第19話 リバイアストン市街区2 【都市観光2】
叙勲式は明日、今日は自由時間だということで、午後はリバイアストン市街区をみんなで散歩することにした。
市場に行ってみたいという意見が多かったので、市の中央から東にある、バザーに移動する。
リバイアストンのバザーは、全体が巨大なアーケード式で、その下に複数の露天が立ち並んでいる。
かなりの賑わいだ。
雰囲気は東京上野のアメ横みたいだが、色合いが原色が多くて綺麗だな。
冒険者ギルドで持っていた金貨と銀貨を両替してもらい、子供たちに、お小遣いとして小銀貨二十枚ずつあげる。
年長の子たちには三十枚ずつ。
「エチカ、相場がよくわからないけど、これで大丈夫かな?」
「十分ですよ。子供なら大分買い物できます」
エチカのお墨付き。
なんとなくだけど、小銀貨一枚は千円ぐらいかな?
「私も露天で買い食いする!」
ラティーナの力強い宣言。
食いしん坊エルフでもあるのか……。
ロッティを肩車しながら、中央の広場近くの雑貨屋をみんなで一緒に見ていた時に、甲高い女性の声が背後からした。
「あー?!」
振り向くと、若い女性が俺たちを指さして口を大きく開けていた。
「モトムさん、それにエチカさんに、ラティーナさん!」
誰だっけ?
どこか見覚えのある、オレンジ色の髪だ。
つい最近見たはずだけど、どこで見たんだっけかな……
俺が怪訝な表情をしているのを見たその女の子は、ふいに、手提げ鞄から何か布のようなものを取り出して、頭に被った。
この頭巾は……確か、<ウィンプル>っていうシスターが被る……それに肩に担いでいる長筒は……
「……あっ、もしかしてマスケットシスターさんか?」
「なんですかその呼び方?! クラリッサです!」
カンテラート大森林で、ピコグリフォンと戦っていた冒険者パーティーのシスターさんだ。
服装も違うので、ぱっと見分からなかったが、親切に頭巾を被ってくれたおかげで分かった。
クラリッサという名前だったのか。
しかしケースに入れているとはいえ、オフの日でも火縄銃を持ち歩いているのか……?
「えっ? モトムさん?! 本当に?!」
彼女から少し離れた俺たちとは筋の反対側に短髪プラチナブロンドの、背の高い精悍なイケメンが立っていたが……彼はこちらを見ると、近づいてきた。
……もしかして、<鷲羽根兜のリオドール>か?
あのパーティーのリーダーの。
こっちは背格好でピンときた。
……ヘルム付けて無いから、全然分からなかったが。
リオドールと思わしき男は、二歩ほど離れた位置まで近づいてくると、俺の顔をまじまじと見た。
「たしかに、モトムさんだ。なんか、一瞬わからなかったけど。なんていうか……先日より」
俺はロッティを下して、二人に挨拶する。
「やあ。久しぶり」
「こんなところで会うなんて、偶然ですね……ところで、どうして大森林のキャンプに来なかったんですか?」
クラリッサが手を合わせて笑顔でそう言ったので、俺は一瞬何のことか分からなかったが……
「……あっ!」
何か忘れていると思っていたら。
そういえばリオドールから、森で倒したピコグリフォンの半金を受け取るのを忘れていた。
「そういえば……」
「そうでしたね……」
ラティーナもエチカも忘れていたんだな。
あの時はみんな、シルミウス討伐成功で舞い上がってしまっていたからな。
「丁度よかったですね。じゃあ、今日払いますよ。今から一緒に銀行に行きましょう」
「いいのか? 二人……デートじゃないのか?」
リオドールとクラリッサ、若い二人の仲を邪魔してはまずい気がする。
「違いますよ、冒険者ギルドに用があったんですけど、終わりました。その後時間が空いたので、二人でバザーを見て回っていたんです」
リオドールがつれないことを言った。
だからそれはデートと言うのではないのだろうか?
リオドールの横を見ると、クラリッサが肩を落として何かブツブツと言っている。
なるほど、クラリッサの方は明確にリオドールにアプローチしているみたいだな。
「シスターさんも苦労してるんだね……」
「クラリッサさん、はっきりしてくれない殿方がお相手だと、困っちゃいますよね……」
ラティーナとエチカが、クラリッサの手を握ったり、背中をさすったりしている。
なんだ?
