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石蕗学園物語  作者: 透華
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修学旅行 8

「皆さんお上手ですね」


「「ありがとうございます」」


「織物って初めてやったけど、意外と楽しいんだね。計画にいれておいてよかったよ」


「そうだな。普段はする機会ないし、貴重な体験ってヤツか」


 西陣織り体験は意外とスムーズに進んだ。織物って興味はあったけど、実際にしたことはなかったから、今回体験出来て、よかった。そして、やっぱり水瀬みずせの壊滅的な腕前は絵に対してだけ発揮されるらしく、西陣織り体験の時は非常に美しい仕上がりのモノを作り出していた。こんなに、そつなく何でも出来るヤツが絵だけ壊滅的なんて誰も思わないだろうな。ファンが知ったらどうなるのか少しだけ気になったが、バラしても意味がないのでやめておくことにする。

 この後には、昼食を食べて旅館に戻り帰るだけだ。その間、桃園姫花ももぞの ひめかがクソ女に戻るかどうかが今後の行動を決める大きな鍵になるだろう。ただ、なんとなく戻る可能性の方が高いんだろうなとは思っている。記憶云々の話を聞く限り主導権はクソ女側にある気がするし。


「そういえば、菖蒲あやめ先生に聞いたんだけどさ。今の転校生と前の電波には理解力にかなりの差があるらしいな」


「どういう意味?」


「学力が全然違うんだと。電波の方は、真面目に授業受けねぇし、若竹先生の説明もろくに聞かないから、課題の進みが滅茶苦茶遅かったけど、今の転校生は普通に頭いいらしい。課題もさくさく進めてるんだと」


「何か本当に別人のようだね」


「ああ。教師の言うことは、ちゃんと聞くし。おかしな妄想癖もない。普通の女子高生だそうだ」


「ふぅん。そういえば、桃園さんって、私達以外の生徒と接触したのかな? 桃園さんと同じクラスの楠木くすのきさんからは何にも連絡ないんだけど」


「そう言われれば、そうよね。クラスメイトと会ったりしていないのかしら」


「会わせても厄介なことになるだけだし会わせてないらしい。一般生徒は俺達と違って転校生が学園見学に来た後で急に性格が変わって電波になったって知らないからな。それに、説明されて納得出来るような話でもないし」


「そうだよね。一応、情報として知っているし、本人にすら会ったのに僕は未だに信じられないし」


 水瀬の複雑そうな顔に、そりゃそうだよなと納得する。私だって自分が転生者で前世を覚えたりしていなければ、信じられなかったと思う。寧ろ桃園姫花を家族や医者すら欺く計算高い女だと勝手に判断し嫌っていただろう。ただ、何故クソ女のようなキャラ付けにしたのかと疑問には思っただろうが。それくらいに不可思議な状況なのだ。

 逆に柔軟に受け入れられている凪ちゃん達が凄いと思う。優しくて柔軟な思考を出来、現状を冷静に判断できるなんて凪ちゃんは流石だよな。本当に私の親友は素晴らしい女の子だ。私にとっては世界で一番素敵な子。


「転校生がまた電波に戻ったら色々厄介なことになりそうだよな。特に若竹先生」


「それは、言えてるね。本人はもう一歩分かっていないみたいだけど。人が良すぎるのも考えものだよ」


「まぁ。元々担任なんだし、仕方ないんじゃないかしら? 突き放すのも優しさだって瑠璃ちゃんから助言されても結局変わらなかったんだし。自業自得じゃない?」


「凪って若竹先生のこと嫌いなのかい?」


「別に嫌いじゃないわよ? ただ、あんまり近寄りたくはないだけで。周りが騒がしいし、近寄るメリットもないでしょ? 授業で分からないところがあれば瑠璃ちゃんに聞けば教えてくれるし」


「凪ちゃん……」


 信頼されているのは非常に嬉しいが、少しだけ若竹先生が哀れになってくる。いや。あの人はそういう役回りなのかもしれないな。同じ教師の烏羽先生がクールな大人枠だとするなら、若竹先生は苦労人枠か。何か違和感がなさ過ぎて、逆に、複雑な気分になる。


「まぁ。なんにせよ、どうなるかは週明けに分かりそうだよな。電波に戻っているか、転校生のままか」


「今の桃園さんであることを祈りたいね」


「そんじゃ。俺は電波に戻ってるに一票。勝ったら何か奢ってくれよ」


「僕は願望を口にしただけだけど、いつから、賭事になったんだい?」


「癪だけど私もソイツと同意見よ。奢るなら3人分ね」


「3人って、私も数に入ってる?」


「当然じゃない! 瑠璃ちゃんを仲間外れになんてしないわ!」


「でも、今の桃園さんのままだったら僕の一人勝ちになるけど、いいのかな?」


「別に、私の金で奢るわけじゃないし構わないわよ。あっ。まさか、奨学生の瑠璃ちゃんに奢らせようなんて思ってないでしょうね?」


「瑠璃さんの分は俺が負担するとして、そうは大変だな。1人で3人に奢ることになるんだから」


「……そう思うなら賭事をやめないかい?」


「それじゃ、つまらないだろ」


 凪ちゃんと蒼依はノリノリらしい。水瀬には悪いが私も凪ちゃん達の意見に一票だ。ただ、いかに水瀬が金持ちといえど、あまり高価なモノは強請れないというより、特に欲しいモノもないんだが、蒼依は何を奢らせる気何だろうか?


