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石蕗学園物語  作者: 透華
78/107

影響 2

「あっ。そうだ。雪城さんに言わなきゃいけないことがあったんだ」


「言わなきゃいけないこと?」


けい先輩とあかね先輩。あと烏羽からすば先生からの伝言「放課後は必ず生徒会室に来るように」だって。なぎだけじゃなくて、皆心配してたんだからね」


「…………分かった」


 うわ。面倒くさい。水瀬みずせのヤツ余計なこと言いやがって思い出さなければ聞いてないで済ませれたものを。いや。まぁ。こうなるかもって思わなかったわけじゃないけど、ぶっちゃけ説教されるのはゴメンだな。でも、行かなかったら行かなかったでかなめさんには確実に怒られるよな。何でだろう今回は私に落ち度はないと思うんだが。


「そんなら、コレ持っていきなよ。修学旅行中の写真が入ってるから、皆で見たら?」


「ありがとう。蒼依あおい! 助かるよ」


 思わず蒼依の手をギュッと握って感謝する。いざという時に役に立つな。流石“男主人公”だ。この写真があれば十分話を逸らせるだろう。誰だってツマラナいお説教をしたり聞いたりするより楽しい思い出話の方が好きだろうし。


瑠璃るりちゃん。こんなヤツを褒めちゃダメよ! 調子に乗って何を要求してくるか分かったものじゃないわ!」


「凪の中での蒼依は、一体どんな人間になってるんだい?」


「俺に聞くなよ」


 凪ちゃんによって蒼依から引き離され腕の中に保護される。何となく役得だな。こういう言い方すると変態っぽいけど凪ちゃんいい薫りだし。しかし、水瀬の言うとおり凪ちゃんの中での「蒼依像」は少し気になるな。嫌いってのは分かってるけど、過剰防衛気味な反応には見える。一時期に比べるとコレでもマシになったんだがな。

 蒼依は知る必要がないと考えているのか、今更、凪ちゃんの好感度を上げる気がないのか、投げやりに答えているけど、水瀬としては困るんだろうな。親しい友人と好きな女の子であり従姉妹が険悪な仲とか。普通なら友人に恋路をサポートしてもらいたいところだろうが、まず無理だしな。

 そんなことを考えているとスマートフォンが音を立てた。慌てて凪ちゃんの腕の中でチェックするとメールが届いている。しかも、相手は柚木ゆずき先輩だった。多分、事の経緯や結果の方向だろうな。守秘義務は一応あるが内部生と外部生の問題となると私には結構詳しく教えてくれるはずだ。


「誰から?」


「柚木先輩だよ。多分さっきのことについて、メールしてくれたんじゃないかな?」


「関わっちゃった以上、気になるものね。結果報告してくれるのはいいことだわ」


「そうだね」


 凪ちゃんの言うとおりだと思う。いくら他人とはいえ、やっぱり、気にならないわけじゃないし。事後報告してくれるようなアフターフォローはありがたいな。でも、それを当然だと思っちゃいけない。これはあくまで柚木先輩の私への気遣いなんだから。


「そんで、みどり先輩は何て?」


「ちょっと待って。えーと『違反者達には入学時に配られた冊子を読み込まなかったことや陰湿な呼び出しや嫌がらせ行為に対して違反点を10つけておいたわ。嫌がらせを受け始めてから、あまり日にちが経っていないことと被害者本人の意向もあり、表立って非難することは今回はしないことにするわね。けれど、他に被害者や違反者もとい加害者が居ないか調査することにするわ』だって。あと『被害者とその友人が今回の件について、お礼をしたいそうよ』って書かれてるんだけど、どう返すべきなのかな? 見捨てちゃマズいから助けただけなんだけど」


「あー。正直にそう書けばいいんじゃない? 瑠璃さんの場合、生徒会補佐として助けざるを得ない状況だったってだけだし」


「僕も蒼依と同意見かな。雪城ゆきしろさんは立場に即した行動をしたわけだし、お礼は直接してもらう必要はないと思うよ」


「私も。お礼したいって子達の気持ちは分からないでもないけど、立場上助けた人にいちいちお礼とかされてたら際限ないわよ」


「分かった。ありがとう」


 まぁ。3人の言うとおりだよな。私個人が学外で助けたとかなら話は変わるけど、あくまで生徒会補佐という役の上で見過ごせなかったから割り込んだだけだし。お礼とかされても、ぶっちゃけ迷惑なんだよね。朽葉くちはさんは、ともかく刈安かりやすさんって、でかい声でお礼言ってきそうだし、これ以上目立つのはごめん被る。そういう意味も込めて返信を書き送信した。


