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石蕗学園物語  作者: 透華
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体育祭 7

いつもより、ほんの少しだけ長いです

 借り物競争の出場者が入場し始めた。ついつい、握りしめた手に力が入る。蒼依あおいとクソ女が何を引くのか非常に気になる。出来れば物だったらいいんだけどな。借り物競争のお題って普通の物も多いけど、体育委員が面白半分で書いたりするモノもあるからタチが悪いんだよね。

 物で言えば「好きな人(恋愛感情)の持っているペン」とか「一年生の最初のテストの答案用紙」とか「生花」とかね。「好きな人(ry」とかは、そのせいで公開告白みたいになるし。人間で言えば「生徒会役員」と「特別委員会役員」と「部長会役員」は、ほぼ確実に入っているらしい。

 物にしても人間にしても「貸してくれ」とか「一緒に来てくれ」って言われても拒否権はあるんだけど、生徒会役員とかは立場上拒否しにくいみたいなんだよね。それこそクソ女みたいに嫌われてたり素行が悪い人間相手なら拒否しやすいんだろうけど。まぁ。一般生徒に頼まれたら拒否する必要はないけどね。ただ、蒼依みたいな有名人に頼まれたら拒否出来ないんだろうな。

 一番手が一斉に走り出し、借り物のお題が入っている箱にそれぞれ手を伸ばし取った紙を見た人間の反応は様々だ。瞬時に走り出す人間もいれば「無理だろ!」と叫び頭を抱える人間もいる。ちなみに、五分以内に戻って来られなければ、その時点でそのクラスは脱落が決定するため意外とシビアな競技だったりする。

 まぁ。無理だった場合お題は読み上げられるので、仕方がなかったと納得されることが多いんだけど。稀に交渉中に五分経過し、ある意味公開告白になったりもするらしい。青春だな。ソレくらいは普通の学校でもあるものなのかもしれないな。“ワタシ”の通った学校にも私の通った小、中学校にも借り物競争はなかったから、よく分からないけど。

 そうそう実は全学年の全クラスの競技出場者が体育祭でマトモに出場出来るのは、元々出場者が少ない学年代表リレーや逆に出場者の多い玉入れのような団体競技くらいだったりする。今回は初めてだったから障害物競走や玉入れも予選なしのぶっつけ本番だったけど来年からはクラス代表リレーや二人三脚のように予選勝ち抜き式になるだろう。一学年に六クラスあったら仕方ないよな。ちなみに予選勝ち抜き式は高等部ということもあり、親があまり来ないからこそ出来ることらしい。

 そんなことを考えていると数人が借り物を持って体育委員に駆け寄っていた。体育委員は紙と借り物を交互に見つめると納得したように頷く。スピーカーから僅かに声が聞こえるが、多分出場者のものだろう。どうやら普通のマイクではなくテレビに出るタレントがつけているようなピンマイクをジャージにつけていたらしい。


『薔薇組所属三年一組「自分と同じイニシャルが刺繍されたタオル」OKです』


『三年五組「クラスメイトの学生証」一年四組「バスケットボール」どちらも成功です』


『二年一組「マイク」合っています』


『牡丹組所属二年三組「漫画」二年六組「電子辞書」どちらもお題に適しています』


『一年二組「コーラ」指定の物です』


『三年六組「包帯」間違いありません』


『全員OKのようです。先ほど呼ばれた方々は一番手から二番手にタッチしてから、交代するよう注意して下さい。まだの方は、あと二分残っていますので頑張って下さいね』


 うちのクラスはどうやら大丈夫だったらしい。安心安心。クソ女のクラスも二番手に交代するようだ。とっとと脱落して欲しいんだけど。というか、バスケットボールはよく持って来れたな。まだ、片付けてなかったってことはないだろうけど、いまいち部活動リレーの仕組みは分からないから置きっぱなしだったんだろうか? しかし、このまま誰も持って来られなかったら、一番手でかなり脱落することになるな。


『えー。五分経過しましたので、まだ借り物が手元にない一番手の方は戻って来てって……分かりました。今回は全員僕が読み上げますね。えっと「子供の頃の写真(本物の写真)」「彼女の飲みかけのアイスティー」「校長のカツラ」「学年で一番足が遅い人間」「卒業アルバム(中等部)」「ガラスの靴」「使い切ったテレフォンカード」「枕(家で使っているもの)」「雑巾」「二百色の色鉛筆」です。コレはまた難題でしたね』


 うん。コレは難題どころじゃなく、普通に不可能なレベルだろ。そもそも、最初のは本物の写真ってことはスマホとかのじゃ駄目ってことだし、二番目は二番目で彼女いること前提の条件だし、三番目もウチの校長は地毛だから無理だし。他のモノにしたってツッコミどころしかない。体育委員よ。もうちょっとお題考えてやれ。コレはクラスの人間も仕方なかったと諦めるしかないだろうな。

 脱落者は哀れだが、自らのくじ運の無さを嘆くしかないよな。それにしても一番手は人系のお題は一題だけか。思ってた以上に少ないな。でも、コレで最初から十八クラス中十クラス脱落になるわけだが、アンカーまで辿り着けるクラスがあるのかどうか不安になるレベルだ。他のお題がマトモだといいんだけど。


