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34話

「アリス!頑張れ!師匠、封印の解除はどの位かかるんだ!?」


「あと2、3分だ!アリスちゃん、もう少しの辛抱だ!!」


「ア"ア"ア"ア"ァァァ!!!」


(痛い痛い痛い!!頭が割れそう!頭が痛いっ、けどそれよりも心が痛いっ!リン君がっ‥‥目の前で死にかけている‥‥何でこんな大事な記憶を、私はっ)


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさぃぃぃ!!!」


「大丈夫だ!ずっと一緒にいる!」


「心が折れないようずっと喋りかけろ!予想してたより重症だ!」


「わかってる!!くっ、頑張ってくれ、アリス!」


 アリスッ!くそっ、俺はただ抱きしめてることしかできないのか!

 ギュッと強く抱きしめると、少しだけアリスが反応した気がした。


「あと30秒だ!踏ん張れよ、アリスちゃん!!」


 この30秒はアリスにとって何年、いや何十年もの時を過ごしたに等しいくらい長い時だった。記憶が解放されている間、ずっと脳内に大事なリンクが死にかけている映像が滝のように流れてくる。自分がモンスター退治に誘い、自分を庇ってリンクが死にかけ、自分のせいでリンクが無能と蔑まれてきた。アリスは罪悪感と絶望に押し潰されそうだった。


(ごめんなさいごめんなさいごめんなさいこんなゴミでごめんなさいリン君ごめんなさい)


 アリスは、記憶が解放し終わった後でも精神が参ってしまっていた。


「おいおいおい!アリスちゃん!」


「おい!アリス、大丈夫か!もう終わったぞ、俺ならここにいる!しっかりしろ!」


 罪悪感と絶望に押しつぶされそうになり、あと少しで心が完全に折れそうになった時に助けたのはリンクだった。


「あ‥‥リン君だ‥」


「あぁ!俺だ!」


「ごめんね‥ごめんねぇ‥‥」


「気にしてないよ。アリスが無事で良かった」


「うわぁぁぁん!ごめんねぇぇ」


 10分ほど俺の胸の中でアリスは泣き続けた。今回ばかりはしょうがない。次は俺か‥‥大丈夫かな。


「ふぅ、アリスちゃんでこれだ。リンク、覚悟はできたか?」


「ああ!ドンと来い!」


「わ、私もついてるからね!リン君!」


 ちょっと元気になって良かった。いつまでも責任を感じられても見ているこっちが辛いしな。


「アリス、ありがとう」


 俺はそう言いアリスの頭を撫でる。アリスは嬉しそうに頷いた。


「う、うん!今度は‥‥絶対に助けるから‥‥‥」


 最後の方は良く聞こえなかったが、聞くのは後にしとこう。アリスもいてくれるんだ。もう怖くない!よしっ!


