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石蕗学園物語  作者: 透華
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思い出話と現状と 6

 結局、若竹わかたけ先生の話はHRがはじまって少し経ってから終わった。予想以上の短さだ。どうやら本当に噂話だけが懸念事項だったらしい。ぶっちゃけ放課後や廊下での立ち話でも事足りたと思うんだが真剣に悩んでくれていた手前言うのは控えておいた。

 ただ、HRの途中で戻るのも面倒だったのでHRが終わるまで空き教室で待つことになったのだ。正直に言って若竹先生がそんな判断を下したことは少し意外だったのだが烏羽からすば先生にかわりを頼んでるため、私達以上に戻りにくかったんだろう。それとも戻りたくなかったんだろうか?


「そういえば、若竹先生。桃園ももぞのさんの様子はその後どうなんですか?」


「修学旅行に行く前と同じか、それ以上に俺には近付いてくるようになった。……本当にあの修学旅行中の出来事は夢だったんじゃないかと思うよ」


「確かに、私達も夢か何かかと思いましたね。まぁ。いい夢か悪夢かは微妙なモノでしたが……」


「夢と言えば蓬生ほうしょうもかなり落ち込んでましたよ。「姫がまた居なくなってしまった」って。取り巻きが慰めてもあまり効果がないらしくて彼の周りはお通夜みたいな状態ですよ」


「普段の蓬生は明るいからなぁ。その分ギャップが凄いんだろう。桃園の御両親も電話でまともに会話が出来た分ダメージが酷いようでな。戻った時に何かキッカケはなかったのかとしきりに聞かれたよ……何も答えられなかったけどな……」


 はぁと重い溜息を零す若竹先生が哀れになるが、ヒントを与えるべきか悩むな。もし、木賊とくさ先輩の言う通りなら旅館に行けば、桃園姫花ひめかに会える可能性はある。だが、何故そう思ったのか根拠を説明出来ない以上、下手な口出しは出来ないな。いや。だが、ちょっと待てよ。


「いっそ国内じゃなくて外国の学校に転校させたら何か変わりませんかね? 心機一転というか、なんというか。桃園さんは修学旅行でパリに行きたがってたって聞きましたしヨーロッパなんていいんじゃないでしょうか?」


「確かに! 留学でもいいかもしれないね。確か、ヨーロッパには姉妹校が幾つかあったはずだよ」


 木賊先輩が同意したということは、海外の学校はゲーム内には出て来ないってことだよな。穏便にクソ女をどうにかするとしたら留学をさせて、桃園姫花に戻ることを確認するのが一番楽な方法だ。両親もそれなら転校させることを望むだろう。ただ、クソ女が交換留学や留学が出来るだけの適性がないことが問題だな。


「……転校……留学……って、お前達は簡単に言うけどな。手続きとか色々厄介なんだぞ? 第一この学園に執着してる桃園が納得すると思うか?」


「思いませんね。……まぁ。でも、桃園さんって一体何がしたいんでしょうね? 蒼依あおい達に接触したがるってことは、やっぱり、王道ですが玉の輿狙ってるとかでしょうか?」


「確かになぁ。桃園のヤツときたら生徒会役員や烏羽、俺やひいらぎっていうトップクラスの家柄の人間にばかり近寄りたがるよな。……しかし、玉の輿を狙ってるなら、脈なしだと分かった時点で他に行かないか? 俺達程じゃないにしろ上流階級者は他にも居るだろう?」


「じゃあ、若竹先生は何だと思うんですか? 私も桃園さんの目的について雪城さんと同じように考えてたんですが……」


「はぁ。まだ、若いのに、夢がないなぁ。お前達は」


 若竹先生はそう言うと少し考えるような素振りを見せた。今まで疑問に思ったことなかったんだろうか? 大丈夫か、この人。というか、アンタが生徒に夢を見過ぎなんじゃないか? 今時の女子高生なんて皆こんなもんだろう。いや。知らないけどな。


