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第13話 カンテラート大森林2 【掃討】



 食事の後のコーヒータイムの時だった。


「ふんふん?」


 さっきまで満腹モードの時の、リラックスした揺れ方をしていたラティーナの長耳が、ゆっくりとぐるぐる旋回するような動きに変わった。

 もちろん、回転角度は90度ぐらいで、ぐるりと一回転できるわけじゃないんだけど。

 ……なんか対空レーダーみたいな動きだな。


「森の中で誰か戦ってるね。魔獣かな?」


 ええ?

 そんなことわかるの?


「ラティーナ、何メートル先ですか?」

「南東、四時方向に四百メートルってところかな」

「わかりました……私も見ます………………確かにいますね。前衛が五人、後衛が五人のパーティーです。大型の魔獣と交戦中です」


 いやいや、本当なのか?

 もし本当なら、この子ら、あらためて人外だな…… 


 俺は少々考えてから、コップをテーブルの上に置いた。


「ラティーナ、エチカ」


 俺が決意して名前を呼ぶと、二人は無言で頷く。

 この子ら子供なのに、すぐに戦闘モードになれるんだよな。

 何というか、異世界の過酷さが伺わされる。


 俺は車内にあった89式5.56ミリ小銃を装備し、ラテイーナとエチカは手元にあった弓を装備して、三人で森の中に入った。


 はっきり言って、森の中の行動、エチカやラティーナの方が断然ベテランだと思った。

 特にエチカが凄い。

 動きに無駄がなく、移動中に一切物音を立てていない。


 まるでレンジャー隊員だ。


 彼女の空間識覚は種族技能らしく、森のような障害物が多い場所での行動や、危険察知では本当に役立つ。


「剣と槍と弓……魔法障壁もあるね。バランスのよさそうなパーティーだね」

「陣形からすると、冒険者たちは押されがちのようです。前衛が崩壊しかけています」


 ラティーナは耳で、エチカは空間識覚で。

 途中の木陰で各々、察知した戦況分析を伝えてくれる。


 こりゃもう、90式のセンサー顔負けだな。

 遮蔽物が意味をなさない分、偵察衛星よりすごいかも。

 

 そして俺たちは、冒険者たちの戦闘が目で見える位置まで来た。


 ラティーナが最初に目標を視認、発見し、一週間の訓練で覚えた自衛隊式ブロックサインで、対象の位置と、付近の大木の陰にブッシュするよう指示してくれる。

 この子ら、本当学習能力高いわ。


 木陰から三人で一緒に前方の森が開けた場所を覗く。

 剣や槍を持った数人の冒険者さんたちが、見たことのない獣と戦っている光景が見えた。


 派手派手しい七色の鳥のような頭と翼が、ライオンのような猫科の胴体にくっついた猛獣。


「あれはピコグリフォンです。爪と嘴が強力で、爪には麻痺毒があります」


 エチカが小声で耳打ちしてきた。

 ピコって何だろうと思ったが、どうも孔雀のことらしい。

 

 冒険者側の戦力、前衛は五人。

 剣持ちが二人、槍が二人。ハルバードみたいな先端が斧状になった武装持ちが一人。


 時折、戦士たちの前方に、緑色や白色の波紋が広がっていて、それがピコグリフォンの前爪や嘴の一撃を防いでいるように見える。

 あれが魔法障壁ってやつかな。


 俺たちから見て左側、前衛から数メートル離れた位置に、魔法使いらしき装束の二人が杖を構え、弓手が二人矢をつがえていた。

 そのさらに後ろに、マスケット銃を構えた、たぶん、シスターがいる。

 マスケットシスターって何か新鮮に感じるな。


 見た感じ、グリフォンは突貫して後衛を襲おうとしているようだ。

 後衛は女性が多いようで、彼女らの表情には焦燥が見える。


 どうも度重なるグリフォンの打撃で、前衛は瓦解寸前――早期に支援した方が良さそうだ。

 俺は二人に「今回は俺に撃たせてくれ」と頼んだ。

 二人にも自衛隊装備が実戦でどう働くか、慣れてもらいたい。


 また……正直異世界の対人対魔獣レベル戦闘だと、俺の方がビギナーだ。

 俺も経験を積みたい。

 エミリーヒルの事前訓練でも何回か発砲したが、動いている生き物を撃ったことは当然ない。



 魔法障壁が削り取られる度に、後衛の魔法使いたちの表情が曇っていく。


 どういうシステムか正確には分からんが、多分彼ら彼女らの表情から察するに、後衛の魔法使いたちは、もう一度この障壁を貼る力がないということだと思う。

 嫌らしいことに、敵のグリフォンは獣のくせに、その状況を克明に理解しているようだ。


 ということは、次の攻撃前に、グリフォンは渾身の力を籠めるために一旦引いて、溜めを作るとみた。


 案の定、グリフォンが身を引いたため、ハルバードの男の一撃が空振り、前衛たちとグリフォンの間に間隔が空いた。


 今だ、と俺は思った。


「発砲する」


 タタタ!

