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石蕗学園物語  作者: 透華
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舞い戻る嵐 とある女生徒の憧れ

 あたしは去っていく長い黒髪の女生徒を眺めながら、呆然としていた。あの本は貸し出し禁止のモノだったはずなのに、先輩らしき人は平然と借りに来たのだ。どうやら、特権階級の人だったようだけど、心が広いのか「借りられない」と言った私に対して不快感を表に出すことはなかった。


「あの。白鷺しらさぎさん。結局、さっきの人って誰なんですか?」


「あら? 聞いたことないかしら? 雪城瑠璃ゆきしろ るりって名前」


「雪城瑠璃!? あの人が雪城瑠璃先輩だったんですか!? ってきり、同姓の別の人かと思ってました!?」


「まぁ。手続きの時って識別番号くらいしかパソコンに表示されないし、雪城さんはあんまり表に出たがる子でもないしね。でも、全校集会では壇上で話してたわよ?」


「あんなに、距離があったら、普通、顔なんて見れませんよ……」


 うわぁ。勿体ないことしちゃった。どうせなら、色々学園についてとか勉強についての話を聞かせてもらえばよかった。ああ、でも、折角雪城先輩に会えたのに、あたしってば滅茶苦茶態度悪かったよね。絶対、生意気な一年だって思われてる。もう。最悪。

 雪城瑠璃先輩はあたし達奨学生にとっては憧れの先輩なのだ。一年間学年一位を取り続けた努力もそうだけど雪城先輩は学園を改革した人間でもあるから。そのせいで「石蕗つわぶきの魔女」なんて異名がついてるらしいけど、失礼だと思う。確かに、ちょっと、浮き世離れした雰囲気ではあったけど。

 でも、雪城先輩なら貸し出し禁止の本が借りられたコトに納得がいく。あたし達は奨学生として勉強する上で様々な特権が与えられるし、学年一位を一年間取り続けたりしたら、その特権はあたしなんかじゃ想像できないくらい凄いモノになるはずだ。図書館の貸し出し禁止の本を借りるくらい出来て当然なんだろう。

 確か雪城先輩って、その特権の最たるモノとして上流階級出身じゃないと入れない生徒会に補佐として入ったんじゃなかったっけ? そういえば、生徒会役員の証であるバッチを付けてた気がする。何で気づかなかったんだろう? 本当にあたしの馬鹿!


「雪城さんはよく図書館に来るから、多分また会えると思うわよ。あっ、でも、雪城さんが1人じゃないときはあまり話しかけない方がいいかもしれないわね」


「どうしてですか?」


「ふふっ。雪城さんは基本的に水瀬みずせさんと一緒だからよ。水瀬さんは誰か分かるかしら?」


「えっと、石蕗の姫って呼ばれてる人の方ですか? それとも副会長の方ですか?」


「姫の方であってるわ。水瀬さんは雪城さんが大好きだから、自分の知らない他の人とかあまり親しくない人と雪城さんが話してるとヤキモチを焼いてしまうのよ。あっ、でも、水瀬さんにイジメられるとかはないから安心してね」


「それなら、どうしてですか?」


 水瀬凪みずせ なぎ先輩は生徒会書記で「石蕗の姫」とも言われるくらい美人な女性だけど悪い噂はあんまり聞いたことはない。寧ろ自分も外部生だからか、立場の弱い外部生にも優しく接するいい人だとか。そんな出来た人でもヤキモチを焼いたりするんだなって何だか不思議な感じだ。


朽葉くちはさんって「万寿菊の会」のことは知ってるかしら?」


「確か、水瀬先輩のファンクラブですよね。雪城先輩が創立者で会長も務めてるって聞いたことありますけど」


「ふふっ「万寿菊の会」の会員はね。水瀬さんだけじゃなくて会長の雪城さんも崇拝しているのよ。だから水瀬さんと雪城さんの邪魔をすると、それとなく注意されちゃうの。他のファンクラブと比べると素行がいい子ばかりだから、酷いことはされないけどね」