「なんか、波乱の展開って感じねぇ。一番手で十クラスも脱落するなんて初めてだわ」


「やっぱり。初めてなんですか?」


「ふむ。私が学生だった頃でも一気に十クラス脱落はなかったな」


「へぇ。ちなみに烏羽からすば先生が知っている限りで難題だったのは何ですか?」


「あっ。僕も気になる!」


「ふむ。強いて言うなら「昔近所に住んでいた初恋のお姉さん」や「アフリカにいる従兄弟」や「薪ストーブ」や「使い終わった切符」などは難題だったと思うがね」


「何で、そんなピンポイントなんですか……」


「居ること前提だものね。というか、借り物じゃないわよね? 近所のお姉さんとか、アフリカに居る従兄弟とか誰のよ」


「ああ。当時の体育委員も、まさか、引き当てるとは思っていなかったらしい。故に難題だったと」


「あー。完全に自分達が後で笑う用だったんですね。そろそろ噂の転校生の番か?」


「そうみたいだけど、貸してくれる子いるのかしらね?」


「あの勘違い電波っぷりを聞く限り、ここぞとばかりに私達の方に来そうですけどね。皆さん大丈夫ですか?」


「……クラス席に行ってくる」


「アタシも行くわ」


「お、俺達はどうする?」


「僕達は保健委員さん達の後ろにいない?」


「わ、分かった」


「凪達はどうするんだい?」


「私のところには来そうにないし残るわよ」


「でも、他の役員は何処だって叫ばれそうだよね」


「それは、ウザいわね」


「全員安心したまえ。彼女の場合のみお題を確認してから、行かせるようにするそうだ。「生徒会役員」とお題が出ない限りは此方に来ることは禁止されている」


「意外と徹底してるんですね。それなら、安心です。ただ、そんなことして「差別だ」とか学園側に苦情が来たりしないんですか?」


「監視が必要なストーカーが被害者に接触しないようにするのは当然のことだろう? 故に問題はない」


 烏羽先生が言い切るなら、本当に問題ないんだろうな。会話が聞こえてきたのか会長達が戻って来た。やっぱり、クソ女との接触は全員控えたいらしい。殆ど会ったことすらないのに、ここまで嫌われるとは、やるなクソ女。つい人目を忘れて嘲笑してしまいそうだ。


『薔薇組所属二年一組桃園姫花ももぞの ひめかさんに限り、お題をこの場で発表させていただきます』


「ちょっとぉ! 何よそれぇ。差別じゃないのぉ!」


『差別ではありません。あなたの問題行動のただの結果です。それに、難易度は考慮して借り物は人間指定の中から引いてもらいます。えっと、お題は「図書委員長」。これは有名どころが出ました! 運がいいですね。では、頑張って下さい』


「どこが、運がいいのよぉ! 生徒会役員だったらよかったのにぃ! どうせ、あんた達が仕組んだんでしぉ?」


『仕組んで居ませんが、確認しますか?』


 うわぁ。体育委員のマイク。性能よすぎ。音は小さいけどクソ女の声完全に拾ってる。いや、講義してるクソ女の声がデカいのか。まぁ。私は、どちらでもいいが、クソ女は気付いてないのかな? 何かウッカリなんだよな。クソ女って。だからどうしたって話だけど。あっ。蒼依のヤツ。クソ女に気付かれないようにお題取りに行きやがった。って、何かコッチに走って来てないか?


「瑠璃さん一緒に来て!」


「ゲッ。ハーレム男!」


「はぁ!? ちょっとお題は何よ!」


「水瀬。五月蝿い。ほら、お題「学年で一番頭がいい同じ中学の人」だ」


「あー。これなら、凪は無理だね」


「笑ってんじゃないわよ!」


「走るのイヤ何だけど……」


ひいらぎ君。瑠璃ちゃんは、あんまり体調がよくないから無理させないでね?」


「分かりました! 瑠璃さん小走りでいいから! 何だったら抱えるよ」


「はぁ。分かったよ。凪ちゃん。ちょっと行ってくるね。クラスの勝利に貢献してくる」


「……あの女には気をつけてね」


「分かったよ」


「よっしゃ! 行くよ。瑠璃さん!」


 蒼依と横並びになって小走りで体育委員に駆け寄る。手を引かれるような危険な真似はしない。しかし、会長は本当に蒼依が嫌いみたいだな。凪ちゃんと2人で思いっきり顔しかめてた。一番怖かったのはかなめさんが醸し出してたオーラだったけど。あれは多分「無理させるなよ」ってオーラだね。あかね先輩や凪ちゃんもだけど過保護だなぁ。


『牡丹組所属二年一組「学年で一番頭がいい同じ中学の人」成功です! 2位二年一組!』


 クラス席から「わぁ」と歓声が響く、来てよかった。クソ女をチラリと横目で見ると夢宮ゆめみやさんと壮絶な戦いを繰り広げていた。電波女VS電波女のせいで、一緒にいる人間の方が疲れた顔をしている気がする。何はともあれ、気付かれる前に席に戻るとするか。



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