体育祭 11
チーム代表リレーで勝ったのは僅差で牡丹組だったが、総合得点では薔薇組が勝っていた。会長と茜先輩にとっては最後の体育祭なわけだが、いい思い出になったんじゃないだろうか? そういえば、私と凪ちゃんは結局一度もクラス席には行かなかったな。多分、水瀬も行ってないだろうから気にしなくていいとは思うけど。
後は閉会式が行われ、私達は生徒会室で反省会が待っている。ただ、反省会って何をすればいいのか微妙に分からないんだけど。よくなかった部分なら「頭が割れそうなほどの黄色い悲鳴」を一番にあげるがな。言ったところで、多分どうすることも出来ないけど、やっぱり五月蝿すぎると思う。学園自体が住宅地から離れているからいいけど、近くに家があったら確実に苦情でてるぞ。
他にあるとしたら障害物競争の予選を行うことと借り物競争のお題問題か。でも、これって私達の反省する事柄なんだろうか? 別にどれもあんまり関わっていない気がするんだけど。個人の反省にしても、大して役割があったわけでもないしな。一応、チームをまとめるみたいな話は出てたけど、まとめる必要はなかったし。
コレといったトラブルなんてなかった。いや、クソ女関連トラブルにカウント出来るか。まあ。でも、クソ女の話はおいておくとしよう。しかし、準備や後片付けを自分達でするならサボリとか色々問題が出てきそうだけど、石蕗学園は全部業者に頼んでるんだもんな。ゴミだって育ちのいいお坊ちゃまやお嬢様が大半だから、そもそも出ないしな。
黄色い悲鳴が響き渡る中、つらつらと、そんなことばかり考えている。ぶっちゃけ、ただの現実逃避だ。一体あの悲鳴を発生させている連中はどんな風に声をだしているんだろうか? 私には、どれだけ頑張っても出せそうにないんだが。声質はソプラノだけど、そういうレベルじゃないしな。行ったことはないけど、アイドルのコンサートとかもこんな感じなんだろうか? そういえば、ライブとコンサートってどう違うんだろう? 今度調べてみることにしよう。
会長が開会式と同じく壇上に上がり閉会の挨拶をしているが、黄色い悲鳴は途切れることなくグラウンドに響き続ける。どいつもこいつも元気すぎるだろう。だが、柚木先輩が壇上に上がった途端、開会式の時と同様に声は消えた。何というか、訓練された連中だな。それにしても、黄色い悲鳴を聞きすぎたせいか急に無くなると逆に耳がおかしくなったような感覚に陥るんだが、なんだコレ。凄く複雑な気分だ。
その後、大熊先輩、校長と挨拶が続き無事に閉会式は終わった。放送で反省会を行う委員や学園奉仕活動をする人間への呼びかけが行われ、他の人間へは制服に着替えた後、速やかな帰宅を言い渡している。ちなみに、制服に着替える理由はジャージ姿で学外に出るなど品位が下がるということらしい。よく分からない感覚だ。正直に言って、殆どが車通学なのだから、そこまで気にする必要はないと思うんだが。多分外部生への注意なんだろう。そうそう、これを破ると風紀違反になるので、大抵の人間はちゃんと着替えて帰るんだが、稀に一年の外部生が風紀違反として捕まるんだよな。速やかに帰宅しろと言うのは、これから、業者が入って来るなら無関係の人間に何時までも居られても迷惑だからだ。
私や凪ちゃんみたいに体操服とジャージを借りている人間は返却しなければならないが、返却自体は明日でも別に問題ないので、更衣室が混雑することとクソ女と鉢合わせすることを見越して生徒会室の仮眠室で着替えさせてもらうことにしている。会長や烏羽先生には許可を貰っているから問題はない。しかし、あの豪華な会議室だけじゃなく、資料室や給湯室、仮眠室までついてるとは本当に至れり尽くせりって感じだよな。
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やはり仮眠室もかなり豪華だったが、落ち着いた雰囲気のある部屋だった。休憩するために作られた部屋だからか、仮眠用のベッドだけでなく、ソファーも置かれていた。仮眠用のベッドに触ってみたが、丁度いい低反発の物で、枕やシーツや掛け布団は鎮静作用がある寒色系で統一されている。CDコンポまであったので、近寄りCDを見てみるとオルゴールやクラッシック音楽のモノばかりだった。
「瑠璃ちゃん着替えは終わった?」
「うん。終わったよ。会長達に声かけようか。アッチがまだだったら、私達ドア開けられないしね」
「そうね。まぁ。着替えくらい終わってるとは思うけど」
言うが早いか凪ちゃんはスマホを手に取ると電話をかけ始めた。相手は多分水瀬だろう。ドア一枚隔てただけなのに、わざわざ電話しているのは、コッチもアッチも防音設備ばっちりだからだ。ノックの音は聞こえると思うけど確証はもてないし。それなら、電話で確認した方が手っ取り早いというわけ。設備が充実しすぎてるのも、厄介なんだよな。
凪ちゃんは水瀬にOKをもらったらしく、ドアに手をかけて開けた。会議室の机には今から反省会をしますといった資料ではなく、世間話でもするかのようにお菓子が並んでいる。何か一気に力が抜けた気がする。反省会って、アレか? 内輪だけで「あそこ悪かったよね」的な会話をするだけのモノなのか? それなら別に今日する必要はないんじゃないだろうか?
