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石蕗学園物語  作者: 透華
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意外な事実 4

「いきなり呼び出して悪かったね」


「いいえ。気にしないで下さい」


「ありがとう」


「それより、私と話したいって、何かあったんですか?」


「いや……」


 木賊とくさ先輩は落ち着かない様子で、目をさまよわせたり、指を動かしたりしている。そんなに言い難いことなんだろうか? 木賊先輩は後ろ暗いことをするような人ではないし。理由が全く分からないな。


雪城ゆきしろさん。驚かずに聞いて欲しいんだけど」


「はい」


「君は転生を信じるかい?」


「はい?」


 木賊先輩から、そんな言葉が出てくるとは思わなかった。まさか、私が転生者だと気づかれたのか? いや。そうだとしたら木賊先輩も転生者ということになる。


「信じられないかもしれないけど、この世界は“石蕗つわぶき学園物語”というゲームの世界なんだよ」


「にわかには信じられませんが……どうして、そう言い切れるんですか?」


「私が“石蕗学園物語”というゲームがあった世界からの転生者だからだよ。まぁ。記憶を取り戻したのは、結構最近なんだ。中学できょうに告白された時だったからね」


「そう……ですか……」


 やっぱり転生者か。だが、言い方的に私が転生者だとは気づいていないのか? それなら、どうして私にこんな話をするんだ?しかし、篠原しのはら杏に告白されたことをキッカケに思い出すとか、そういうケースもあるんだな。


「驚いたよね……まず雪城さんに話す理由から説明すべきだと思うんだけど、それにはゲームの説明からしなくてはならないんだ。それでもいいかな?」


「かまいません」


「ありがとう。“石蕗学園物語”は乙ゲーとギャルゲーが一緒になったゲームなんだ。“女主人公”を選べば乙ゲーに“男主人公”を選べばギャルゲーになるわけなんだけど……そうそう。シークレットキャラとして“男主人公”を選んでも“女主人公”が出て来るし、逆もしかりなんだよね。あっ。乙ゲーやギャルゲーの意味は分かるかな?」


「はい。聞いたことがありますから」


「そうか。それで、雪城さんを呼びだした理由は、ゲームの“男主人公”と“悪役令嬢”に関係があるんだよ」


「“悪役令嬢”って、桃園ももぞのさんがなぎちゃんについて話すときに使っている呼び名ですよね」


「そうなんだ。本来、君の親友である“水瀬みずせ凪”は“悪役令嬢”として“女主人公”である“桃園姫花ひめか”を虐める人間なんだよ」


「凪ちゃんが!? 凪ちゃんが“悪役令嬢”なんて有り得ませんよ! って、ちょっと待って下さい! そのゲーム内の呼び方で凪ちゃんを呼ぶってことは桃園さんも……」


 少し、わざとらしいと思ったが、とりあえず叫んでおく。普段の私の様子を知っているなら、おかしな反応ではないはずだ。現に木賊先輩は私を怪訝そうな顔で見てはいないし。


「おそらく、私と同じ転生者だね。ただ、彼女と私の場合、少し状態が違うようだけど……とりあえず、それは、一旦置いておくよ。“悪役令嬢”が“水瀬凪”だってことは話したけど“男主人公”は君とも親しい“柊蒼依ひいらぎ あおい”なんだ」


「蒼依がギャルゲーの主人公……確かに蒼依はハーレム築いてますけど……」


「ああ。でも、柊がハーレムを作り始めた時期は本来ゲームが始まるよりも、かなり早い時期なんだよ」


「早い?」


「ああ。本当なら、“男主人公”“女主人公”共にゲーム開始時期は高校二年の始業式なんだ」


「蒼依って、ずっと可愛い女の子達に囲まれていた記憶があるんですが……」


「あぁ。ごめん。説明が足りていなかったね“男主人公”の攻略対象者は主に特別委員会の現役員達なんだよ」


「そういえば、柚木ゆずき先輩とかと仲良くなりだしたのは、一年の後半くらいからでしたっけ?」


「そうなんだ。ゲーム開始時期と比べると、かなり早いだろう?」


「確かに早いですね。あの。ところで、そろそろ私に話をしたいと仰った理由について、お聞かせいただきたいんですが」


 木賊先輩には失礼だろうが、私が既に知っている情報しか与えられないなら、話を聞く時間は無駄なだけだしな。


「私は柊か水瀬さんか君が私と同じ転生者だと思っていたんだ。君達3人――“女主人公”である桃園さんを含めて4人はゲームとかなり違っているからね」


「ゲームと違う? って、私も登場キャラだったんですね……」


「自分がゲームの中の存在なんて変な感じだろう? まぁ。とにかく、順を追って説明するよ。まず、柊を疑った理由は攻略の早さだ。性格はゲームとあまり違いはないようだけど、ゲームでは一年かけて攻略する人間達をゲーム開始前から殆ど攻略状態なんて何らかの知識がないとおかしいと思ったんだ。次に水瀬さんだけど、彼女は立場以外が殆ど違う。特に性格がゲームとはかけ離れているんだよ。だから、彼女が転生者で、意識的に自分をゲーム内の“悪役令嬢”と全く違う人間にしたんだと思った。最後に君はその2人の関係者であり、本来の“女主人公”の立ち位置に存在する上、ゲームと違う行動を幾つもとっている。君はゲーム内では殆どモブキャラに近かったから違和感が凄くてね」


