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第15話 風竜卿シルミウス 【戦果確認】 



 さて、その日の興奮冷めやらぬ中、砦の岩山に続く登山道まで行ったのだが。

 ちょっと道幅が狭くて、夜中に登坂とうはんするのは厄介な道だった。


 そのため、出直すことに決めた。


 真夜中なので、念のため一旦森の入り口まで戻る。 

 そこでキャンプすることにして、戦車から降りた後、俺とラティーナは、エチカを称えたくてうずうずしていたのだが、


「まだ安心できません、シルミウスの死体を確認するまでは!」


 そう興奮気味にエチカが言うし、もう深夜を回っているはずなので、俺たちはおとなしく寝ることにした。


 とはいったものの、寝袋の中でも興奮が冷めず、中々寝付けなかった。

 俺がこうなのだから、当のエチカは目がギンギンに冴えてしまっているんだろうな……


 そして開けて次の日の早朝、砦まで行く。

 無難に岩山の坂道を登り、城門前。


 固く閉ざされた城門を戦車砲で吹き飛ばす。

 その後、降車して、破れた門の陰に隠れながら中庭をうかがう。


 まあ、血の海だった。

 中庭のど真ん中に、見覚えのある瑠璃色のドラゴンが、舌をだらしなく延ばして、へたばっているのが見えた。


 頭部に破孔が確認できるし、胴体の傷は目立たないが、血で真っ赤だ。

 腐臭、と言えるものはまだない。

 確実に死んでいるだろう。


 俺は傍まで言って、死体の周囲に敵の仲間が潜んでいないか一応確認する。

 そして、小銃の先でシルミウスの死体をつつく――


――反応なし。


 死亡確認。


 俺はハンドサインを門のところにいるエチカとラティーナに送る。


 そしてこそっと門の外まで戻る。

 ちなみにシルミウスが起き上がるんじゃないか、とか思っているわけではないんだが、何となく死体があるところで仰々しく騒ぐのも良くない気がするから。


 そして、門の外の広場に出たら、三人とも深呼吸をした。


 しばらく三人で顔を見合ったら、そこで嬉しくなって、こらえきれず、俺とラティーナは二人でエチカに一気に抱え上げて、胴上げした。


「「おめでとー! おめでとー!」」

「きゃあ! 高いです、怖いです!」


 叫びながらも、エチカは嬉しそうに笑っていた。


「そういえば、賞金もらえるんだよね? うへへへえ、いくらかなあ?」

「わあ、ラティーナ! 急に離さないで!」


 急にラティーナがニヤケだし、胴上げキャッチを放棄したので、エチカが空中で叫んだ。

 エチカの頭が地面に当たりそうになったので、俺は慌ててエチカを引き上げる。


「おっとと」


 俺にお姫様抱っこされたエチカは、そのままラティーナの方を見る。


「賞金、結構もらえると思いますよ」

「金貨百枚ぐらいかなあ?」

「ラティーナ、相場わかっていないですね……たぶん、五千枚ぐらいはもらえるかと」

「ご、ご、五千枚! それだけあれば、毎日お肉食べられるッ?!」

「牧場付きの大農場を丸ごと買えると思いますよ……」


 うーむ、ラティーナの天然とエチカの常識的なツッコミ。

 なかなか良いコンビだな、と俺は改めて微笑ましく思った。







 リバイアストンへ向けて帰る前に一度、大森林の前にある冒険者キャンプにあいさつをしておこうと思った。


 シルミウス討伐前に、一度立ち寄ったのだが、兵士さんたちの駐屯地があった。

 別に森に入るのは自由みたいだったので素通りしてしまったが、よく考えたら、討伐前に一言入れておけばよかったかも。


 駐屯地の前までキュラキュラと戦車を走らせ、ラティーナが歩哨の兵隊さんに声をかける。


「すみませーん」


 砲塔の上にいたラティーナが、うきうきした声で話しかける。


「な、なんだきみは……これは乗り物なのか? …………もしかして、ラガーシュ男爵から連絡のあった戦車というやつか?」


 兵士さんが仰天しながら、漏らした名前、俺はどこか引っかかった。


「ラガーシュ男爵? どっかで聞いた名前だな……?」


 俺がハッチから出ながら言うと、既に外に出ていたエチカが俺の手を引っ張りながら言う。


「サブマスターのファミリーネームじゃないですか?」


 あっ、デミスタンのことか。

 そういえばそんな名前だったな。


 あいつ、貴族だったのか……

 それなりの実力者だとは思っていたけど。

 たぶん見た目からして、三十代前半ぐらいだろうから、割と若くして家を継いだのかな?


