第10話 エミリーヒル2 【拠点建築計画1】
翌朝。
「ウーム……」
「むむむ、だね……」
「うーん、です……」
俺とラティーナ、エチカの三人は、丘の上に直置きした机の上、そこに置いた角材を前に、そろって頭を悩ませていた。
冒険者ギルドのサブマスター、デミスタンはエミリーヒルを整備するために、人足を順次送ると約束してくれた。
しかし、その人たちの到着を待つ間、何もしないのも無駄な気がする。
エミリーヒルで俺たちが生活をしていくのに必要なのは、衣食住の整備だ。
なかでも住居は早めに手を入れたい問題の一つ。
ずっとテント暮らしというわけにはいかない。
だから、建設にきっと必要になるだろう、材木の調達手段を考えた。
今朝早く、近くの林から<倒しても問題なさそうな木>を選んだ。
そして、エチカの射撃訓練もかねて、90式のHEAT弾でぶち抜いて倒した丸太。
それを戦車の砲塔バスケットに入れて、クラフトウィンドウでサイズ指定して加工したのだ。
結果、八メートルぐらいの松の木から、角材が一本できた。
残りの材料はまだバスケットの中に残っている。
問題はここから。
「……小屋のつくり方って知ってる?」
俺はそう言って、ラティーナとエチカを見た。
二人共、ぷるぷると首を振る。
「そりゃそうだよな」
俺はただの整備員だ。
この世界に来た時、荷台は作ったけど、あれは車両の延長だからなんとなくわかったが、家となると別物。
さすがにログハウスなんて作ったことないし、知識もない。
子供たち――エチカとラティーナ――も同じだ。
彼女らの暮らしていたホバルク村には立派な住居が建っていたけど、元々あった家を修復したものだとのこと。
当然、一から家屋を建てた経験なんてないだろう。
「確か、こんな風に交互に組むんだよ」
ラティーナが材木を両手で持って回しながらそう言ったが、こんな風がどんなのかは分からない。
(うーん。そもそも基礎とかいらないのかな? ……わからん)
そんな風に、次の一手が決められないでいたところ、丘の下の方から声がした。
「なんだ、ここにもガキしかいねえのか?」
声のした方、テントが建っている丘の中腹あたりに行ってみると、幌馬車が三台並んでいた。
幌馬車の前には中年の男たちが数人と、おそらくその馬車に乗っていたのだろう子供たち。
もともとエミリーヒルにいる子供たち、フェンリエッタと数人がその男の前に立って何か話している。
俺は歩いていくと、集団の一番年長の、顎髭が伸びている男に話しかけた。
「あんたは?」
「大工と木こりだ」
男の後ろには、五人の男が立っていた。
みんな膝丈ズボンにリネンシャツ、それに麦わら帽子を被ってる。
時代感出てるなあ、と俺は感心する。
「私らは井戸堀りです」
さらに奥にいた、フェルト帽被った髭の人は、井戸掘り職人で、その隣の青年は助手だという。
「ったく、人足は現地にいるって言ってたのに……女子供ばっかりじゃないか。お前はちょっとは使えそうだが……おい、お前、そりゃなんだ?」
年配の無精髭の男、俺が肩に抱えていた材木を指さして、目を見開いた。
「ああ、材木だよ」
「なんだと? ちょっと見せてみろ!」
「あ、ああ。ホラ」
俺はそのおっさんに木材を手渡す。
この人、なんとなく、俺の上長だったおやっさんに似ている。
職人肌って感じの人だ。
「お前……これ、どっから持ってきたんだ?」
「そこの奥の林を倒して加工したんだ……松の木……ホワイトパインだよ」
「加工しただと? バカ言うな、こんな繊維がまっすぐのパインなんてあるわけ……それにこの仕上げ、いったいどうやってんだ?」
確かに驚くだろうな。
一切曲がりが無いし、仕上げはホームセンターで売っている材木よりまっすぐだ。
おまけに数枚重ねた合板になってるし。
戦車クラフトで作ったから、元の素材の乱雑さに縛られないのだ。
しかし、出所や製法など、詳細な説明を求められても窮するだけなので、俺は適当なことを言って誤魔化すことにした。
「新種の魔法みたいなもんだよ。素材は作ってみたものの、どんな家を作ろうか悩んでてね」
「魔法だと……お前、これたくさん作れんのか? どれくらいの時間で作れる?」
「うーん、木を倒すのに三十分、持ってくるのに三十分、そのあと木をばらさなくてよいなら、加工に三十分ってとこかな。計九十分」
「九十分でこの材木一本作れるだとっ?!」
すごい食いつき気味で顔を近づけてくる棟梁さん。
ちょっと迫力に気圧される。
「もっと効率化すれば……時短できるかも」
「早くもってこい! これはすげえ建物が作れるぞ!」
「お、おう」
「おい、木こり! ついて行ってやれ!」
すごくやる気になっているところ悪いのだが、こっちには、まず確認しなけらばならないことが残っている。
「ええと、君たちは?」
俺は集団の後ろに控えていた子供たちに聞いた。
ざっと見る。
男の子が八人に、女の子が四人。
「あ、あの……冒険者ギルドの人から、ここに荷物を届けろって。それに、ここに来れば仕事があるって言われて」
先頭にいる人間の男の子が答えた。
彼が一番年長で、リーダーみたいな立場なんだろうけど、せいぜいステファニーと同じぐらいの世代だろう。
「お食事も出るって言われたの」
と、その男の子の陰から、八歳ぐらいの女の子が、ひょこっと顔を出して言った。
うわっ、この子可愛いな、と俺は思った。
容姿が可愛いのもあるけど、引っ込み思案なのに一生懸命主張しているところとか。
何より、こんな小さい子がお腹空かせているということを知らされると、思わず目元が潤んでしまう。
しかし、これがこの世界の現実なんだろうな……
子供でも働かなければ今日生きる糧が得られない世界。
「……なるほど、人足っていうのはそういうことか」
デミスタンが後で人を送ると言っていたが、この子たちがそれってことなんだろう。
コクトー評議員とデミスタンは、テント村の孤児を押し付けてきたのだ。
計算高いというか、ちゃっかりしているというか。
「モトム……」「モトム様……」
ラティーナとエチカが不安そうな顔で俺を見てくる。
これはどっちの感情かな?