 苦笑する木賊先輩は今は私達が転生者だとは思っていないのかもしれない。


「そうなんですね……今も、その、私達が転生者だと?」


「ごめんね」


 木賊先輩は眉を下げて謝罪してくれたが、そりゃそうだろうと思うので、別に不快に思ったりはしない。私達3人はゲームを知っている人間からしたら異質だと感じて当然だ。


「気にしないで下さい。私も木賊先輩の話を受け入れられていませんし……」


「ありがとう。君の言うことはごもっともだと思うよ。私だって自分が転生者じゃなければ信じられなかったと思うからね。そうそう。転生者だと思っている人間の中で君を選んだのは、君が一番話を聞いてくれそうだったからなんだ」


「あー。確かに、蒼依はちゃかしそうですし、凪ちゃんは感情的になりそうですもんね」


「そうなんだよ。君なら私の話を転生者であってもなくても聞いてくれると思ったんだ」


「そんなに評価していただけているとは、ありがたいですね。ところで、さっき木賊先輩は私が“女主人公”の立ち位置を乗っ取ったと言ってらっしゃいましたが、どういう意味なんですか? もしかして、私は本当なら凪ちゃんの親友じゃなかったとか?」


「いや。君の立ち位置は“悪役令嬢の取り巻き”だったから、水瀬さんの近くには居たよ。ただ、今のように親しい関係ではなかったようだけどね。乗っ取ったというのは生徒会補佐の立場だよ」


「あれ? でも、桃園さんって転校生ですよね?」


「それも、おかしな点だね。ゲームが始まるのは二年からだけど、一年から在籍していたことにはなっていたんだ。この世界は色々とズレているんだよ」


「それって、桃園さんは、おかしいと感じていないんでしょうか?」


「それが、分からないんだよ。彼女の性格上おかしいと感じているなら君に突っかかりそうだけど、今まで君に対して何かしたことはないだろう?」


「そう、ですね。私は何もされたことはないです。そういえば、木賊先輩はどうして今、私にこんな話を? 先輩は以前から私達が転生者なんじゃないかって疑ってらしたんですよね?」


「話そうと思ったキッカケは、元に戻った桃園さんと蓬生ほうしょうの電話での会話だったんだよ。蓬生はスピーカーモードで彼女と話をしていた。彼女は私が知っている“女主人公”だった。……本当のことを言うなら、別に君達が転生者じゃなくても転生者でもかまわないんだ。ただ、この学園が平穏であるならね。でも、今の桃園姫花は異常だ。あの女は“女主人公”を本当の意味で乗っ取っている。君のように立場を乗っ取ったという意味じゃなくね」


「桃園さんが“女主人公”を乗っ取ってる?」


「さっき、私は転生者について話したけど、恐らく桃園さんの場合は違う。あれは憑依というモノなんじゃないかと私は思っているんだ」


「憑依と転生って何が違うんですか?」


「魂が二つか一つの違いだろうね。人格が二つか一つと言った方が分かりやすいかな? そうそう。確か、桃園さんは京都に行って、元の性格――“女主人公”に戻ったんだよね?」


「はい。私はそう伺ってますが……」


「コレは私の仮説なんだけど、桃園さんが“女主人公”に憑依出来るのは“石蕗学園物語”に出てきた場所だけなんじゃないかと思っているんだ」


「ゲーム内?」


 なるほどな。やっぱり。そんな感じか。私の記憶でも京都は一度もゲーム内で出て来ていなかったし。木賊先輩も同じような考えだったわけか。


「そう。京都はゲーム内には一切出ないんだ。確か、はじめて“女主人公”がおかしくなったのは石蕗学園に来た後だよね? ルートによって違いはあるけど、家、学園、病院はどれもゲーム内で出てくる場所なんだ」


「でも、転校前の学校は存在しないんじゃ?」


「高校というくくりなら当てはまるよ。修学旅行は本来ゲームならパリに行って、ホテルに泊まっていた。でも、今回は京都に行って旅館に泊まった。結果、“女主人公”の人格が表に出てこられたんだと思う」


「なるほど。ということは、そのゲーム内に登場しない場所なら、桃園さんは元の桃園さんに戻る可能性が高いってことですね」


「そういうことになるかな。あくまで推測だけど」


 ゲーム内で出てきた場所って他にはどこがあるんだ? 学園内は確実にアウト、家もアウト、病院もアウトとなると、クソ女を何とかしないと桃園姫花は一生安心して暮らせなくなるよな。旅館を転々とするとかしない限り。


「そういえば、木賊先輩はゲーム内にドコが出て来てドコが出て来ないか知っているんですか?」


「大体はね。私はゲームをしていたわけではないけど、妹が好きだったから」


 どこか懐かしそうな顔をする木賊先輩に何とも言えない気分になる。私は“ワタシ”の頃を懐かしんで穏やかな気分になることなんて、ほとんどないけど、木賊先輩は幸せな前世だったんだろうか? もしも、そうなら彼女は過去を思い出した時、どんな気持ちになったんだろうな。

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