資料運び 1
「ねぇ。瑠璃せんぱーい。どうして朽葉さん達からの謝罪断ったの?」
「ん? 橘君。急にどうしたの?」
「雪城さんの言う通りだよ。何かあったのかい?」
「じ、実は、あの2人まだ雪城先輩に謝罪したいって言ってて……」
「風紀委員通して無理なら僕らに手を貸してもらおうとしてるってわけ。変な噂とか流れちゃって責任感じてるんじゃない? ソレは別にいいんだけど、いい加減うざ――面倒くさいんだよねー」
おや、まぁ。あれから一週間は経ってるし噂も色々な方々の尽力で下火になっているというのに律儀というか、なんというか。
「なるほど。そういうことになっていたんですか。橘君や龍崎君には迷惑をかけちゃいましたね。でも、謝罪を受ける気はないので次に来たら突き放してかまいませんよ」
「い、いや。俺は別に迷惑なんて……で、でも、本当に突き放していいんすか?」
「かまいませんよ。噂も下火になってきてるのに謝罪なんて受けたら蒸し返すことになるじゃないですか? 第一、私からしてみれば彼女達は業務上、仕方なく手助けしただけの他人ですしね」
「だよねー。そこら辺の思慮がないよね。あの2人。自分達が特別に助けてもらったとでも思ってるのかな?」
「さぁ? どうだろうね。でも、雪城さん。本当にいいのかい? 突き放すのは萌黄達だけど、雪城さんにまた悪い噂がたつ可能性も……」
「それはないでしょう。彼女達が「雪城先輩(私)に冷たい対応をされた」とか言い出したら、それこそ恩知らずもいいところですし」
「た、確かに、そうっすよね……」
一応納得したようだが、龍崎は性格的に突き放せそうにないよな。多分、彼女達は橘では無理だと判断し龍崎に標的を変えたんじゃないだろうか? ゆえに橘も苛立っているんだろう。謝罪したいという心意気はかうが一度断られた時点で謝罪されることが迷惑だと気づかなかったのかね。
全くもって面倒くさい。最近は何故かクソ女からの視線も感じるし。修学旅行で一度“桃園姫花”に戻るという経験をしたことによるショックで何か思い出したのかもしれないな。木賊先輩の話を聞いたところによると私はフラグを回収したりはしていないらしいから、記憶を取り戻していたとしても、私に視線を向ける理由は私がゲームの中の“雪城瑠璃”と乖離してるからだと思う。
もしくは自分の立ち位置に私がいることの違和感を感じているかだろうが、クソ女の場合だとコッチをハッキリ思い出していたら、視線を向けるだけじゃなくて突撃してきそうではあるよな。私を危険視してるから接触を避けているんだろうか? でも、クソ女だしなぁ。
そうそう、クソ女と言えば従兄弟の女たらし先輩だが、女たらし先輩は一応チョイ役として存在して居たらしい。ただ、攻略キャラではなかったし“女主人公”に対してシスコンのような人間だったが、攻略キャラのライバルキャラにすら値しないような負け犬キャラって感じだったらしい。
現実でも悲惨だがゲームでも不遇な扱いだったとはと少しだけ驚いた。しかし、あの人はライバルキャラになれるくらいのスペックはあると思うんだがな。女たらしって部分が駄目だったんだろうか? だが、蒼依も女たらしに入らなくもないと思うんだけど。
まぁ。そこら辺は制作者側の好みによるのかもな。女たらし先輩と比べると蒼依の方が色々と濃いし。他の攻略キャラもそれぞれ濃い人生や性格ではあるんだろう。
「そういえば、この資料って何の資料なの?」
「萌黄聞いてなかったのかよ。これは、文化祭用の資料だって会長が言ってただろう?」
「そうだっけ? でも、文化祭って10月くらいだよね。早くない?」
「私もそれは思いましたね。夏休みの過ごし方への注意が先だと思っていました」
私達4人は今生徒会室に資料を持って行っている最中だ。何故、私、水瀬、橘、龍崎なのかと言うと単純にジャンケンで負けた結果このメンツになっただけである。凪ちゃんは手伝いを申し出てくれたが丁重に断って会長達と生徒会室で待機してもらっているのだ。
