夏休みまで 6
今年もよろしくお願いいたします!
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さて、どこから話したものか。一言一句覚えてはいるが、全て話すのは面倒くさいしな。私が全然話さなくても蒼依がペラペラと余計なことまで話しそうだし。
「言われたって言っても大したことは言われてないんだよね」
「瑠璃さんにとってはそうだろうね」
「ということは、雪城でなければ、気になるようなことを言われたということかね?」
「そうですよー」
「蒼依。そういう態度は烏羽先生に失礼だよ」
「いつものことだ。気にすることはないぞ。副会長の水瀬」
烏羽先生に蒼依が杜撰な態度をとるのは私にしてみれば、いつものことだが水瀬は 見慣れていないんだろうな。この2人の会話なんて修学旅行の時くらいしか聞いたことないだろうし。
会長達にいたっては一度も聞いたことがないせいか固まっている。烏羽先生を尊敬している会長が蒼依に突っかかる前に話を進めた方がよさそうだ。
「ちょっと、理想を押しつけられて、違ってたから文句言われただけですよ」
「「そんな人だと思わなかった」とか「酷い」とか言われてたよね」
「うわぁ。なにそれ最悪だねー。瑠璃先輩もご愁傷様」
「くっ、朽葉が雪城先輩を理想化してるっていうのは知ってましたけど……」
橘は軽い口調の割には嫌そうな顔を浮かべ龍崎は申しわけなさそうな顔をしている。別に龍崎が悪いわけじゃないのだから私にそんな顔をする必要はないと思うんだが。
「――――くわ」
「えっ? 凪、何か言った?」
「ムカつくわって言ったのよ! ちょっと私、そのバカな一年のところに行ってくるわ」
「ちょっ、ちょっと凪ちゃん一年生のところに行って、どうする気なの?」
「どうするって、決まってるでしょ? 瑠璃ちゃんを傷つけたんだから私が文句を言いに行くのよ! 私は瑠璃ちゃんの親友なんだから、それくらいして当然じゃない! 今までは色々あって黙ってたけど、丁度いいから、瑠璃ちゃんに失礼な物言いをしたら、どうなるか一年だけじゃなく、他の連中にも思い知らせてやるわ!」
「凪。取りあえず一度落ち着こうよ」
「そっ、そうよ。凪ちゃん。落ち着きましょう?」
「颯と茜の言うとおりだ。凪は一度座れ。茜は茶を淹れてきてくれ」
なんだろう。この状況は。凪ちゃんが凄く怒ってるし、凪ちゃんと蒼依と烏羽先生を除く人間にチラチラ見られてる。何で凪ちゃんはこんなに怒ってるんだろうか?
「瑠璃さん。どうしたの?」
「いや……。凪ちゃんがあんなに怒ってる理由がもう一歩分からなくて……」
「……分からないんだ」
「雪城。自分に言われたことを書記の水瀬が言われたとしたら、どうする?」
私に言われたことって、ちょっと勝手に抱かれてた理想の先輩像と違ってたから文句言われたってだけだけど。もし、凪ちゃんが理想押しつけられて文句言われたりしたら、どうするか。
「裏から手を回して報復するかな?」
「あー。うん。瑠璃さんなら、そうするよね。まぁ。水瀬も同じように腹が立ってるってことだよ」
「そっか」
凪ちゃんは私のために怒ってくれてるのか。ありがたい限りだな。でも、朽葉達に凪ちゃんを会わせるのは得策だと言えないだろう。今の状態だと凪ちゃんの評判が悪くなる可能性があるし。
「一応言っとくけど、瑠璃さんは止めちゃ駄目だよ」
「……なんで?」
「はぁ……。水瀬が今回の件であんなにキレてるのは、さっき本人も言ってたけど今まで色々な理由で目を瞑ってきたからだよ。それは、瑠璃さんとか周りを考えてだろうね」
「私が凪ちゃんに我慢を強いてたってこと?」
