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第25話 リバイアストン西テント村 【出撃要請】



 鉄工所から鋼鉄を貰い、エミリーヒルの防衛設備を本格的に整備し始めてから、一カ月半が過ぎた頃、コクトー評議員から書簡が届いた。


 ようやく会談できるのかと思ったが、文面では、別の相談があるとのこと。


 指定場所はリバイアストン西の、テント村の冒険者ギルド別館だ。

 ラティーナもエチカも連れてきてくれとの指示。

 戦車は直接別館の敷地内に停めて欲しいという。


 さっそくテント村に行き、ギルド敷地に入ると、何人もの兵隊がいて、俺たちに敬礼してくれたので、返礼する。

 彼らは評議員の護衛として来ており、そのまま戦車の見張りもしてくれるそうだ。


 ギルド別館に入ると、受付嬢のメルタンスが俺たちを二階の会議室に案内してくれた。


 室内には、既にコクトー評議員とデミスタンが並んでいた。


 コクトー評議員が白い顔を厳めしくして、俺に向いた。


「来たか。悪いが、先に話を聞いて欲しい。メルタンス、準備を」

「はい」


 メルタンスは指し棒を使い、長机の上に広げられた地図を示した。


「これはマステマーシュ近辺の地図です」

「マステマーシュ?」


 聞き慣れない地名に疑問を呈すると、コクトーが静かに答えた。


「リバイアストンの西にある同盟市、だった」

「だった、ということは……」

「ああ。九十年前の<新竜戦争>の際に、赤竜公の直接攻撃で滅びた都市の一つだ」


 ヘラドーンが多くの都市を滅ぼしたという話は、伝説ではなく真実だったんだな。


「マステマーシュは現在廃墟となっていますが、その周辺の村落は残っており、リバイアストンの管轄下に入っています。現在、地竜の軍団とモルガナ族が国境の砦を陥落させた後、周辺の村落を襲撃しています」


 メルタンスの指示棒が地図上を滑る。

 国境の砦の位置は、マステマーシュの更に南西。

 その先にダンタリオ山脈があり、そして<ルキフグッサ>の文字が見える。

 それは赤竜公ヘラドーンの本拠地の名前だ。


 なるほど。

 マステマーシュ一帯は、リバイアストンと赤竜公の領地の緩衝地帯になっている。

 しかし国境の砦が落とされたということは、本格侵攻が遂に始まったのか。


「地竜に襲われた村落では、逃げ遅れた民衆が虐殺されているという情報を受けている。やつらは人間を生かすつもりがないようだ。今回は殲滅戦になる」


 コクトーの言葉に唾を呑む。

 無差別大量虐殺が行われているということか……。


「モトム、ギルドから依頼を出したい。当該地域へ行って、マステマーシュに集まった生き残りの民衆を、リバイアストンまで護衛してほしい」


 デミスタンが声を低くして俺に言った。


「今、マステマーシュにはカンテラート砦の連隊の一部を移動させ、防衛線を築かせている。それでも支援に行けば、地竜軍やモルガナ族と高確率で遭遇するだろう。激しい戦いになるかもしれないが、やってくれないか」


 コクトー評議員が真剣な表情で言った。


「地竜軍というのはどういうものですか?」

「地竜は空を飛ぶ能力はないが、巨体と堅固な鱗に皮膚を持っている種族で、さらに地面を高速で走ることができる。地上戦に特化した種族だな」


 デミスタンが答えた。


「過去の<新竜戦争>では戦車の一団を破ったという伝承がありますが……」


 メルタンスがコクトーを見る。


「戦車隊……そういえば、俺が評議員に聞きたかったのは、それなんです」

「面会したいという話はそれだったか」

「教えてくれませんか? シャーマンの部隊は赤竜公にどうやって敗れたんですか?」

「ふむ。シャーマンの部隊は、赤竜公とは戦っていない。彼らはまさに地竜軍と戦って敗れたのだ。それも、ほぼ一体の地竜がそれを成した……<地竜伯>」


「地竜伯……ギャンガラドですか……」


 コクトーが出した言葉に即座に反応して、エチカが目を細めながら呟いた。

 コクトーはゆっくりと頷いて、肯定を示す。


「地竜伯ギャンガラド。そいつはどんなやつなんです?」


「全長四十メートルはある巨大な地竜だ。多数の角と、あらゆる刃や砲弾をはじき返す強靭な鱗に鋼鉄の如き皮膚。それに……私が見たところ、走る速度はシャーマンの倍はあった」