「凪ちゃんも瑠璃ちゃんも座って。反省会始めるわよ」
「あっ。はい。分かりました」
「よし。全員席に着いたな。ソレでは、何か問題点及び改善点について意見はあるか?」
「やっぱり、障害物競争は予選が必要だと思います。かなり、時間がかかってましたからね」
「お、俺も同じです」
茜先輩に促されて席に着いたけど、一応反省会はちゃんとするんだな。少しだけ安心した。皆お菓子食べながら聞いてるけど。しかし、水瀬と龍崎は私と同じ意見か。まぁ。一番例として出しやすいのはコレだしな。
「借り物競争のお題も一応、問題点ではないですか? 借りられないモノをお題に入れるのは、いかがなモノかと……」
「だが、借りられる可能性があるモノもあるしな。そこら辺の線引きが難しい」
「いえ。絶対借りられないモノは無しにすべきってことです。例えば「校長のカツラ」とか「学年で一番足が遅い人間」とか」
「ウチの校長先生って地毛だし、足が遅いかどうかは体育が選択教科である以上判断出来ないものね」
「なるほどねぇ。言われてみれば、そうだわ。特に後者の場合はまず間違いなく不可能よね」
「借り物競争って言えば電波先輩が凄かったよね!」
橘の明るい声に一気に周りが静まり返る。あえて誰も触れなかったところに平然と触れて来やがった。コイツなかなかやるな。会長や水瀬なんて顔しかめてるぞ。気づけ橘。2人の機嫌が急降下中だ。それにしても、つきまとわれて直接的な被害を受けている水瀬はともかく会長まで、こんな顔をするのは何故なんだろう。「従姉妹が濡れ衣着せられた」って点は水瀬と同じだけど、会長と柚木先輩の関係を考えるとそのことに腹が立ってるってことはなさそうなんだけど。
「あの女に関しては風紀もかなり厳しい対応をしているようだがな。性格がアレではあまり意味がないらしい」
「御両親はマトモな方達なんでしょう? 転校生ちゃんが濡れ衣着せた凪ちゃんや翠ちゃんにも直接謝罪したいって言ってるそうじゃない」
「そうなんですか? その話は初めて聞きました。しかし、御両親も苦労なさってるんでしょうね」
「そうだろうね。凪達が調べた内容だと突然娘の性格が変わったようだし……病気でもないのに、そんなことが本当に有り得るのかは謎だけど」
「でも、実際に有り得てるわけでしょ? それとも何? 私と瑠璃ちゃんが調べた情報が信じられないわけ?」
「落ち着きたまえ。私も調べてみたが、桃園は本当に豹変したそうだ。理由に関しては不明な点が多々あるようだがな」
「とりあえず、体育祭の反省会に話を戻しませんか? 凪ちゃんもいいよね?」
「……瑠璃ちゃんがそう言うなら」
凪ちゃんはちょっと不満げに口をとがらせるが納得してくれたらしい。こういう子供っぽい仕草も可愛いんだよな。普段は美人さんで怒った顔は綺麗だけど、私は可愛い凪ちゃんが好き。もちろん、大勢の人の前に立ったときに見せる凛とした姿も格好良いと思うんだけどね。
「ありがとう。凪ちゃん。えっと、それで問題点と改善点についてですけど、今のところは障害物競争と借り物競争の二つについてだけですね」
「他は概ね上手くいっていたと思うわよ」
「お、俺もそう思います」
「そうだな。大熊には、障害物競争の予選を行うことと借り物競争のお題に関しての注意を伝えることにする。烏羽先生もそれでかまいませんか?」
「ふむ。いいのではないかね? そもそも、体育祭での生徒会の役割は差してない。あるとすれば改善点や問題点を運営に関わらない関係からあげることなのだからね」
ああ。成る程。だから、反省会の割にこんなに緩い雰囲気なわけか。やっと理由が分かった気がする。烏羽先生が居てくれなかったら、理解できなかった事実だな。それにしても、クソ女の話題であんなに盛り上がるとは思ってなかった。烏羽先生までクソ女について調べているとは考えてなかったが、甘かったか。
蒼依からの情報は私と凪ちゃんが調べられたことと同じモノだったけど、要さんの場合、どこまで知っていて何を隠しているのか分かり難いから面倒だ。今、言ったことだけが、持っている情報だとは思えない。あえて隠しているのか、言う必要がないと判断したから言わなかったのか。要さんは目聡いから、ちょっとしたことで不審に思われかねないし。とりあえず、下手な動きはしないように気をつけないとな。




