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石蕗学園物語  作者: 透華
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体育祭 6

 やっと部活動リレーが終わった頃には、何もしていないのに異常に疲れていた。ここはグラウンドで声が反響することはないはずなのだが、あまりにも周りの声がデカすぎたのだ。元々人酔いしがちで騒音が苦手な私にとっては耳を塞がずにはいられないレベルだった。本当に生徒会に入れてよかった。クラス席なら間違いなく気分が悪くなっていたな。


瑠璃るりちゃん。大丈夫? はい。冷たいミルクティーよ」


「ありがとう。なぎちゃん」


「どういたしまして」


 心配そうに見つめてくる凪ちゃんにお礼を言ってミルクティーを受け取る。ドリンクを代わりに貰ってくれるだけでも、ありがたいのに、甘いお菓子まで頼んでくれるなんて、凪ちゃんマジ天使。超優しい。大好き。心配そうな顔も可愛いし、癒されるな。


「瑠璃ちゃん顔色悪いわね。よかったら、保健委員のところまで連れて行くわよ? おんぶも抱っこも出来るし」


「いえ。大丈夫ですよ。あかね先輩心配してくれて、ありがとうございます。……そういえば、たちばな君は……あぁ。障害物競争に出場するんでしたね」


「お、覚えてたんすか?」


「まぁ。一応は……」


 龍崎りゅうざきはともかく橘は覚えてないと拗ねそうだしな。実際は拗ねてなくても拗ねたふりをしそうだ。橘は良くも悪くも末っ子気質に見える。甘えるときは甘えて周りを利用し、我が儘時はとことん我が儘なイメージがあるんだよな。実際、大家族の末っ子らしいし。当たらずといえども遠からずだろう。だからこそ、気弱な龍崎は同い年であっても、お兄ちゃんぶれる格好の相手なんだろうか?


「まぁ。雪城ゆきしろさんが大丈夫って言うなら、信じようかな。そろそろ萌黄もえぎも出てきそうだし。そういえば、萌黄って何番手?」


「えっと、アンカーっす」


「アンカーか。萌黄が自分からアンカーになると言って決まったんだろうな」


「えっ、何で分かったんすか!」


「萌黄君。そういうの好きそうだもの。それに、実力あるし」


 龍崎は驚いているようだが会長達にはお見通しのようだな。何というか、橘は結構自己顕示欲があるのか。コレも末っ子気質故ってことなのかな? というか、やっぱり一応敵チームなのに情報を知りすぎだと思うんだが。まぁ。でも、私も凪ちゃん相手なら情報流すだろうし。そんなに、おかしくない気がしてきた。


「アンカーなら、ちょっと時間かかりそうだね。他のモノと違って複雑だし」


「というか、午後に時間かかる競技残しすぎだと思うんだけど……障害物競争以外にも借り物競争に二人三脚に長距離走でしょ?」


「確かに、全部時間かかるものばかりだね。しかも、借り物競争って出場者かなりいるし。借り物の難易度によって回りも早かったり遅かったりで差が激しいし」


「それはね。チーム代表リレーの選手を選ぶために、学年代表リレーとクラス代表リレーと短距離走は午前に入れたがるからなのよ。純粋に足の速さが目で確認できる競技だから決めやすいし、苦情もでにくいしね」


「じゃ、じゃあ。チーム代表リレーって、午前の走る競技にでたヤツが選ばれやすいんすか?」


 いかにも「恐る恐る」といった感じで問いかける龍崎に思わず苦笑する。若干顔も青ざめている気がするが、そんなに出たくないんだろうか? 龍崎はこの学園――というか家柄を考えるとかなりおかしな性格をしている。龍崎程の家柄なら例え次男であったとしても能力はあるのだし、もう少し自信家でいいはずだ。

 設定上は「兄が優秀すぎ、その兄と常に比べられてきたため、気弱で臆病な性格になった」はずだけど、実際はどうなんだろう? 結構、ゲームから逸脱している部分があるからあってるか微妙だよな。ソレだけであっても、クソ女につけ込まれると面倒くさいし弱みは知っておきたいんだけど。深く関わる気もないし。


