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石蕗学園物語  作者: 透華
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修学旅行 4

 やって来ました夢彩園! あぁ。本当に待ちに待ったよ夢彩園! 浴衣いっぱい。帯もいっぱい簪も選び放題だ! なぎちゃんには、何が似合うかな? いや、凪ちゃんなら何でも着こなせるだろうが、凪ちゃんの魅力を存分に引き出せるモノを選ばなくてはならない。だが、ただでさえ魅力的な凪ちゃんが、あまりにも魅力的になりすぎて男共に見とれられたり、声をかけられるのも困る。いや、そういう連中は撃退するけど、危ないし、凪ちゃんに不快な思いをさせる可能性はある。ああ。でも、数年ぶりの凪ちゃんの浴衣姿だし……。私はどうするべきなんだ!


「ねぇ。瑠璃るりちゃん! この浴衣どう思う? 似合うかしら?」


「凄くいいと思うよ!」


「ふふふ。これね。瑠璃色なのよ。瑠璃色ってことは瑠璃ちゃんの色よね!」


「わ、私の色……!」


 凪ちゃんにそんなことを言われて柄にもなく、照れてしまった。瑠璃色は私の色、か。何だか面映ゆいな。しかも、凪ちゃんはそう考えながら、瑠璃色の浴衣を着てくれるって思うと凄く嬉しい。凪ちゃんの持っている浴衣は瑠璃色の生地に白色で芍薬の絵が描かれたものだ。その大輪の美しい花は凪ちゃんによく似合っていると思う。確か浴衣に描かれた芍薬の意味は幸福だっけ? 花言葉には清浄ってあるし、美人の代名詞にも使われるような花だし、凪ちゃんにぴったりだな。


「瑠璃ちゃんには、コレが良いかしら?」


「あっ。可愛いね」


「帯も選ばないといけないわね!」


「凪。瑠璃色の浴衣にするなら、帯はこの水色はどうかな?」


「瑠璃さんのは、蒸栗色に梅柄か、帯はこれとかどう?」


「勧めるのは、ともかく、2人とも自分の分は決めなくていいの?」


「ちょっと! 瑠璃ちゃんの浴衣は私が選ぶのよ!」


「俺が持ってんのは帯だろ」


 男2人は何故か自分用の物ではなく、女用の帯だけを持ち、当たり前のように勧めてくる。自分の分を選べよ自分の分を。というか、水瀬みずせは、ちゃっかり水色を勧めるな。確かに似合うだろうけどな。でも、浴衣は凪ちゃん自ら選んでくれた。私の色だぞ私の色。しかし、蒼依あおいが私に勧めてくれた真紅の帯はちょっと色味が濃いような気もするが浴衣の生地自体は蒸栗色と淡く梅も紅梅色なのでメリハリがついて丁度いいかもしれないな。


「凪ちゃん。帯は2人が選んでくれたのでいいんじゃないかな? あっ。次は簪選ぼう簪!」


「瑠璃ちゃんがそういうなら……」


「私達、簪選んでくるから2人はその間に自分の分決めといてね」


「りょうかーい」


「分かった。決めておくよ」


「瑠璃ちゃん簪売場見つけたわよ!」


「それじゃあ。行こうか!」


 凪ちゃんと2人で帯と浴衣を持って簪売場に向かうと、想像以上に色々な種類のものが置かれていた。私は呉服店なんて入ったことがないから知らないけど、普通の店にもこんなにあるものなんだろうか? バチ型のモノや玉簪、成人式につけるような薔薇の花など本当に様々だ。凪ちゃんの綺麗な栗色の髪には何が似合うだろうか? 鼈甲の上品な簪? それとも、ヘアアクセサリーの売場なんかでも、たまに見かける物に似たカジュアルな感じのモノ? 悩む。凄く悩む。浴衣は凪ちゃん本人に帯は水瀬に決められたから、身勝手だけど、髪飾りくらいは私が選んだ物を身につけて欲しい。

 色々眺めながらも、ふと目についたのは芍薬の花を模した白とピンク色のグラデーションの大きな花に白の下がり藤がついた髪留めだった。これなら凪ちゃんの浴衣とも合うし、凪ちゃんらしい大輪の花がやっぱり魅力的だと思う。全体的に寒色でまとめているけど、一カ所くらいは暖色でもいいよね。あとは凪ちゃんが気に入ってくれるかどうかだな。気に入ってもらえなかったら、ちょっと、いや、かなり凹むけど。


「ねえ。凪ちゃん。これはどうかな? 浴衣の柄とも合うと思うんだけど?」


「きゃあ! 可愛い! うん! 私はコレにするわ! 瑠璃ちゃん。選んでくれて、ありがとう!」


「うん。喜んでもらえてよかったよ」


 ああ。ホッとした。さて、次は自分の分を探すか。凪ちゃんの物ほど真剣に探さなくてもいいが、なんか悩むよな。帯と合わせて真紅の簪とかならいいかな? 後で蒼依に凪ちゃんとのツーショット写真を撮ってもらう以上、不釣り合いな格好はしたくない。うん。簪一つでも気が抜けないな。あっ、でも、こっちの瑠璃色の玉に金で蝶の絵が描かれた黒い棒の玉簪もいいかもしれない。上品に見えるし問題ないだろう。ちょっと寒色入れてもいいよね。


