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石蕗学園物語  作者: 透華
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修学旅行までの道のり 5

 蒼依あおいかなめさんが帰ってから直ぐに、スマホ宛に水瀬みずせからなぎちゃん説得に対する感謝のメールが届いた。確か、このスマホって私的に利用するのは禁止されていたハズなのだが、いいんだろうか? まぁ。返信するだけなら問題ないだろう。公私混同するなと注意されても「水瀬からメール来たから返信しないのは失礼だと思った」とでも言えば周りは納得してくれるだろうし。

 そうそう。私達は修学旅行についてメールや電話で相談していたが、私から水瀬、水瀬から私に直接連絡をしたことはない。常に凪ちゃんか蒼依を通して話していたからだ。中心になって予定を立てていたのは、蒼依と水瀬だし、私と凪ちゃんは嫌だったら嫌。良いなら良いと言うだけですんでいた。本当は、私と凪ちゃんも積極的に話に参加すべきだと思うのだが、蒼依と水瀬が旅行計画を立てるのが上手すぎるので気付けばお任せになってしまっていたのだ。

 2人ともちゃんと私達のことも気遣いつつ時間配分も考えてくれるから、そもそも口出しする必要があんまりないんだよね。まぁ。今回の件で少しでも役に立てたならいいんだが。水瀬の感謝メールを見る限り十二分に役に立てたようで安心した。後は私から連絡するまでに至った経緯を凪ちゃんに知られないように気をつければいいだけだ。口を滑らせるようなメンバーはいないから安心できるな。

 しかし、クソ女の件は謎が謎を呼んでいる感じだよな。クソ女の頭の中に「警戒」という言葉はない気がするし、単純に修学旅行先が違うことによって本来なら起こるイベントがなくなる可能性を考えたってところか? 今現在クソ女が起こせてるイベントがあるかどうかは謎だが、蒼依達との初対面はイベントに入っていたんだろうか? でも、蒼依達や若竹わかたけ先生や烏羽からすば先生を除けばマトモに面識がない人間だらけな気がするけど。

 ゲーム終了は現三年の卒業式までで今は6月だから、時間はあると言えばあるが、クソ女はそこら辺どう考えているんだろうな。というか、クソ女は攻略対象者との「イベント」を全て把握しているんだろうか? 把握しているなら、鬱陶しく思われるほど接触しようとしなくてもいいと思うんだが? でも、こういうゲームって、確率があったりして色々ややこしいとも聞くしなぁ。実際にしたことないから、いまいち分からないけど。

 とりあえず、今日は疲れたから、コーヒーカップ洗って、風呂入って、歯磨きして寝よう。何か色々な情報が頭に入りすぎてこんがらがってるし。いや。ちゃんと蒼依や要さんがもたらしてくれた貴重な情報は懸念事項と共にまとめるけどね。それにしても、明日は、クソ女の噂話で学園内が騒がしくなるんだろうなぁ。確実に蒼依がソースだけは明かさずに広めるだろうし。どうせ、蒼依が流す噂話なら皆信じるんだろうなぁ。あぁ。面倒くさい。


* * * * * *


「例の噂はお聞きになりまして?」


「ええ。存じていますわ。全く、どなたのせいで国内になったと思ってらっしゃるのかしら?」


「本当よね。現実が見えてなさすぎるわよ」


「若竹先生も困っているみたいだし、本当にいい加減にして欲しいわ」


「昨日になって初めて行き先が京都だと知るなんて周りの話を聞かなすぎじゃないかしら?」


「全くアレが同じ学園に居るなんて頭が痛くなるわね。若竹先生もお労しいわ」


 案の定、学園内は朝からクソ女の話で盛り上がっていた。特に女生徒は少々殺気立っている。全く、蒼依のヤツ仕事早すぎだろう。前から知ってたけど、本当に、クソ女が嫌いなんだな。気持ちは分からなくもないが。凪ちゃんと水瀬は学園内の雰囲気にキョトンとしていたけど、2人とも勘がいいからか、直ぐに内容を察したらしい。水瀬は冷笑を浮かべ凪ちゃんは、ほとほと呆れ果てたという表情をしていた。どちらの気持ちも凄く分かる。