「夏休みについてはゴールデンウイークの時の資料の使い回しが出来るからね。ただ、文化祭は去年の骨組みに僕達が色々足していかないといけないから今からじゃないと間に合わないんだよ。期末試験や部活によっては試合なんかもあるからね。それに、高等部の場合外部からも人を招くから、体育祭の時以上に打ち合わせがあるし。二学期に入ってからだと余裕がなくなるんだ」
「そうでしたね。私や凪ちゃんにしてみれば文化祭の時に外部から人が来るのは当たり前って感覚ですけど、皆さんは違うんでしたっけ?」
「うん。初等部には文化祭無いし、中等部は学内とあと保護者だけが入れるようになってただけだよ」
「お、俺、ちょっと外部から人が来るってのがよく分かんないっす」
「萌黄は間違いなく囲まれるだろうけど……浅葱は囲まれるか遠巻きに見られるかの2択になりそうだね」
確かにな。龍崎は性格を知らなければ目つきの悪さプラス大柄な体で威圧感があるし、男慣れした女とか以外は遠目から見るだけになるだろう。だが、何もこんな時期に本人に言わなくてもいいと思うが。
「えっ? な、なんすか、それ……?」
「そんな脅かすようなことを言うのは良くないですよ。でも、龍崎君の場合、もし店などをするなら裏方にしてもらえるように頼んだほうがいいかもしれませんね」
「はいはい。瑠璃先輩。僕にはアドバイスないのー?」
「そうですね……橘君は龍崎君ほど人見知りではないですし……」
橘に贈るアドバイスなんてぶっちゃけない。こいつは龍崎と違って世渡り上手なタイプだ。龍崎より囲まれやすい容姿をしているが、例え囲まれても橘なら上手く対応するだろう。
ちなみに生徒会を近寄りにくいか近寄りやすいかで分けると前者が不機嫌な凪ちゃん、会長、龍崎、烏羽先生、普段の私。後者を普段の凪ちゃん、茜先輩、水瀬、橘、猫かぶり時の私となるらしい。言っていたのは木賊先輩なので、多分あってると思う。コレが蒼依の発言なら笑っていただろうが。
「とりあえず、橘君も囲まれたくなければ裏方をお勧めします。まぁ。多分無理だと思いますが」
「確かに。萌黄は拒否しても接客に回される確率が高いよね。客寄せに使われそうだよ」
「水瀬君もですがね。蒼依は上手く逃げそうですけど」
「雪城さん。ソレを言うのはやめてくれないかな? 僕まで憂鬱になってきたよ」
去年のことを思い出したのか水瀬は若干青ざめている。あまり詳しくは知らないが水瀬は去年内外関係なく女性に囲まれまくって危険だからと最終的に裏に避難することになったらしい。情報提供者は蒼依だ。蒼依本人は慣れたもので適度に相手をしつつ、いなしつつ、しんどくなったら裏やら写真部の現像室に逃げていたらしい。本当に世渡り上手というかなんというか。
「ねぇねぇ。瑠璃先輩。颯先輩は去年囲まれたっぽいけど凪先輩は囲まれたりしなかったの? 漫画では文化祭でナンパされたりするよね」
「凪ちゃんは大丈夫でしたよ。私達のクラスは展示でしたから店番で誰かに声をかけられるってことはなかったですし。そもそも、ナンパしそうなチャラチャラした人間は学内に入れないようにしていますからね。あとは事前に教えていただいて常に風紀委員の誰かしらが居るところを歩くようにすればトラブルとは無関係で居られますよ」
「な、なんか用意周到っすね」
「当たり前じゃないですか。何も起こらないように事前に策を練りつつ、ソレを悟らせず文化祭を楽しんでもらうことが「万寿菊の会」会長であり凪ちゃんの親友である私の務めです」
「……瑠璃先輩って本当にぶれないよね」
「……流石、雪城さんだね……」
「俺には真似できそうにねぇ……」
なんか引かれたり落ち込まれたりしているが気にしないことにしよう。だって、気にしてたらきりがないしな。それにしても今年はスマートフォンのおかげで色々楽そうだ。柚木先輩と直ぐに連絡がとれるし。何かあっても生徒会や特別委員会の役員に居場所が伝わるしな。
まぁ。問題があるとすれば、うちのクラスが店をやりたがる人間だらけってことだろうか? 多分、凪ちゃん、蒼依、水瀬の誰かは表にまわされるよな。特に男2人は最低でも1人は表に出さないと在校生から苦情が出そうだ。モテるヤツらは大変だよな。
「あぁ! 颯君とぉ浅葱君とぉ萌黄君だぁ!」
忘れた頃にやってくるという言葉をまさか今体験することになるとは全く思っていなかった。




