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石蕗学園物語  作者: 透華
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意外な事実 2

 楠木くすのきさんのメールにはクソ女が更に暴走していることが書かれていた。曰わく「桃園ももぞのさんが少しはマトモになったのかもしれないとほんの少しでも期待した私が馬鹿でした。彼女は修学旅行中に課題をかなり片付け、修学旅行中、常に若竹わかたけ先生が傍についていたせいで、若竹先生へのつきまといが悪化しています。今朝様子を見に来た若竹先生に対して、ベッタリと腕に抱き付き、はしたなくも今まで以上に体を密着させ、若竹先生が拒んでも一切聞く耳を持ちません。課題が減り負担が少なくなったこともあり、以前よりも動きが活発になるかもしれませんのでご注意下さい」とのことだった。そこまでは予想通りすぎる内容だったのだが、問題はそれ以降だ。

 楠木さんは私にある人が会いたがっていると教えてきた。出来れば今日の昼休みにでも、時間が欲しいらしい。随分と急な話だ。楠木さんはその人と同じ部活だから、橋渡し役になるのはおかしくないが、何故、その人が、私に接触したがるのかは分からない。しかも、今というタイミングで時間をとろうとするとは思わなかった。だが、あの人なら会っても悪いことにはならないだろうから、会ってみてもいいかもしれない。面識はあるが、ちゃんと会話らしい会話はしたことがないし。


瑠璃るりちゃん。何か変なことでも書かれてたの?」


「ううん。桃園さんが更に暴走する危険があるってことと若竹先生に前以上にベッタリになったってことくらいだよ。あと、昼休みにちょっとした用事が出来ちゃった」


「用事って、どんな?」


「んー。たいしたことじゃないけど、人と会うことになったんだよね。だから、昼休みは途中でぬけることになると思う」


「そうなんだ……変な人ではないんだよね?」


「楠木さんが私に会わせる人だし、大丈夫だよ」


「じゃあ。修学旅行の思い出話は放課後まで待ってもらおうか」


 水瀬みずせが悪戯っぽく肩をすくめて笑う姿に凪ちゃんの心配そうな顔が呆れ顔に変わった。水瀬もたまには役に立つな。少しは凪ちゃんに対する理解が深まったらしい。進歩したと喜ぶべきなのか、やっと少しは学んだのかと呆れるべきなのか悩むな。そうそう。私が凪ちゃんに会う相手について言わなかったのは、私とその人にたいした接点がないからだ。何故会うのか追究されても答えられない以上、相手自体をぼかした方が楽だし心配もかけずにすむだろう。


「3人とも、おはよー。あっ。そうはカツサンド奢ってくれよな」


「分かっているよ。はい。5千円だよ。これで、買ってくれるかい?」


「サンキュー。そうだ。修学旅行中の写真現像してきたぞ。それぞれ人数分焼き増ししてるから、欲しいのがかぶっても問題なし」


「ありがとう。蒼依! あとで見せてね!」


「うん。ちゃんと見せるし、写真もあげるよ」


 さらっと5千円なんて大金を蒼依あおいに渡す水瀬のことは気にしないことにする。金銭感覚の違いはよく分かったし。とりあえず、今は写真が欲しい。というか、写真が見たい。写真をもらっても困らないように凪ちゃんとのツーショット写真を飾るための写真立てを日曜日に買ってきておいたのだ。コレで私の家は華やかになるだろう。たかだか写真一枚と笑うことなかれ、被写体が凪ちゃんというだけで、素晴らしいのだ。


「そういえば、私も写真持ってきたから後で渡すね」


「ああ。雪城さんもデジカメで写真撮ってたもんね」


「そういやそうだな。何で?」


「自分で撮って残しておきたいモノがあったし。それに、蒼依は私達を撮るばっかりで、自分の写真ないでしょ? 少しくらいは、蒼依の写真もないと不公平だし。まぁ。写真の出来は蒼依と比べると月とすっぽんだろうけど、そこら辺は甘く見てね」


「流石、瑠璃ちゃんね! こんなヤツのことを気にかけるなんて、なんて優しいの!」


「そこまで考えがいたらなかった僕が言うのもなんだけど。それは、そんなに感動することなのかい?」


「瑠璃さんを褒めるのはいいけど、サラリと俺を貶すのやめろよ……。まぁ。何はともあれ、ありがとな。瑠璃さん。父さんにも「蒼依の写真はないのか?」って言われちまって、ちょっと困ってたんだよ」


