意外な事実 1
修学旅行から帰ってきて土、日とゆっくり休むことが出来たが、またクソ女と同じ学園で過ごすと思うと複雑な気分になる。若竹先生の親切に対する自分に気があるという勘違いが強まるだけなら被害が若竹先生だけですむからいいんだが、ゲーム設定などの記憶を今まで以上に思い出されたとしたら厄介だ。
“女主人公”の立ち位置の変化に気付いたら間違いなく、その立ち位置にいる私に絡んでくるしな。凪ちゃんに迷惑をかけるのは嫌だし、どうしようか? 私だけならスルーするのは簡単なんだが、あのクソ女のことだ。凪ちゃんが無理を言って私を生徒会補佐にしたとか言い出しそうだよな。何か、想像するだけで腹が立つ。とりあえず、クソ女に喧嘩売られたら記録残しておくか。
なんて思いながら、今日も今日とて凪ちゃんの言葉に甘え優雅な登校をさせていただき、まず教室――ではなく生徒会室に呼び出された。理由は恐らく蒼依が帰りに言っていたことだろう。水瀬が始終落ち着かない様子だったのが気になったが、ぶっちゃけ今は些細なことなので、放っておいた。凪ちゃんもスルーしてたし。
私と凪ちゃんは今日から早速お揃いのペンケースを使うことにしていたので、リムジンでは殆どが、それに関する話だった。そうそう私の家の食器棚は凪ちゃん達のグラスのおかげでかなりカラフルになり、見る度になんだか笑ってしまうのだ。まだ、誰も使ってはいないが、多分そう遠くない未来に使うことになるだろうな。私もそのいつかのために、まだ使ってないし。
「5日ぶりだな。お前達」
「颯君。凪ちゃん。瑠璃ちゃん。お帰りなさい!」
「せ、先輩達が帰ってきてくれた!」
「浅葱。よかったねー」
いつもと変わらず、微妙に偉そうな会長にちょっとテンションが高い茜先輩はいいが、龍崎は一体何があったんだろうか? なんというか感極まって泣きそうな雰囲気なんだが。橘も生暖かい目で龍崎を見ているし、私達がいない間に生徒会では何が起きたんだ?
「颯君。2人にちゃんとアレ渡せた?」
「アレ?」
「アレって何ですか?」
「やだわ。2人とも忘れちゃったの? あなた達賭けをしたんでしょ? それで、颯君は2人にチョコレートあげることになったんじゃなかったの?」
そういえば、そんなことをしていたな。ひたすらクソ女対策を考えていたせいで、すっかり忘れていた。しかし、水瀬は蒼依の言う通りに茜先輩に相談したのか。律儀なヤツだな。凪ちゃんも同じく忘れていたらしく「そんなことあったわね」とでも言いたげな顔をしている。凪ちゃん。ほんの少しだけ水瀬にも関心を持ってあげて。
「そうでしたね。コンビニで売ってるようなチョコレートでしたっけ?」
「そうそう。もう。本当に何事かとビックリしたわよ。颯君から「コンビニで売っているチョコレートについて教えて下さい」ってメールが来たときは」
「あんた。本当にメールしたのね……」
「僕が知っている限りコンビニに行ったことが有りそうなのは、凪と蒼依と雪城さんと茜先輩の4人で、その内、3人に聞けないなら失礼だと思ったけど茜先輩に聞くしかないじゃないか」
「まぁ。そうだね」
「しかし、お前達が賭事とはな内容は何だったんだ?」
「あっ。僕も知りたーい!」
「お、俺も知りたいです」
「僕は賭事をする気はなかったんですけどね……」
「皆さん、もうご存じだと思いますが、桃園さんが、人格交代を起こしてたんですよね」
「それで、コッチに着いたときに、電波に戻ってるかマトモなままかで賭けをしたわけ」
「違うだろう。凪。僕が口にした願望に対して、蒼依が賭をするって言い出して凪も乗り気だったから賭事に発展したんじゃないか」
「あら? それは、ご愁傷様ね。まぁ。でも、そのおかげで社会勉強も出来たんだし、よかったじゃない」
「はぁ。それは、そうですが……」
「あれ? さっきの話だと瑠璃先輩は賭事に参加してなかったんじゃないの?」
「瑠璃ちゃんだけ仲間外れにするわけないじゃない!」
「って、ことは雪城先輩も巻き込まれた、んすか?」
「悪い言い方をすれば、そうなるけど、何だかんだで私も最終的には参加したし。というか、水瀬君がコンビニに行かなきゃいけなくなったのは、私のせいって言うか……」
「瑠璃ちゃんは悪くないわよ! ただの学生のちょっとした賭事でゴデ○バのチョコレートを渡そうとするコイツの金銭感覚がおかしいだけよ!」
「「「「え?」」」」
「凪ちゃん。多分ここにいる人達は水瀬と同じ感覚の持ち主だから」