「ちょっと待ってろ」


 そう言って、歩哨の一人が中に入っていった。


 五分ほどして、中からお馴染みの二角羽根帽子を被った、偉そうな将校が出てきた。


「ラガーシュ卿の依頼を受けたというのは君たちか。確かにこのような見たこともない兵器なら、風竜にも通用するかもしれんな……」

「あのー、実はー……」


 将校さんの隣に立っているラティーナがてれてれと笑っている。

 エチカも同じように苦笑している。


 俺は砲塔バスケットに入れていた、討伐証明用の品物を取り出した。

 それを戦車のフロントにドスンと置いて、将校さんに見せる。


「実はもう倒してきちゃいまして……」

「な……」


 将校さん、めちゃくちゃ顔を顰めた。


「バカな……しかしこれは確かに風竜の角に見える」

「飛竜の角ではないのですか?」


 将校さんと兵士は、戦車の前面に置いた角を鑑定し出した。


「飛竜の角はこんなに大きくない……信じられんが、間違いないな。真竜が討伐されたのは九十年振りだぞ……快挙だ!」


 将校さんが叫んだ。

 あ、やっぱり過去に例があるんだ。

 

「もう一度確認したい。貴兄らはカンテラート砦で風竜卿を討伐した。相違ないな?」


 将校さんが姿勢をただし、真剣な顔で聞いてきた。


「はっ、心臓部と頭部に砲撃が命中。砦内部に行き、死亡も確認しました。この角は、頭部破壊時に折損しており、それを接収したものであります!」


 結構威厳がある人なので、何となく上官に話している気になって、業務口調で報告してしまった。

 なんか、やっぱり俺って自衛隊員なんだな……こういう受け答え、しっくりくるわ。


「了解した。報告感謝する。砦に確認の兵を送る。たぶん本当なんだろうな……風竜卿が砦を占拠して以来、我々は何度も煮え湯を飲まされてきた……これで、犠牲になった兵士たちも浮かばれる。軍を代表して、礼を言う」


 先程の一瞬の動揺はどこへやら、将校さんはすぐに冷静な態度に戻って、俺に対して敬礼をした。

 周囲の歩哨の兵士さんたちも、将校さんに習って、一斉に敬礼をし出した。


「あわわ……」


 ラティーナもエチカもたじろぐ。

 慌てて俺たち三人も返礼をした。


 将校さんの落ち着いた佇まいと視線の鋭さ、軍服の豪華さから察するに、この人、割と高位の指揮官みたいだな。


 感謝の視線は有難いが、正直、お偉いさんは苦手だ……気まずいから、そろそろお暇しようかな。


「じゃあ、俺たちはこれで……」

「ああ。リバイアストンにも早馬を送っておく。あ、最後に名前を聞かせてくれ」

「モトム・フジワラです」

「ラティーナだよ」

「エチカです」

「准将のジバル・コクトーだ。君たちとは、また会うかもしれんな」


 准将という階級の高さにも驚いたが、それより名前を聞いて驚く。


「あの……失礼ですが、もしかして、コクトー評議員のご親戚?」

「リバイアストン市の評議員、アダン・コクトーは、父だな」


(うへえ)


 内心が声に出そうになって、慌てて呑みこむ。

 言われてみれば、将校の気難しそうな顔は、あの威厳溢れるおっさんと似ている。


 なるほど。

 有力者の親戚が要職を固めているのは、あり得ないことではないな。

 政治も軍事も一族で制覇しているって……コクトー家はリバイアストンではかなりの力を持っているみたいだ。


 俺は余計に気まずくなった。

 ラティーナとエチカの表情を見る。

 二人とも、(だよねえ)(ですよねえ……)と苦いものを噛んだような顔をしていた。


 コクトー評議員にはいっぱい寄付してもらってるが、第一印象がきつかったので、ちょっと苦手意識があるんだよな。


「……それはその、お世話になっています」


 俺はへらへらしながら、手もみして准将にお辞儀する。


「持ちつ持たれつというやつかもな」


 准将は手を上げて俺たちを見送ってくれた。












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