思い出話と現状と 4
いつもより少し遅く着いた教室でクラスメイトは普段と変わらぬ様子で私達を迎えてくれた。多分、妙な噂は無視してくれているんだろう。しかし、クラスメイトはいいとしてクソ女に知られたら色々と面倒だな。クソ女がどれくらいの情報を手にしているのか分からないし“雪城瑠璃”をどう思っているのかも分からない。
クソ女にわざわざ噂話をする人間は居ないだろうが、話を聞くことはあるだろう。クソ女は恐らくゲームプレイヤーだから“雪城瑠璃”と私の違いを改めて認識する可能性も高い。最悪なのは、ソレを認識した結果ゲームについて全て思い出すことだ。
例えゲームに関する記憶を思い出してもクソ女の今までの行動や言動や性格を考える攻略キャラがおちる可能性は殆どないとは思うが、何がキッカケになるか分からないのが恋愛だしな。特にゲームなんてご都合主義もいいところだし。
いや。ちゃんと現実だと認識しているし攻略キャラも生身の人間だと分かっているんだが、ゲーム補正とかがある可能性は捨てきれないしな。クソ女や私はイレギュラーだが、立ち位置が変わっているキャラは主要キャラの中じゃ他に居ないし。
ちょっと待て。主要キャラは変わっていないにしても女たらし先輩の立ち位置は“女主人公”の従兄弟であってるのか?サポートキャラが居ないのなら親しい関係の従兄弟が学園に居るのはおかしい気がする。あとで木賊先輩に聞いてみるとしよう。多分、女たらし先輩の立ち位置については知っておいた方がいいしな。
「この様子だと二、三年の間では、あまり悪い噂は流れてないみたいね」
「まぁ。「万寿菊の会」の人が居るからね。悪い噂が流れる前に訂正しているんだと思うよ」
「それだけじゃねぇよ。直接関わった晶先輩や間接的に関わった翠先輩も噂がねじ曲がらないようにしてるんだ。あの2人が率先して動いてるから周りは何も言わねぇんだよ」
「そっか。お二人には感謝しなきゃね。あと、会員の人達にもお礼言っとこう」
「……これでまた「万寿菊の会」の連中は瑠璃さんへの崇拝の念が強くなるんだろうな」
「本当に変わったファンクラブだよね。会長まで崇拝対象のファンクラブとか他にはないんじゃないかな?」
「別に私は崇拝されたりしてないと思うけど……」
崇拝って一体何の宗教だ? アレか? 凪ちゃん教の教祖とかか? それならなってやらないこともないが。しかし、結局、ファンクラブである「万寿菊の会」とやることは同じになる気がするな。
「崇拝されてはいないけど皆、瑠璃ちゃんのこと好きだと思うわよ。いつも「万寿菊の会の会長が雪城様で本当によかった」って言ってるもの。気持ちは、よく分かるわ!」
「初耳なんだけど……。まぁ。でも、そう言ってもらえると、ありがたいかな」
私が会長でよかったっていうのは、やっぱり規律が緩いから何だろうな。他のところの会長って、ファンクラブの支援する対象への思いが強すぎるせいで会員へ高圧的な態度をとる人が少なくないし。だから、水瀬とかはファンクラブから距離をとってたわけだしな。自分が理由で女同士がギスギスした空間なんて居心地が悪すぎる。しかも、水瀬達はファンクラブを放置しただけで特に悪いこともしていないからな。
「あっ、そうそう。雪城さんはファンクラブ会員に優しいって有名だよ。「万寿菊の会」は会員同士も他のファンクラブに比べると仲がいいみたいだし」
「確かに「万寿菊の会」は団結力があるって有名だよな。他のファンクラブって数だけ集めて勢力強めようとして結果的にファンクラブ内で派閥が出来て内部分裂してたりするらしいし。その点「万寿菊の会」は事前にキッチリ選んで会員にしてるってのがデカいんじゃねぇ?」
「凪ちゃんの為に作ったファンクラブのせいで、凪ちゃんの評価を落としたら本末転倒だから気をつけるのは当然だよ。蒼依の言う通りなら私は他のファンクラブの方が何をしたいのか疑問に思うね」
「そうよね。ファンクラブ内で派閥争いとかワケが分からないわ。一体何をしたら、そんなことになるのかしら?」
凪ちゃんと2人で顔を見合わせて首を傾げる。マジでファンクラブで内部分裂状態になる理由が分かんない。寵愛を受けてる受けてないとか、どちらがより役に立ったかとか何だろうか?
