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石蕗学園物語  作者: 透華
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体育祭 1

 とうとう体育祭の日がやってきた。クソ女は相変わらず学園奉仕活動をさせられているらしく、今日は居残り決定らしい。生徒会役員も今日の反省点や改善点を会議しなければならないため居残り決定だ。多分特別委員会も同じだろう。

 私となぎちゃんは体育祭に使う体操服をレンタルするために少し早めに来ていた。体育を選択していない生徒は体育祭の時や必要に応じて体操服をレンタル出来るのだ。しかも、体育祭の時は誰であってもレンタルは無料。どれだけ酷く汚してもクリーニング代も払う必要なし。流石金持ち学園太っ腹だ。

 今はもう着替えを済ませ生徒会役員用の席に座っている。ちなみに半袖半ズボンではなく、長袖長ズボンのジャージ姿だ。競技中は半袖半ズボンが義務付けられているが待機時は別にジャージでいいらしい。一応日焼け止めは塗っているが、紫外線対策の為にジャージを着ているというわけだ。暑苦しい姿だが、体育特進科があるだけあってジャージの通気性は非常にいい。今日は少しだけ肌寒いので、ちょうどいい上着のようだ。

 ジャージのデザインは群青に白の二本のラインが入り石蕗つわぶき学園の校章が左胸についているファスナーで開閉可能なので、着脱がかなり楽に出来る。ズボンも群青に白ラインでポケット付き。半袖は逆に白に群青のラインが入り、同じく群青で石蕗とローマ字で左胸に書かれている。ズボンは群青色でひざ下の丈。右足側に石蕗の花と葉が描かれている。こちらもポケット付きだ。


「やっと体育祭ね。クラスの皆ヤケに盛り上がってたけど、怪我人出ないかしら?」


「あー。どうだろうね? でも、基本的に怪我するような競技はないし大丈夫じゃないかな? リレーで転けたり、応援合戦の内容が奇抜だったりしたら話は別だけど」


「それもそうね。そういえば、ウチのクラスって応援合戦に参加する人が結構居たけど、一体なにするのかしら? 去年はありきたりなダンスだったわよね。曲は何故かクラシックの静かなモノだったけど」


「確かに「動きは激しいのに何でこの選曲!?」って空気が凍ったよね。もう片方はもう片方で何故か劇やり出したし」


 基本的に競技は怪我人が出ないように配慮しなければならないが、応援合戦は有志が勝手にするため何をするかは参加する有志しか知らない。何があっても自己責任なので、生徒会は一切応援合戦には関わらない。自己責任って素晴らしいな。今年は一体どんなカオスっぷりを発揮してくれるのやら。いらないと思っていた応援合戦だが、クラスの皆が活き活きと練習に行っている姿を見ると少しだけ楽しみになる。


「それにしても、中学と比べて本当に待遇いいよね。テントで日差しを防げるし、団扇や扇子も持ち込み自由で、何故か扇風機まであるし。その上、冷たいドリンクもサービスだもんね」


「ふふっ。中学時代は大変だったよね。暑いし、しんどいし。熱中症で倒れかけたり?」


「ははっ。そういえば、そんなこともあったよね。その節は御心配おかけしました」


「随分楽しそうだけど、何の話をしているんだい?」


 後ろから聞こえた声に振り返ると水瀬みずせが立っていた。水瀬も私と凪ちゃんと同じくジャージ姿だ。私だと野暮ったくなるのに凪ちゃんや水瀬だと同じジャージや半袖半ズボンの体操服でもスタイリッシュに見えるんだろうか? やっぱり、スタイルや顔の違いだろうな。


