修学旅行までの道のり 3
「それで? 蒼依の話はこれで終わりなの?」
「あっ。いや、実はさ桃園姫花関連で面白いことも分かったんだよ! 瑠璃さんも蓬生先輩は知ってるだろ?」
「蓬生先輩?」
「あれ? 分かんないかな? 学園一の女たらしって有名なんだけど。ほら。一年の時、アイツに目を付けてた人だよ」
「ああ。あの人ね。ごめん。女たらし先輩で覚えてた。あの人って蓬生先輩って言うんだね」
「女たらし先輩って……いや、まぁ。間違ってはいないけどさぁ……瑠璃さん。もうちょっと、覚える努力しようよ」
「別にそれで通じるんだから問題ないでしょ? それで、女たらし先輩がどうしたって?」
「結局それで通すんだ……。まぁ。いいか。蓬生先輩って桃園姫花の従兄弟らしいんだよね。桃園姫花の父親の兄が蓬生先輩の父親なんだって。学園ではなるべく隠してるみたいだけど」
「従兄弟? だから、桃園さん。女たらし先輩には、わざわざ近づこうとしてなかったんだ……」
「そうみたいだな。実はさ。俺に桃園姫花の主治医とか紹介してくれたのが蓬生先輩なんだよね」
「えっ? 何で? 蒼依に紹介なんてしたの?」
「蓬生先輩と桃園姫花は桃園姫花が豹変する前は仲がよかったらしいんだよ。でも、豹変してからは、何つうか微妙な仲になったみたいでさ。転校して来たばかりの頃は、転校生が気になるってアピールして、それなりに庇ってたらしいんだけど、この前の体育祭で桃園姫花がやらかしただろ? 前から翠先輩に「調子に乗るから近づくな」とは言われてたらしいんだけど、それが悪化したらしくてさ。俺なら、翠先輩を敵に回す心配ないし、人脈もあるってことで調べるの手伝ってくれって頼まれたわけ」
「別に調べるくらいなら、柚木先輩も文句言わないんじゃない? ああ。でも、無関係な女たらし先輩が調べてたら不審がられる可能性はあるか」
「そういうこと。蓬生家としては、問題児と縁戚だって周りにバレると困るし、俺達みたいに直接被害受けてる人間や学園で役職についてる人間が調べるなら、ともかく蓬生先輩は何もされてないから、立場的に調べ難いんだと」
「なるほどね。それなら、蒼依を選ぶのも納得だよ。調べる理由も申し分ないし、柚木先輩達にも何も言われない。まぁ。情報は私に筒抜けになるわけだけど」
「俺は「特別委員会の役員には言うな」って言われただけだし? まぁ。いつまで、口止めされといてやるかは分からないけどね。そうそう。蓬生先輩って、桃園姫花が豹変する前は一週間に二、三回電話してたらしいから、桃園姫花が豹変したって直ぐに分かったらしいよ」
「一週間に二、三回電話してるなんて、かなり親しかったんだね。それなら、いくら豹変しても見捨てられないか」
「うん。見捨てられないみたいだね。しかも、豹変する前日に「石蕗学園に行くのは怖い」って相談されてたらしくてさ。だから余計に、豹変して違和感半端ないんだって。「俺の姫はあんなんじゃなかった」って言われたよ」
「俺の姫って……ていうか、石蕗学園に行くのが怖いって、どういうことだろう? やっていけるか不安って意味かな?」
「本当に前の桃園姫花は優しい良い子で妹みたいに可愛くて、蓬生先輩にとってはお姫様だったから姫って呼んでたんだと。多分、そうだったんじゃない? そんな電話してきてたのに軽く流して、石蕗学園に見学に来たときも会いに行かなかったから変わっちまったんじゃないかって、ちょっと責任感じてるらしいよ」
「ふーん。姫って渾名の名付け親は女たらし先輩か。責任感じてるから、見捨てられないわけね。しかし、蓬生家はどう考えてるんだろう?」
「蓬生家としては前の桃園姫花に戻って欲しいって大多数が思ってるんだってさ。蓬生家は男系で近い縁戚の女の子は桃園姫花くらいだから、皆可愛がってたんだってさ」
「元の“桃園姫花”に戻すなんて出来るのかな?」
「だから、キッカケを探してるんだよ。キッカケが分かれば戻す方法も少しは見えてくるだろうし」
「なるほど。でも、現段階では、八方塞がりってことか」
「うん。っと。颯から電話だ。ちょっと、出てくるね」
ベランダへ向かった蒼依に手を振って考える。もしかして“桃園姫花”はこうなることを無意識に感じ取っていたんじゃないだろうか? 漠然とした不安を抱えていたから、親を説得してくれそうな従兄弟に連絡をしたんじゃないか? よく分からないが、何故か、そんな気がする。もし、そうなら“桃園姫花”は、かなり不憫だな。石蕗学園にさえ来なければ、クソ女になんてならなくて、すんだだろうに。