憐憫か、より多くの孤児を受け入れることに対する不安か。
うーん…………。
俺は今の物資を計算した。
この今いる十二人と、この新たに増えた孤児たち十二人で、計二十四人か。
まあ、何とかなるか?
どちらにしろ、ドラゴン退治が成功しなければ、エミリーヒル全体で飢え死にするっていう未来は、あんまり変わっていないことに気づいた。
「なんだぁ、お前この丘の長か?」
大工のおやっさんが、俺の顔をねぶるように見ながら詰問みたいな口調で聞いてくる。
「長? ああ、まあ保護者みたいなもんだよ。成り行きでね」
「はっ! とんでもねえやつだな!」
何かすごく誤解されている気がするぞ……?
「長なんだったら、指示してくれよ。どこに何建てりゃいいんだ?」
確かにそうだ。
今俺が考えなきゃいけないのは、作業指示だな。
技術者さんたちが数人やってきてくれたけど、仕事がスタックしていて手持ち無沙汰になったら勿体ない。
各人最初に何をしてもらうべきか。
少し考えてから、俺は身振り手振り交えて指図をする。
「井戸堀りの人たちはそのまま候補地探してもらえますか? 俺たちと木こりさんたちは、木を伐りに行きましょう」
俺はとりあえずその二グループにはそういう風に指示を出す。
「材木ができるまでしばらく時間がある。大工のおやっさんには、その間やってほしいことがあるんだけど」
「なんだい? 言ってみろ」
「濾過装置を作って欲しいんだ」
「濾過装置……? ってお前、水を濾過するやつか?」
「ああ、ちょっとこっちへ来てくれ」
俺は大工の棟梁さんと、その助手の人一人を丘の中腹に置いた机の所まで連れてきた。
そして鉄板の上に戦車の中から持ってきたノートを開いて一ページ破り、その上に図面を書いた。
「こんな風に、木の桶の底にメッシュ状に穴をあけて、布や麻袋に詰めた木炭、砂利、荒石を積んでく。そんで高いところに吊り下げる」
「ほーお、お前さん、なかなか図面描くのうめえじゃねえか」
褒められて嬉しくなる。
まあ整備の仕事で図面見たり描いたりしていたからな。
「それにしてもこの紙にその筆記具……変なもん一杯もってんな。全部異界の道具か?」
なんだ、異界人だってちゃんと情報わたってたのか。
俺はおやっさんに軽くうなづいた。
「この仕事なら、ガキどもでも数になりそうだな。連れてっていいんだろ?」
「ああ。砂利とか石をみんなで集めて……女の子はそのまま、濾過水作る仕事してもらおうかな。男の子は棟梁さんの指示で動いてもらえば」
「こっちは地図か?」
おやっさんは、俺が書いた図面の下の、平面図を指さす。
「ああ、リバイアストンから出てる大河は汚染されてる可能性があるから、西から丘の南に流れている川を使いたいんだ。ここなら、流域に人里が無くて、比較的清流だから」
「ほうほう……ちゃんと考えてやがるな。よしわかった。やっといてやるから、その間に、材木たくさん作っといてくれよ!」
どうも、大工のおやっさんは戦車クラフトで作った材木がえらく気に入ったようだ。
それを使った作業がしたくてたまらないらしい。
新しく来た子供達にはこれで、仕事が割り当てられそうだ。
ステファニーとフェンリエッタは騎馬で周囲の哨戒。
もともといた他の女子たちには、昼食作りをやってもらうことにした。
よしこれで当面、割り当て当たっていない人はいないな。
「とりあえず、みなさんまずはここで朝食取って行ってくれ。仕事はそれからだ」
俺がそう言うと、全員嬉しそうにした。
特に新しく来た孤児たちは表情が断然明るくなった。