「去年の体育祭や中学時代の体育祭について話していたんですよ」


「あぁ。そうなんだ。去年は応援合戦が面白かったよね。あそこまで自由な応援合戦は高等部だけだから驚いたよ。そういえば、中学時代はどんな感じだったんだい?」


「中学時代は熱中症との戦いでしたね……」


瑠璃るりちゃんは倒れかけてたもんね。今年は心配しなくていいと思うけど……無理はしないでね?」


 普段見上げる側の私を凪ちゃんが下から覗き込むように見上げてくる。普段とは違う立場に少しドキドキしてしまう。やっぱり、美少女の上目遣いは目に毒だ。日頃から、この視線をむけられている男共はよく平静でいられるな。しかも、心配そうな表情とか本当に胸が痛くなるというか、色々な意味で心臓に悪い。


「えっ? 雪城ゆきしろさん倒れそうになったのかい? 一体どうして? ちゃんと、熱中症対策にテントや扇風機やドリンクがあっただろうに……」


 でた金持ち発言。ついつい凪ちゃんと2人で冷めた目を向けてしまう。全く、コレだから温室育ちのお坊ちゃんは困る。石蕗学園とただの公立校を一緒にするもんじゃない。凪ちゃんと顔を見合わせため息を吐くと水瀬は顔をひきつらせていた。


「おい。お前達は3人揃って一体何をしているんだ?」


「本当ね。何だか凪ちゃんと瑠璃ちゃんは呆れているみたいだけれど、どうかしたの?」


 会長とあかね先輩を見ると会長はジャージを腕まくりし前を開けた状態だった。いっそ脱げばいいのにと思うが、そうもいかないんだろうか? 茜先輩はやっぱり日焼けが気になるのか私達と同じくジャージ姿だ。暑いのか緩やかなウェーブかかった髪を一つに結んでいる。


「いえ。やっぱり石蕗学園の内部生は違うなと思いまして……」


「これだから、温室育ちのお坊ちゃんはって呆れてたの。普通に考えて公立校では椅子は自分で持って行くし、テントなんてないし、ドリンクサービスなんて夢のまた夢よ」


「「「えっ?」」」


 そういえば、私と凪ちゃん以外の生徒会役員は全員内部生だったな。だからって目を丸くして、こちらを見られても正直に言って困るんだが。これが金持ちと一般庶民の差か。しかし、会長達でコレだと一年組――特にたちばなが騒ぎそうだな。想像するだけで面倒くさい。


浅葱あさぎ! 先輩達全員集まってるよ!」


「お、俺達遅れたのか? ど、どうしよう萌黄もえぎ!」


 叫ぶような声に全員で顔を見合わせる。時計は集合時間の10分前を示しているのだが、彼らはそれを確認する余裕がないらしい。まぁ。一番年下の人間達が最後に到着したとなると焦る気持ちも分からなくはないが。というか龍崎りゅうざきの大声なんて初めて聞いたな。


「あいつらは本当に大丈夫なんだろうか?」


「まぁ。大丈夫なんじゃないかしら?」


「そうですよ。けい先輩。心配しなくてもアレはアレでしっかりしていますから」


「そうだな。……幸い今日はチームが分かれているお陰で個別に指導出来そうだ。俺達は萌黄を何とかするから、お前達は浅葱の指導を頼むぞ」


 生徒会長は私達を見つめニヤリと笑うが全く面倒なことを押しつけられたものだ。私だって初めてだらけなんだが、この人達は分かって居るんだろうか?


「す、すみません! 遅くなりました!」


「ごめんなさーい!」


「いや。2人とも遅れてないですよ?」


「「あれ?」」


 慌てて腕時計を確認する汗だくの2人に気づかれないように溜め息を零す。腕時計をしっかりしているのは褒められる点だと思うけど何というか前途多難な気がするんだが、本当に大丈夫なんだろうか? 何だか不安になってくる。


「ほう。7分前には全員集合とは感心だな。だが、今日は見回りや何か緊急事態が起きない限り特にすることはない。学生らしく楽しむといい」


 気付いた時には背後をとられていた。後ろを振り向くといつもと変わらずスーツ姿の烏羽からすば先生が立っている。気配や足音を消して近づくのはやめてほしいんだが。明らかに教師には不必要なスキルだろうに。本当にかなめさんときたら困った人だな。



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