46話
「ここにも無い‥‥」
ガサ‥ガサガサ‥‥
リンクが、アルカディア城に訪れる前日の深夜。アルカディア城の宝物庫に、男性と思われる人影が見えた。どうやら何かを探しているようだ。
「くそっ、禁術魔法の本はどこにあるんだ‥‥灯を照らす魔道具を持ってくれば良かったな」
正式に入れば魔法を使っても問題ないのだが、不正な手口で入った場合、魔法を使うと警報がなり直ぐに人が来る仕組みとなっていた。
男はその後も、宝物庫を探した。そして、とうとう禁術魔法の本を手に入れてしまった。
「これかっ!後は撤収して、この本を届ければ依頼は終わりだな」
男は本を懐に入れ、腰についている盾の魔法陣に魔力を流す。
すると魔法陣が光だした。男は光に包まれると、宝物庫の外に出てきた。
「バレたら処刑は確実だが、この時間帯なら人なんてそうそう通らねえ。それに証拠が残らないよう、魔道具を使ったし問題ないな」
コツ‥‥コツ‥‥。
遠くから誰かの足音が聞こえてくる。男は焦り始めた。
「なっ、こんな時にっ!どうする‥‥宝物庫の近くで見つかったら確実に疑われるぞ‥‥この通路じゃ全力で走ったら音が響いちまう」
コツコツコツ‥‥。
足音は、どんどん大きくなっていた。男が見つかるのも時間の問題だろう。
(本だけでも隠すか‥‥?でも何処に‥‥はっ、ここなら図書室が近い!本を隠すなら本の中ってな!それに、近づいているやつもこの時間帯に図書室になんて来るわけがない!)
男は足音を出さないよう気配を消し、周りを確認しながら小走りで図書室へ向かった。音が反響しやすい廊下で、音を出さずに走れるあたり相当な実力者というのがわかる。
男は図書室に入り、禁術魔法の本を魔法関係の本棚に置いた。
「王城で、今更魔法関係の本なんて調べる馬鹿はいないからな。それに、図書室自体あまり人が寄らないのはわかっている」
ギィィィ‥‥‥カチッ!
「っ!」
図書室の扉が開き、何かが押された音と同時に図書室に明かりがついた。
男は直ぐに、本棚の影に隠れる。
(ついてねえな‥‥それにしても誰が来たんだ?十中八九、宝物庫の近くにいた奴ってのだけはわかるが‥‥)
コツ‥‥コツ‥‥足音が男の方に迫っていた。
(めんどくせえな!こうなったら俺も最初からここにいた程にするか‥‥お前の面、おがませてもらうぜ!)
男は意を決して、適当に本棚から本を取って謎の人物と向き合う。
「あれ?ヒューレさん、こんばんは。明かりもつけないで何をしてたんですか?それに裁翼の騎士団は他の騎士団と遠征中じゃ‥‥」
ヒューレと呼ばれた男は、ヒューレ・フィルル。裁翼の騎士団という、極光の騎士団と肩を並べるほど有名な騎士団の団長だった。ヒューレは薄い緑の髪で、見た目は30代後半のおじさんだ。
そして、図書室に入ってきた人物の正体は‥‥‥
「よお、ちょっと調べ物をな。遠征はちゃっちゃと終わらせて帰ってきたわ!早く王国に帰ってきたかったからな、ハッハッハ!ところで‥‥ハオ坊は何でここに?」
図書室に入ってきた人物は、ハオだった。
(マナじゃないだけまだ良い方か‥‥ついてない事には変わりねえがな)
「僕も良い歳だから、ハオ坊は辞めてくださいよ‥‥帰ってきた理由がヒューリさんらしいですね。僕は魔法の勉強をしに来ました」
ハオは苦笑しながら言った。
「ハオ坊はハオ坊だろ。ってか、今更魔法の勉強かよ‥‥んなもん俺が見てやるよ。行くぞ!」
「え!?もしかして、今から訓練所に行くんですか!?訓練じゃなくて勉強しに来たんですけど!」
ヒューレは禁術魔法の本を見られたくなかったので、無理矢理ハオを図書室から追い出そうとした。
「細かいことは気にすんな!ビシバシ鍛えてやるよ!」
「僕はそんな脳筋じゃないのにぃぃぃ!!」
ヒューレはハオをズルズルと引きずり、訓練所まで向かった。
訓練所に着いたヒューレは、ライトで訓練所を照らす。シャインは一時的に光るだけだが、ライトは長時間光らせる魔法だ。
「さて、ハオ坊は何の魔法を勉強しようとしたんだ?」
「空間魔法です。影魔法で、ある程度要領は掴んできているんですけど、上手くいかなくて」
「なるほどな〜イメージが足りてないんじゃね?」
「イメージですか?」
ハオが不満げに聞き返す。
「そそ、影魔法で影に潜れるか?」
「それはできますけど」
「なら後少しだな。魔力の調節と、影に潜るみたいに面じゃなくて、立体を意識しろ」
「なるほど、やってみます。空間内操作」
ハオとヒューレの目の前に、それぞれ魔法陣が現れる。
「よし、先に魔力調整だけ意識しろ。それが疎かになると、魔法自体が発動しねえからな」
「はい!」
ハオは目を瞑り、集中し始める。
ハオの中で練られた魔力が魔法陣に流し込まれ、魔法陣が光を帯びた。
これを見て、ヒューレは感心する。
(ほぅ‥‥ハオ坊の奴、成長してやがんな。空間魔法は、難易度だけで言えばトップクラスに難しい。この歳でここまでやれんなら上出来だな)
「ふぅ‥‥ここまでは問題ないんですよ」
「そうだな。どうせハオ坊の事だから、いざ発動させようとすると不安で、魔力が乱れて魔法陣が消えるって所か?」