「もしかして、あなたたちも……そういうことなのね……私たち、同志ですね!」
「うん!」
「はい!」
なんだか意気投合したらしい。
手を握り合っている。
そしてその後、三人でじとっとした目線で、俺とリオドールを睨んできた。
(な、なんだ? 一体……この刺すような視線は……)
「え、えと……二人で銀行、行きましょうか」
リオドールも居心地の悪さを感じたらしい。
「お……そうだな」
俺はリオドールの提案を受けて、ほんの少しの間、子供たちを女性陣に任せて、彼と一緒に銀行へ行くことにした。
道すがら、話を聞くと、リオドールたちはいつもは冒険者稼業を大森林で行っているのだが、今はピコグリフォン討伐でまとまったお金が入ったので、しばらく休暇中だという。
まああれ一体で金貨四十枚って話だったからな。
「ところでリオドール、なんで敬語なの? 大森林ではタメ口だったのに」
「あの時はパーティーのリーダーとして気が張っていたというか……やっぱり年上の人にはそれなりの話し方にしたくて」
若いのに、律儀で丁寧なやつなんだなあ。
「モトムさんは、何か森で見た時より、大分若々しいですね」
ん?
なんか変な褒められ方だな……
服装は変わってないんだけどな。
あの時はヘルメット被ってたし、疲れてたから老けて見えたのかな?
「それじゃあ、これ。残りのお金。金貨五枚です」
「ああ、ありがとう」
「みんなの所に戻ったら、昼食でも一緒にどうです? せっかく再会したんですし」
「それはいいな……ん?」
「どうしたんです?」
十字路の角にある商店、行列ができていたが、それ以上に気になるのは、その店頭の広告。
どうも武器屋らしいのだが、入口の扉の横に置かれた立て看板に、数行の勢いのある激しい文字が書かれていた。
【九十年振りに登場! 】
【竜鱗装備入荷! 】
【グラオクラウン 】
【グラオSアーム 】
【グラオSメイル 】
【グラオSグリーブ】
【数量限定・ごく少数】
……。
グラオって……。
その接頭辞で思いつくのは、この世界へ来たとき、一番最初に見たあの赤い竜だ。
まさか……
「ああ、あれ。丁度今日から並んだそうですよ。モトムさんも気になりますか、やっぱり……赤竜の鱗や牙を使った装備って触れ込みなんですけど、普通はオークションに出るような品ですよね。みんな買えなくても一目見たいってんで、並んでるんです。やっぱり本物なのかなあ?」
「…………」
たぶん、素材は俺が最初に倒した赤竜グラオギルスで間違いないんだろうけど……
俺たちはやつの死体をホバルク村に放置してきたから、誰かが回収して、それを使って防具を作ったのか?
「すごいですよね。古竜素材の防具なんて、いったい金貨何百枚になるのか……見当もつかないです」
たしかにロールプレイングゲームとかだと、ドラゴン素材の装備ってかなり強いし高い部類になるよな……
……?
なんか、引っかかるな……
理屈としては別におかしくはないはずだが……
あれがあそこに並んでることに、何か違和感を感じる……
なんでだろう?
