意外な事実 5
木賊先輩は過去を懐かしんでいたかと思うと急にハッとして時計を確認し始めた。もう、昼休みがはじまってから、かれこれ20分くらい経っているだろうか? 私も時計を確認すると、予想通りの時間だった。
「行儀が悪いけど、ここからは食事をとりながら話そうか」
「そうですね」
木賊先輩もお弁当を持って来ていたらしく、2人でお弁当を開けて手を合わせる。この光景って、他の人に見られたら変に思われそうだよな。ほとんど会話をしたことがない私達が向かい合ってご飯食べてるなんて。しかも、女子バスケットボール部の部室だし。
「えーっと。確か、私がゲームについて詳しい訳だったかな?」
「はい。前世の妹さんがお好きだったとか」
「うん。妹は俗に言うオタクでね。二次創作や乙ゲーが好きだった。しかも、ゲームは攻略法を見てでもコンプリートを目指すタイプだったから、私はそれにいつも付き合わされていたんだ。だから、よく覚えているんだよ」
「コンプリートですか。そういえば、シークレットキャラがどうとか仰ってましたね」
「ああ。シークレットキャラはダウンロード式だったけど、わざわざダウンロードして攻略していたね。まぁ。シークレットなだけあって、かなり難易度が高かったみたいだけど」
「難易度?」
「うん。難易度があったりするんだよね。“石蕗学園物語”は乙ゲーの中でも割と難易度が高いゲームだったらしいよ。他のゲームにあるような好感度を上げるアイテムとか能力値を上げるアイテムとかなかったし。その高難易度のゲームの中でも“烏羽要”と“男主人公”は攻略が最高難易度だったね」
「烏羽先生は性格的に何となく納得できますが、蒼依もですか?」
「まぁ。一応シークレットキャラだしね」
木賊先輩は何とも言えない顔を私に向けてきた。蒼依の難易度が高かった理由について、私は想像がついているのだが、木賊先輩としては理由が理由だし話しにくいんだろうな。ゲーム内と今では関係が変わってたりする可能性もあるわけだし。木賊先輩が転生者だと証明するために、ソレについて話さなかったのが、いい例だろう。まぁ。木賊先輩の場合、家柄的に本当なら身内以外が知らないような情報も調べられるという点を考えて話さなかったのかもしれないが。
「そういえば、妹さんがしてらしたのは乙女ゲームの方だけだったんですか?」
「そうだよ。「ギャルゲーには興味ない」って言ってたね。だから、正直に言って、私も困っているんだ。“男主人公”の立場である柊が特別委員会役員をほぼ攻略しているってことは此処はギャルゲー世界なのかもしれないし」
「乙女ゲームの世界とは違いがある可能性が高いってことですか? でも、ギャルゲー世界なら“女主人公”も攻略キャラになるわけですし、私達からしたら助かるんじゃないでしょうか?」
「そうなんだけど、この世界じゃ大丈夫だと言い切れない部分があるからね」
木賊先輩は複雑そうな顔で美味しそうな玉子焼きを食べている。彼女の懸念事項は分からなくもない。あまりにも、ゲームと違いすぎる人物もいるし、現状だってゲームとは違うのだ。私以上に情報を持っている彼女なら、その情報ゆえに私以上の戸惑いを感じているはずだろうし。
「そういえば、そういうゲームって大抵サポートキャラって居ませんでしたっけ?」
「このゲームには、いわゆるサポートキャラと言われる特定のキャラは存在しないんだ。ルートによって“男女主人公”の攻略キャラがサポートキャラみたいな立ち位置になったりはするけどね。まぁ。でも“男主人公”のサポートキャラは基本的に“水瀬颯”でほぼ固定されてたはずだよ」
「凪ちゃんは“悪役令嬢”って立場なのに、従兄弟の水瀬君はサポートキャラですか。いいご身分ですね」
思わず苦い顔をすると、木賊先輩は苦笑を浮かべた。ゲーム内の“水瀬凪”は確かに“悪役令嬢”だったかもしれないが、そうなってしまうような理由だって、ちゃんとあったはずなのだ。
「“悪役令嬢”である“水瀬凪”に関しては攻略ルートによって、全く見え方が変わってくるんだよ。……君もだけど」
「えっ? どういうことですか?」
「従兄弟である“水瀬颯”の攻略ルートや“烏羽要”“男主人公”の攻略ルートでは彼女の過去が明かされるんだ。それによって、彼等のルートをプレイしたプレイヤーと彼等のルートをプレイしなかったプレイヤーで、かなり評価が分かれるね」
「水瀬君は分かりますけど、烏羽先生と蒼依のルートで過去が分かるのは、どうしてなんですか?」
「あー。…………驚くかもしれないんだけどね。その2人のルートのキーキャラクターは君なんだ」
「えっ? 私!?」
なんとなく、その可能性はあるかもしれないと思ってはいた。私自身が彼等と関わりがあったからだ。でも、まさか、“雪城瑠璃”もあの2人と関わりがあるとはな。モブキャラに近い存在だったから正直言ってかなり可能性は低いと思っていた。というか主要キャラ3人と近い距離に居るって、もうモブキャラじゃなくないか?