「凪ちゃん。私はコレにするね」


「あら? 綺麗ね。うん。いいと思うわ! あとは下駄とバッグかしら?」


「そうだね。バッグは……凪ちゃん! あの色違いのヤツはどうかな?」


「あの縮緬で出来た蝶の柄のやつね。上品だし、何よりお揃いだし、凄くいいと思う! 下駄は履いてみないと分からないわね」


「そうだね。鼻緒の色は赤ってイメージあるけど違う色とかあったりするのかな?」


「どうかしらね?」


 凪ちゃんと会話をしながら簪をとり、見つけたバッグの前に向かう。バッグは赤色と桃色のグラデーションが美しい縮緬生地に赤色と桃色の蝶がとんでいるモノと青色と水色のグラデーションの縮緬生地に青色と水色の蝶がとんでいるモノの二種類だ。どちらもしたは竹の籠で囲まれている。凪ちゃんは赤い方のバッグに私は青い方のバッグにした。お互い簪ともつりあいがとれるし、浴衣とは違う色合いだからアクセントにもなるしね。


「2人とも決まったかい?」


「水瀬君。あとは下駄を履いてみようかって感じかな」


「瑠璃さん。下駄ならコッチにあったよ」


「あら。本当ね。行きましょ。瑠璃ちゃん」


「うん。あっ、2人はもう全部決めたの?」


「ああ。さっき会計すませてきた。あとは着付けだけだよ」


「それじゃあ、早く下駄決めちゃわないとね」


「いや。予定時刻までは、まだあるから、ゆっくりでいいよ」


「ですって。瑠璃ちゃん。ゆっくり選びましょ」


 凪ちゃんに手を引かれて歩き出すと男共が後ろから付いて来た。多分、自分のを選び終えたから暇なんだろうな。しかし、私と凪ちゃんが簪とバッグを選んでいる間に浴衣と帯と下駄を選び会計まで済ませているとは思っていなかった。どんだけ決めるの早かったんだ。コレが男と女の買い物にかける時間の差というモノなんだろうか? 人生二回目を体験中だが、あいにく男にはなったことがないから分からないな。


「下駄も結構種類があるのね」


「うん。凪ちゃんこの淡い赤紫の鼻緒のはどうかな? バッグや簪は暖色系で浴衣は寒色系だから間をとってみたんだけど」


「素敵! 履いてみるわね。瑠璃ちゃんはこっちの淡い青紫はどうかしら?」


「いいかも。サイズもあってそうだし。履いてみる!」


「2人ともサイズを確かめなくてもいいのかい? あわないならサイズがあるか店員に聞いてくるけど」


「いいえ。丁度いいわ。流石、瑠璃ちゃんが選んだ下駄ね!」


「って言われてるけど、瑠璃さんの方は、どんな感じ?」


「私もぴったし。流石凪ちゃん!」


「何て言うか……本当に2人は仲がいいんだね」


「……だな。でも、普通は、下駄のサイズを見ないで足にあうか当てたり出来ねぇよ」


 水瀬と蒼依の驚きの声をよそに私と凪ちゃんはクスクス笑いあった。私もまさか当たるとは思ってなかったよ。日頃から観察してるおかげかな? とりあえず、会計に行くために一式持って立ち上がる。意外と重いな。というか、金額一切見ないで選んじゃったけど、大丈夫だろうか? 急に不安になってきた。五万とかいってたら、どうしよう? なんとか切り詰めて二万は持って来たけど、超えたら困るな。凪ちゃんと蒼依は嬉々として差額をだそうとするだろうし、水瀬は言い出しっぺだから気にするだろうな。


「総額5940円でございます」


「そんなに、安いんですか!」


「はい。しかしながら、元はいい物でございますので、ご安心下さい」


「それは、分かっていますが……」


「5940円。丁度頂きました。レシートをお返しいたしますね。着付けとヘアメイクは、あちらに見える奥の部屋でいたします。係の者を呼んで参りますので少々お待ち下さい」


 確かに、蒼依からは「五千円くらいからあるらしい」とは聞いていたが、まさか本当に五千円台――約六千円で浴衣から帯に簪、バッグや下駄の全てが手に入るとは思わなかった。冗談だと思っていたが、購入の特典で着付けもヘアメイクも無料でしてくれるというし。値札をチラリと見たら全て傷もないのに元値の半額以下だった。この店、本当に採算とれるんだろうか? 凪ちゃんも私と同じくらいの金額だったらしく、2人で想像以上の安さに目を丸くしてしまったのも当然のことだと思う。

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