修学旅行 6
凪ちゃんが言っていたポーチは本当に可愛いモノだった。和と洋を融合させた感じだろうか? でも、ポーチって何を入れたらいいのか悩むんだよな。“ワタシ”は化粧をするようになってからは化粧品とか色々入れていたけど、その前は常備薬(鎮痛剤や風邪薬)、絆創膏、ブラシ、ヘアゴムとかしか入れてなかったっけ? あとは、鋏とかのりとかたまに使う文房具系をポーチに入れてみたりもしてたか。ポーチって大きさや収納性でかなり変わるんだよね。大きくてもマチがなければ使い難かったりするし。
「可愛いね。でも、何入れるか悩んじゃうな」
「確かに、悩むわね。薬やブラシだけ入れるなら、充分に使いこなせない気がするし」
「2人ともペンケースもあるよ」
「あっ。本当だ。ペンケースなら使えるね」
「瑠璃ちゃん。お揃いにしましょうよ!」
「そうだね! 凪ちゃんは、どれにする?」
「私は、この瑠璃色と水色のストライプにするわ」
「じゃあ、私はピンクと蒸栗色のストライプにしようかな」
「……僕も色違いで買おうかな」
「「いや。それは、ちょっと……」」
「……2人とも酷いよ」
「いや。今のは颯が悪いぞ。お前と色違いのペンケース使ったりしてたら、周りから注目浴びまくるって。ただでさえ、4人で行動してるから目立つってのに。何より、今のあの女なら兎も角、普段のあの女なら確実に変な言いがかりつけてくるぞ」
「まぁ。蒼依の言うとおりだね」
「というわけで、瑠璃さん。俺はこのグラスを色違いで買いたいんだけど」
「あっ! それなら、僕も買っていいはずだよね!」
「あんた。そんなにお揃いに憧れてたわけ? 意外だわ。男ってそういうの嫌うイメージあったし……」
凪ちゃんの心底呆れたような声に、蒼依と共につい水瀬へ何ともいえない視線を向けてしまった。凪ちゃんは「男なのに、ヤケにお揃いのモノを欲しがる変な従兄弟」と水瀬に対して思ったようだが、水瀬はアレだ。凪ちゃん(好きな子)とのお揃いに憧れてるだけだと思う。まぁ。だからと言って訂正する気は一切ないが。だって、こういうことは本人がちゃんと伝えるべきだと思うし。私が勝手に恋心をバラすのはよくないと思うんだよね。なんて、思いながら、落ち込んだ水瀬を促して木刀とペンケースを手にグラスの前に移動する。
「グラスかぁ。凪ちゃんが家に泊まりに来た時用の専用マグカップや普通のコップはあるけど、あんな綺麗なグラスはないし、家用にも買っていい?」
「ああ。それなら、私が家用と瑠璃ちゃんの家に置いてもらう用を買うわよ! どうせ使うのは私なんだし。お金払わせるわけにはいかないわ」
「そう? じゃあ、お土産用に、もう一つグラスを買おうかな。並べて置いたら綺麗だろうし」
「そうしたら? 自分用と来客用で丁度いいんじゃないかしら?」
「そうだね」
私が言った「お土産用」と凪ちゃんが言った「来客用」は暗に「私の家に置く要さん用」ということだ。ここにいるのが、私、凪ちゃん、蒼依の3人だけなら、事情を知っているので、いちいち、ややこしい言い方をしなくてもいいのだが、水瀬もいるし誰に聞かれているかも分からない外だしな。あまり、情報を漏らすのは得策とはいえないだろう。
「おや。土産でも選んでいるのかね?」
「烏羽先生! どうして此処に?」
「桃園さんについていなくて大丈夫何ですか?」
「此処に居る理由は見回りだ。副会長の水瀬。それから、雪城。桃園には担任である若竹と薬師寺養護教諭がついているのでね。現在の彼女の性格ならば、私まで居る必要はないと判断し、見回りに参加したというわけだ」
「そうなんですか。あっ、そうだ。烏羽先生でしたら、このグラス。何色を選びますか?」
当人が現れて少し焦ったが、丁度いい。様子を見る限り桃園姫花に絆された感じには見えないし、桃園姫花についているのは、薬師寺先生と若竹先生だという情報も手に入れられた。もう少し掘り下げて聞きたい気もするが、怪しまれても困るしな。桃園姫花のことは、ひとまず、おいといて、どうせ使うのは要さんなんだし、グラスの色を選んでもらうことにしよう。透き通った綺麗なグラスなんだけど、やたらとカラーバリエーションがあるんだよね。
「グラスの色か……君達は決まっているのかね?」
「俺はこの蒼色2つと青磁色1つ」
「僕は水色です」
「私は家用が瑠璃色で瑠璃ちゃんの家用がマリーゴールドみたいなオレンジ色」
「私はこの紺瑠璃にしようかと、ただ、もう一つが決まらないんですよね」
「私はこの黒がいいとおもうがね。落ち着いて見えるだろう。何より、男性にも女性にも渡せそうだ」