もしも、そうなら、かなりショックだ。私が凪ちゃんの為になるだろうと身勝手に考えてした行動が結果的に凪ちゃんを苦しめていたんだとしたら――
「雪城が書記の水瀬の為を思ってしてきたことが悪いわけではない。ただ、お前が自分を思ってしてくれていると分かっていたが故に、その結果生まれたお前の悪評に対する不満を表立って口に出せなかったんだろう。それが、たまたま今回の件で爆発しただけのことだ」
「要するに、遅かれ早かれこうなってたってことだよ。朽葉達は災難だけど、今回くらいは好きにさせてあげたら?」
「……でも、それで、凪ちゃんの評判が悪くなったら、どうするの?」
「安心しろ。そうならないように、俺達も配慮する。それにお前の悪評に関しては以前から思う部分はあったしな」
「会長!」
いつの間にか会長が近づいてきていた。真剣な顔で見つめられると場違いながら、多くの女生徒に童話の王子様みたいと言われる理由が分かるなと思ってしまう。どうやら、今の私は相当混乱しているらしい。
「へぇ。思うところ、ねぇ?」
「ああ。思うところだ。元々、雪城にあんな悪評が生まれたのは俺達が不甲斐なかったせいだからな。俺が卒業するまでに何とかしようとは前から思ってはいた」
蒼依の何か含んだような失礼な態度に不愉快そうに顔をしかめながらも会長は至極真面目に答えた。まさか、会長が私の評判に責任を感じてるとは思っていなかったな。いや、少しは悪いと思ってるんだろうなと感じてはいたが、卒業までに何とかしなければならないとまで考えているとは予想していなかったのだ。
「ふむ。では、雪城の悪評をどうにかしつつ、書記の水瀬の鬱憤もはらさせるとしよう」
「いいんですか?」
「かまわないだろう。本当なら、ただの奨学生である雪城を一種の抑止力にしていたことの方が問題だったのだからな」
「私は別に気にしてないですよ?」
寧ろ自分の悪評を利用していたくらいだし。今更善人扱いされる方が個人的には複雑だ。まぁ。その方が凪ちゃんにとっていいことなら構わないけど。
「でも、瑠璃先輩って何であんなに怖がられてるの? 生徒を退学に追い込んだって話は聞いたけど、芥子さんの時みたいな感じだったなら、そんなに怖がられることはないよね?」
橘の疑問はもっともだな。生粋の内部生からしたら一奨学生でしかない私への周りの反応は明らかに異常に見えるんだろうし。それにしても芥子って誰だっけ? ぶっちゃけ思い出せないんだが。
「あー。瑠璃さん? 芥子ってのは朽葉達に礼を言われるキッカケになった子だからね。この前退学した子だよ」
「ああ。あの子ね。すっかり忘れてたよ」
「わっ、忘れてたんすか?」
「だって、覚えてる必要ないでしょ?」
正直に言うと私は退学に追い込んだ手段は覚えているけど、退学させた人間のことは、そんなに覚えていないのだ。凪ちゃんに酷いことをした人間なら、ともかく、金魚の糞共は、どうでもいいし。
「とりあえず、朽葉さん達に苦情は言うとして、私の悪評はどうしようもないんじゃないですか? 一年はともかく二、三年は事実を知っていながら、あの態度ですからね」
「それでも、全てを話したわけではないからね……」
「全てを話すってんなら、私は反対しますよ」
「私はいいわよ。全部話しても」
「凪ちゃん!?」
「瑠璃ちゃんが話したくないのって私のためでしょ? でもね、私、瑠璃ちゃんが思ってるほど、前のことは気にしてないのよ。私の代わりに瑠璃ちゃんがやり返してくれたしね」
にっこりと笑顔を浮かべる凪ちゃんに途方に暮れるような気分になった。引きずってないのはいいことだけど私のせいで凪ちゃんの過去をバラすようなマネは本当ならしたくない。それもこれも私の見えるところで馬鹿なことをした芥子達のせいだ。




