修学旅行までの道のり 4
今回、架空の店名が出ていますが、実在する店舗、団体、企業には一切関係ありません。
さて、どうやって凪ちゃんを説得しようかな? 凪ちゃんが浴衣を着たくなくなったのって、小学生の頃バカな男子にからかわれたからなんだよね。凪ちゃんの浴衣が「孤児院の人が順々に着てるお古だ」とか「全く似合ってない」とか「ダサい」とかなんとかって。本当にデリカシーがないというかなんというか。とりあえず、ソイツはしめておいたけど、凪ちゃんは子供ながらに傷ついちゃったんだよね。
確かに、あの時、凪ちゃんが着ていた浴衣は一昔前の子供用って感じのもので、凪ちゃんの魅力を曇らせてしまう浴衣ではあったけど、本人に直接言うのは失礼すぎる。何より凪ちゃんを傷つけたのは、バカなガキに自分がバカにされたことに対してじゃなくて孤児院の人が頑張って自分に着せてくれた浴衣を自分のせいで貶されたということに対してだ。あぁ。なんて、いい子なんだろう。
いや。今は思い出に酔ってる場合じゃないな。問題はそれ以降凪ちゃんが「浴衣」を着ることに対して苦手意識を持ってしまったことだ。夏祭りには行くけど、浴衣は着ないし。というか、着物系を着ないのだ。コレは今の内になんとかしないと、成人式の振り袖を着てくれるかも怪しいんじゃないか? それは、まずい。非常にまずい。本気でなんとかしないと!
とりあえず、ソファーで優雅に洋書(家に置きっぱなしにしてた)を読んでる要さん(流石英語教師、ページを捲るスピードが速い)とテーブルの椅子に座ってスマホで検索してくれている蒼依にコーヒーと前に会長に貢がれた高級洋菓子を出した。だが、本当になんて言って唆そうか? 凪ちゃんが簡単に話にのってくれたらいいんだけど。蒼依の調べモノが終わってからの方が説得しやすいか?
「瑠璃さん。夢彩園って店ならいいかもよ? 種類は豊富だけど、モノによっては、かなり安くすむし、着付けもしてもらえるんだって。ちなみに、此処はレンタルはなしね」
「安くすむって、どれくらいの金額なの?」
「浴衣、帯、下駄、着付けで5千円くらいかな? 髪もセットしてもらえるらしいよ?」
「それぐらいなら、何とかなるかな……とりあえず、凪ちゃんに連絡してみるよ。ありがとね」
「いいよー」
蒼依にお礼を言って、携帯を取り出す。着付け含めて5千円なら、かなりお得だと思うし、ちょっと切り詰めれば出せない金額じゃない。凪ちゃんが納得してくれるかは微妙だけど、大丈夫かな? 私なら凪ちゃんにお願いされたら、基本的に一発OKなんだけど、凪ちゃんもそうかは分からない。それでも電話をしなければ始まらないので、ベランダに行き電話をかける。少しだけ呼び出し音が響いた。
『こんばんは。瑠璃ちゃん! どうしたの?』
「うん。あのね。修学旅行の話なんだけど、今、時間大丈夫かな?」
『大丈夫よ! 何か行きたいところでも見つかった?』
「うん。実は、さっき京都の町を調べてたら夢彩園ってお店見つけたの! あっ。着物の店なんだけど。そこってね。モノによっては着付け含めて5千円ですむんだって! 京都って浴衣姿だと割引してくれるところもあるって言うし、どうかなって……」
『浴衣かぁ。小学生の頃から着てないけど……』
「うん。私も着てないから、凪ちゃんと一緒に着たいなぁって。一着あったら夏祭りにも着ていけるし!」
『夏祭り!? それも、楽しそうね! いいわよ。是非、そのお店に行って修学旅行は浴衣で散策しましょ! 一緒に浴衣や帯を選ぶのも楽しそうだし! あっ。そうだ! 丁度いいから、アイツに瑠璃ちゃんとのツーショットをたくさん撮らせてやるわ!』
「本当!? ありがとう! 凪ちゃん! うわぁ。修学旅行が楽しみになってきたよ」
『私も楽しみだわ! 修学旅行も夏祭りも! あっ。何か、お風呂の準備が出来たって呼ばれてるから、残念だけどきるわね』
「うん。分かった。お休み。凪ちゃん」
『ええ。お休み。瑠璃ちゃん』
一切ごねることなく、思っていた以上に、あっさりOKしてくれたんだが、水瀬家の人間は一体何をしているんだ? 何か、真剣にあの家の家庭環境が心配になってきた。凪ちゃんラブが空回ってる気がする。まぁ。とりあえず、了承を得られたから良しとするか。電話途中でこちらを窺っていた蒼依に○と指でサインしておいたから、今頃、水瀬家では凪ちゃん除く直系達が喜んでいるんだろうな。
