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第26話 廃都市マステマーシュ1【陣地構築】



 出撃前にもらった地図を使って、目的地のマステマーシュの地形を分析した。


 街全体が廃墟となっているが、建造物は外壁など、ある程度形が残っている。


 戦車にとっては市街戦となる。


 正直な話、戦車単独で市街戦はきつい。

 死角が多いからだ。


 かといって、周囲を確認するために車長がハッチから顔を出していると、物陰に潜んだ狙撃兵から狙われる。

 本来、戦車が市街地に入るときは、随伴歩兵が必須なのだが……。

 今、エミリーヒルでその役目を務められるのは、二人だけだ。


 俺がエミリーヒルの教室で悩んでいると、一緒についてきたデミスタンが声を掛けてきた。


「モトム、お前の考えていることだが。子供たちを戦場に連れて行きたくない気持ちはわかる。だが、今回のこれは、おそらく本当の侵攻だ。どこにいても必ず巻き込まれる」


 デミの言い分はわかる。

 俺も軍事が専門の機関に所属していたんだ。

 もし、巻き込まれるのが分かっているなら、座して待つより積極行動する側にいた方が安全、ということは往々にしてある。


 いちおうライフルは増産しようとしている。

 だけど、射程千メートルのライフルを使いこなす訓練を受けているのは二人だけだ。

 ハンスやマルコのような男子にも、量産型を順次配布しているが、付け焼刃の少年兵を投入しても死体を増やすだけかもしれない。

 だから、今回俺は二人だけを連れていくことにした。


「ステファニー、フェンリエッタ、お願いできるか?」

「今更水臭いですね、村長。私たちの命は村長のものですよ!」


 そう即答してきたのは、夕陽色のダブル三つ編みを持つ、ステファニー。愛称をステフ。


 彼女、最初から覚悟が決まってるのが凄い。

 なんか、この子根っからの戦士なんだよな……

 見た目は文学少女みたいな感じのめちゃくちゃ可憐な美少女なのに、戦闘能力はかなり高い。

 この間、男子で一番年長のハンスと戦闘訓練でナイフ剣闘をやってたが、剣豪の卵かな? って思うぐらいの身のこなしだった。

 白兵戦もできるのだ。


「眼鏡ももらったから万全です。まかせてください!」


 銀髪銀眼のフェンリエッタ、この子はこの子で、時折結構な蛮族ムーブする。


 びっくりすることなのだが……。

 実はたまに生肉を食べてたりするんだよな……。


 この間なんか、狩りに行ったら、途中、狩ったままの兎を血抜きしないで、素手で引き裂いてそのまま食べていたので仰天した。


 お腹壊さないのかな? と思って聞いたら


「内臓は食べていないし、虫がいたら匂いで分かるから大丈夫ですよ?」


 そういう話ではないんだが……虫って寄生虫のことだろうか?