「うっ‥‥」
図星だったのか、ハオは顔を曇らせた。ハオは意外にもメンタルが弱かったのだ。
「王族だから出来て当然」「きっと優秀なんだろうな」等、ハオの事をよく知らないでハードルを上げてくる周りの人達の期待を裏切らないよう、小さい頃から努力して過ごしてきた。
「自信を持て、ハオ坊。お前なら出来る。その魔法陣に手を入れたら俺の手がある。自分を信じろ」
「ヒューレさん‥‥でも僕なんかじゃ‥‥」
途端、魔法陣から光が消え始める。それを見て、ヒューレはハオを叱咤する。
「何をそんなに卑屈になってやがる、ハオ・クォーツ!甘ったれてんじゃねえぞ!」
ハオには優秀な双子の妹のイオナがいた。イオナも努力をしていたが、それを感じさせない程に才能に溢れていた。学力、運動、魔法の全てにおいてハオを上回っていた。
そして、イオナはハオとは違いメンタルが強かった。ハオはそんなイオナが眩しく見え、自分が情けなく感じていた。
優秀なイオナの存在、兄として、王族としてのプレッシャーがハオを苦しめる。
「僕はイオナと違って、落ちこぼれなんです!兄として、王族として誇れる自信がない!いつも強がっていただけなんだ!」
「だから勉強を、魔法の練習を頑張ってきたんだろ!ハオ坊はハオ坊だ!それに今のお前には、大事な人がいるんじゃねえのか!」
「あっ‥‥」
刹那ーーーハオの脳内にはリンク、ポッセ、イオナ達が出てくる。
(そうだ、今の僕にはみんながいる。それにイオナだって努力はしてきてるし、落ち込んだ事もあるじゃないか。完璧な人はいないし、イオナから哀れみの目で見られたこともない。イオナは兄として、リンクとポッセは友達として接してきてくれた!)
「僕は、僕は!」
魔法陣の光が強くなり、当たりを照らし始めた。ハオは魔法陣に手を伸ばす。
「お前は何だ!」
「僕は、ハオ・クォーツだ!イオナの兄で、リンクとポッセの友達だ!」
ハオの手が魔法陣に飲み込まれると、温もりに包まれた。温もりの正体はヒューレのゴツゴツとした手だった。
「成功だ!おめでとう、ハオ坊」
「や、やった‥‥!できたんだ!」
「その歳で、空間魔法を使える奴なんてそうそう居ねえ。誇れ」
「はい!ヒューレさん、ありがとうございました!」
ヒューレは微笑み、上を向く。
(あ〜俺も歳かな〜涙腺が緩くなってきやがった)
「どうしたんですか?」
「何でもねえよ。おら、さっさと寝ろ」
「わかりました!おやすみなさい、ヒューレさん!」
ハオは走って自室に戻っていった。よっぽど空間魔法を成功させた事が嬉しかったのだろう。
「はぁ‥‥いつの間にか夜明けだ‥‥本は明日回収するか」
ヒューレも自分の部屋へと帰っていく。
そして後日、図書室に行ったら禁術魔法の本が無くなっていた。
「なっ!」
(おいおいおいおいっ!何処のどいつが持ち出しやがった!くそっ、依頼が失敗しちまう!アイツらがヤバい!)
「ヒューレさん、そんなに驚いてどうなされました?」
「っ!」
バッとヒューレは後ろを振り向くと、腰に2丁の小型拳銃と、銃身が長い大型の銃を背負ったマナが立っていた。
「マナちゃんか、今日も綺麗だね〜!い探していた本が無くてな〜マナちゃんは何でここに?」
ヒューレはおちゃらけた感じで喋っているが、目は笑っていなかった。
互いに、直ぐに戦闘できるよう警戒し合っている。
「いえ、少し問題がありまして。宝物庫からある物が無くなって、今も見つからないんです」
(城の何処にも無いのか!?やべえな‥‥どんどん不味い方向に向かってるぞ)
「そいつは本当か!?警備は何をしていたんだ!」
「それが、不審な人物は侵入していないらしいんですよ。ヒューレさんは何か心当たりが有りませんか?」
「無いな」
マナの質問に即答するヒューレ。しかし、マナはまだ疑いの目をヒューレに向けていた。
「‥‥そうですか。数日後、国王の部屋で各団長、副団長を集めた緊急会議を行うので来てください。連絡はまた後日にします」
「わかった。何かわかったら俺も連絡する」
「ありがとうございます。では」
マナはお辞儀をした後、図書室を去る。
「チッ、マズいな‥‥アイツに連絡するか、転移」
ヒューレが音もなく図書室から消えた。そして、ヒューレが消えた後にある人物が図書室に入ってきた。
「やっぱりヒューレ団長が‥‥あの人が何故っ‥‥ハァ、仲間がいるようなので、国王と団長に報告ですね‥‥」
入ってきた人物はマナだった。
実は、マナはリンクから禁断魔法の本を回収した直後に、リンクに会おうとしたハオと遭遇したのだ。
そして、ハオに持っていた禁術魔法の本を見られて説明をすると、ヒューレの話が出てきたので図書室で隠れて待っていたのだ。
先程の会話の後、図書室を去ったと見せかけて、外でヒューレの言動を伺っていた。
「ヒューレ団長と戦うとなると、最悪死人が出ますね‥‥」
マナは窓から、国民の様子を見て悲観する。
「死ぬのが私だけなら良いんですが‥‥」
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