体育祭 8
遅くなりました。祝50話がこんな話で申し訳ないです。
結局、電波女VS電波女の戦いは夢宮の勝ちだったらしい。まぁ。夢宮はのんびりして見えるけど頭の回転は悪くないだろうし、端からクソ女には勝ち目なんてなかったわけだ。基本的に家柄がいい人間達は人の上に立つことが定められているから「頭」がいい。学園内の力関係でも家柄、成績、人格etcとか関わってくるし、そういう人の上に立つための教育をされている。
だから、生徒会役員も特別委員会役員も、さらに言うなら部長会役員も全員それなりに「頭」がよくないとなれないのだ。ただ、大熊先輩のようにソレを凌駕するほどの人望があれば話はかわるけど。表では笑顔でも裏でえげつないことを考えるなんてことは学園統治組織の役員にはザラにあることだと思う。
そうそうクソ女が夢宮を説得できなかったせいで二年一組はクソ女の時点で脱落が決定した。クソ女は「もう一回ぃ。クジを引かせなさいよぉ!」とか「アンタがぁ何かぁ仕組んだんでしょぉ!?」とか言って体育委員にくってかかったが、相手にされず自分のクラスの体育委員に半ば引きずられながらクラス席に戻っていった。
だが、マイクをつけたままの体育委員の直ぐ傍で「何なのよ、あの夢宮って女! 有り得ないわよ! あの間延びした口調も気持ち悪いし!」とか「特別委員会なんて顔も悪い上、性格も悪いヤツしかいないんじゃないの!?」とか喚きちらしていたせいで、小さい音だったけどスピーカーから声がもれ全校生徒に本性がバレることになった。当のクソ女は自分が愚痴るのに夢中で一切気付いていないようだったが。本当にバカなんじゃないだろうか?
ちなみに私が戻った頃には生徒会長と茜先輩は二人三脚の待機場所に行っていたが、残っていた水瀬、龍崎、橘はクソ女の発言にドン引きしていた。そりゃそうだろう。なんせ「お前が言うな」という言葉のオンパレードだし。凪ちゃんと烏羽先生は涼しげな顔をしていたけど、多分どうでもいいから気にしなかったんだろうな。
しかし、クソ女は何というか本当に幾つか聞きたくなる程の思考をしているな。一応、“桃園姫花”の記憶があって、あの考えなさだと色々な意味で恐ろしくなる。脳のキャパを超えて暴走してる状態なんだろうか? それとも“桃園姫花”の記憶があっても現在のクソ女自身の元の記憶は曖昧とか?
いや、でも“桃園姫花”の記憶がただの記録のようなモノとしてしか残っていないとしたらどうだろう? “桃園姫花”がどんな人間か、周りはどんな人間だったか、彼女がどんな人生を送ってきたかは分かっても、“桃園姫花”の記憶を彼女の感情込みで理解し受け入れられなければ、結局“桃園姫花”の記憶があるとは言えないんじゃないか? 何か考えるだけで頭が痛くなるような話しだな。
とりあえず、一旦この話を考えるのはやめよう。って、こうやってクソ女について考えこむの何回目だっけ? 兎に角クソ女がどんな状態であれ私達に何かしてこない以上、こちらも何も出来ないし、する気もない。無駄な波風を立てたくないしな。裏で動くにしても、私に触発される人間がいないとも限らない。そうなった場合、面倒なことになる。
気分を変えるためにコーラを頼みグラウンドに目を向ける。相変わらず黄色い悲鳴が五月蝿いが、会長と茜先輩を見つけた。会長も茜先輩も背が高いし、周りから微妙に距離をとられているから、簡単に見つかった。多分「近寄るなんて恐れ多い」って人が多いんだろうな。カリスマ性がありすぎるのも大変だ。まぁ。私は本当に気圧されたことなんて、一回もないけど。ちなみに、会長と茜先輩は予想通りアンカーだ。
「やっぱり、螢先輩と茜先輩はアンカーだったね」
「まぁ。実力もあるんだろうけど、あの2人だったらアンカーにせざるを得ないんじゃないの? 瑠璃ちゃんもそう思わない?」