 寄生虫が匂いで分かるとか意味がわからないので、もうその場では、その話は触れないことにした。


 とにかくフェンリエッタ――愛称フェンリは、エミリーヒルでも一、二を争うぐらいの力持ちで、かつ俊敏な、フィジカル系眼鏡っ子だ。


 この二人、とても頼もしい仲間なのだが、どうやって現地まで連れていくかが問題だ……。


 しかし心配は無用。

 今は豊富な鉄鋼資源が手に入るのだ。


 ニンテンブルグ兄弟から仕入れた鉄鋼インゴットをそのまま素材に使って、戦車クラフトで鉄製の荷台を作った。ホバルク村脱出の時と同じ要領だ。


 90式の複合装甲ではないが、外板は全て戦車装甲と同じ圧延鋼板にした。

 ハッチの部品を作って流用して、のぞき窓を数か所設置し、中から外の敵を狙撃できるようにもした。


 ちなみに、荷台の車軸や車輪も鋼鉄に変えているし、サスペンションもスプリング式になっている。


 もはやほとんど牽引式の装甲車である。

 これならモルガナ族の弓騎兵程度の攻撃は、ほとんど気にしなくてよい。


 問題は地竜だが、あらかじめ得た情報によれば、戦車や装甲車両を直接破壊できるほどの地竜は、地竜伯ギャンガラドぐらいだそうだ。


 それでも不安は残る。

 なるべくなら危険な場所には二人を置きたくないが……



 モナド平原をリヴィー川を右手に疾走し、ステップ地帯に入る。

 マステマーシュはその荒野の中心にある。


 遠目に見えた、ほとんど破壊された城壁の傍には、既に複数のテントやゲルが敷設されていた。


 入口で銃剣を持った兵士たちの検閲を受ける。

 キューポラから顔を出していた車長のラティーナが、対応することになった。


「リバイアストンから難民移動の支援に来たんだけど……」

「存じておりますよ。お忘れですか? カンテラートの駐屯地でお会いしました」

「シルミウス討伐の時に会った人……?」

「はい、ラティーナ殿、フジワラ殿。それにエチカ殿。お三方と一緒に戦えて、光栄です」


 検問の兵士さんたちの熱い敬礼に、俺たちは全員ハッチから顔を出して敬礼で答える。

 ドラゴンスレイヤーとしての名声、イイ感じで役に立ってる。


 マステマーシュ城内に東門から入り、難民キャンプの喧騒を抜けて西門へ向かう。

 そこには、カンテラート砦から来た半個連隊が既に、即席の馬防柵陣地を建設していた。

 マスケットの戦列歩兵、土嚢を積んだ即席堡塁、そこにカノン砲を設置。

 そして打撃戦力として後方に騎兵の控え。

 十九世紀初頭に流行した、歩兵・砲兵・騎兵の三種を組み合わせた三兵戦術の陣形。そのお手本のような美しさだ。


 しかし、大型地竜ってやつが出てきたら、さすがに心許ないな。


 ふと気になったことがある。

 兵団の中央に、司祭みたいな恰好をした人たちが数人いて、祭壇みたいなものを作っていた。


『あれは、魔導士協会の人たちですよ。大規模戦術魔法も準備しているんでしょう』


 エチカが解説してくれた。

 あれがこの世界の、本職の魔導士たちか……


「結構強いの?」

『大型地竜数匹なら、かなり足止めできると思います』


 おお、とちょっと感動した。

 もしかしたら、派手な大規模魔法が見られるかもしれない。


 マステマーシュ西門の状況だが、城壁も城門も破壊されており、堀も半ば埋まっている。


 俺は定石通り、地形を分析した。

 出立前に、地図でも確認していたが、カンテラート連隊の陣地構築が迅速だったので、大分状況が変わっている。


 ざっと見たところ、敵が侵入できるのは西門だけだ。

 北門と南門は、連隊が既にバリケードで封鎖している。

 さらに北側と南側には川が正面に流れており、南門は城壁もまだ生きているため突破は困難だ。

 その北と南の川は、東門の手前で一本に合流して、南へ流れるリヴィー川へと変わる。

 難民はこの合流地点でリヴィー川の西へ渡河させてしまえば、敵が回り込む心配はほぼなくなる。


「準備が完了した難民たちを、順次、東門からリバイアストンに向けて、進発させております!」


 兵士さんが連絡に来てくれた。

 