 本当に蒼依は父親に弱いよな。私とは似ても似つかない。こういう人間らしいところに皆ひかれるんだろうか? ああ。でも、こんなこと別にどうでもいいことだったな。とりあえず、これで借りが一つ返せたと考えることにしよう。凪ちゃんに褒めてもらえたし、私にしてみればお釣りが出たわけだが。


「そろそろ。HRがはじまるな。そういや、若竹わかたけ先生かなりまいってるって話を聞いたけど大丈夫かねー?」


「私はよく知らないけど、幸い今日は若竹先生の授業があるし、ちゃんと自分の目で確認出来るんじゃない?」


「それもそうか。そんじゃ。俺はそろそろ自分の席に行くね」


「うん。また後で」


 自分の席に向かう蒼依を見送って、私達も席に着く。今日のHRではレポート提出があるため、いつもより始まる時間が早いのだ。先生は職員室まで持って行く必要もあるし、その分も考慮した時間配分なんだろう。守山もりやま先生なんて職員室に戻るまで確実に時間かかるしな。1人数枚レポートを書いているので、1人で持つのは大変だからクラス委員も手伝わなきゃいけないし。


* * * * * *


 レポート提出は有能なクラス委員のおかげで非常にスムーズに行われた。今は男女のクラス委員が守山先生と一緒に職員室にレポートを持っていってくれている。本当に良く出来たクラス委員達だと思う。私達は彼等の力でかなり楽が出来ているからな。人選は間違っていなかったようだ。何か困っていたら一度くらいは助けてあげようかな。あくまで、私が助けられる範囲で、凪ちゃんに害がない場合だけど。


「あっ。ちょ、ちょっと、蒼依。君、いつの間に、こんな写真撮ったんだい!?」


「いやぁ。我ながらいい写真が撮れたと思うよ。サンキュー。颯」


「凪ちゃん。ツーショットの写真だよ!」


「本当! 浴衣姿の瑠璃ちゃんとツーショットの写真なんて滅多に撮れるものじゃないから貴重ね。家宝にするわ!」


「私も家宝にするよ!」


「いや。ちょっと待って。そこ2人。何か言動がおかしくない?」


「「えっ? 何が?」」


「なんだろう。この最近よく感じてる言いようのない感覚は……」


「まぁ。蒼依が撮った写真を大切にしてくれるんだと思えばいいんじゃないかな?」


「ああ。うん。そうだな。そうするわ」


 何を男2人でブツブツ言ってるんだか。分からんヤツラだ。チラリと水瀬が叫んでいた写真を見てみると水瀬が真剣な顔で和ろうそくに壊滅的な絵を描いている瞬間だった。流石、写真部部長、驚愕し、笑いながらもシャッターチャンスは逃さなかったんだな。ちゃんと絵の部分までキッチリ写っているじゃないか。コレは確実に生徒会室でネタに出来る写真だろうな。


「4人とも、はしゃぐのは構わないが、そろそろ席につきたまえ。もう少しで授業の時間だ」


「「「「あっ」」」」


 気づいたら教卓に烏羽からすば先生が立っていた。時計を見ると、あと2分で授業が始まる時間だ。私達は大急ぎで写真を片付けて、授業に参加する姿勢をとった。幸い烏羽先生は咎める気は一切なかったらしい。あのまま授業時間になっていたら、ちょっと違反にはなってしまっていたので、警告しただけのようだ。気が利くな烏羽先生。顔を窺ってみると、窶れているようには見えないから、クソ女も烏羽先生には、そこまでベッタリというわけではないんだろうか?

 いや。烏羽先生にはベッタリ出来ないんだろうな。この人は腕にひっつかれたりする前に離れるタイプだし。そもそも、ひっつかれるような隙が存在しないんだろう。学園で烏羽先生に抱きつこうと思ったら、気配を消して四方を取り囲んで、やっと出来るか出来ないかって感じか。自分で想像しといてなんだけど、かなり複雑だな。

 家に居る時のかなめさんはリラックスモードだから、簡単に抱きつかせてもらえるだろうけど。私は要さんに抱きつきたいとか思ったことないから分からないな。というか、この年頃の女子が、必要以上に男性にひっつくという行為に抵抗があるのだ。“ワタシ”は、そういうことに厳しい性格だったからな。

 金持ち学園だけあって、たまに帰国子女の人間がいるが、この学園はどちらかというと“ワタシ”タイプの考えの人間が多いので、戸惑うことになるらしい。海外じゃキスやハグは挨拶代わりだったりするらしいから無理もないが。ただ「郷に入っては郷に従え」と諭され、挨拶代わりの行動をする度に指摘されるので、直ぐにとけこめるようになるそうだ。

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