やっぱり、黒を選んだか。ぶっちゃけ、烏羽先生なら黒を選ぶと思ってたんだよね。私服も黒とか茶色とか落ち着いた色が多いし。でも、透き通ったグラスまで黒じゃくてもいいんじゃないかとは思わないでもなかったが。ちなみに蒼依が選んだ「青磁」は蒼依の父親の名前だ。多分、土産に買って行くつもりだな。蒼依って、ファザコン? だし。それに、蒼依のヤツ確実に家に1つ置く気だろう。まぁ。別にいいけどさ。食器棚の中、かなりあいてるし。
「分かりました。黒にします。そういえば、烏羽先生はお土産買ったり観光したりしないんですか?」
「あくまで、仕事で来ているのでね。土産や観光は二の次だ。だが、生徒会役員には菓子の一つでも買っていこうとは思っているのだよ」
「それじゃあ。僕達も何かいい物を見つけたら、連絡します」
「ああ。助かる。それと、言い忘れていたが……」
「なんですか?」
「教師として、このような発言はすべきではないかもしれないが、雪城も書記の水瀬も、浴衣がよく似合っているな。一応ボディーガードはいるが、気をつけたまえ。それから、柊に写真を撮ってもらうといい。いい思い出になるだろう」
「「あ、ありがとうございます」」
「ふむ。それでは、私はそろそろ行くが、何かあったら連絡するように。副会長の水瀬と柊もだ」
「言われなくてもしますよー」
「蒼依! 分かりました。連絡します」
「うむ。それでは、また、旅館でな」
「はい。また」
「さよなら、先生」
サラッと言うだけ言って去っていく烏羽先生を暫し呆然と見つめる。ああ言うことを恥じらいもなく言えるあたり、流石大人ということか。蒼依はふてくされているようだが、水瀬は憧れの眼差しを向けていた。予想通りの反応だ。凪ちゃんはまさか烏羽先生にあんなことを言われるとは思ってなかったらしく、少し固まっている。いや。あの人ってわりかし私と2人だけの時とかは褒める人ではあるけど、こんな人前で言われるとは思ってなかった。
「とりあえず、会計して、撮影スポット探しに行こうぜ」
「そうだね。2人とも、もう見る物はないかな?」
「ないです」
「私も一通り見たし満足だわ」
水瀬に返事をしながら、レジに並ぶ。あまり人が居ないから、直ぐに順番がまわってくるだろう。写真撮影が未だに出来ていないのはカメラマンである蒼依のこだわりが強すぎるからなんだよね。私や凪ちゃんは道端で撮ってもらってもいいんだけど、写真に対しては情熱的すぎる蒼依は自分が納得したシチュエーション以外じゃ写真を撮らない。未だに蒼依お好みのシチュエーションがないから写真を撮ってもらえてないってわけだ。
* * * * * *
「美味しい! ああ。白玉がもっちりしてるし、あんこも粒餡だし、抹茶アイスは濃厚だし、得した気分だわ~」
「抹茶パフェも美味しいよ。白玉もあんこも抹茶ムースも最高! パフェなんて久しぶりに食べたなぁ」
「蒼依。蒼依。写真撮らずに、餡蜜食べなよ」
「いや。今が絶好のシチュエーションなんだ! 俺は餡蜜より、写真を撮る方を選ぶ!」
「いや。うん。まぁ。いいけどね。烏羽先生も言ってたし」
此処はさっき居た土産屋さんから少し離れた場所にあるお茶屋さんのテラス席だ。土産屋さんをはしごしたり、中を見て回ったり、なんだかんだで歩いていたので一旦休憩の為に入ったのだ。想像以上にいい店だった。川のせせらぎが聞こえ豊かな自然が見えるし空気も美味しい。ちなみに、土産はSPの人達が車に運んでくれるらしいので任せておいた。護衛だけでなく荷物持ちまでさせられるのは内心複雑だろうな。
私は抹茶パフェ、凪ちゃんは抹茶アイス付き白玉善哉、蒼依は餡蜜、水瀬は普通の白玉善哉を頼んで食べているのだが、蒼依は餡蜜に一切手をつけず写真撮影に没頭している。なんだろう? さっきの和菓子体験の時といい蒼依は人が何かを食べてる姿を写すのが好きなんだろうか? いや。本人曰く「人が自然に見せる表情が一番魅力的」らしいから、人の無防備な姿を写したいんだろうな。まぁ。何はともあれ、無事にツーショット写真を撮ってもらえているので私は満足だ。抹茶パフェも文句なしで美味しいしね。
浴衣話を持ってきてくれたお礼に水瀬と凪ちゃんのツーショット写真も撮ってやるように、蒼依にこっそりと頼んでやろうかと思ったが、蒼依がさっきから、凪ちゃんにはバレないように何枚も撮ってあげてるようだった。何だかんだで、蒼依も友達思いなんだよな。特別、水瀬を気に入っているのかもしれないけどね。