「そうだね。あの2人が出場する競技で普通の人がアンカーをするのは荷が重いんじゃないかな。リレーってチームワークも必要だけどアンカーの責任も大きいしね」
「そういうものかなぁ?」
「お、俺にふるなよ……なんとなく分かるけど……」
「えっ? 浅葱分かるの!? なんで!?」
「うっ」
龍崎はやっぱり分かるタイプの人間か。龍崎の場合、相手が家柄の劣った人間であっても先輩であれば畏縮するし、同学年に対しても強気な態度がとれないらしいから、会長達のクラスメイトの気持ちが痛いほど分かるんだろうな。ただ、龍崎は家柄と立場考えると、それじゃ駄目なんだろうけど。
どうやら親友とは違い分からない側らしい橘は龍崎にしつこく「何で?」とか「どうして?」とか「浅葱は何で分かるの?」とか尋ね方を変えて質問しまくり龍崎を辟易とさせていたが、急にグラウンドを見て驚きの声をあげた。
「あっ! 会長達のチームの人達転けちゃった!」
「うわぁ。コレで負けたらファンクラブが暴走して、文句言いに行きそうね。会長達、責任重大だわ」
「そうだね。あの人達「あなた方が転んだりしたから、紫堂様と矢霧様が敗北などという屈辱を味わうことになったのです。いかがなさるおつもり?」とか会長と茜先輩のファンクラブ会員にいびられそう。あと、負けなくても「転んだ事実」はあるわけだし両方にアフターフォローするように忠告しとこうかな」
「雪城さん……ファンクラブのしそうな発言例が生々しくて怖いよ……」
「ふむ。どうやら、その方がよさそうだな。雪城。紫堂と矢霧への忠告を任せるがいいかね?」
「かしこまりましたー」
なんて会話を繰り広げる横で龍崎だけが橘の詮索から逃れられたからかホッとしたように胸をなで下ろし、転び立ち上がって走り出した選手達を見て顔を青くする(恐らくファンクラブやクラスメイトからの嫌味を心配して)なんていう面白反応をしていたことに笑いそうになったのは秘密にしておくことにしよう。龍崎が哀れだしな。
幸か不幸か彼らは会長達の一つ前の走者だったし、転けてからの立て直しも早かったので会長達の頑張り次第では一位に返り咲けるくらいの距離しか離されていない。むしろ会長達の見せ場を作ったと考えれば、彼らは実にいい仕事をしたと言えるだろう。あとは会長達のチームワークにかかっているわけだが。
「何か会長達滅茶苦茶早くないっすか? 息が合いすぎてて逆に怖いんですけど……」
「まぁ。あの2人は幼なじみだし、背格好も似ているしね。何より秘密の特訓もしていたらしいから」
「あの会長が特訓ねぇ。何だか意外だわ。仕事もキッチリしていたし、いつ特訓なんてしたのかしら?」
「放課後か早朝じゃないかな? 噂になってなかったし。まぁ。どちらにせよ学園ではしてないだろうけど」
「へぇ。螢先輩と茜先輩頑張ってたんだね!」
「それで、あの早さか……」
龍崎が呆然としたように再びぼそりと呟いた。うん。気持ちは分かる。周りの黄色い悲鳴が気にならないくらいには、尋常じゃないスピードで走ってるしな。あれは二人三脚で出るスピードじゃないだろう。一体いつから特訓とやらをしていたのか分からないが、成果が出てよかったな。
「一位だったね。螢先輩と茜先輩」
「そうだね。他を寄せ付けない早さだったよ」
「コレ。会長達のインパクトが強すぎて転んだ人の印象がなくなった気がするんですけど、忠告いりますか?」
「忠告はしておくに越したことはないと思うがね。ただ、行動を起こしそうなら、ファンクラブに注意する程度で問題はないだろう」
「かしこまりました」
気持ちいい気分で帰ってくるだろう会長達には悪いが一応忠告はしておくことになった。まぁ。たかだか体育祭で転んだだけでファンクラブに責められたら、その方が哀れだしな。茜先輩のファンクラブは問題なさそうだけど、会長のファンクラブは過激派だし、波風を立てない努力をさせてもらおうか。




