夏休みまで 7
話がまとまったところで、蒼依がスマホを操作していることに気がついた。なんだか嫌な予感がする。この状況で蒼依が連絡をとる人間なんて多すぎて誰か特定できない。いや、もしかしたら、全員の可能性もあるんだよな。
「蒼依。誰に、なんで、連絡してるの?」
「んー。杏先輩と翠先輩と深尋先輩と他数名かな。取りあえず、瑠璃さんの異名に関して、ちょっとどうかと思ってる人には生徒会がこの件について本格的に動き出すって連絡しておこうと思ってね」
「……そうなんだ。でも、部長会の会長さんは「ちょっとどうかと思ってる」って感じじゃなかったけど?」
むしろ賞賛するくらいには気に入っていたような気がするのだが。まぁ。学園一の変人の思考は私には理解できるとは思えないから別にいいけど。
「魔女って異名自体は気に入ってるけど、何か悪い意味で使われるのは嫌らしいよ。杏先輩にとって瑠璃さんはシンデレラの魔法使い的な存在だからね。シンデレラに出てくる魔法使いはシンデレラを助けて周りに陰口叩かれたりしないでしょ?」
「まぁ。確かにね」
そういえば、凪ちゃんのことをシンデレラって呼んでたし、そんなことを言っていた気もする。しかし、どこまでも「役」にこだわる人だな。流石演劇部部長。
だが、実際の私はシンデレラの魔法使いには程遠い存在なわけだが。私はシンデレラを憐れんで助けるような善良でお人好しな存在ではない。どちらかというとシンデレラの友人のネズミがお似合いだ。
だから、演劇部部長が言うシンデレラの魔法使いよりも、周りが口にする恐ろしくて下賤な魔女のイメージの方が私にしてみれば受け入れやすい。
「まぁ。瑠璃さんはシンデレラの魔法使いになった気はなかったんだろうし、変なこと言われて戸惑うかもしれないけど、杏先輩は味方にしておいて損はないよ。……って言うか、最初から味方なんだけど」
「敵対する理由もないしね。でも、生徒会、特別委員会、部長会を生徒会補佐のために動かすのって問題あるんじゃないの?」
「まぁ。雪城の言うとおり、生徒会役員である俺達が生徒会補佐という立場にいる雪城の汚名を晴らすのは問題ないが、特別委員会や中立組織である部長会まで動き出すと別の批判が出始めるだろうな」
会長の言う通りだ。生徒会が動くだけでも大事なのに、学園統治組織が手を組んで一生徒のために動くのは問題がある。それこそ、悪い意味―― 学園にとって害があるクソ女のような存在を追い出すためとかなら話は別だが。
今回は私の汚名?を晴らすために協力するらしいし、それは私を贔屓しているようにしか周りには見えないだろう。
「まぁ。そこらへんは上手くやりますよ。「万寿菊の会」も協力してくれるだろうし」
「ちょっと待ってよ。蒼依「万寿菊の会」は凪ちゃんのファンクラブだよ。確かに会長は私がしてるけど、こんな理由で動かしたりしないからね」
凪ちゃんのためのファンクラブを私のために利用するなんておかしな話だろう。第一どいつもこいつも私を過大評価しすぎなんだ。私のために動く人間がそんなに大勢いるわけがない。大勢居すぎても、ぶっちゃけ邪魔だ。
「でも、雪城さんが動かさなくても彼女達は勝手に動くと思うよ」
「「万寿菊の会」は凪ちゃんのファンクラブだけど、瑠璃ちゃんのファンクラブでもあるものね」
水瀬と茜先輩の発言に何とも言えない気分になる。確かに、彼女達は動いてくれると思う。凪ちゃんのファンクラブの一員として人格的に相応しい人間ばかり選んだわけだし。ただ、茜先輩の言うことは、もう一歩、私には理解できないのだが。
「大丈夫よ。瑠璃ちゃん! 皆、瑠璃ちゃんが悪く言われて腹が立つって言ってるし、快く協力してくれるわ!」
