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石蕗学園物語  作者: 透華
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意外な事実 6

 木賊とくさ先輩との会話が終わり、無事に連絡先を交換して2人連れだって校舎に戻ると何やらもめているような声が聞こえる。顔を見合わせてから、壁に隠れつつ覗き込むとそこには一度だけ会った女の子と見知らぬ女生徒数人が対峙していた。多分、女性徒達は内部生だな。


「あの子って、確か……」


「ん? 雪城ゆきしろさんの知り合いかい? ということは、二年かな?」


「いいえ。一度だけ図書室でお会いしただけですよ。名前は……確か、朽葉くちはさんだったと思います。司書さんが、そう呼んでいました」


「そうなんだ。それなら彼女は“男主人公”の攻略キャラである“朽葉百合子ゆりこ”で間違いなさそうだね。“朽葉百合子”も図書委員だったし」


「え!? あの子も攻略キャラなんですか!? 蒼依あおいに聞いてみたら、もう、あの子と知り合いでしたよ!」


「本当に続々と攻略キャラと会っていくなぁ。……しかし、雪城さんはどうして2人が知り合いだと聞いたんだい?」


「ああ。私が本を借りる時に、たまたま朽葉さんが受付をしていて、その、少し態度が気になって交友関係の広い蒼依に聞いてみたんですよ」


 木賊先輩の疑問に答えながら、証拠を残すために、携帯で動画を撮影する。言い逃れ出来ないようにするのには、かなり便利なんだよね。たまたま、通りがかりましたってだけじゃ、注意は出来ても今後やめさせるには弱いし。


「え? 態度が気になったのかい?」


「はい。私が貸し出し禁止図書を持って行ったせいもあると思うんですが、あまり愛想のいい感じじゃなくて……一年生みたいだったので危ないかなと」


「確かに、態度が悪いと反感をもたれかねないね。“朽葉百合子”は奨学生だったはずだし、かなり危険だ」


「蒼依も奨学生だって言ってましたし、やっぱり危険ですよね。ところで、そろそろ割り込みますか?」


「そうだね。証拠も残しているし」


 2人で割り込もうとした瞬間だった。


「百合ちゃんを虐めるな!」


 幼く高く、その上でかい声と共に、ボーイッシュなショートカットの金に近い茶髪をした女の子が朽葉さんと女性徒達の間に割り込んだ。背は私と同じくらいか少し低いくらいの小柄な少女だったので、背後に庇う朽葉さんは隠せてないが。


「あの子も“男主人公”の攻略キャラの“刈安満かりやす みちる”だ。刈安さんとは私は面識があるんだよね。小柄だけど、バレー部のエースなんだよ。スポーツ推薦で入学した子だ」


「そうなんですか。まぁ。とりあえず、先越されましたけど割り込みましょう。これ以上放っておいたら本当に厄介なことになりますし」


「ああ。そうしよう」


 刈安さんが、女性徒達にくってかかっているのが見えたが、状況はあまりよろしくない。面倒事は勘弁だ。


「こんなところで一体何をしているんだい?」


「と、木賊様! これは、あの、えっと……」


「き、騎士様。違いますのよ! 私達は、あ、あまりにも、朽葉さんの態度が悪いので、色々教えてさしあげようよ……」


「そっそうですわ。朽葉さんの為を思って」


 うわぁ。木賊先輩が出ただけで、かなりビビってるな。まぁ。でも、まさか、こんなところに人が来るなんて思ってなかったんだろうし、無理もないか。必死で言い訳を続ける女性徒達に対して朽葉さん達は、もう一歩話についていけてないのか、目を白黒させている。さて、そろそろ私も出ようかな。


「朽葉さんのためを思うのなら、わざわざ、こんなところで話をする必要はないと思いますが」


「ひっ! つ、石蕗つわぶきの魔女!」


「ど、どうして……」


 完全に怯えきった女性徒達を無視して動画を見せつける。ちょっと発言しただけで、こんなに怯えられたことに腹が立った訳ではない。断じてない。


「直ぐに割って入ろうかと思いましたが、貴女方には、ちゃんと御自分がなさったことを客観的に見てもらう必要があるかと思いまして、この通り動画を撮らせていただきました。撮った側から言わせていただくと、コレのどこが「朽葉さんのため」の行動なのか私には理解出来ませんね」


「か、勝手に動画を撮るなんてプライバシーの侵害ですわ!」


「私も「ただの学園生活」なら動画なんて撮りませんでしたよ? ただ、貴女方は違反行為を行った。それを証明する為の証拠品は必要でしょう? そうそう。私は生徒会補佐としての仕事を全うしただけですから、学園や御両親に泣きついても意味はありませんからね?」


