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石蕗学園物語  作者: 透華
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修学旅行 3

「ねえ。瑠璃るりちゃん」


「ん? なぎちゃん。どうしたの?」


「あの転校生って、私達の知っている転校生とは明らかに別人だったわよね。なんだか見た目は同じだけど中身は全然違うって感じ」


「まぁ。人格交代してるみたいだしね。あっちが素らしいけど、普段の桃園ももぞのさんを見慣れてると違和感半端ないというか……」


「そうなのよ! 今日会った方の記憶があって、どうして、あんな残念女になるのかしら?」


「私もそれが、ずっと謎なんだよね。今日会った桃園さんはまともな子に見えたし。あの子みたいに振る舞っていれば、少なくとも今みたいにはなってなかったはずだし」


「そうよね。不思議だわ……」


 あの後、部屋に戻り食事をし、風呂に入ったはいいが、私と凪ちゃんはなかなか寝つけずにいた。あんな衝撃的なことに直面させられて、直ぐに寝ろというのは無理があると思う。しかし、凪ちゃんも今回、桃園姫花に会ってクソ女の行動に対する違和感を感じたらしいな。当たり前といえば当たり前だけど。本当に桃園姫花の記憶がクソ女にあるのか疑問に感じるくらいには性格が違いすぎる。クソ女にとって桃園姫花の性格や行動は魅力的に見えなかったということだろうか? だから、わざと違う言動や行動をしているのか?

 だが、今日会った桃園姫花の方がクソ女よりも遥かに“女主人公”の“桃園姫花”に近いように思えた。ゲームを攻略したいなら主人公に性格や行動を近づけた方が楽なはずだが、クソ女はどう考えているんだろうか? クソ女には自分が“女主人公”だという認識はあっても“女主人公”がどんな人間だったのか、記憶がないのかもしれないな。その方がしっくりくる。


蒼依あおいから電話だ。出てもいい?」


「いいわよ。でも、夜分遅くに女の子に電話してくるなんて何考えてるのかしら?」


「あー。何にも考えてないんじゃない? もしもし。蒼依?」


『こんばんは。瑠璃さん。やっぱり起きてたんだ』


「そりゃあね。あんなことがあって直ぐに寝たりは出来ないよ」


『まぁ。そうだよね。いやさ。さっき蓬生ほうしょう先輩から電話があったんだよね』


「女たらし先輩から? 一体なんて? って、ちょっと待ってスピーカーモードにするから」


『分かった。てか、もしかして、水瀬みずせも起きてんの?』


「起きてるけど? よし、OK。話していいよ」


『了解。まぁ。とにかく、蓬生先輩から「どうなってるんだ!」って電話がかかってきたんだよね。あっちも混乱状態らしくてさ』


「へぇ。そうなんだ」


「コイツ。あの女たらしとも仲良かったのね。ハーレム築いてるだけのことはあるわー」


「本当だね」


『ちょっ、酷くね! そうも何とか言ってくれよ』


『少なくとも蓬生先輩は蒼依を同類だと思っていると思うよ』


『マジで!?』


「驚くのはいいけど、結局何があったの?」


『あー。そうそう。蓬生先輩にな「姫は俺に学園見学の一日前に連絡をしてきたことは覚えていたから、怖いと言っていた理由を聞いてみたんだ。そうしたら「姫は自分が消えてしまいそうで怖かった」と答えた。あの子は、無意識に人格交代が起きる可能性をかんじていたようだ」って言われたんだよ。どういうことなんだろうな?』


「えっと、仮に今日会ったのが桃園さん1として、その1さんが、人格交代が起きる可能性を予知してたってことは、問題児である桃園さん2も予知して京都に行くのを拒んだ可能性はあるよね」


『俺もソレは思ったよ。ってことは2は入れ替わりのシステムを理解してるってことになる。ただ、2に変わってから1に戻ったのは今回が初めてとなると、その可能性は低いから、何となく京都に行くことに不安を感じてた可能性の方が高いと思う』


「京都に何かあるのかしらね? 謎と言えば、どうして2が修学旅行先をパリだと思っていたのかよね。2が来てから修学旅行先がパリなんて話は一度も出ていなかったはずよ」


『そうだね。去年の修学旅行先は同じヨーロッパにあるロンドンだったけど、それだけで勝手にパリだなんて考えるのも不思議だよね。本当に何でパリなんだろう?』


 凪ちゃんと水瀬の会話についついゲーム内での修学旅行先がパリだったからと言いたくなるが言えないよな。しかし、蒼依の言う通り多分クソ女は「京都」に来たくなかったわけじゃないんだろう。「パリじゃなきゃ嫌だ」と言っていたなら、問題は「京都」じゃないからな。パリと京都の違いは外国と国内というだけじゃない。前にも予想したがゲーム内で一切出てこない場所という点だ。だが、引っかかるのは、いつクソ女から桃園姫花に変わったかだよな。寝て起きたら変わってたというのは分かるけど、どの時点でクソ女は寝たんだろうか?