「そう。君だ。君と水瀬さんは小学生からの付き合いだよね? ゲーム内でも関係は違えど、君達は小学生からの付き合いで、もちろん“水瀬凪”の過去も知っていたんだ」
「それで、ゲームの“雪城瑠璃”は“水瀬凪”の過去を話したってことですか? “水瀬凪”に許可なく、そんなことをしたんだとしたら私は“雪城瑠璃”を軽蔑しますね」
嘲笑混じりにそう言うと、木賊先輩は目を見開いて私を見た。そういえば、この人の前でこんな態度をするのは初めてだったかもしれない。でも、これは嘘偽りない私の本音だ。私は“雪城瑠璃”が、もし、そんな人間だったなら、彼女の意識があったとしても受け入れられなかっただろう。
「……君は本当に水瀬さんが好きなんだね。ゲーム内の“水瀬凪”が不当に扱われることが許せないくらいだとは思っていなかったよ」
「いくら、ゲームといえど凪ちゃんと同姓同名のキャラクターですからね。多少は感情移入しますよ」
「そうか。君は“雪城瑠璃”が“烏羽要”と“男主人公”のキーキャラクターだったことより、そっちが気になるんだね?」
「ゲーム内での関係がどんなモノであっても、私にまでソレが当てはまるとは限りませんよ」
「まぁ。確かに、ね」
木賊先輩は考え込むような仕草を見せた。おそらく私が転生者かいなか考えているんだろう。別にどちらだと判断されても私はかまわない。邪魔さえしないでくれるならな。
「木賊先輩。そろそろ、部室を出ませんか? 私、凪ちゃんを待たせているので、一度生徒会室に戻らないといけないんです」
「えっ。ああ。ごめんね。気が回らなくて。此処から生徒会室までは結構、距離があるんだっけ」
「はい。結構ありますよね。私は部室棟なんてほとんど来たことがなかったので驚きましたよ」
「まぁ。この学園は無駄に広いからね。前世の記憶を取り戻した時は自分がいかに恵まれた環境に居たのか心底分かったよ」
「もしかして、木賊先輩の前世って一般庶民だったんですか?」
「ああ。そうだったみたいだね。私の場合、前世の記憶が戻ったと言っても知識が増えただけって感じだったから、あまり変化がなかった分まだマシだったかもしれない」
知識が増えただけってことは、前世と現世を切り離して世界を生きているということか。現世を飲み込んだ私とは違うタイプの転生者ってわけだな。やっぱり、人それぞれ転生にもタイプがあったりするのか。
「そうだ。雪城さん。連絡先を教えてもらってもかまわないかな?」
「連絡先ですか?」
「ああ。これから先、何があるか分からないからね。今までの桃園さんは、あまりゲームの情報を知っている感じじゃなかったけど、一度“女主人公”が出てきたことで何か変化があったかもしれないし、いざという時に連絡をとれるようにしておきたいんだ」
「いざという時と言いますと?」
「桃園さんがゲームの情報を元にして誰かを攻略しようとし始めた時とかね」
「あー。例えば、桃園さんの立場じゃ知らないようなトラウマを包み込む言葉で話しかけたりですか?」
「そうそう。そんな感じ。しかし、雪城さんはそういうことに詳しいね」
「ライトノベルとかで、そういう設定の話とか、たまに読みますから。でも、私達がお互いの連絡先を知ってるって、おかしいと思われませんか? 私、それなりに親しい深尋先輩とも連絡先交換してないんですが……」
「えっ? そうなのかい?」
「はい。今は学園支給のスマートフォンの連絡先は知ってますけど」
「そうか。困ったな。確か深尋ちゃんとは趣味があって仲がいいんだよね?」
「はい。そうです。手芸とか読書とか」
「うーん。……じゃあ「私が今ハマっている作品を雪城さんが読んでいるのをたまたま見かけて作品について語り合いたいと思った私が半ば強引に連絡先を交換させた」ということにしよう。誰かに聞かれたら、こう答えてくれたらいいよ」
「でも、木賊先輩って、そんな強引なイメージないですよ? それに、ハマっている作品も決めなきゃいけませんし」
「今、丁度、推理小説にハマっていてね。そのことは杏達には話しているし。私はコレでも強引なタイプだって知っている人間は知っているから大丈夫だよ」
「じゃあ。私もその小説買った方がいいですか?」
「いや。雪城さんは既に持っているはずだよ。「探偵少女シリーズ」さっき言ったことは「作品について」語り合うという点を除けば事実だからね」
意外と用意周到で驚いたな。呼び出す前から、いざという時のための言い訳を考えていたわけか。確かに、私は「探偵少女シリーズ」をたまに読んでいるし、嘘にはならないな。まぁ。仕方がないし、メリットもなくはないから「万寿菊の会」の会員達に教えているのと同じメールアドレスを教えるかね。




