第24話 エミリーヒル7 【戦力増強】
ニンテンブルグ鉄工所より、鉄の供給を取り付けてから一週間が経った。
約束通り、有刺鉄線の量産が始まり、さらに一カ月が経つ頃には、エミリーヒル村の西側一帯は、すべて鋭い棘の防壁で囲われた。
濾過装置がある川辺も、井戸のある丘の麓も全て有刺鉄線の内側。
これで村の最も弱い部分の防衛線は、ひとまず完成だ。
あとは鉄条網と塹壕を少しずつ整備していけば、地上からの侵入はほぼ防げる。
実際、一度またあのボアニードラの小型種がうろついていたらしいが、ハンスとマルコの話では、鼻先で棘をいじっていたものの、すぐに諦めて草原の奥へ帰っていったそうだ。
いいね。
着実に効果が出てる。
九十年前の戦車と赤竜族の戦いについては、話を聞くためにコクトー評議員に面会を申請しているのだが、なかなか許可が降りない。
なんでも議会の時期らしく、準備に忙しくて時間が取れないとか。
本当にそんなに忙しいのか?
という疑問もあるが、賞金を前倒しで出すよう手を尽くしてくれた恩があるので、強くも言えない。
なのでこの件は保留になっている。
攻撃面の改良では、進展があった。
実は俺はすごいことに気が付いてしまったのだ……。
戦車クラフトでは、整備員レベルが上がると、作れる部品の範囲が広がっていく。
精密な部品はまだレベルが足りず作れないが、今の俺のレベルでも作れるものの中に、ブローニングM2機関銃の部品が含まれていることが分かった。
さらに、サイズ違いも指定できる。
部品単位で作れるということは……
M2の砲身はライフル銃身だ。
弾頭はミニエー弾。
あとは、後装式の機構を再現すれば――
ライフル銃が作れる。
これを思いついて、俺は驚喜して早速製作に取り掛かった。
ブローニングM2重機関銃の部品を選択。
ニンテンブルグ鉄工所で作ってもらった鋼鉄を素材にし、サイズを7.62mmにダウン指定。
しばし待つ。
出来上がった完全真円の銃身、高精度ボルト、完璧なシャフト、精密ネジ、そしてトーションバー応用で作ったスプリング——。
核心となる部品群をクラフトで作り出した。
俺はそれらを持って、すぐにもう一度、ニンテンブルグの工房に行くことにした。
「後装式の旋条痕入り砲身の小銃だと……」
「シャルマニア本国でも検討されていたと聞いていたが……工作能力不足で作成できなかったものだぞ……」
「こいつの造りは完璧だ。驚きだな。戦争が変わるぞ!」
机の上に広げた部品の数々と、俺の書いた図案を見て、ニンテンブルグ兄弟はまたも驚愕していた。
そして二人に小銃の外装部品を、現地技術で手作り作成してもらう。
結果、二本の試作型ライフル銃ができた。
早速、工場の敷地で試射を行った。
結果は――――
――この世界にはマスケットはもうあるが、それは銃身の内側に溝がないタイプだ。
歴史に詳しい諸兄ならご存じかもしれないが、小銃が弓矢を完全に超えたのは、実はこのライフリングと、そして団栗形状の弾丸・ミニエー弾が登場してからなのだ。
ライフルの溝とミニエー弾の形は、弾道を安定させる。
ライフル銃になって初めて、小銃は狙撃能力を手に入れたのだ。
ブローニングM2の砲身で作った初期型ライフルを試射し性能を測ったところ、その最大有効射程は……なんと千メートル近くあった。
もはや、初期のライフル銃の域を余裕で超えている。
これならモルガナ族が五百メートル先から撃ってくる弓矢も怖くない。
遥かアウトレンジから、物陰に隠れながら敵を射殺できる。
試作品、ちょっと強すぎたかも……戦争の様相が変わりすぎる……。
量産品は質を落とそうかな……
試作品の二本は、今のエミリーヒルの騎兵主戦力、ステファニーとフェンリエッタの手に渡ることになった。
「すごい武器ね。これなら、モルガナ族は敵じゃないわね」
試射し終わった後のステファニーの発言、飄々としていて、軍人過ぎてなんか痺れるな……
「村長、私、この眼鏡、とっても好きです! ありがとうございます。本当に嬉しい!」
フェンリエッタの方は、銃そのものより、ついでに作ってあげた眼鏡の方に感動し、ぴょんぴょん飛び跳ねながら喜んでいた。
「フェンリエッタの狙撃もすごかったよ。とても初めてとは思えない」
実際800メートル離れた的を撃たせたのだが、最初から真ん中撃ち抜いていた。
「もしかして褒めてくれています?」
「ああ、もちろん」
「じゃあ、頭撫でてくれますか? 私、その……尊敬している人に頭撫でてもらうのが一番嬉しいんです」
「そ、そうか……じゃあ」
えっと、これ、セクハラじゃないよな?
一応相手の了解があるし……
俺は恐る恐る、フェンリエッタの銀色の頭に手を置いた。
おお?
何だこの感触……
前に感じたことがあるような……
フェンリエッタは目をつぶり、まるで頭を撫でられるのを堪能するように喉を鳴らしている。
何という滑らかな手触りだ。
まるで動物の極上の毛並みのようだ……
ふわふわして、何だか意識が遠のいていくような……
「ゴホン。ちょっと、フェンリエッタ……それに村長?」
ステファニーが咳払いして注意してきたので、我に返る。
「あ、ああ……すまない」
射撃場で思わず別の世界に行ってしまうところだった。
それぐらいフェンリエッタの毛並み……いや頭の感触は心地よかった。
何なんだろう、これ……。
決して性的な意味ではない、と思うんだが……。
頭を振って、意識をはっきりさせ、我に返る。
何にしろ、試射は大成功だな。
弾丸もいっぱい作った。
ステファニーとフェンリエッタの弓騎兵コンビが、ライフル竜騎兵にクラスチェンジした感じだ。
量産品のライフルもできたら、次は男の子たちに配るか。
通常戦力は着実に増強できていると言えるな……。
よし、次は防空壕の建設だな。
【後書き】
ここから先は、怒涛の戦闘ラッシュが続きます。
乞うご期待!