「い、違反行為って……」


「外部生、それも奨学生を複数の人間で迫害したことだよ。ちゃんと入学式で渡された冊子に書かれていたはずだけど、読まなかったのかい?」


「そ、そんなの不公平ですわ! が、外部生だけ守られるなんて!」


「それについても、冊子に理由を明記していたはずですが、本当に読んでいないようですね。木賊先輩。そろそろ、よろしいですか?」


 木賊先輩にアイコンタクトを送ると彼女も呆れた顔で頷いてくれた。コレは私に対する呆れではなく、内部生の女性徒達に対するものだ。ちなみに、朽葉さん達は相変わらず固まっている。私は動画を見せていたスマートフォンを操作して目的の人物に連絡を入れる。相手は直ぐに出てくれた。


『こんにちは。雪城さん。貴女から電話してくれるなんて、何かあったの?』


「お昼休みに失礼します。実は違反者を数人見つけまして、柚木ゆずき先輩にお伝えすべきだと思い連絡いたしました」


『あら? そうなの!? 場所は――って、コッチで調べて風紀委員を向かわせるから、雪城さんは足止め頼める?』


「お任せ下さい」


『ありがとう!』


 ウキウキとした柚木先輩の声に苦笑を漏らすと、木賊先輩は溜め息をこぼしていた。付き合いが長いせいで柚木先輩の様子が手に取るように分かるんだろう。わざわざスピーカーモードにしてやっていたので、違反者達は顔面蒼白になっている。


「聞こえましたね? 今から、こちらに風紀委員の方々がいらっしゃいますので、大人しくしていて下さい」


 ニヤリと笑いながら言うと、違反者達はコクコクと頷いた。うん。素直なのは良いことだ。でも、これから生徒会室に戻るのは少し難しそうだな。凪ちゃんに電話するか。


「木賊先輩。遅くなりそうなので、なぎちゃんに電話してきてもいいですか?」


「ああ。かまわないよ。この子達は私が責任をもって見張っておくから」


「ありがとうございます」


 さっきまで隠れていた壁に行き、電話をかけることにする。しかし、何て説明しようかね。あまり、心配はかけたくないけど、柚木先輩に電話しちゃったしバレるのは時間の問題だよな。溜め息をこぼし意を決して電話をする。呼び出し音だけでドキドキするな。


瑠璃るりちゃん!』


「あっ。凪ちゃん。ごめんね。突然電話して」


『それはいいけど、どうしたの? まだ、戻ってこないの?』


「実は、ついさっき違反者見つけちゃって、風紀委員が来るまで待ってないといけなくて……」


『い、違反者って、瑠璃ちゃんは大丈夫なの!? 酷いことされてない!?』


 凪ちゃんの背後から何やら声が聞こえてくる。多分、生徒会役員の声だろう。一体、何に対する驚きなのか、少し気になるな。


「大丈夫だよ。相手は一年生の女の子達だし、木賊先輩もいるしね」


『えっ!? どうして、瑠璃ちゃんが木賊先輩と一緒にいるの!?』


「実は話したいって仰った人が木賊先輩だったんだよね。学園に関することかと思って行ったら、前に私が木賊先輩の好きな小説を読んでたのを見かけて、語り合いたかったから呼び出したんだって。何だか拍子抜けしちゃったよ」


『そうだったの。でも、そんなことで呼び出すなんて木賊先輩って意外と子供っぽいのね』


「うん。私もびっくりしたよ。まぁ。そういうわけだから、生徒会室まで戻る時間ないかも」


『分かったわ。アイツと2人で戻るのは正直に言って、あまりいい気はしないけど教室で瑠璃ちゃんの帰りを待つことにするわね』


「うん。ごめんね」


『いいのよ! 瑠璃ちゃんは何も悪くないんだから気にしないで!』


「ありがとう。それじゃあ。また。あとで」


『ええ』


 凪ちゃんとの電話を切り壁から出ると丁度風紀委員らしき人物が数人来ていた。流石、柚木先輩の部下達だ。仕事が速くて助かるな。


「ああ。雪城さん。電話は終わったかい? 水瀬みずせさんは何て?」


「水瀬君と一緒に先に教室に戻っておくそうですよ。帰りを待ってるって言ってくれました。……途中で鉢合わせしなければいいんですけど……」


「……そうだね」


 あえて「誰と」とは言わなかったが、木賊先輩にはちゃんと伝わったらしい。まぁ。私達の現状じゃ木賊先輩じゃなくても分かると思うが。

 その後、私と木賊先輩は動画だけ見せて解放されたが、違反者達と被害者の朽葉さんと割り込んだ刈安さんは風紀委員達に連れて行かれた。違反者達と朽葉さんだけじゃなく刈安さんも連れて行かれたのは、日頃の被害を確認するためらしい。これでまた私の異名は一段と有名になるんだろうな。


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