第17話 エミリーヒル4 【叙勲式準備】
エミリーヒルに新しく建ててもらった館。
そこで初めての夜を過ごした。
俺はなんと、村長室ってことで、広い個室をもらった。
大広間で雑魚寝しているみんなには、ちょっと悪い気がする。
でも、また夜中、ナスリンに忍び込まれるのも問題だからな……正直個室はありがたい。
なし崩し的に村長と呼ばれることになってしまったが、俺しか大人はいないし、しばらくは仕方ないか……。
ラティーナやエチカが大人になったら、どちらかに村長職を譲るのもいいな。
みんなが大人になって自立していく光景。
結構柔らかいベッドの中で、俺はそんな未来を妄想して、眠りについた。
一晩明けて、広間でテーブルを並べて、みんなで朝食を取っていた時。
デミスタンが丘にやってきて、館のドアをノックした。
「おいおい、なんだすげえな、この館」
中に入れると、さすがにデミも驚いていた。
俺も誇らしくなりながら、彼を席の一つに案内する。
「ドラゴン退治の報酬の話か?」
「ああ、正式な賞金額が決まったぞ」
そう言うと、デミは皆の顔を見回した。
他のテーブルに座っている子供たちも、中央に座ったデミの方を見て、固唾を飲んで彼の言葉を待っている。
「なんと、金貨五千枚だ! 軍も奮発してくれたな!」
ざわざわっていう歓声が室内に響く。
俺も別の意味で驚いた。
何とエチカの予想が、ずばり的中していた。
俺とラティーナはエチカを称賛する目線を向けながら、拍手する。
エチカは照れた顔をしてぺこぺこお辞儀してきた。
なんだ? という顔をしているデミスタンにエチカが尋ねる。
「サブマスター、それは手数料を抜いた額ですか?」
「抜いた額だ。それに、今回に限っては非課税だ」
なんだ、所得に税金かかるのね。
まあ、そりゃかかるか。
中世的な人頭税じゃなくて、所得税方式ってところは、社会制度として進んでいるけどな。
「今回に限っては、ということは……」
エチカが質問を続ける。
そうだな、今回限りというとことは、次回から税金取られるということだ。
その理由として考えられるのは……
「ああ、そうだ。副賞として、モトムと二人には、リバイアストン市の名誉市民権が付与される。被保護者には準市民権だ」
被保護者っていうのは、俺たちの場合、他の子どもたちのことになるのかな。
「まるで英雄扱いだな」
俺がぽつりとそうつぶやくと、デミは盛大に呆れたような表情になった。
「あのな、ドラゴン退治したんだぞ⁉ それも、飛竜とか小竜みたいな小物じゃなくて、本物の古竜だ。フジワラ、エチカ、ラティーナ、お前らは間違いなくリバイアストンの英雄だよ」
お、おおう。
真剣に言われて、ちょっとたじろいでしまった……。
確かに風竜は強かったし、大森林の准将も何人も兵士が犠牲になったって言ってたな。
風竜シルミウスの打倒はリバイアストンの悲願だったみたいだな。
気が付けば、デミだけじゃなくて、周囲の子供たちが、俺たち三人に熱い視線を向けていた。
これは……尊敬の眼差し……なのか?
ちょっと気恥ずかしいというか、居心地が悪い。
何というか、俺、あんまり褒められ慣れていないんだよな。
話題を変えよう。
「ところで、市民権と名誉市民権の違いってなんなの?」
「市民権と名誉市民権はほぼ同じだ。市内への居住許可、公共施設の利用許可。ただし参政権は、実際に五年以上リバイアストンに住まないと付与されない」
デミは本当、街のことに詳しいなあ。
さすが爵位を持つ貴族だけはある。
要約すると、準市民権は基本的人権のほとんどが付与されるってことらしいな。
「準市民権は入場自由許可ぐらいしかないな」
なるほど。
他の子たちは城内に住むことはできないのか。
今のところ、エミリーヒルがあるから、大きな問題はないが……。
参政権は重要だ。
いつかは子供たちにも、市民権を与えてあげたいな。
広間に座っている、他の子どもたちの顔を見回しても、きょとんとしているだけだ。
話が難しくて分からないのかもしれないな……。
……かと思ったら、ラティーナも同じ顔をしていた。
割といつも通りで安心する。
「私も名誉市民権をいただけるのですか?」
「エチカは気になるよな。確かに、『ディコーンに市民権を与えても良いのか?』という意見は出ていた」
ん?
これはどういうことだろう。
ディコーンがこの地域で差別される風潮があるのは、なんとなく理解していたが。
「だが、コクトー評議員が、『むしろ、ディコーンに市民権を与えた方が、他の都市との差別化になるのではないか』と主張してな」
これを聞いて、エチカは何とも言えない複雑そうな顔をしている。
嬉しいのか悲しいのか。
どうも、ディコーンに対する差別というのは、色々複雑な事情が裏にあるらしい。
「というわけで明後日、叙勲式をやるから。おまえら、明日、リバイアストンの冒険者ギルド本館に来てくれ」
デミの言に、俺は思わずコップを取り落としそうになる。
明後日に式典だって?
しかも叙勲か……軍隊の依頼だったから、軍からの勲章ってことか?
「おいおい、随分急だな」
しかし、さすがに叙勲式なんて、昨日今日でできるもんじゃないと思うけど。
お偉いさんの日程押さえとかもあるだろうし。
「ほうぼう手を尽くしてやったんだぞ。コクトー評議員も全面的に協力してくれてな。お前たち、早いところまとまった金が必要だろ?」
ああ、なるほど。
早く賞金が出るようにしてくれたってことか。
確かに、ああいう高額賞金って、もらえるのかなり遅いイメージなのに。
銀行振込もないこの世界で、昨日今日で賞金出るって相当融通してくれたんだろうな……
それを言われちゃ、出ないわけにはいかんか……。
「あのー、デミさん……私たち正装持っていないんだけど……」
ラティーナがおずおずと手を上げる。
そうか、式典だからな……フォーマルな場だ。
ラティーナたちはホバルク村から着の身着のまま逃げたから……。
正装なんて持ってくる暇なかったのか……元々持っていなかったのかも。
「フム。子供たちの分も必要だな。いいだろう。去年の祭りで使ったやつが軍令部の別館にあるはずだ。明日、試着だな。モトムは持ってんのか?」
「おれは制服でいいかな」
俺はもともと整備員だったので、普段来ているのは作業用のTシャツかツナギか……それか上に戦車兵用の迷彩服なんだよな。
普通、自衛隊員は式典の時は、一種制服っていう礼服を着る。
なぜか一着だけその制服が戦車の中に入っていてくれた。
というか俺の制服だったけど。
前も土産物のお菓子があったのだけど、俺の私物をいくらか持ち込んでくれているらしい。
デミスタンは冒険者ギルド本館の位置をざっくり教えてくれて、帰っていった。
俺たちは、明後日の叙勲式に出るために、出立の準備をすることになった。