「あー。アレじゃないか単純に恋してるとか?」


「それにしては随分と気が多くないですか? 先生含めて8人ですよ。多くても2人でしょう? まぁ。私だったら一人に絞りますけどね」


「木賊先輩は篠原しのはら先輩一筋ですもんね。じゃあ、最近ありがちな逆ハー願望持ちとか? それとも、単純にミーハーなだけとか?」


「ミーハーの意味は何となく分かるが、逆ハーっていうのはなんだ?」


「逆ハーレムの略ですよ。意味はそのままハーレムの逆だと思って下さればいいかと」


「えーと。要するに俺達を侍らしたいってことか? それは、いくらなんでも流石に夢を見過ぎだろう……桃園だって無理だと気付くと思うんだが……」


「でも、蒼依みたいなケースもありますし。あれを見てると学園内にハーレムがあるんだから逆ハーレムも夢ではないのかもと、たまに思いますがね……」


 逆ハーを知らないとは流石に育ちがいいな。それとも、逆ハーなんて言葉は知らない方が普通なんだろうか? ミーハーと比べると最近出来た言葉だろうし、ある種の小説やゲームとかを読んだりしたことがないなら知らないのも無理はないのかな。

 しかし、クソ女はともかくなぎちゃんだったら男を侍らせてても違和感ないよな。なんと言っても絶世の美少女だし気立てもいいし非の打ち所がない。まぁ。凪ちゃん自身がそういうの嫌いだから有り得ないけどさ。


「なるほどな。だが、そんな言葉がサラッと出て来るなんて……まさかっ! 雪城もそういう願望があるのか!?」


「いや。有るわけないじゃないですか。ただ、夢見ちゃう子が居てもおかしくないなって思う程度です」


 ついつい馬鹿かコイツはと侮蔑を含んだ目で叫ぶ若竹先生を見てしまった私は悪くないと思う。若竹先生の中の私は一体どんな人間なんだか。頭を抱えだした木賊先輩には悪いが、流石にコレを許容するわけにはいかないだろうよ。私の性格的に。まぁ。木賊先輩が私と若竹先生のどちらに頭を抱えたのかは分からないけどな。


* * * * * *


 下らない会話をちょこちょこ続けHRの終わりを告げるチャイムを合図に私達はそれぞれの教室に戻ることになった。今は静かな廊下を1人で歩いている。私は二年の教室、若竹先生は職員室、木賊先輩は三年の教室と行き先がバラバラだったので、空き教室を出た瞬間に2人とはおさらばした。

 ちなみに、クソ女をどうするかについては結論は出なかったが、一応留学や海外の学校への転校についてクソ女の両親に話をしてみると若竹先生は言っていた。意外とあの案を気に入ってたのか八方塞がりになっていたため少しでも何かに縋りたかったのかは分からないが。ソレを聞いた瞬間に木賊先輩とアイコンタクトを交わしたことには多分気づかれてないはずだ。

 上手くいってクソ女が学園から穏やかに消えてくれたら私としては有り難い。木賊先輩にとってもそれは同じだろう。木賊先輩は学園の平穏のため、私はこれ以上、凪ちゃんに迷惑をかけずに、とっとと退場願いたいからだ。今は、まだクソ女からの直接的な嫌がらせ(裏への呼び出しや持ち物を傷つけられるなど)がないから動けないけど。

 なんか、もう、いっそのことクソ女がゲームの立ち位置の違いに気づいて直接私にケチつけてくれた方が楽にことが進む気がしてきたな。言いがかりをつけられたり暴力行為に出られたりしたら証拠はばっちし残すし、ボロは出さずに論破する自信もある。ついでにいうなら逆上させる自信はもっとある。

 そういえば、木賊先輩には言われなかったが、私が“女主人公”としてのフラグやイベントを回収している可能性ってないよな? 今までは全然、気にしてなかったけど、立ち位置を奪ったってことは、その危険もあったはずだ。もし回収してたら、ちょっと厄介なことになる。

 攻略キャラ達の態度が全く変わってないから確率としては低いだろうし、水瀬や龍崎りゅうざきにいたっては凪ちゃんに恋心を抱いてるから無いとは思うが。イベントやフラグが分からない以上0とは言えないし。どんどん木賊先輩に聞きたいことが増えていくな。少し絞らないと不審がられるかもしれない。

 それでも、フラグとイベントのことは絶対に聞かないといけないな。私は“女主人公”になって攻略キャラと恋愛する気は一切ない。イベントやフラグは回避対象だ。立ち位置の乗っ取りは必要不可欠だったからしただけで、本当なら極力攻略キャラには近付きたくなかったし。私はあくまで、凪ちゃんの親友として学園生活を謳歌したい。恋愛なんか絶対にしたくない。だって、私は恋愛には向かない人間なのだから。



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