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石蕗学園物語  作者: 透華
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意外な事実 ある変人の被害者の回想

 私の名前は木賊晶とくさ あきら。何の変哲もない女子高生――と言いきりたいところだが、色々な面で大多数の女子高生と比べると「違っている」と自分自身で理解しているため言いきるのは躊躇われる。まず、周りと違うのは家がかなりの金持ち俗に言う上流階級に分類されるということだ。もっとも私は長女ではあるが、弟が跡取りとして存在するため、あまり権力はない。

 次に、そんな家の生まれでありながら、お嬢様らしくないというところだ。口調も仕草も男らしい。私も可愛らしいモノはそれなりに好きだが似合うかと言われると確実に似合わないと言いきれる。気がついた頃には剣道部でもフェンシング部でもないのに「石蕗つわぶきの騎士様」なんて異名がついていた。コレについては私自身の態度もそうだが幼なじみであり現恋人の篠原杏しのはら きょうのせいでもあると言えるだろう。

 最後に私は転生者であるということだ。記憶を取り戻したキッカケが杏に愛のポエム(私には鳥肌ものだった)で告白されたショックというのが、何とも言えず空しいが。しかも、急に頭に膨大な記憶が入り込んだことにより、無意識のうちに告白にOKを出していた。杏のことは好きだったが、あんなキッカケで付き合うことになったのは、ぶっちゃけ遺憾だ。

 まぁ。何はともあれ前世を思いだした私は今世と前世の違いに戸惑った。なんせ、前世は庶民も庶民、金持ちではないが貧乏でもない平凡な家庭で私と妹と両親の核家族だったのだ。家族仲も普通によく、友人もそれなりにいる本当に普通の生活だった。まぁ。高校二年の時に猫を助けようとして事故死したという点は普通とズレているかもしれないが。

 記憶を思い出した結果、今、生きている世界が妹のしていたゲーム“石蕗学園物語”と酷似しており、自分含む周囲がゲームのキャラクターだらけと認識した時の何とも言えない感覚は忘れられない。前世では画面上に居た存在がそこかしこに居て、鏡を見ても映るのは今世の自分の姿だったし。

 正直に言って、どうすればいいのか分からなくなった。ゲームについては妹に付き合ってコンプリートまでしたので、情報だけなら十二分にあったし、ゲーム開始時まで時間もあったが、このゲームは“男主人公”か“女主人公”かで攻略キャラもシナリオも大きく変わる。私が知っていたのは乙ゲーと呼ばれる“女主人公”編だけだったのだ。

 結局、誰にも話せず何も出来ないまま“女主人公”達が入学してくる年になってしまった。だが、その年の新入生に“男主人公”と“女主人公”のライバルである“悪役令嬢”そんな“悪役令嬢”を心身共に支える“悪役令嬢の取り巻き”は居たが、“女主人公”だけは存在しなかった。最初は名前が違うだけだと思ったが見つからなかった。完全にイレギュラーな状態だったのだ。

 その上、“男主人公”と“男女主人公”の攻略キャラは基本的に設定通りの性格と家柄だったが“悪役令嬢”の性格がゲームと全く違っていたのだ。まぁ。“悪役令嬢”が悪役令嬢になってしまったのには、ちゃんとした理由が存在したわけなので、その理由がなくなったんだろうと安心したんだが、その時にふと思ったのだ。私以外にも転生者が居るのではないか? と。

 可能性として、その時に私が考えたのは“悪役令嬢”自身が転生者ということだ。小説なんかでたまに「悪役令嬢にならないために頑張る物語」があったし。私自身もよく読んでいたからな。それなら、性格が違う理由も納得出来た。次は“男主人公”が転生者という点だ。ゲーム開始時に比べると、彼は早い時期から攻略キャラとの友好関係になっていたし。私が疑っていたのは、とりあえずは、この2人だけだった。

 だが、ある時期からそこにもう1人が加わった。それは“女主人公の取り巻き”であり、ルートによってはキーキャラクターになる女の子だ。彼女は“男主人公”と同じくゲームとそんなに変わっては見えなかった。大人しく、常に“悪役令嬢”の傍にいたからだ。成績優秀で学年首席だったのも奨学生として入学し“女主人公”が居ないならおかしくない位置だったし。まさか、一年間学年首席で居続け“女主人公”の立ち位置を奪うとは思って居なかったが。

 そんな“悪役令嬢の取り巻き”を疑いだしたのは、去年の二学期からだった。去年の二学期に起きた出来事は内部生が起こした問題であり、同じく内部生として位置付けられる私としては正直に言って思い出したくもないほど恥ずかしい出来事である。それはゲームの中で“悪役令嬢”が“悪役令嬢”となる理由の一端となっていた出来事だったわけだが、ゲーム内では恐らく何もしなかった“悪役令嬢の取り巻き”が、その事件を自分が中心となって行動し、その上、学園の二大統治組織の力を殆ど借りずに解決してしまったのだ。