「安心したまえ。龍崎。例え選抜されたとしても拒否権がある。出場したくないのなら、その旨を伝えればいい。それより、次は橘の番のようだが、応援をしなくてよいのかね?」


「あっ」


 龍崎は烏羽先生の言葉にバッと振り返るとグラウンドに一番近い所まで走って行った。烏羽先生は「嫌なら断ればいい」みたいなことを言っていたけど、龍崎にはそっちもかなりハードルが高い気がする。てか、龍崎の場合、選出されたら断れずに絶対出場することになるよな。そこら辺は同じく選出される可能性が高い水瀬がフォローするだろう。


「お疲れ様です。烏羽先生。お戻りが遅かったようですが、何か問題が?」


「いや。問題は起きてはいない。少し若竹わかたけにつきまとわれていただけだ」


「「「若竹先生……」」」


 思わず凪ちゃんと水瀬と声を合わせてしまった。無理もないけど、やっぱり、ストレスがたまっているんだろうか? さっきは爽やかにギャラリーに手を振ってはいたが、内心どう思っていたかは、分からない。とりあえず、橘の応援はしとかないといけないから「頑張れー」とだけ叫んでおく。

 そうそう、結局障害物競争は奇数がラケットリレー、トンネル、平均台、縄跳び。偶数が逆から縄跳び、平均台、トンネル、ラケットリレーという順番になった。ラケットリレーと平均台はどちらもバランス系なので離すことにし、ある意味走る系でもあるラケットリレーと縄跳びも離したら必然的にこの並びになった。

 橘含めアンカーは全員偶数である6人目のため、縄跳びから競技を始めていた。縄跳びは全員割とスムーズに進んでいたが、平均台でバランス感覚のいい人間や足幅の小さい人間が前に出て、トンネルで小柄な人間が有利にたてたようだが、ラケットリレーは経験者である外部生が有利なのか、結局今は横並び状態だ。


「頑張れ。萌黄ー!」


「負けたら承知しないぞ!」


「萌黄君ファイトー!」


 会長と茜先輩は高校最後だからか体育祭を思いっきり満喫している気がする。“ワタシ”も私一度も心から学校生活を楽しんだことがないから、少しだけ羨ましい。まぁ。“ワタシ”も私も楽しめないのは性格の問題だと分かってはいるのだけど、今更性格を変えられるわけじゃないし。仕方ないよな。別にそこまで損してないし。それに、私は凪ちゃんのお陰で“ワタシ”の頃よりは楽しめてるしね。


「萌黄ー! あと、もう少しだ! 頑張れー!」


 龍崎は相変わらず前の方で大声をあげている。何というか珍しいな。いや、そうでもないか? 脅えて悲鳴のような大声を出すことはあるし。でも、こんなに自信があるというか強いというか、そんな声は聞いたことがない。こんな声もちゃんと出せるんだな。少しだけ安心した。


「あっ。萌黄君は2位のようね。でも、いい顔してるわ。周りも結構盛り上がっているし、障害物競争を採用してよかったわね」


「同感だ。外部生もかなり盛り上がっていたようだな。やはり、馴染みのある競技だからか?」


「それは、あると思いますよ。外部生は馴染みがあり内部生はこういう少し変わった競技は新鮮だったでしょうね」


 こちらに走ってくる橘を眺めつつ茜先輩達の会話をぼんやりと聞きながら、とうとう次が蒼依あおいとクソ女が出場する借り物競争の番だと思い出した。絶対に何か波乱が起きると思うんだが、本当に大丈夫か心配になってきた。

 ただでさえ借り物競争は「借り物」によっては色々とややこしいというのに。というか「借り物」なのに人間指定もあるっておかしくないか? ああ。何か考えるのも面倒になってきた。あの2人がおかしなモノを引き当てないでくれることを祈るしかないよな。



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