「まぁ。翠先輩もそこら辺はよく分かっているだろうから上手く言ってくれると思うよ。なんだったら俺からも2人に言っといてあげるけど」


「それじゃ、お願いするよ。これ以上、目立ちたくないからね」


木賊とくさ先輩はどうするのかしら?」


「多分。木賊先輩は素直に御礼されると思うよ。あの人は律儀だからね。だからこそ、騎士様とか呼ばれてるんだし」


あきら先輩の騎士様呼びは、それも理由だったんだな。確かにあの人なら素で『女の子が勇気を出してお礼を言いたいと言ってくれてるんだから無碍に出来ないよ』とか言うだろうし」


 木賊先輩の騎士様呼びは見た目だけじゃなく騎士道精神というか紳士的な態度というか何というか色々なモノが合わさった結果だったんだな。当の木賊先輩が気付いているかはしらないけど。素でタラシみたいなことを言える上、サマになってると来たら、そりゃ、あんな呼び名にもなるか。

 ある意味、女たらし先輩よりタラシの才能があるんじゃないか? もしかしたら蒼依すら越えるかもしれないな。上手くいけば木賊先輩でハーレムが作れそうだ。いや。ハーレム作ってもなんの解決にもならないんだっけ? 男の方を落としてもらわないと駄目なのか? てか、女が女に囲まれることをハーレムと言うのは正しいんだろうか? 何か色々ありすぎて、こんがらがってるな私の頭。


* * * * * *


 六限は面倒極まりないことに移動だったので、私達は4人並んで特別教室に移動中だ。六限の移動が面倒なのは教室にもう一度戻らなければ帰れないからだ。HRは1日の終わりにもある。そうそう。柚木先輩からは『分かったわ。上手く言っておくわね』という力強い返信がきていたのでお礼を言っておいた。そうだった。丁度いいし移動のついでに気になったことを蒼依に聞いておくか。


「そういえば、蒼依。女たらし先輩から何か連絡来た?」


「瑠璃さんがそんなこと聞くなんて。……一体、どうしたの?」


「いや。今朝、女たらし先輩が1人で黄昏てる姿を見かけたのを思い出してさ。若竹わかたけ先生が比じゃないくらいに窶れてるように見えた気がしたんだよね」


「ああ。そういえば、見かけたような気がするわね。いつもなら女侍らしてるから、一瞬誰か分からなかったわ。空気もなんだか、どんよりしていたし」


 凪ちゃんの女たらし先輩かどうかの判別方法については少しいかがなものかと思ったが、私も似たような認識なので、とやかく言える立場ではないな。だって、女たらし先輩だし。女たらし先輩は女に囲まれてこそ女たらし先輩だと思うんだよね。何であんな人に侍るのかは理解できないけど。凪ちゃんの言葉に苦笑しているあたり水瀬も多分、女たらし先輩に対する認識は、そんな感じなんだろうな。


「なるほど。確かにそんな蓬生ほうしょう先輩みたら気にもなるか。……あの人さぁ。修学旅行からコッチに帰って来た夜に『どういうことだっ!』とか、いきなり電話してきたんだよ。コッチは疲れて帰ってきてるってのに……転校生が電波に戻ったのが、よっぽどショックだったっぽいけど、俺に聞かれても困るよね」


「確かに蒼依に聞くことではないね。気になるのなら教師に聞くべきだ。それ以降は連絡をとっていないのかい?」


「あー。たまに連絡くるぜ。ほとんど愚痴だけどな。何か今回の件で蓬生家内でドタバタしてるんだってさ。何が条件で戻るのかとか考える人がいる一方、精神的に不安定で問題しか起こさないなら捨て置けとか言う人も居るらしいし? 色々、ややこしいんだと」


「まぁ。彼女が主に迷惑をかけてる人間は僕達含めて蓬生家より格上が多いからね。早く何とかしたいと考える人が居てもおかしくはないかな」


「でしょうね。でも、諦められずに戻る方法を探す人の気持ちも分かるわ。転校生が、修学旅行で会った彼女に戻れば問題は軒並み解決しそうだもの」


「このまま。現状維持である程度大人しくしてたらいいだろうけど、つきまとい行為や暴言が悪化したら、そうも言ってられなくなるだろうね。若竹家は別として、柚木家は結構怒ってるんでしょ?」


「まぁね。仕事をしているだけの翠先輩に対して暴言は吐くわ、仕事は増やすわ。本家の王子様に迷惑かけるわで、ちょっと不穏かな? でも、水瀬家も排除体制なんじゃねぇの?」


 蒼依が水瀬を窺うと水瀬はニッコリと笑った。これは間違いなく肯定だな。しかし、排除体制なのはひいらぎ家も同じだと思うが、どちらも被害者本人があまり排除に積極的じゃないから動いてないってだけだろう。ぶっちゃけ、その気になれば蓬生家諸共クソ女を潰せる状況だからこその余裕なんだろうな。


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