一仕事というには簡単すぎる内容であり私にも十二分にメリットがあった。次は、要さんの用事を聞かなければならない。要さんは基本的に泊まらない人なので、来るのは遅くても午後8時過ぎくらいなのだ。現在の時刻は午後9時30分。いつもなら要さんが帰っている時間だ。大した用事ではないらしいが、アポなしというのも気になる。神出鬼没な蒼依とは逆に凪ちゃんと要さんは毎回家に来るときは事前に連絡を入れるのだが、今回はそれもない。全くおかしな話だ。
「要さん。凪ちゃんからは無事に了承を得れました!」
「ふむ。そのようだな。おめでとう。瑠璃」
「ありがとうございます」
「そんで。烏羽さんの用ってなんなんですかー?」
「ああ。瑠璃に事前に話しておこうと思っていたのだが、柊もいて丁度よかったかもしれんな」
「どういうことですか?」
「桃園姫花が急に修学旅行に行きたくないと言い出したそうだ」
「「は?」」
「若竹曰わく「パリじゃなきゃ行かないとだだをこね始めた」らしい。京都は嫌だと頑なに拒絶しているようでね」
「えーと。つまり、京都じゃ不満ってことですか? でも、京都って結構前に発表されてましたよね?」
「あれじゃね? あの電波思考で修学旅行はパリに行くと決まってるって思いこんでたとか?」
「ああ。まさに、その通りらしい。今日になって行き先が京都だと気づき若竹に泣きついたそうだからな」
「今日気づいたんですか!? 想像以上に周りが見えてない、おかしな人ですね」
確かゲーム内での修学旅行先は「パリ」で固定されていたはずだ。だから、クソ女は勝手にこの世界でも「パリ」に行くと思い込んだ。しかし、そこまで、京都に行きたがらない理由はなんだ? 何かあるのか? ゲーム内には京都なんて言葉は殆ど出て来なかったはずだ。ネタバレにもなかったし。ゲーム内で出て来ていないところには行きたくないんだろうか? ただでさえ今はクソ女にとっては予期せぬ事態の連続だし。でも、行かないとか無理だよな。
「しかしながら、烏羽先生。嫌がっているようですが、今の桃園さんの状況では内申点の問題で修学旅行に行かざるを得ないんじゃないですか?」
「ああ。そうだ。修学旅行に参加しないとなると、学園で課題をさせることにはなるが、参加した時と比べると、やはり内申は下がる。特別な理由で参加出来ないと認められた場合はその限りではないがね」
「やっぱり、そうなんだ。ってことは、桃園姫花は現在進行形で自分の首を絞めてるわけか。マジで分かんない女だよなぁ」
「ゆえに若竹は説得するのが、大変だそうだ。あちらの御両親にも説得してくれるように頼んだらしい」
「若竹先生って、本当になんというか人がいいですよね。御両親で説得出来たらいいでしょうけど……」
「無理じゃね? どうせ「私はぁ何がぁあってもぉ退学なんてぇならないからぁ大丈夫よぉ」とか何とか言って話すらマトモに聞かないだろ」
「蒼依の言う通りだと思うけど。今の桃園さんの真似は正直に言って気持ち悪かった。二度と私の前ではしないで」
「ふむ。私も瑠璃と同意見だ」
「気持ち悪いってことぐらい分かってるよ! 俺自身してて鳥肌たったわ!」
そういう蒼依の腕を見ると確かに鳥肌がたっている。それなら、どうして、わざわざクソ女の真似なんてしたんだか。妙なところで体をはらなくてもいいだろうに。クソ女も分からないが、蒼依も分からないな。ん? そういえば、何で要さんはクソ女の話を私にだけ先にしに来たんだろう? 他学年はいるけど別に生徒会室でしても、よかったと思うんだけど。
「要さんは桃園さんのことを話にわざわざいらしたんですか?」
「あぁ。瑠璃から水瀬達に伝えてもらった方がよいかと思ったのでね」
「何だ。それ?」
「ふむ。私の主観的なモノによる判断だ。では、私達はお暇しよう。行くぞ柊」
「げっ。俺もかよ……はいはい。分かりましたから、睨まないで下さい。それじゃね。瑠璃さん。また明日」
「えっ。ああ。うん。また明日」
さっさと動き帰り支度を整え部屋を後にした要さんを追いかけて、そそくさと出て行く蒼依を見送りながら、私は呆然としつつも心の中で呟いた。「クソ女でも、蒼依でもなく、やっぱり、要さんが一番分からない」と。




