葉。

 俺は90式の車体に上がって、操縦席ハッチに急ぐ。

 体を車体の中に滑り込ませようとした時に、


『困りましたね。船で渡河している敵の部隊があるようです。北門に取り付きました。そのまま東門に回るつもりのようです』


 エチカの淡々とした報告が入った。

 俺は眉をひそめる。


 船……人間? 

 モルガナ族か?

 騎兵集団の癖に、船を使って奇襲してきた?


――まずい。

 東門はリバイアストンへ通じる道。


 まだ難民の集団がいるはず――。










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