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石蕗学園物語  作者: 透華
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体育祭 10

 長距離走を眺めている途中に牡丹組と薔薇組の体育委員がやってきた。案の定彼等は私となぎちゃん以外の生徒会役員達にチーム代表リレー出場を頼みに来たようだったが、1人暗い雰囲気を醸し出している若竹わかたけ先生に顔をひきつらせていた。そりゃ。普通なら居ないはずの人間が滅茶苦茶落ち込んだ状態で居たら戸惑うよな。

 烏羽からすば先生に「放っておきたまえ」と言われていたが、彼らはチラチラと若竹先生を見ながらも、何も聞かず用件だけを口にした。流石、体育委員の中でも生徒会役員を呼びに行く係に任命されただけあり、状況判断はそれなりに出来るらしい。いい人選をしたものだ。

 彼らの「チーム代表リレーに出場して欲しい」と言う頼みに会長とたちばな水瀬みずせは即座にOKサインを出した。会長と橘は楽しめそうだから、水瀬は生徒会役員が2人も薔薇組で出場するなら牡丹組にも生徒会役員が必要だと判断したんだろう。ちなみにあかね先輩は辞退していた。

 茜先輩曰わく「チーム代表リレーなんて一年から出て来たし、最後くらいは外から見てみたいのよ」とのことだったが、多分、龍崎りゅうざきが断りやすいように先に辞退の意を示したんだろう。当の龍崎は結局断るよりも出場する方が気が楽だったらしく若干青い顔をしながら出場すると言っていた。

 会長達はこうなると分かっていたのか苦笑いを浮かべて龍崎を見つめていたが、こちらとしては生徒会役員が2と2で分かれてくれて、よかったと思う。体育委員達もホッとした表情をしていた。この間、関係のない私と凪ちゃんと烏羽先生はチーム代表リレーの話も落ち込む若竹先生もほったらかし3人で談笑していたが。


「うふふ。頑張ってね。けい萌黄もえぎ君。チームは違うけど、そう君と浅葱あさぎ君も」


「言われるまでもないな。浅葱。お前はいい加減震えるのはやめろ」


「す、すみません。で、でも、おれ……おれ……」


「浅葱。途中まで僕がついてってあげるよ! 浅葱はやれば出来るんだから大丈夫! ほら、行こう!」


「萌黄ぃ」


「待ってくれ。萌黄。萌黄に浅葱を連れて行かせたら僕の役目がなくなるよ。浅葱。待機場所に行っても無理そうだったら誰かに変わってもらおう」


「はぁ。仕方ないわね。そのヘタレが無理だったら変わりに私が出てあげるわよ。面倒くさいけど、瑠璃るりちゃんにいいところ見せられるし」


「凪ちゃん! 凪ちゃんは何もしてなくてもいいところばっかりだよ!」


「ありがとう。瑠璃ちゃん! ほら、とっとと待機場所まで行ってきなさいよ。無理だったら私も準備しなきゃいけないんだから」


「分かったよ。凪。ほら、行こうか? 浅葱」


「はっ、はい」


 そうそう。チーム代表リレー出場選手として声をかけられなかった凪ちゃんが出場することは本当は出来ない。龍崎が辞退した場合、候補にあがっていた別の人間が繰り上がって出場するだけだ。それなら、どうして、こんなことを凪ちゃんは言ったのか。それは単純に震えている龍崎を鼓舞するためだったんだろう。やっぱり、凪ちゃんは優しくて素敵だな。

 事実、龍崎も凪ちゃんの言葉のあと、元気が出たのか――それとも自分が情けないと思ったのか、少しだけ震えが止まり、いい表情かおになった。好きな人にヘタレとか言われたら、やるしかないって感じかな? あんなに怯えてた龍崎にやる気をださせるなんて本当に凪ちゃんは凄い子だ。

 そんなことを思っていると気付いたらチーム代表リレー出場選手になった会長達は居なくなっていた。凪ちゃんに関わることを考えてると周りが見えなくなるのは私の悪い癖だな。気をつけないと。何かあった時に、とっさに動けなかったら洒落にならないからな。