「とりあえず、賭にするなら奢るものだけ今決めとかない?」


雪城ゆきしろさんも結構乗り気だったんだね……」


「瑠璃さんの言う通り今の内に決めとくか。そんじゃ。俺は学食のカツサンドで」


「私は……どうしようかしら? 瑠璃ちゃんはどうするの?」


「凪ちゃん決めてなかったんだね。私は無難にチョコレートとか、お菓子がいいなぁって思ってるけど……」


「じゃあ、雪城さんと凪にはゴデ○バでいいかな?」


「そんな高いものじゃなくていいから!? 200円くらいのでいいんだよ!」


「あんた。本当にバカじゃないの!?」


「えっ!?」


 いや。水瀬。何でそこで驚くんだよ。「そんな安物でいいの!?」みたいな顔やめろ。真剣に腹が立つから。確かに蒼依のカツサンドと比べるとかなり値段安いけど。というか、カツサンドが高すぎると思うんだよね。一箱(四個入り)5千円とか有り得ないよな。とりあえず、学食におくものではないだろう。あと、学生のちょっとした賭事の罰ゲームで奢るのってコンビニで売ってるようなジュースとかお菓子が丁度いいと思うんだが、これだから金持ち共は。


「200円のチョコレート? 一粒200円ってことかな?」


「えっ。いや、あー。なんて説明したらいいんだろう」


「颯。お前さ。コンビニ行ったことあるか?」


「コンビニってコンビニエンスストアだよね。見たことはあるけど入ったことはないかな?」


「そっか。それなら、瑠璃さん達に奢る前に、矢霧やぎり先輩にコンビニで売ってるチョコレートについて相談してみろ」


 蒼依のヤツ問題をあかね先輩に丸投げしやがった。でも、まぁ。私達じゃ説明できないし、妥当な判断だな。一人暮らしの茜先輩ならコンビニ使ってるだろうし。ただ、水瀬からいきなり「コンビニのチョコレートについて」の質問なんてされたら驚くだろうけど。凪ちゃんが小さく「有り得ない」と呟いていたことは水瀬には秘密にしておくことにしよう。絶対に凹むから。


* * * * * *


 行きと同じモノに乗り、同じ様に帰るのだと思うと一気に憂鬱な気分になった。不便なわけじゃなく、逆に快適すぎて居心地の悪さを味わうというか、私は普通の帰り道がいいんだがな。まぁ。わがままなんて言える立場じゃないけど。ため息を一つ吐きながら、後にした旅館はやはり私には分不相応なほど立派に見えて、やっぱり憂鬱になった。

 私達4人とクソ女は、近付かずにすむようになっているため、私達が賭の結果を知れるのは蒼依の言ったとおり週明けになるだろう。クソ女が騒がなければの話だが。実は桃園姫花である今の彼女となら私達と一緒にしても大丈夫なんじゃないかとか事情を知っている生徒を傍においた方がいいんじゃないかという意見が教師間で出たらしいが、烏羽先生が却下したそうだ。

 烏羽先生曰わく「今の桃園姫花のままなら問題はないが、いつ戻るか分からない状況で、普段つきまとわれている人間を傍におくなど言語道断だ。事情を知っている人間なら教師だけで事足りる」だそうだ。うん。言う通りだと思う。確かに私達は事情を知ってはいるが、桃園姫花と会話をしたのは1日目の夜の本の十数分だし、クソ女のことは徹底的にさけているし。それなら、事情を知ってる担任の若竹先生や桃園姫花とずっと行動を共にしていた薬師寺先生の近くの方がいいだろう。

 私達が桃園姫花と親しい人間であるならば、彼女も安心できるかもしれないが、私達に対しては親しみよりも罪悪感が勝っているようだったからな。わざわざ、そんな人間達と一緒にいて疎外感を感じさせる必要はないだろう。逆にクソ女は罪悪感なんて持っていないだろうし、疎外感を感じるどころか私達の話に割り込んだり蒼依や水瀬に媚びをうったりするだろうしな。


「どうなるかな?」


「転校生のこと?」


「うん。戻ったら騒がしくなりそうだよね」


「そうね」


きょう先輩に聞いたけど、学園内ってか、生徒会とか特別委員会とかは、すでに騒がしいらしいけどな」


「えっ? なんで?」


蓬生ほうしょう先輩が転校生から電話もらった時に奇声あげて、不審に思った生徒会長が生徒会室に連行。風紀の仕事を奪ったって怒ったみどり先輩が生徒会室に飛び込んで、面白がってついてった杏先輩も、転校生と蓬生先輩の会話でこっちの状況を粗方把握。昼休みだったから、生徒会役員は全員生徒会室にいたらしいよ。帰ったら質問責めにあうかもね」


「蒼依は特別委員会と部長会の人間に根掘り葉掘り聞かれるんじゃないかい? 一応、桃園さんの件に関しては僕と同じく当事者枠なんだし」


 水瀬の言葉に蒼依のにやけた顔が渋く変わる姿に溜飲が下がる。しかし、女たらし先輩は何をやっているんだろうか? というか、会長ももう少し考えて行動してくれ。演劇部部長も自重しろ。だが、この状況だと恐らく週明けには学園統治組織の人間も部長会の人間も全員「クソ女が京都に行ったら前の人格に戻った」ってことを知っているってことになるわけか。面倒くさいようなありがたいような微妙な感じだな。

 さて、これからどうなるのやらと少しだけ傍観させてもらおうと決めた瞬間スマホが鳴りだしメールが届いたのが分かる。メールは私だけじゃなく水瀬と凪ちゃんにも届いていた。送り主は烏羽先生。内容は「桃園姫花が眠った。恐らく、今回と逆のことが起こるだろう」という予想通りすぎる展開を知らせるモノだった。

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