表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリヴィエの受難(旧題:彼女に神の祝福は無く)  作者: はーみっと
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/35

第二十四話



 長々と術式を撃ち合うのは不利だなと、オリヴィエ・エヴァンは考える。

 血塗れの姿で微笑むハーヴェスティの発する悪意と戦意は衰えを知らず、殺戮を終えたのも軽い準備運動程度、疲労とは無縁に思えた。


「本当はずっと前にやらなきゃいけなかったことをやりに」

「わたくしを殺す覚悟を決めたの?」

「ええ」


 オリヴィエは身を低くする。

 急所を一撃――短期決戦しかない。

 ハーヴェスティは隙だらけに見える。だが、オリヴィエはどのように攻撃しても防がれるイメージしか浮かばない。自分から攻撃するより、相手に仕掛けさせてからのカウンターで勝負を決めるべきか?


「でもあいにくと、わたくしはまだ貴女を殺す気が無いの」


 ハーヴェスティは無防備に接近する。


「ねえ、聞かせてくださらない? わたくしを殺す理由は何? 大勢の無辜の民衆を殺したから? 《大禍》を使役するような扱い方をしたから? 単純に気に食わないから? それとも、昔の借りを返したいから?」


 理由を並べるだけなら全部あてはまる。

 自分の目指した生き方を貫くには、この殺戮者を生かしたままにするべきではない。

 そう思うと同時に、自分が命の選定をすることに対する恐怖もある。


「このまま殺し合って、何も考えず不慮の事故で殺してしまう、あるいは殺されてしまうというのは興ざめですから、わたくしが少し大人になって譲歩しましょう」


 さらに無防備にハーヴェスティはオリヴィエに迫り、オリヴィエは反射的に後ずさる。先ほどまでの何をやっても無駄というイメージは消えて、代わりに何をやっても殺せるという気がしてくる。

 その気になれば、どんな術式でも、あるいは銃弾を叩きこむか、ナイフを突き刺すか、単純にそこらの石を鈍器代わりにして頭を殴るか、いっそ両手で首を絞めても――殺せる。

 強者ゆえの余裕か、千載一遇の機会ともいえた。


「――っ、――――ッッ」


 息ができない。

 攻撃術式を受けたか?

 無防備にみえて、何かしらの罠?

 オリヴィエ・エヴァンは混乱しながらも、うまく呼吸ができない自分に驚く。

 動け、動け、動け! 今が殺すチャンスだ。

 あの女を殺せ、殺せ、殺せ! そうすることが正しい。そうすることが、世界の秩序を守る。ヘルムタール家の娘ならそうする!

 うるさい、黙れ。オリヴィエ・エヴァンとして、世界を守る一個人として、多くの被害を出した怪物を殺しに来た。見過ごせば、また多くの人たちが、町が、国が、犠牲になるのだから、殺すのは正しい、正しい、正しい。

 オリヴィエの薄灰色の瞳に涙が浮かぶ。


 ――怖い。


《大禍》に挟み撃ちにされるような絶望的な状況でも、死を覚悟するような戦場でも、魔神化した魔術師相手でも感じなかった感情。

 自分の手で、自分の意思で、目の前の人間を殺すことを、殺せることを改めて感じて、オリヴィエ自身が戸惑う。

 強くなった、家を追い出されてから、各地を回り、技術と知識を高め、経験を積んで、強くなったのに、無防備に歩いてくる彼女が怖い。

 いいや、簡単に命を摘むことができる自分が恐ろしい。


「使命感で人を殺すには、まだまだ覚悟が足りないようですわね? ええ、ええ、それでこそでしてよ、オリヴィエ」

「貴女を放置したら、また多くの被害を出す」

「そうでしょうね」

「貴女は、生き方を変えられない」

「それも――、そうですわね」

「だから、わたしは……」


 殺せ、殺せ、殺せ、術式を解き放ち、銃弾を叩き込み、ナイフで切り刻んで、目の前の邪悪な人の姿をした災厄を破壊しろ! そのために来た、そのために覚悟を決めたはずだ、お前は世界を《大禍》から守るのだと誓ったのだから、この人の姿をした《大禍》を滅ぼせ!


「いいえ、わたくしは《大禍》ではない。私はこの世界に根を下ろす悪意の形。《大禍》などというものは利用する手段でしかありません。だからわたくしを殺すのは、世界を守る守護者ではなく、人殺しを殺す処刑人でしかない」


 ハーヴェスティはオリヴィエの葛藤を否定するように呟き、そのまま――すれ違う。

 あるいはこの瞬間が、オリヴィエがハーヴェスティをノーリスクで殺す最後のチャンスだったのかもしれない。

 しかし動けなかった。

 殺すつもりで、戦うつもりできた彼女には――無防備に歩みを進める相手が殺せない。

 あるいは相手の心理も読み取ったハーヴェスティの作戦勝ちだったのかもしれない。


「またお会いしましょう。貴女を殺す理由、どこかの誰かが大金を積んでくれたらいいですけど……、あるいは守護者であることを諦めて、邪魔者を容赦なく殺せる処刑人にでもなった時にでも――」

「……待ちなさい」


 オリヴィエは呼び止めるが、振り返った時にはハーヴェスティの姿はどこにもなかった。



―― オリヴィエの受難 一章 完 ――



第一章完になります、評価や応援など頂けたら幸いです。

次話は世界設定や用語説明など、GWに投稿できるように少し貯めたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