 そうそう、連絡が敬語である理由。

 実は、シルミウス討伐の功績で、俺は尉官級待遇、エチカとラティーナは曹長級待遇になっているのだ。

 ちゃんと階級章ももらった。

 ちなみに俺の現代での階級は二曹止まりだった。

 つまり前より出世してしまったことになる。


 その連絡兵から、カンテラート連隊に合流してほしいと言われ、位置を指示される。

 案内されたのは、連隊の前線陣地の右隣。

 少し周囲より盛り上がった台座上の地形があり、そこに戦車と荷台を停める。


 丁度真正面、百メートル手前に、マステマーシュの西門がある。


 また、良い場所に配置してくれたもんだ。


 うーむ。最初の想定といきなり食い違ってきたな……これは陣地戦になりそうだ。

 まあ、陣地戦でも悪いわけでは無い。

 何より、戦車内に入れられないステファニーとフェンリエッタの安全を考えたら、敵がくる方向が限定されている陣地守備の方が安全な面は多い。


 俺たちの左隣がカンテラート連隊の陣地で、右には布陣していないのだけど、右には教会跡地があり、煉瓦造りの壁が北門の城壁まで続き、隙間はバリケードで埋めてある。

 俺たちは正面防衛だけに気を使えばいい。


 90式の車体を斜めに停め、戦車の前方と反対方向に斜めに停めた装甲荷台の前方を九十度の角度で合わせる。

 お隣の連隊陣地から土嚢や木箱を貰ってきて、隙間を埋め、即席の楔型陣地を作った。


 その楔型の中では、ステファニーとフェンリエッタが、ライフル銃のチェックをし始める。


 俺は楔形の真ん中に5.56mm小銃を一丁、スタンドに括り付けて、木箱の上に置き、機銃座を作った。

 実はこの5.56mm、戦車乗員にしか撃てない。


 前に試しにステファニーたちに引き金を引いてもらったんだけど、弾は出なかった。


 どうも、制約があるらしい。

 だから、これは主に俺かラティーナが戦車から出て使うことになる。

 

 なんで陣地戦の準備をしているかというと、敵の戦術を予想したからだ。

 敵は速力や小回りに長けた小型地竜、陣地破壊ができる大型地竜、それにモルガナ族の弓騎兵という編成だ。


 まず、モルガナ族の弓騎兵が遠方から投射攻撃で陣地をひるませる。

 その後、小型地竜が牽制や砲兵引き付けを行うために前面に出てくる。

 砲兵が無駄弾を撃ったあと、大型地竜が突撃して陣地破壊。


 こんなとこかな。


 90式はこの全ての攻撃を防御できるけど、死角が多いので、後方の難民キャンプが襲われないように、通せんぼする必要がある。


 だから一番目立つ西門の残骸の前、そこから続く大通りに即席陣地を作って突破を阻止するのだ。


……常識で考えると、俺たちの持ち場が一番激戦区だ。

 


 準備が完了して、昼食の後片づけを終えた時、戦車の上に立って周囲を確認していたラティーナが言った。


「来た」


 俺たちは一斉に身構える。


「ラティーナ、状況は?」

「予想通り、先鋒は小型地竜とモルガナ族だね。小型約二十騎。モルガナ騎兵は五百はいるね」


 なかなかの数だ。


「妙だね……ギャンガラドがいない」


 ラティーナの怪訝そうな声。

 親玉は後方に控えていて、決定的な時期に出てくるつもりなのだろうか?

 戦術的には間違っていないが……コクトーの話とは少し食い違う気がする。

 

「速度から見て……敵は十五分後には城壁前に到達。モトム、戦車はこのままでいいよ。機関銃座で対応して」

「了」

「エチカは砲戦準備。私は接近してきたら機銃で応戦するよ」

「了解しました」


 戦車の各員は持ち場に付いた。

 陸戦指揮官は俺ということになる。

 俺は陣地内にいる二人の少女に声をかけた。


「ステファニー、フェンリエッタ、戦車と装甲荷台の影からは出るなよ」

「わかった」

「それから……死ぬなよ」

「村長もね」


 ステファニーの少女の顔に、炎のような瞳が光る。


「みんなで帰って、戦勝パーティーしましょうね」


 全然緊張していないフェンリエッタ。

 この子ら、別にこれが初陣ってわけでもないんだよな……ホバルク村ではモルガナ族と何度か戦っていたそうだ。


 正直一番死にそうなのは、俺のような気がしてきた……。


 俺たちの準備が整った頃に、甲高い奇妙な嬌声が聞こえてきた。

 これが地竜の鳴き声か。


『牽制射、撃ちます』


 バスン、と大きく、それでいて淡泊な発射音がマステマーシュ城内に轟く。

 エチカの照準で、120ミリ砲から発射された多目的榴弾が城壁の隙間を通って、西の荒野、敵の進軍ルートのど真ん中に炸裂する。


『敵、止まらないね。エチカは引き続き、牽制射続けて。大型確認できたら狙撃してね」

『了解しました』


 味方乗員二人の頼もしさに笑みがこぼれようとしていた時だった。


『右前方、敵多数』


 ラティーナの通信が入る。


 教会の影から、顔を出した、見覚えのある獣の姿。


 大きな頭に、二足歩行、そして開いた口から見える、多数のぎざぎざの歯。


 こいつは……


 昔映画で見たことがある。


 恐竜のヴェロキラプトルにそっくりだ。


……これが小型地竜か。






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