「蒼依。あんた情報流すの早すぎない?」


「いや。確かに俺も情報流したけどさ。本人がグチグチ言いまくってんのがこんなに早く噂がまわってる理由だと思うよ」


「……桃園さんって、本当に自分しか見えてないんだね」


「俺も心底そう思うよ」


 蒼依にコッソリ尋ねると予想外の答えが返ってきた。そりゃ。本人が騒ぎ立ててたら噂が広まるのも早いよな。若竹先生は、そろそろ胃がヤバいんじゃないだろうか? 今度、胃薬あげようかな。嫌がらせだと思われるだろうか? でも、感謝された時が色んな意味で一番危険な気がする。頑張れ若竹先生。あんたの味方はそれなりにいるぞ。主に役に立つか分からないファンだけど。


「瑠璃ちゃん。そいつと何話してるの?」


「ん? 朝からこんなに噂になるなんて桃園さんは凄いなぁって」


「確かに、昨日まではこんな噂全くなかったよね」


「そういえば、そうね」


「私も楠木くすのきさんから、修学旅行の話をすると機嫌がよくなるって情報しか貰ってなかったから驚いたよ」


「俺は、さり気なくスパイを忍ばせてる瑠璃さんに驚いた」


「スパイなんて失礼なこと言わないでよ。楠木さんは、私と凪ちゃんのことを慮ってくれてる親切な会員なだけなんだから」


「そうよ。いちいち、鬱陶しい男ね」


「ああ「万寿菊の会」の会員ね。相変わらず、瑠璃さんには絶対服従精神なんだ」


「まるで、人が恐怖政治してるみたいな言い方やめてくれる?」


「蒼依。今の発言は雪城ゆきしろさんに対しても「万寿菊の会」の人に対しても失礼だよ」


「コイツの言う通りよ! あんたって、ほんっとうに失礼な男ね! 一発殴ってやりましょうか?」


「暴力はんたーい! 俺が悪かったから。マジで構えるのやめろよ。お前自分の実力考えろ」


「あら? 分かっているから殴ろうとしてるんじゃない! 顔じゃなくて腹にしてやるから安心して?」


「凪ちゃん。とにかく殴るのはやめようね。蒼依なんかを殴っても得することなんて何もないんだから」


「瑠璃さん……それってフォローしてるの?」


「瑠璃ちゃんが言うなら我慢するわ……気絶一歩手前の力で殴りたかったんだけど……」


「な、凪!? 何を言ってるんだい!?」


「やっぱりな。そう。コイツはこういうヤツだから気をつけろよ」


 蒼依はポンッと目を丸くする水瀬の肩に手を置いた。実は凪ちゃんは可憐な見た目に反して空手の段保持者並みの実力がある。ギャップ萌えな技能だよね。あくまで段保持者並みなのは、いざという時に遺憾なく力を発揮出来るように、段はとっていないからだ。凪ちゃんが空手を始めた理由はストーカー対策のためだった。たまたま孤児院の近くにあった空手道場の師範が女性で可愛らしい凪ちゃんの身を案じてくれたのだ。その女性自身ストーカーの被害者だったので、他人事だと思えなかったらしい。

 その人は本当に親切な方で、凪ちゃんが孤児院で生活していたこともあり月謝代を格安にしてくれたりしていた。木賊とくさ先輩のようにボーイッシュな方で、話しやすい雰囲気だったので、皆に慕われている。今でも元気に師範をしていらっしゃるそうだ。確か、名前も時雨しぐれさんという中性的なモノだったな。私はあまり会ったことはないけど、また話をしてみたいモノだな。


「と、とにかく、桃園さんはどうする気なんだろうね?」


「そりゃ。どんだけ本人が嫌がっても、行く一択だろうよ。そんなヤツと一緒じゃ班員も迷惑だろうけどな」


「そうだね。今の桃園さんの状況じゃ行くしかないと思うよ。同じ班の人は居残ってくれた方が嬉しいだろうけど」


「そうよね。内申点が危なすぎるもの。修学旅行に参加しなかったら退学ギリギリになるんじゃないかしら?」


「確かに、そうだね。学園行事に身勝手な理由で不参加となると、大幅な減点対象になるし。若竹先生は大丈夫かな?」


「頑張るしかないんじゃねぇの? 担任な上、生徒指導の教師だしな」


 結局最後は「若竹先生頑張れ」とか「若竹先生可哀想」とかで終わるんだな。この話って。クソ女はドコに行ったんだか。まぁ。結果が分かってる話だし。そこに至るまでの若竹先生の努力に目がいくのも分からないでもない。本当に今年は若竹先生にとって厄年なんじゃないだろうか? まぁ。個人的には説得に失敗して欲しいんだけどな。そうすれば修学旅行の時はクソ女のことを気にしないで楽しめるし。

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