「はぁ。そうなんですか?」


「変わりに風評被害が酷くなるのよ。皆いい子ばかりだから注意された側が悪く見られちゃうのよね。流石の雪城さんもそこまでは知らないみたいだし、気を付けておいて損はないわよ」


「分かりました」


 「万寿菊の会」にそんな恐ろしい側面があるなんて全く知らなかった。他の熱狂的なファンクラブと違って皆、礼儀正しく周りの迷惑になるようなことはしない人達だって聞いてたし。多分、あたし以外の多くの人間もそう思ってるはずだ。


* * * * * *


 あたしは正直に言って人と話すのが苦手だ。ついつい顔が強張ってぶっきらぼうな口調になってしまう。だから、友達も少なくて噂話なんて殆ど知らない。そんな、あたしが雪城先輩について知っているのは、おかしな先輩から話を聞いたからだ。

 その先輩の名前は柊蒼依ひいらぎ あおい。外部生だけど辞退しなければ生徒会にすら入れたくらいの家柄の令息だった。生徒会と対をなす形の特別委員会の先輩方を骨抜きにしてるらしい。そのせいか知らないけどハーレム男とか影で言われている。

 柊先輩とは4月の半ば頃に出会った。案の定あたしはクラスに馴染めなくて孤立していた時期だ。話し相手は司書の白鷺さんくらいで少しだけ寂しい思いをしていた。あたしはクラスで食べるのも食堂で食べるのも何だか気まずくて、たった1人、人の居ない裏庭で寂しくお弁当を食べていた。

 柊先輩は食事中のあたしに木の上からいきなり話しかけてきたのだ。凡そ上流階級の令息の登場の仕方にしては、おかしすぎる姿にあたしは呆然とした。だって、誰も金持ち学校の生徒が木に登るなんて思わないだろう。制服は汚れるし、そもそも上流階級の令息が木に登れなんて想像できない。

 そんな、あたしの驚きを無視しながら柊先輩は首にカメラをぶら下げたまま手慣れた様子で枝から枝へ枝から幹へと進み、あたしの前に降り立った。時間は計ってなかったけど、多分校舎の二階位から数分で降りてきたと思う。

 ぶっちゃけ第一印象は「なんか、おかしくてワケが分からない人」だった。いや、あたしじゃなくても同じことをされたら絶対にひくと思う。深窓の令嬢とかなら驚き過ぎて倒れるんじゃない? それくらい衝撃的な映像だった。

 あたしの前に平然と降り立った柊先輩は、あたしの隣に座ると色んな話を聞いてきた。何で1人で居るのかとか、裏庭を選んだ理由とか、外部生なのかとか、兎に角色々聞かれた。でも、嫌な感じは不思議となかった。柊先輩の口調は明るくも柔らかかったし、話の引き出し方がうまかったんだと思う。

 その時に、あたしは雪城瑠璃先輩というあたしと同じく奨学生の先輩がいて、その先輩が学園に凄い影響を与えたと知ったのだ。凄くびっくりした。新入生用に配られた冊子にも雪城先輩の意見が反映されている部分がたくさんあったらしい。

 あたし達奨学生が軽視されたりイジメにあったりしないように奨学生についての説明が載ったのも雪城先輩の影響だったとか。お陰であたし達が一年前の奨学生と比べて、かなりいい環境で学園生活を送れていると知って感動した。

 その日から、あたしにとって雪城先輩は憧れの存在になり、あたし以外の奨学生達も同じく奨学生である雪城先輩や外部生という共通点のある水瀬先輩に憧れているということで話題が出来て今では友人もちゃんと居る。

 柊先輩と会っていなかったら、きっと今でもあたしは1人で居ただろうから柊先輩には感謝してもしたりない。まぁ。未だに、ちょっとおかしな先輩って印象は変わっていないけどね。


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