しかし、女たらし先輩がクソ女の従兄弟だったとはな。蓬生家は、生徒会や特別委員会に所属する人間達の家には劣るが、上流階級だったはずだ。クソ女がアレだけやって、退学にならないのは蓬生家が裏から手を回していると考えてよさそうだ。女たらし先輩は特別委員会には言うなと口止めしたらしいけど、多分柚木先輩あたりは気づいてる。気づいた上での警告を女たらし先輩にしたんだろう。
「瑠璃さーん。電話終わったよ。修学旅行の予定についてだった」
「修学旅行の?」
「うん。浴衣着て町を散策しないかってさ。何でも、水瀬の浴衣姿の写真を水瀬家の人間が欲しがってるらしくて」
「京都の町を浴衣で散策!? うわぁ。楽しみ! あっ。私も凪ちゃんの浴衣姿の写真欲しい!」
「うん。瑠璃さんがいつになくハイテンションで喜んでくれて嬉しいよ。水瀬とのツーショット写真もあげるよ。でも、その水瀬が嫌がってるんだって。そんで、瑠璃さんに水瀬を説得してくれるように俺から頼んで欲しいって内容だった。あっ。瑠璃さんの家に居るとは言ってないから」
「当たり前でしょ。言われたら困る。あー。でも。そういえば、凪ちゃんって浴衣にちょっとしたトラウマがあるんだっけ」
「ん? 何それ?」
「内緒。ところで、浴衣ってレンタル? それとも、買うつもり?」
「本当に瑠璃さんって水瀬のことに関しては、守備が堅いよな。どっちでもいいってさ。」
「了解。凪ちゃんに電話するから黙っててね」
「はーい。分かりましたよー」
ピンポーンと突然インターフォンが鳴った。今度は誰だ? 少しイラつきながら画面を見に行くと、今はあまり来て欲しくなかった人物が立っている。どうしようかな? この時間帯に居留守は使えないし、出るしかないか。ああ。面倒くさい。いや、待てよ。この人なら凪ちゃんを説得するのに、いいネタをもらえるかもしれない。
「はい」
『夜分遅くにすまないな。開けてもらってもいいかね?』
「いいですよ。来客が一人いますが」
『そうか』
「ちょっ、瑠璃さん!」
『ふむ。その声は柊かね?』
「正解です。いらっしゃい。要さん」
「ああ。お邪魔するよ。瑠璃。しかし、こんな時間に未成年の男女が2人きりで居るとは感心しないな」
「なら、アンタも来るなよ」
「私はこの子の後見人だからな。様子を見に来ても問題はない。それに、「未成年」と言っただろう?」
忘れてた。蒼依と要さんも微妙な仲なんだった。凪ちゃんと蒼依が犬猿の仲ってことばかりが目立ってたけど、この2人も面倒くさいんだよな。主に蒼依が。要さんは大人だから、蒼依を相手にしないけど、蒼依はソレが気に入らないらしい。普段飄々としている蒼依の珍しい姿が見れるんだよね。
「要さん。凪ちゃんと浴衣で散策したいんですけど、説得するのに何かいい案あります?」
「修学旅行の話かね? それなら、浴衣を買い取って共に夏祭りに行くところまで話を膨らませばいいと思うが。京都にはレンタルするよりも着付けを含めても安く浴衣を買える店があるゆえ、金額面はあまり気にしなくていいと話してみるといい」
「夏祭り! うわぁ。それなら、凪ちゃんも喜んでくれます! それにしても、そんな。お店あるんですね。あとで調べておかないと」
「それじゃ、俺が調べるから瑠璃さんは電話で説得しとけば?」
「うん。そうさせてもらうよ。あっ、要さんは何か用があって来たんじゃ? 今聞いた方がいいですか?」
「電話の後で構わんよ。大したことではないのでね。今は、水瀬に了解を取り付けることを最優先に考えたまえ」
「はい! それじゃ、先にコーヒーだけでもお出ししますね。ソファーで寛いでいてください。そうだ。蒼依もコーヒーのおかわりいるよね?」
「ああ。よろしく頼む」
「うん。お願いしようかな」
私は要さんと蒼依の返事を聞いてから意気揚々とキッチンへ向かった。凪ちゃんの浴衣姿とか絶対素敵だよね。しかも、夏祭りの約束まで取り付けられたら一石二鳥だよ。嫌みなくらい、たくさん賞をもらってる蒼依が写真を撮ってくれるんだろうし、コレはかなり期待できるよね。素晴らしい未来のために絶対説得を成功させないと。頑張れ私! 無駄に鍛えた語彙力と悪知恵を今こそ有効活用する時だ! なんて、自分に発破をかけながら、私はコーヒーを用意し始めた。




