思い出話と現状と 5
「水瀬! 柊! お前達何喧嘩してるんだ!」
「2人共、外まで声が漏れていたよ」
口喧嘩は意外な人物達によって強制終了させられた。昨日の出来事を考えれば意外と言うほど意外ではないが。2人の喧嘩に割り込んだのは若竹先生と木賊先輩だ。
「「若竹先生! 木賊/晶先輩!」」
「……助かった」
「あれ? お二人とも何かご用ですか?」
「ああ。雪城に用があってな」
綺麗に声をそろえてしまった2人は再び睨み合ってるけど、気にしなくていいかな。しかし、若竹先生と木賊先輩がいるということは十中八九昨日の件が関わってる。全く朝からご苦労なことだ。それにしても、予鈴が鳴るまで、そんなに時間がないが手短にすむ内容なのか?
「用って、どんな用ですか? もう少ししたらHRが始まりますけど……」
「用件はここではいえないな。HRのことなら、許可はとってあるから気にしなくていいぞ」
「いやいや。若竹先生も担任なんだからHRあるでしょ。それは、どうするんすか?」
「……烏羽に頼んだ……」
非常に複雑な表情をするあたり苦肉の策だったんだろうな。烏羽先生と若竹先生は仲はいいけど、烏羽先生に何か頼むってのは、そんなに精神的に負担が大きいもの何だろうか?烏羽先生は頼まれたからってとんでもない見返りを求めるタイプではないし、何か頼まれても、あんまり気にしないと思うけど。
なんていうか、あの人はブレない人だからな。だから、攻略難易度も高いんだろうし。ちょっとした頼み事程度じゃ困ることはないだろう。一応若竹先生のクラスにはクソ女が居るという懸念材料がありはするが、軽くあしらってるみたいだしな。
「烏羽先生に頼んだんですか? それは、あの転校生が喜びそうですね」
「同感。他に誰かいなかったのかしら?」
「居なかったんだと思うよ。先生方も桃園さんの扱いについては、匙を投げてるみたいだし」
「確かになぁ。頑張ってんの若竹先生くらいじゃねぇ?」
「桃園の話は置いておいとくれ。とりあえず、雪城には着いてきてもらいたいんだが……」
「許可をとってらっしゃるならかまいません。遅刻とかにならないなら私は困らないので」
「助かる。あっ。でも、一限まで長引く可能性があるが」
そんなに長い話なのか? それなら、何も今じゃなくて放課後でもいいだろうに。それとも至急話さなければならないような用件なんだろうか?
「用件が何かは知らないけど、そんなに長くなるなら放課後にすればいいんじゃないすか?」
「そうですよ。僕達や木賊先輩はともかく雪城さんは奨学生ですし……」
「そうだわ! ちゃんと一限の先生にも若竹先生の用事で瑠璃ちゃんがいないって話してるんですよね?」
三者三様に非難され若竹先生は少し面食らったらしい。お気の毒様。まぁ。でも、一限の先生にも許可とってもらってなかったら私が困るからなぁ。
* * * * * *
現在私が居るのは空き教室だ。此処に居るのは私と木賊先輩と若竹先生の三人だけ。あまり長引くと本当に一限に遅れかねないが、そこらへんは、ちゃんと何とかしてくれるらしい。一応若竹先生も考えてくれていたみたいだな。
あのあと、凪ちゃんは私を心配してくれて生徒会役員権限で着いてこようとしたのだが私のせいで凪ちゃんをサボらせるわけにも行かず、教室に残ってもらった。説得すると簡単に引き下がってくれて助かったな。説得と言っても「ノートとってもらいたいなぁ」とお願いをしただけなんだが。
「雪城は水瀬の扱いが上手いな」
「凪ちゃんを犬猫と同列視するような発言はやめて下さい」
「まぁまぁ。雪城さん落ち着いて……。ところで若竹先生。私達に話があるってことは昨日の件についてですよね?」
ついつい不快感を露わにすると木賊先輩に宥められた。だが、不快に思っても仕方ないだろう。凪ちゃんは人間なのだ。扱いが上手いなんて人形や動物と一緒されたくない。他のやつらは別にいいけど、凪ちゃんだけは駄目だ。だが、まぁ。いたずらに長引かせるのもアレだし仕方ないから私が引き下がってやろう。
「……はぁ。若竹先生。私と木賊先輩を呼び出したということは昨日の件に関してですよね? 何かあったんですか?」
「あっ。ああ。昨日の件のせいで2人には迷惑をかけたと思ってな。特に雪城は変な噂が流れ出してるだろう?」