『まぁ。2の場合、どんな考え方してても違和感ないな。ぶっちゃけ、たまたま見た雑誌にパリの特集が載ってて、修学旅行先はパリだと思いこんだと言われても俺は驚かない』


『確かに、有り得そうだね』


「意見が合うのは嫌だけど反論出来ないわ」


「まぁ。桃園さんだし」


『あっ。気づいたら、11時か。結構時間遅いし、明日に差し支えたら問題あるから、とりあえず、今日はもう寝ようか』


「そうだね。お休み」


 切れた電話を凪ちゃんと2人で眺めて溜め息を吐く。クソ女のことについては考えれば考えるだけワケが分からなくなってくるな。とりあえず、明日は朝食後直ぐに体験を2つ行い、その後は浴衣で町を散策するついでに、お土産を買うというハードスケジュールが待っている。蒼依の言う通り大人しく寝た方が自分のためだな。凪ちゃんと別々のベッドに入り、羊を数えてみることにした。


* * * * * *


 一つ目の体験はかの有名な友禅染だ。私は知らなかったが友禅染には手書き友禅と型友禅があるらしく、今回体験するのは型友禅の方である。そして、 その型友禅の中でも、ブラシを使って刷り込んで染める技法の摺込友禅をするらしい。この摺込友禅は型とブラシのおかげで、初心者でも簡単に出来、グラデーションなんかも綺麗に出せるんだそうだ。花や魚や鳥などの型があり型選びだけでもなかなか楽しめるらしい。これなら、水瀬の壊滅的な絵の技術でも素敵なモノが出来るだろう。


「今回は上手くいったわね!」


「颯は手書きでさえなければ大丈夫なんだな」


「そうだね。おめでとう水瀬君!」


「何だか、複雑だけど、ありがとう皆」


 私達は全員実用性を考えて大きめのハンカチにチャレンジしていた。私は桜の花や梅の花などの暖色系の色をメインに、凪ちゃんも花だけど寒色系の色をメインにしていて、蒼依は鳥や木、水瀬は金魚や水を選んでいた。モノによっては何枚も型を重ねて染めるので、型がずれないようにするのが、少し大変だったが、割と上手くできたと思う。今回は水瀬も綺麗なハンカチを無事に作ることが出来た。本当に美的感覚はちゃんとしているし、手先も器用なのに、何で絵だけあんなことになるんだろうな?

 水瀬が上手く出来たことに感動する暇はなく二つ目の体験場所に向かった。ちなみに一日目、二日目通して旅館以外で同級生に会っていない。どうやら、体験よりも寺社巡りをしている人間の方が多いらしい。まぁ。そっちの方が修学旅行っぽいと言えばぽいのかもしれないが、体験もなかなか楽しいぞ。

 二つ目の体験は和菓子作りだ。職人さんが下ごしらえをしてくれた生地から練りきりときんとんという生菓子を作る。和菓子の形は四季によって違うらしく、今回は桔梗だった。この体験の良いところは作った和菓子全てを自分でお茶を点て一緒に食べられるという点だ。幸い4人とも茶道経験者なので和菓子さえ上手く作れれば、素晴らしい休憩が出来るだろう。

 水瀬は本当に絵だけが壊滅的に駄目なようだ。職人さんの的確な指示のおかげかもしれないが美しい和菓子を作り出していた。本当に何故、絵だけ壊滅的なのか。そりゃ親も疑問に思うし、教師も自信をなくすよな。そんな水瀬に対する凪ちゃんや蒼依の信じられないものを見るような目に笑いそうになったが、なんとか耐えた。よく頑張ったな私。


「ああ。美味しいー。なんか、いい気分だわー」


「そうだね~。何だか和むし、幸せだなぁ」


「ちょっ、一枚! 一枚撮らせて!」


「蒼依。一応食事中だよ」


「瑠璃さん達のこんな緩んだ顔を写真に収める機会なんて、そうそうないだろ!」


「本当に蒼依は写真に関しては情熱的だよね」


「まあな!」


「別に、誉めてはいないんだけど……」


「本当に綺麗なお庭だね~」


「本当ねー。まさに日本庭園って感じだわー。家で見慣れてはいるけど、こういうところで見ると、また見え方が変わるわねー」


 いつもなら「五月蠅い」と黙らせる蒼依の叫びが気にならないくらいには、和やかで幸せな気分だ。美しい日本庭園を見ながら自分が作った和菓子と自分で点てたお茶を飲む。しかも、隣には凪ちゃんがいる。なんとも贅沢な一時だ。その上、次に行くのは修学旅行で私が一番楽しみにしていた。凪ちゃんの浴衣選びと浴衣を着ての散策が待っている。ああ。楽しみだなぁ。

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