 それ以来“悪役令嬢の取り巻き”には「石蕗の魔女」なんてゲーム内では呼ばれていなかった異名が付けられた。彼女の行動はいくら学年首席の人間であったとしても学生らしくない――それこそ、温室育ちのお坊ちゃんお嬢さんに恐怖を与えるほどの大人すぎる対応と知識を使ったモノだったのだ。

 話が少し逸れたが、私はその事件での彼女の対応をキッカケに彼女も転生者なのではないかと思うようになった。というより“男主人公”や“悪役令嬢”に影響を与えられる立ち位置にいた彼女が転生者の最有力候補となったわけだ。まぁ。今日、実際に話をして、違うかもしれないと感じたが。

 転生にタイプがあるのかもしれないが、私の場合は前世の記憶に関して、感情は受け継いでいない。ただ、記憶を思い出す時は前世の私の姿を映像で眺めているような感じだ。だからこそ、発狂せずにすんだのかもしれない。前世の私と今世の私は魂は同じであっても別人であり、全く違う人生を歩んでいたのだ。そんな記憶が感情込みで入って来ていたら脳のキャパをオーバーして廃人化していただろう。

 彼女――雪城ゆきしろさんも私と同じタイプだから、自然体だったのかもしれないが。何というか疑問点がぶれないし、私を疑い続けていた姿からして違うと感じたのだ。コレは雪城さん本人にも話したが、転生者だろうがなかろうが学園内で問題を起こさないでくれたらそれでいい。雪城さんが一年の時にやらかしたことは学園にとって「いいこと」だったからノーカンだし。

 そんな考えの私が雪城さんを呼び出したのは、“女主人公”が原因だった。“女主人公”を一目見たときから私は彼女を転生者だと思い込んでいたが、二年生である彼女達が、修学旅行に行った際に起きた出来事で、転生者ではなく一定条件下でのみ可能な憑依だと確信した。私はその考えを転生者だと睨んでいた誰かに話したくなったのだ。

 話をする相手は直ぐに雪城さんだと決めた。“男主人公”であるひいらぎが私とは一番距離が近い人間ではあったのだが、柊の場合は転生者でなかった場合が厄介だと思ったのだ。話の都合上どうしても、転生者として疑っている人間について言わなければならなくなる。水瀬みずせさんを例にあげるだけなら問題ないだろうが、雪城さんを例にあげた時点で、柊は暴走するだろう。例え例にあげなくても聡い柊は間違いなく察するしな。

 柊が雪城さんに執着に近い感情を持っていることも、その理由もゲームのシナリオで知っているが、現実でそれを知っている立場は非常に厄介なのだ。特に柊はそれをトップシークレットに位置付けているため知っていることが転生者ではない柊にバレた場合、何をされるか分からない危険性があった。

 次に“悪役令嬢”である水瀬さんとは接点が殆どなく「変な渾名で呼んでくる演劇部部長のお目付役」程度にしか思われていない。その状況で呼び出すとなると呼び出すだけでも一苦労だし、水瀬さんは生きてきた環境のせいか、かなり警戒心が強いので、私の呼び出しに応じてくれるとは思えなかった。何より、転生者でなかった場合、一番、私を「おかしな人間」として見る確率が高かったのだ。

 最終的に雪城さんを選んだのは、彼女とは部活の後輩を通して接触が可能だったし、接触する理由も幸いあった。後輩を通してなら水瀬さんとも接触をはかることは可能だったが、ソレをすると後輩が属する団体のトップである雪城さんにも間違いなく話がいくため、不信感を少しでも和らげるために雪城さんに直接話を持っていってもらった。雪城さんも警戒心は強いが「水瀬さんに害がない」のなら、割と柔軟に対応してくれる。

 結果として雪城さんに話すことに決めたのは正解だった。彼女は疑いつつも話を真摯に聞いてくれたし、会話もスムーズに進んだ。他の2人だったなら、こうはならなかっただろう。柊なら茶々を入れただろうし、水瀬さんならパニックだったかもしれない。雪城さんは落ち着きすぎるほど、落ち着いては居たが自分のスタンスを崩すことはなく、水瀬さん関連については非常に表情豊かだった。

 私はこれからも誰が転生者か疑いながら生きていくことになるだろうが、とりあえず“女主人公”だけはどうにかしたい。まぁ。恐らく彼女をどうにかしたいというのは私だけでなく学園内のほぼ全員が思っていることだろう。そう考えると少しだけ肩の荷が下りた気がする。それに、転生者関連については雪城さんという相談相手も出来たことだしね。

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