「あと、リレーに出場するとしたら、誰かしらね? やっぱり、運動部系の部長会メンバーかしら?」


「うん。とりあえず、木賊とくさ先輩は確実だと思うよ。あと、運動部系じゃないけど蒼依あおいも出場するだろうね」


「なんか、アイツが出場するって考えたら一気に応援する気が失せたわ。転べばいいのに……」


「あはは……」


 げんなりしたように肩を落とす凪ちゃんに苦笑する。本当に蒼依のこと嫌いなんだよね。凪ちゃんは。蒼依は蒼依で信じられないことに凪ちゃんみたいな素敵な子が嫌いみたいだし。水瀬は2人が嫌いあう理由が分からなくて困惑してるみたいだけど、水瀬には悪いが、理由に関しては言う気はない。私達のことについて、色々説明する必要が出てくるしね。


「あー。入場しだしたな橘は第一走者かぁ」


「その気の抜けるような話し方はやめろ。鬱陶しい」


「橘君。かなり早いですね。普通のリレーとか短距離走に出場してたら、余裕で勝ってたんじゃないですか?」


「そうねぇ。萌黄君は俊足だからクラスとしては、普通のリレーに出て欲しかったと思うわよ」


「それを押し切って障害物競争に出たってことね。その強引さをあのヘタレも少しは見習えばいいのに……」


 リレーを見ながら思い思いの意見を口にする。誰も応援していないが、耳を塞ぎたくなるほどの黄色い悲鳴で満ちているのだから、橘達も気にしないだろう。若竹先生は覇気のない声だったが、一応、何とか持ち直したらしい。凪ちゃんの辛辣な言葉に茜先輩と一緒に苦笑する。それが出来たら龍崎も苦労しないだろうな。件の龍崎は第二走者らしく、ただいまスタンバイしているところだ。


「全く練習をしていないのにバトンパス上手いわね」


「そうだね。龍崎君の方もスムーズにいったみたい」


「ミスしてたら落ち込んでたでしょうし、一安心だわ」


 本当にな。落ち込んだ龍崎を慰めるなんて面倒くさいことはしたくないし。まぁ。放っておいても会長達が勝手に慰めてくれるだろうけど。意外と生徒会の連中は龍崎に対して過保護だよな。とりあえず、あとは転んだりしなければ問題ないだろう。次の人は陸上部の部長だし、バトンパスには慣れてるだろうし一安心だ。

 これから少しの間は、何故か後半に関係者がまとまっているので、凪ちゃんと茜先輩と3人でババ抜きと洒落込むことにした。流石に凪ちゃんと2人でババ抜きっていうのは、つまらないしな。何故か途中から若竹先生と烏羽先生も加わって5人で白熱した勝負を繰り広げることになったわけだが。


* * * * * *


 気づいた頃には蒼依が走っていた。コイツ本当に無駄に身体能力高いんだよな。本人曰く「写真家には優れた身体能力が必要なんだよ」とのことだが、コイツの場合、変なところに潜んで盗撮してるうちに身体能力が高くなっただけ何じゃないだろうか? まぁ。元々、身体能力が高いってのは勿論あると思うけど。

 頭が痛くなるほどの黄色い悲鳴が響いて、いい加減頭がおかしくなりそうだ。蒼依、水瀬、会長と出場するんじゃ仕方ないのかもしれないが。しかし、なかなかの接戦だな。会長と水瀬がアンカーのようだが、この2人で勝負が決まると思うと少しだけ緊張するな。

 それにしても、なんで運動部系の部長達じゃなくて、生徒会役員がアンカー務めてるんだろうか? 乙ゲーの攻略キャラ補正ってところか? でも、それなら、ギャルゲー主人公の蒼依がアンカーでもいい気がするんだけど。蒼依は既に殆どのキャラを攻略してるから補正がいらないってことかね。基準が分からないな。

 そもそも、乙ゲーとギャルゲー内で、体育祭でどんなイベントが起きるのか把握していない私じゃ考えたところでどうしようもないんだよな。今更、後悔しても意味がないけど、こんなことなら、もっと詳しく攻略方法とか見ておくんだった。今のところイベントらしいイベントが乙ゲーの方では起きてないだけマシだと考えるべきなのかな?

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