 

 俺の構えた銃口から放たれた3点バーストの射撃は、真横からグリフォンの身体の中央に当たった。

 グリフォンの巨大が小刻みに揺れる。


 シュパン! シュパン!


 直後、俺の左右で風切り音が鳴って、グリフォンの目と首元に矢が命中する。

 両隣にいたラティーナとエチカが追撃で弓射し、見事命中させた。


 グリフォンの七色の羽が何枚か飛び散って宙を舞っている。


 即死だったようだ。

 バランスを失い、ゆっくりとグリフォンの身体が横倒しになる。


 初めて銃で生き物を殺した。


 戦車ではドラゴンを殺したが、その時とはまた違った重さが、かすかに、引き金にこもったような気がした。





 状況終了後。


 前衛にいた、長剣持ちで胸甲にヘルムを被った男が俺に話かけてきた。

 多分、この男がリーダーなんだろうな。


「助かったよ。見事な手並みだな。見たことない武器に恰好だけど、あんた……イェン人か?」

「そんなようなもんだ。全員無事か?」

「ああ、かすり傷程度だ」


 ハルバード持ちの傭兵風の男、長柄を地面に付き立てて、寄り掛かるような形で立っていたが、彼はエチカを一瞥すると、


「そっちのディコーンは奴隷……じゃないのか」


 そう漏らした。

 エチカが胸に手を当てて、その表情が少し強張る。


「なあ、あんた、その……配分の話だが……」


 リーダーの男が言いにくそうに俺に手振りした。

 俺は問われている意味は分かったが、適切な答えが分からないので、詳しそうなエチカに耳打ちする。


『エチカ、こういう場合、どう分けるのがいいかな?』

『革や羽根をもらっても、かさばるので、相場より安目で、即金で支払ってもらってはどうでしょうか?』


 ついでに、エチカはピコグリフォンの相場を教えてくれた。

 ピコグリフォン上物一体で、だいたい金貨二十枚分の価値ということだ。


「あんたらが気を引いててくれたから横槍できたわけだし、俺たちは別件で急いでいるから、全部はいらん。相場の四分の一でいいから、通貨で支払ってくれるか?」


 俺は戦闘で興奮した心を落ち着かせながら、できるだけ平静なペースでそう伝えた。


「助かるよ。今手持ちがないから、半分だけ払わせてくれ。残りはキャンプに付いたら払うよ。<鷲羽根兜のリオドール>で通っている」


 確かに、男の被っているヘルムには、目立つ鳥の羽が二本左右に括り付けられていた。

 たぶん、この異名で探せば見つかるんだろう。


 男が雑嚢から出した袋を受け取る。

 中には金貨三枚、銀貨二十枚入っていた。

 銀貨十枚で金貨一枚、と以前エチカから教えてもらった。

 日本円に換算すると、銀貨一枚で一万円ぐらいの価値だ。

 つまり、全部で五十万円相当、ちゃんと揃っている。

 即金でこんな大金持っているなんて、結構裕福なパーティーなのかな?


「森の出口まで一緒に行くか? ああ、こいつは無料サービスだ」


 俺がそう言うと、冒険者一行、特に後衛の女性たちが安堵したような表情を浮かべた。


 そもそも彼らが約束の半金を支払うには、このピコグリフォンを森の出口まで引っ張っていって、金に替える必要があるが、その間に、また別の同格の魔獣に襲われたら。


 たぶん、この人たち全滅するだろう。

 なら、運搬時の護衛もやってあげた方が効率的と言える。


「そこまで配慮してくれるのか……いや、本当に助かるよ」

「気にするな。同業のよしみだ」


 たぶん、俺たちもこの先何度か狩猟するだろうし。


(先輩に恩を売って、コネクション作るのは悪いことじゃないよな?)


 と俺は元来た世界の常識を思い出した。








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