「そう、だね……」
凪ちゃんはいつの間に「万寿菊の会」の会員とそんな会話をしたんだろうか? お茶会の時は殆ど私が傍にいるのに。まぁ。私の異名が話のネタとして役に立ったのならいいことだ。
しかし、想像以上に大事になりそうだな。クソ女のことを考えると、ぶっちゃけ、あまり目立ちたくないんだが。動く人間が生徒会役員に特別委員会役員、部長会役員に「万寿菊の会」となると、嫌でも目立つよな。
正直に言って私の異名を何とかするより先にクソ女をどうにかして欲しい。そうしないと、私の異名を今どうにかしても、直ぐに、また私の悪評が増えて、無意味なことになるだろうから。
「とりあえず、私のことは一旦置いておきませんか? 今の私達には他にすべきことや解決しなければならない問題がありますし。それに、今なんとかしてもらっても、現状を考えると場合によっては直ぐに元通りになりかねませんよ」
「……ふむ。雪城の言うことも一理あるな。桃園の存在がある以上、雪城が動かねばならない事態になる可能性は大きいか」
「えー。折角、話がまとまったと思ったのに、また電波先輩出てくるの……」
「じゃあ、瑠璃さんの噂をどうにかしたいならアイツを始末――じゃなかったアイツを何とかすればいいんだよね」
今、物凄く不穏な言葉を聞いた気がしたが、気にしないことにしよう。蒼依がクソ女をどうにかしてくれるなら楽と言えば楽だし。蒼依なら事後処理とかの心配もいらないしな。
「では、俺達は生徒会の仕事と平行して桃園に関する問題を解決し、尚且つ雪城の悪評を無くすということでいいな? 悪評に関しては取りあえず何かしら言いがかりをつけてきた人間にだけ対処する形をとるぞ。――というわけで、今回の一年の女生徒2人組に対してだが、何か意見があるヤツはいるか?」
「はいっ! 私が直接出向いて瑠璃ちゃんの素晴らしさを説くっていうのはどう? 「万寿菊の会」の子達にも協力してもらってもいいし!」
「いや。それより、親が働いてる会社に圧力かけつつ、あの2人が俺達を敵に回したって噂流すとかした方が効果的じゃね?」
「どっちも却下だ」
「「なんで!?」」
「馬鹿か、お前ら! そんなことしたら、雪城への周囲の印象が余計に悪くなるだろうが!」
常識人は苦労するなぁ。金銭感覚は狂ってるけど、他はわりかしマトモな会長はこういう時は貴重なツッコミ役だ。凪ちゃんと蒼依は意外とぶっ飛んでるからな。
「はいはーい! じゃあ。僕があの子達嫌いって公言するとかならいいんじゃない? それなら、瑠璃先輩の評価は悪くならないよ。螢先輩」
「いや。そんなことしたら、イジメが起きるからダメだろ?」
「浅葱の言うとおりだね。萌黄は影響力があるんだから、そういうことはするべきじゃないよ」
「じゃあ。浅葱と颯先輩はどうしたらいいと思うの?」
「おっ、俺は雪城先輩に失礼なことを言ったって、ちゃんと注意するだけでいいと思う。あと、図書室で騒いだこととかも注意しなきゃな……」
「……うん。そうだね。僕は浅葱の案がある意味一番効果的だと思うよ」
「そうねぇ。2人とも奨学生とスポーツ推薦って特別枠の生徒だし、それなりにダメージはあるでしょうね」
凪ちゃん達は不満そうな表情を浮かべたが、水瀬や茜先輩の言うとおり龍崎の案は意外と効果があるだろう。龍崎が彼女達に注意をするのなら「彼等を敵に回した」ということが周りには伝わるだろうし。
まぁ。龍崎にはそんなつもりないんだろうけどな。ただ、橘は龍崎の案をつかって何かしらやらかすだろう。橘の悪い笑みを見つめながら、アイツもなかなかいい性格をしていると少しだけ感心した。