「これだから金持ちは!」
凪ちゃんの叫びに気まずそうに顔を背ける生徒会役員に笑いそうになる。茜先輩以外は現在進行形でお屋敷やらお城やらに住むお坊ちゃんだし、茜先輩も一人暮らしでコンビニやスーパーに行く機会はあっても普通の学生生活なんてものは内部生だから知らなくて当然だろう。一番は家庭環境だろうが、学校は学生の常識や考えにかなり影響を与えるモノだ。今まで、一般庶民とそこまで関わったことがなかった彼らに私と凪ちゃんの「普通」が通じるわけがない。
「何をしているのだね?」
「あっ。烏羽先生。おはようございます。それは例のお土産ですよね?」
「ああ。そうだ。昼にでも食べればいいと思ったのだが、人目につかぬうちに持ってきた方がいいと思ったのでね。それで、何をしていたのかね?」
「ああ。何ていうんでしょうね。お互いの価値観の相違に驚いていたんですよ」
「ふむ。君達ならば、有り得ないことではないだろうな。ところで副会長の水瀬。コンビニには行けたのかね?」
「えっ? どうして、それを?」
「矢霧に相談されたのでね」
「茜先輩……」
「だって、今までコンビニに一切興味を示さなかった颯君にあんな相談されたのよ! 誰だって、混乱するわよ」
「……そうですよね。何か、すみません」
茜先輩、さっきは割と冗談っぽく言ってたのに烏羽先生に相談するほど混乱してたのか。相談された烏羽先生も困っただろうな。別に私達は悪くないが、申し訳ない気分にはなる。いや。私達が悪いのか?
「と、とりあえず、凪と雪城さんには、コレとコレね。中身は二つとも同じだから」
「ありがとう。水瀬君。でも、何で、ご丁寧に包装されてるの?」
「えっ? 女性にモノを渡すときは包装するものだろう?」
「コレって、絶対に包装紙とリボンの方が中身より高いわよね」
「開けていいのか、戸惑うね」
「全くだわ」
水瀬が私と凪ちゃんに渡したのは、綺麗に包装された長方形のモノだった。中身がチョコレートということを考えるとバレンタインに本命に渡すチョコレートが浮かぶくらいに丁寧に包装され可愛らしいリボンまでついているのだ。多分、包装は家でしてもらったんだろうが、コンビニに売ってる安いチョコレートを包装してくれと頼まれた使用人さんに少し同情する。
* * * * * *
生徒会室から教室に移動する時にたまたま女たらし先輩を見かけた。いつも煌びやかな雰囲気で女生徒を数人侍らせている女たらし先輩は、今日に限っては1人でたそがれていた。顔はよく見えなかったが、どんよりとした空気が漂っていた気がする。蓬生家の人間は多分、皆あんな感じなんだろうな。彼らからしたら天国から地獄だっただろうし。もしくは泡沫の夢だろうか?
実際に桃園姫花と電話越しとはいえ会話したということもあって女たらし先輩のダメージは他の親族と比べてもかなり大きいだろうな。あと、クソ女の母親も。戻ったクソ女とは遭遇していないが、学園一の女たらしという異名がつくような人間をあそこまで憔悴させるとは、クソ女は早速何かしらやらかしたのかもしれない。
若しくは、まだ何もしていないが、戻ったと思っていたら、また電波になって帰ってきたことに対する希望と現実の落差にショックを受けたかのどちらかかな。まぁ。女たらし先輩のことは、あまり気にしなくていいか。別に攻略キャラじゃないし、凪ちゃんに近しい人間でもないし。クソ女に煽られるか何かして女たらし先輩が喧嘩売ってきても女たらし先輩ぐらいなら返り討ちにするのは容易だしな。
二年の教室がある廊下まで来ると少し騒がしかった。話の内容を聞く限りクソ女関連っぽいな。そういえば、一組の人間はクソ女が桃園姫花に戻ったと知っていてもおかしくないんだもんな。それが噂になっているのかもしれない。
「やっぱり。桃園さんのことは噂になっているようだね」
「まぁ。第一発見者は一組の人間でしょうしね。あんなの見たら人に話したくなる気持ちも分かるわ」
「そうだね。って、メールだ」
「誰からか聞いていい?」
「楠木さんみたい。修学旅行中は何もなかったみたいだけど、どうかしたのかな?」
「一応教室に入ってから見てみたら?」
「そうする」
楠木さんからのメールを見るために教室に急いで向かう。楠木さんからのメールは、ほとんどの場合、クソ女についてだ。私と彼女はあくまで「万寿菊の会」の会長と会員なので私的な話は全くと言っていいほどない。ということは、私達にとって、それなりに大切な内容なんだろうしね。