※
冒険者ギルド併設の大食堂で昼食を取ったあと、人でごった返している冒険者ギルド本館ロビーに入る。
社会科見学みたいな形になった。
「なんだ、子供連れてんのかよ」
奥から見知った顔が出てくる。
冒険者ギルドのサブマスター、デミスタン。
「モトムさんの面会相手ってサブマスターだったんですね」
そうか、リオドールたちもギルドに所属しているだろうから、デミスタンの知り合いか。
「リオたちは休暇中だったか。途中でフジワラと会ったのか」
「それにしても、この人だかりは何なんですか?」
「明日の叙勲式の話をしたら、出場したいってやつが押しかけてきてんだよ」
「叙勲式……そういえば、風竜卿を討伐した人が明日叙勲されるって本当ですか?」
「おお、お前らもにぎやかしで入ってくれよ。こんな有様だけど、まだ席は余ってんだ」
「いったい誰が風竜卿が討伐したんですか?」
「……そこの両手に花の、のほほんとしたやつだよ」
「え?! モトムさんがまさか! …………でも、確かに強力な武器を持っていましたね」
「なんだ知ってんのか」
俺は苦笑した。
リオドールとクラリッサには自動小銃は見せたけど、戦車は見せていないから、もし会場で見たら、たまげるかもな。
*
午後は俺と、エチカとラティーナは、叙勲式のための礼儀作法の講習を受けることになった。
そのため、デミスタンとメルタンスが他の子たちの面倒を見てくれる予定だったが、リオドールとクラリッサも一緒に加わってくれるという。
ありがたい。
「風竜退治の英雄のお手伝いをできるなんて、光栄です」
リオドールはそんなことを言っていた。
ちょっと照れ臭い。
礼儀作法の講習は教師の人が厳しくて、結構大変だったが、こっちの作法もあんまり現代日本と変わらなかった。
敬礼の仕方が微妙に違うぐらい。
しかし、礼装を着たエチカとラティーナはことのほか美人で、目のやり場に困る……
二時間ほど講習受けた後、休憩中に事務員の人が入ってきた。
「フジワラ様、お客様です」
「やあ、失礼するよ」
事務員さんに案内されて入ってきたのは、見知っている顔だった。
「コクトー評議員、そちらからおいでいただけるとは……」
「……こんにちは」
「……お久しぶりです」
ラティーナとエチカは気まずそうだったが、作法を守って評議員に挨拶する。
「うむ。風竜を倒すとはさすがだ。ラティーナ、エチカ。君たちも、本当によくやってくれた。君たちには、以前失礼なことを言ったな。あの時は仕方なかったんだ。すまなかった」
そう言うと、なんとコクトー評議員は深々と頭を下げた。
「え……!」
「……!」
驚いた。
評議員の謝罪は、形だけではなく、ちゃんと声に暖かみがあった。
ラティーナもエチカも、目を丸くして驚いている。
「評議員、以前とはずいぶんとその……感じが違いますね」
「デミスタンから聞いただろう? 私にも立場がある」
「ということは、今が素なんですか?」
「まあな。君の名も売れたから、ようやくこうして普通に話ができるようになった。英雄と市の評議員が会話するのは、別におかしなことじゃないだろう?」
なるほど。
俺たちが手柄をあげたので、他の議員の顔を気にせずに対応できるようになったってことか。
本当に一筋縄ではいかなさそうな人間だ。
さっきの、エチカとラティーナへの謝罪も、本心なのか腹芸なのか読めないところも底が知れない……
「講習はあとどれくらいあるのかね?」
「あと一時間ほどです」
「では、終わるまで待たせてもらうよ」
評議員は講師とやり取りした後、事務員さんに椅子を持ってきてもらって、そこに座った。
しばらく俺たちの講習の様子をじっと見ている。
まるで品評するような視線だ。
落ち着かない。
……もしかして、外に出しても恥ずかしくないレベルか審査しに来た……のか?
そのうちに、ため息をつきはじめたので、ちょうど手が空いていた俺は、彼に話しかけた。
「どうも、お疲れのご様子ですけど……?」
「式典の準備が忙しかったからね」
「それは……もしかして、ご迷惑をおかけしましたか?」
「まあ、急なことだったからねえ。出席者の調整や賞金の準備は少し手間取ったよ」
うーん。
元々この評議員さんが裏で色々手を回して風竜を討伐させたわけだけど……
賞金の手配を急いでくれたことには、素直に感謝している。
「なに、気にしなくていい。君の丘にも、はやく独り立ちしてもらわないとな。私は別に資金に困っていないが、君もいつまでも借金したままじゃ心苦しいだろう?」
う……。
借金のことを言われると、ばつが悪い。
この人、そっけない態度を取ったり、親身になったりと、ころころ態度が変わる。
真意の読めない、食えないおっさんだな……。
正直俺は、政治家っていう人種は苦手なんだよな……。
裏表が激しそうで……。
気が付くと、エチカとラティーナが講習の手を止めて、こちらの方を心配そうに見ていた。
俺は安心させるために、笑顔を作って見せた。
苦笑にしか見えなかったかもしれないが……。