「ファンクラブ内の派閥争いってのは家柄が近い同士で起こりやすいみたいだな。ほら。此処って金持ち学園だから人に従うってことが理解できないヤツが多いんだよ。特にファンクラブ創立者とか、ファンクラブの会長、副会長に選ばれるヤツはミーハーな上流階級者が多いしさ」
「派閥は家同士の結び付きで気付いたら出来ちゃうみたいだよ。ファンクラブの会長が高圧的な人が多いのも基本が命令することに慣れてる人だからってことが多いんだ。でも、命令される側も普段は命令する側だから反発しちゃうんだろうね」
何でこの2人はファンクラブの内情にやたらと詳しいんだろうか? まぁ。ファンクラブ事情が分かったので別にいいが。ミーハーな上流階級者が会長や副会長になりやすいってのも分かりやすい。そうじゃない上流階級者はわざわざファンクラブになんて入らないし。いや。ウチの副会長はミーハーじゃないけどね。
「何て言うかファンクラブって色々大変なんだね……」
「……唯一外部生――しかも奨学生でファンクラブ創立して会長やってる人のセリフじゃないよね」
「私の場合は柚木先輩達が手助けしてくれたから作れただけだよ。ファンクラブが成り立ってるのも副会長がしっかりしてくれてるおかげだし。凪ちゃんも協力的だから何とかなってるんだよ。会員もいい人ばかりだしね」
「瑠璃ちゃんったら何て謙虚なの!?」
「……雪城さんがそうだから崇拝されるんだと思うよ」
「だから崇拝言うのやめろ。このヘタレが」なんて悪態をつきそうになったが何とか耐える。偉いぞ私。でも、ファンクラブの会員に崇拝されてるとか周りに知られたら、また妙な噂が立ちそうで嫌になるな。もう遅い可能性の方が高いけど。
とりあえず、これについても木賊先輩にメールで聞いてみよう。三年にまで、こんな噂が流れてるのか気になるし。流れでたら私だけじゃなく会員の人達の信用に関わるもんな。
「そういや、あの退学した芥子って一年は生徒会長のファンクラブの副会長側の派閥に所属してたらしいよ。コレで副会長側は大変なことになるかもな」
「げっ。私逆恨みされたりしないかな?」
「それは無いと思うよ。雪城さんに言い掛かりつけたら敵に回す相手が多すぎるしね。螢先輩も間違いなく敵に回すような真似は三年ならしないよ」
「二年も多分大丈夫だけど、一年は動く可能性があるんじゃないの?」
「それもねぇな。そんなことしたら更に信用が落ちるからな。一年が動く前に二、三年が牽制するさ。もし間に合わなかったり牽制した上で一年が勝手に動いたりしたら、それこそ、なぁ?」
「二、三年は求心力も抑止力にもなれない無能の集まりで一年は状況判断力がない馬鹿ってなるわけだね。それなら、私も心配しなくていいかな」
「でも、雪城さんなら来ても返り討ちに出来るんじゃないかい?」
「馬鹿ね。また妙な噂が流れるキッカケになるじゃない。というわけで、あんた達が追い返しなさい。特にあんた!」
凪ちゃんはビシッと蒼依を指さした。あれかね。私が逆恨みされるキッカケになった朽葉さんと刈安さんの知り合いだからかな。口喧嘩をし出す2人と間でオロオロしている水瀬を眺めながら、私は予鈴の時間を確認した。




