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石蕗学園物語  作者: 透華
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体育祭 9

 会長達が戻って来てから直ぐに祝いの言葉と共に忠告をした。会長達にとって高校最後の体育祭でこんなことをするのは、気が引けたが哀れな犠牲者を出さないためには必要なことなのだ。会長達は複雑そうな表情を浮かべていたが、ファンクラブのことに関しては私の方が詳しいので指示に従うことにしてくれたらしい。「万寿菊の会」の会長をしておいてよかった。

 ファンクラブへの忠告は流石に今から行くのは早すぎるということで、明日探りを入れて不審な部分があったら、それとなく注意を促すことにした。まぁ。注意というより牽制かもしれないな。「彼らが転んでくれたお陰で見せ場が出来た」と間接的すぎる物言いで暗に「気にしてないから余計なことはするな」と言うわけだし。

 次の長距離走には生徒会役員は誰も出ないため大人しく観戦することになったが、誰が出るのか全く知らないので私はなぎちゃんと世間話をすることにした。だって、誰か分からない人が走っている姿を見るより凪ちゃんと話してた方が万倍楽しいし。楽しい方に流されちゃうのは人間として仕方ないよね。

 そんなことを思っていると若竹わかたけ先生が再び私達のところにやってきた。さっきよりも若干顔が青ざめている気がするが、多分クソ女の問題発言&行動と風紀委員達の殺気立った雰囲気のせいだろう。この人も哀れな人だな。とりあえず、哀れな若竹先生の為にカフェオレを頼んであげた。疲れた時には甘いものだ。私は疲れてなくても甘いもの食べまくってるけど。


「若竹先生。どうぞ、カフェオレです。飲んで下さい」


「ああ。ありがとう。雪城ゆきしろは本当に優しくていい子だなぁ」


 しみじみと言われ小さな子を褒めるように頭を撫で撫でされる。精神年齢なら私の方が年上なので、ぶっちゃけ複雑だ。普段なら凪ちゃんが「セクハラよ!」と叫びそうなモノだが、流石に今の若竹先生には同情しているらしく、射殺しそうな目で見るだけで何も言わなかった。烏羽からすば先生も冷たい視線は送っているが、何も口にしないあたり、同僚であり友人でもある苦労人に同情しているんだろう。


「桃園は、また、やらかしてしまったなぁ……体育祭なら周りと打ち解けられると思ったんだが、結局ダメだったみたいだ」


「若竹先生は桃園さんに何か忠告をしていたんですか?」


「あぁ。水瀬みずせ達は嫌かもしれないが桃園は俺にとっては大事な生徒だからな。それに桃園はクラスメイトからも浮いているから、応援や競技を通して少しは周りと会話するように言っておいたんだが……ずっと愚痴ばかり言ってたらしくてな。会話には繋がらなかったそうだ。その上、借り物競走であんな暴言を吐いていただろう? 俺もフォローのしようがなくてな……」


 水瀬への返答と同時に、ずーんと重くなる空気に何とも言えない気分になる。若竹先生は苦労を背負い込むタイプなわけか。とっととクソ女を見捨ててくれればいいのに、それが出来ないお人好し。それが若竹先生のいいところではあるんだろうけど、正直に言って邪魔だな。クソ女はともかく、若竹先生は人気があるし、排除するのは面倒だ。


「まぁ。桃園さん自身に変える気がなければ何を言っても意味がないと思いますよ? 彼女は自分が悪いって意識全くないんでしょう?」


「私も雪城ゆきしろの言う通りだと思うがね。桃園が周りと打ち解ける努力をしているのならば、助言するのはいいだろう。だが、一切その気がないのなら、本人のためにも周りのためにもならないのではないか?」