 コクトーの目撃談。

 とんでもない情報だ。


 全長四十メートルともなれば、生物でも数十トンは超えるだろう。

 ひょっとしたら、90式戦車の五十トンを超えるかもしれない。


 質量で明確に戦車の上をいく相手が出てくるのは初めてだ。

 それにその重さでシャーマン戦車の倍の速度といえば、90式とほぼ同等の性能だ。

 情報が真実なら、とてつもない……まさに怪獣と言える。


「それに斥候の情報によれば、今回、地竜伯は地竜族の戦士の大半を引き連れているようです。大型の地竜の数は四十を数えるかと……小型も含めれば、百騎ほどになる見立てです」


 メルタンスが淡々と告げる。

 この受付お姉ちゃん、戦術解説ブリーフィングお姉ちゃんもこなすのか……


 地竜とはいえ大型ドラゴンが四十騎。

 小型を含めて百騎。

 シャーマン部隊が力で圧倒されたのも納得だ。

 しかし……


「どうしてヘラドーンは地竜の軍団を繰り出してきたのでしょうね?」


 俺はコクトーに浮かんだ疑問を尋ねた。


「というと?」

「ええと、グラオギルスとシルミウスが討たれたことはヘラドーンも知っているんですよね。ヘラドーンは俺たちの戦車を恐れていないのでしょうか?」


 俺がそう言ったのは、戦車には航空戦力をぶつけるのが最適だ、そういう当然の判断を考えたからだが。


 しかし俺の疑問を聞いて、コクトーは明らかに、にやりと笑った。

 この男にしては珍しい表情だ。


「まさにそれだよ。赤竜伯と風竜卿を君が討ったから、赤竜公は地竜軍を派遣せざるを得なかったのだ」

「え? どういうことでしょうか?」


 俺が首を傾げていると、隣のラティーナが口を開いた。


「飛行タイプのドラゴンが二匹もやられたから、私たちが空を飛ぶ生き物を落とすのが得意な武器を持っていると思ったんじゃないかな?」


 不意にもたらされた率直な意見に、俺は目から鱗の状態になった。


 そうか、そういうことか……

 どうもラティーナは勘が鋭く、時々直感的に本質を言い当てる。


 今、ヘラドーンは航空戦力のエース級を二人も討たれた状態だ。それなのに、敵、つまり俺たちがそれをどうやって成したか、理由をわかっていないということか。


 九十年前の戦車は対空能力が皆無だった。

 だから、今度は対空能力のある何らかの兵器が来たと勘違いしているってわけだな……。

 そして、その勘違いから……敵の新兵器が対空能力特化なら、地上戦は苦手だろうと思い込み、地上戦の得意な地竜軍を派遣してしまった――


「その誤認を作るために、赤竜伯や風竜卿の死体を急いで始末したんだぜ」


 デミスタンが補足情報をくれた。


 なるほど。

 死体をさっさと消してしまったから、ヘラドーンはどうやって部下が殺されたか確認することができなかったんだな。

 まさか二匹が地上で戦車砲で倒されたとは、思いもよらない、ってことか。


 最初に風竜卿を討伐させた裏には、そんな作戦があったとは。


 この筋書きを考えたコクトーは、本当に策士だな……


「フジワラ卿。マステマーシュからの難民誘導支援、引き受けてくれないか?」


 コクトー評議員の再度の依頼要請を受けて、俺はラティーナとエチカを見た。

 二人共、真剣な表情だが、どこかやる気を感じさせる瞳を称えながら、しっかりと頷いた。


 二人の決心も固まっているようだ。

 地上軍が相手なら、戦車の面目躍如だ。


 それに、マステマーシュが抜かれれば、次はリバイアストンが襲われることは間違いない。


 リバイアストンのすぐ南にある、俺たちのエミリーヒルの防備は、ほぼ全周を有刺鉄線で覆い、かつ鉄条網と塹壕が半分ほどまで構築できている。

 しかし防空壕はまだできていないし、地竜のような巨体モンスターに襲われたら防衛線もあまり効果を発揮しないだろう。


 エミリーヒルの安全を守るためには、リバイアストンから離れた場所で敵軍団と決戦すべきだ。

 

 ざっと作戦を考えた。

 まずは避難誘導を優先し、安全な地域まで難民を送ったら、取って返して敵の主力と対峙する。


 もしくは、防衛線より先行して、相手の機動戦力に、こちらの戦車をぶつける。

 

 機動遊撃戦。


 俺は一度唾を呑んだ後、意を決して、コクトーの目を見、深く頷いた。


「やってみせましょう」












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