「覚悟はできたぜ。俺は自分の頭に魔力を集中させたらいいんだな?」


「ああ、途中で止めないよう気をつけろよ」


「が、頑張って、リン君!」


「いつでも来いや!」


「いくぞ!封印解除(パージ)!」


 あぁ、頭がフワフワしてきた。アリスがこんな感じだったのか‥‥ぐっ!痛みが!!‥‥思い出して‥きた!そうだ‥‥俺はあの時にアリスを‥‥



 ーーー十数年前ーーーー



 俺とアリスは師匠の家に良く遊びに行っていた。3歳位の頃、俺とアリスは魔法を使えるようになり庭で年相応にはしゃいでいた。


「リンくーん、見て見て〜!サンダーボルト!」


 アリスの掌から、小さな雷が空に向かって飛んでいった。


「アリスは凄いな〜」


「えへへ〜リン君はどんな魔法が使えるの〜?」


「俺は‥‥そうだな〜シャインフォックス」


 リンクの周りに、一匹の光の狐が現れる。


「狐さんだ〜リン君、凄ーい!!」


「まあ、本当の狐じゃないんだけどな」


 そうだ、昔はよく光属性の魔法を使ってたな‥‥魔力のコントロールは得意だったから形状変化を使う魔法がやり易かったんだよな。


「ねえねえ、リン君!私達でモンスター退治に行こうよ!」


「え〜危なくない?」


「大丈夫だよ!行こう行こう!」


 アリスが俺を引っ張って行っちゃったんだよな‥‥


「ほら!この辺なら大丈夫でしょ?」


「あんまり深くないからな‥‥もう帰ろうぜ?」


「えー、それじゃあつまんないよー」


「つまんないって‥‥危なくなる前に帰ろう?怪我をしたら大変だぞ?」


「う〜。うん‥‥わかった」


 この時までは良かったんだ。アリスも素直に帰ろうとしてくれたし。


「ゴァァァァ!!!」


 小さいリンクとアリスの前に、ギガゴドゴラという二足歩行のリザードマンに似たトカゲっぽいモンスターが現れた。


「ひ、ひぃ!リン君、どうしよう!」


「落ち着け。シャイン!」


 リンクはシャインによる、ギガゴドゴラの目潰しに成功させた。


「今だ、逃げるぞ!」


「うん!‥‥あっ!」


 ベシャッ

 逃げようとしたら、アリスは足がすくんで転んでしまった。

 アリスにはまだ恐怖という感情が残っていた。それもそうだ、まだ幼いのに自分の身長より遥かに高い、凶暴なモンスターがいきなり目の前に現れたのだ。

 そして、ギガゴドゴラにとっては軽い一撃。しかし、リンク達にとっては死を覚悟させる一撃がアリスを襲おうとしていた。 


「あっ‥‥あ‥リン君‥‥」


「危ないっ、アリスゥゥ!」


 ドンッ


「キャッ」


 グチャッ!ボキボキボキィ‥‥‥ポタッ‥ポタ‥‥


 アリスは倒れ込み、ギガゴドゴラの攻撃を回避できた。その後、何かが潰れ、硬いものが折れ、何かが垂れているような音がした。

 アリスが音のする先を見ると、ギガゴドゴラの手がリンクの腹を貫通していた。

 人はあまりにも衝撃的な者を見ると、ショックで脳の処理が遅くなり、固まってしまう。

 まさに、今のアリスの状態だった。


「えっ?リン‥‥君‥?」


「グオロロロロロ」


 ギガゴドゴラはリンクをアリスの側に投げ捨て、魔蔵を食べるのに夢中になっていた。


「うっ!に‥‥げろ‥」


「嫌‥‥死なないでぇ。リン君‥‥‥ごめんなさい置いていかないでぇ‥‥」


「馬鹿野郎!グボェェ‥‥ゴホッ」 


 リンクが無理をして叫んだ瞬間、ありえない程の吐血をした。腹の出血を考えると、何故即死じゃないのかが不思議なくらいだった。


「でもリン君がっ」


「お前だけでも‥‥逃げてくれ‥頼むっ‥‥」


「グロロロォォ!!」


「ひっ」 


「クソォ‥」


 リンクとアリスが話しているうちに、ギガゴドゴラは食事を終えていた。アリスがパニックになっている今、逃げれる確率は0に等しかった。


「グロォ!!」


(あっ、私‥‥死ぬんだ‥‥当然だよね、リン君を殺したようなものだし。ごめんね‥‥リン君)


 再び死を覚悟させる一撃がアリスに迫ろうとしていた、が。


「何してんだテメェェェ!!!フレイムランス!」 


「グロゥ!」


「叔父さん!リン君が!」


 間一髪で駆けつけてきたクーリンが、火の槍でギガゴドゴラを絶命させる。

 リンクは意識を失ってはいたが、辛うじて息はしていた。


「リンク!やべえな‥‥命の貯蓄(ライフストック)


 命の貯蓄(ライフストック)。それは回復魔法の一種類で、傷ついた箇所に、限りなく似た細胞を埋め込み傷を治すのを早くする魔法だ。しかし、失った血だけはどうにもならない。


「ごめんなさい‥‥私のせいで‥」


「アリスちゃん、説教は後だ!今はリンクが助かるのを祈ってな!」


「う、うん‥‥」


「早く家に帰って治療をする!しっかり捕まってろよ!」


「わかった!」


 クーリンはアリスを抱えて、とんでもないスピードで家に帰った。

 重症のリンクをベットに寝かせる


「叔父さん、私に出来ることってある!?」


「そこの部屋にある、赤い液体が入ったケースを持ってきてくれ!」


「わかった!」


「くっ、少しでも魔蔵の部分があれば何とかなったが‥‥‥仕方ない、魔法で擬似魔蔵を作るか」


 クーリンは戸棚から持ってきたケースを開け、ブヨブヨとしたゴム状の物体を持ってきた。


「偽りは真に、真は偽りに。己の信じているものこそが本当の真実なり。完璧な偽装(マスターフェイク)。今、魔蔵となりたまへ」


 ゴム状の物体に魔法陣が刻み込まれた。それをリンクの穴が開いている部分に入れ、接合させる。


「チッ、まだ未完成だが無茶をしなければ大丈夫だろう。これで一命は取り留めたな、あとは血を摂取させてゆっくり休めば大丈夫だ」


 クーリンが擬似魔蔵をリンクに埋め込むと、先程の命の貯蓄(ライフストック)による回復が遅くなっていた。


「なに!?ま、まさか、擬似魔蔵は魔法を乱す効果があるのか!?もしかしたらリンクは今後、魔法が使えなくなる可能性が‥‥‥」


「叔父さーん!赤い液体を持ってきたよ、これでリン君は助かるの!?」


「おっ!サンキュー!取り敢えず大丈夫だ。今、血液となりたまへ」


 今度は液体が入ったケースに魔法陣が刻み込まれていく。


「よしっ、これで少しずつ摂取させていけば問題はないな!アリスちゃん、リンクは助かったよ」


「よがっだぁぁぁ‥‥ごめんねリンぐん‥‥」


(安心して泣いちまったな、無理もないか。さて、魔法の件をリンクにどう伝えるかな)

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