「そうですね。私はともかく雪城さんについては悪質な噂が流れてます。一応、私達が訂正していますが、一年は半信半疑でしょうね」
「私は別に気にしてませんよ。周りにとやかく言われるのは慣れてますし。木賊先輩達のおかげで二、三年生は信じてないみたいですから」
「それでも傷つくだろう? 言い訳になるけど俺達もまさか芥子家が退学させるとまでは考えてなくてな。上手く対応出来なかったんだ」
それはそうだろう。ちょっと高慢に振る舞っていたことを注意されただけで退学させるなんて誰も思わなかっただろうし。下手したら生徒以上に学園側が混乱したんじゃないか? それにしても「芥子家」って地味に言いにくいよな。
「多分。私が証拠を撮っちゃったせいでしょうね。言い逃れ出来なくなりましたし。……あと、これは蒼依から聞いた話ですが、彼女は生徒会長のファンクラブの副会長側の派閥に入っていたらしいですよ。もしかしたら、それも関係があるかも知れません」
「ファンクラブ内の派閥? そんなものがあるのか?」
「あるらしいですよ。ファンクラブ内で内部分裂が起きて派閥争いがあるんだそうです。私も驚きました」
「柊は一体何処から、そんな情報を仕入れてくるんだろうね?」
うん。ぶっちゃけ私も知りたい。あいつは情報網が半端ない上、情報を引き出すのが上手いからな。何か? 蒼依は何処ぞの機関の諜報部員にでもなる気なのか? いや。あいつの場合、父親の会社を継ぐ気満々だから、そのためだとは思うけど。
「分かりませんが、内部分裂に関しては水瀬君も知ってましたよ。芥子さんが、会長のファンクラブ会員だってことまでは知らなかったみたいですけど」
「……実は有名な話なのか?」
「いえ。私も初めて知りましたよ。雪城さんもだよね?」
「はい。私だけじゃなく凪ちゃんも知りませんでしたよ?」
落ち込みだした若竹先生を慰める。結構浮き沈みが激しい人なのか? それとも真面目な人だから生徒指導部に所属していながら揉め事になりそうなことを把握していなかった自分の駄目さにショックを受けたんだろうか? どっちにしろ面倒くさい人だな。
「ところで、話って噂に関することだけなんですか?」
「……ああ。最初は放課後でもいいかと思ったんだが、あまりにも一年の間で悪い噂が流れているから早めに話をしておこうと思ってな。俺達も問題の収束に努めるが芥子は内部生で一年の中でかなり強い力を持っていたらしいから逆恨みで何かされる可能性がある。気をつけておいてくれ」
「それに関しては大丈夫らしいですよ。多分副会長側の派閥の二、三年が抑制するだろうって蒼依が言ってました。これ以上、問題をおこされることはよしとしないだろうと」
「言ってることは分かるんだけど……柊は本当に何者なんだろうね?」
「それは……私にも分かりませんね。ちなみに、凪ちゃんと蒼依の口喧嘩の発端は「それでも、やってくる一年を誰が対応するか」でした」
「あー。それは、具体的には、どっちが誰にどう対応させようとしていたんだ?」
「凪ちゃんが蒼依と水瀬に対応させようとしてました。普段、桃園さんの件で巻き込まれているのは私達なので偶には役に立てと」
「……俺は柊達に懇切丁寧に謝罪すべきなんだろうか?」
「いやいや。若竹先生がそんなことをしたら桃園さんが余計につけあがりますよ。放っておいた方がお互いのためです」
「私も木賊先輩の言う通りだと思いますよ。……まぁ。とりあえず、その途中でお二人がいらしたので決着はつきませんでしたね」
言い争いにはなってたけど、多分、蒼依や水瀬が対応してくれるんだろうな。蒼依の場合、反射的に凪ちゃんに言い返しただけなんだろうし。あれで結構、気にしてるみたいだし。
「そうか。でも、水瀬と柊が対応してくれるなら雪城に悪い噂がたつこともないだろうから安心なんだがな……俺からも頼もうか?」
「いえ。本当に来たら蒼依は嬉々として対応してくれますから大丈夫ですよ。蒼依は凪ちゃんに言われたから、ついつい反論しちゃっただけですし」
「雪城さんは柊のことをよく分かってるんだね」
「まぁ。中学時代の時に連んでましたから、その名残でしょうか? 今もなんだかんだで連んでますし」
苦笑しながら話すと納得したような顔をしてくれたが、実際はそれだけじゃないんだがな。それは、別に言う必要がないから言わないけど。木賊先輩にはバレてる可能性はあるけどな。