「まぁ。今更「仲良くしましょう」とか言われても何人が信じるか謎だけど」


「そうねぇ。転校生ちゃんの噂って、他学年にもかなり届いているし。皆、警戒しているわよ」


「そう、なのか? いや、でも、俺はアイツの担任だし、俺がなんとかしてやらないと……」


「その考えが甘いと言っているのだよ。だから、桃園がつけあがるのではないか?」


「でも、お前だって生徒のことは大切だと思うだろ! 出来る限り力を貸してやりたいって思って当然だろ!」


 若竹先生はどこか必死な様子で烏羽先生に訴えかけたが烏羽先生はどこ吹く風と言った感じだった。これが2人の考えの違いなんだろうな。積極的に生徒と関わってなんとかしようとする若竹先生と生徒を基本的に放任するけど、いざという時は手を貸す烏羽先生。

 この2人の中が拗れたら、どうなるだろうか? 何か色々なことが起きそうだけど。若竹先生派と烏羽先生派でもめそうだしな。まぁ。私にどんなメリットがあるか考えるより若竹先生をクソ女から引き離す方が楽な気がするんだよな。でも、若竹先生の様子を見る限り引き離すのは、やっぱり面倒くさいかな。

 しかも、若竹先生って別にクソ女に魅了されてるわけじゃないみたいなんだよな。ただ、あくまで可愛い生徒の1人だから気にかけてるってだけで。クソ女がたまたま他の生徒より手がかかるから、ついつい手を貸したくなっちゃうって感じで下心なんて一切ない。本当に熱血教師って面倒くさい。


「若竹先生。私も烏羽先生の言う通りだと思いますよ。桃園さん自身に非がないのに、傷つけられているのなら守ってあげるべきだと思いますが、全て彼女が蒔いた種です。現状で手を貸しすぎたら、桃園さんが自分の非を認めることはないと思います。何があっても若竹先生が味方してくれるって分かってたら治す気なんておきないでしょう。時として突き放すことも優しさですよ」


「雪城……お前は大人だな……」


 そりゃ精神年齢だけならアンタらを余裕で超える年齢になってるしな。大人で当たり前だろう。そんなこと実際に口に出したり出来ないから苦笑だけ返しておいた。私みたいに凪ちゃんだけを特別視し凪ちゃんだけを守ろうと決めているように、若竹先生もクソ女だけを守ろうと決めたら悩みも少しは減るんだろうけど。

 それも口には出せないけどね。若竹先生に妙な覚悟決められても困るし。それだけなら、まだ、いいとしてクソ女だけに構って他をほったらかしにされたりしたら大変だからな。なんか色々と面倒くさくなって、若竹先生から長距離走の出場者へと視線を移す。リレーではないが、一周一周が長いのでまだ終わりそうにない。


「俺は桃園にとって、よくないことをしているんだろうか?」


「それを決めるのは結局、転校生ちゃんですからねぇ。アタシ達じゃ判断出来ません」


「ただ、あの女に構い過ぎるとつけあがるのは事実でしょうがね。時には突き放されることで成長することだってあるでしょう」


「僕も烏羽先生や雪城さん、茜先輩やけい先輩と同意見です。彼女も孤立すれば少しは自分の状況を理解するでしょう」


 会長と茜先輩と水瀬は真剣に若竹先生に答えているが、どことなく丸め込もうとしているように感じるのは私の気のせいだろうか? でも、丸め込んでくれた方が私としては助かるから口を挟むような真似はしない。若竹先生だって、あまり付き合いのない生徒に言われるより、付き合いの長い生徒に言われる方が受け入れやすいだろうし。


「とにかく、あの迷惑行為と妙な濡れ衣を着せるようなマネはやめて欲しいわね」


「まぁ。信じる人はいないだろうけど、名誉毀損だよね。私も腹立つよ」


瑠璃るりちゃん。優しい! 愛してるわ!」


「私も凪ちゃんのこと愛してるよ」


 抱きついてくる凪ちゃんの髪を撫でながら皆に否定され戸惑っている様子の若竹先生をぼんやりと眺める。この人は一体どうしたいんだろう? クソ女を更生させたいんだろうか? それとも、クソ女がクラスメイトに馴染めたら、それで満足なんだろうか? 結局、何を考えていても自己満足でしかない気がするな。まぁ。自己満足の為に凪ちゃんを守ろうと決めている私が言っちゃだめなんだろうけどね。



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