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石蕗学園物語  作者: 透華
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夏休みまで 11

大変お待たせいたしましたm(_ _)m

 生徒会室から戻って受けた残りの二限の授業はあっという間に過ぎ、気づけば放課後だ。まぁ。授業の内容自体はキチンと頭に入っているので問題はない。

 私になってからは集中して授業を受けているせいか“ワタシ”の時よりも授業の時間が短い気がする。あんなに退屈だった授業時間に居眠り一つしたことがないのだ。

 そんなこんなで普段はなぎちゃんと2人、たまに水瀬みずせと3人で歩く教室から生徒会室までの道を今日は蒼依あおいも一緒に歩いている。ちらちら様子をうかがってくる女性徒達の視線が鬱陶しい。


「はぁ。なんか、いつも以上に見られてる気がする。…………今日中に写真撮り終わってくれると助かるんだけどなぁ」


 主に私と凪ちゃんと生徒会長の心の平穏と仕事を効率良く終わらせるために。写真部の部員達にしてみても写真には拘りすぎる部長の仕事が撮影だけだったとしても早く終わるにこしたことはないだろう。


「同感ね。コイツに何日も生徒会室に出入りされるなんて絶対に嫌よ」


「確かに、蒼依が居ると、落ち着かない人もいるしね。早めに終わらせてくれた方がありがたいかな」


「そろいもそろって人を邪魔者扱いするのやめろよな。……俺だって仕事で生徒会室に行ってるんだから。ていうか、そう。お前さ。最近、俺の扱いが雑になってきてない?」


「蒼依の気のせいじゃないかな?」


 恨めしげな蒼依の視線を軽く流し、尚且つ微笑みさえ浮かべている水瀬は無駄に爽やかだ。ちなみに、蒼依と同じく私も水瀬の蒼依への態度は以前に比べると雑になっている気がする。


「まぁ。いいけど」


 蒼依はため息混じりに返事をしていたが、水瀬の態度が変わったのは凪ちゃんの影響によるものだから責めても仕方ないかとか思ってるんだろうな。雑になっただけで敵視されてるわけじゃないってのも、あまり気にしない理由だろうけど。


「ところで、特別委員会の人達の写真撮影も蒼依が担当してるの?」


「まさか、俺が担当したら確実に自然体の写真が撮れなくなるよ。瑠璃るりさん、分かってて聞いてるだろ?」


「まぁね」


 そうだろうとは思っていたが、やっぱり特別委員会には蒼依は行かなかったか。まぁ。蒼依の言うとおり、蒼依自身が撮影に行けば間違いなく蒼依の望むモノは得られなくなるからな。


「……蒼依にも、ちゃんと自覚があったんだね。少し安心したよ」


「なんだよ。颯。俺だって、あそこまで好意を露わにされたら気づくって」


 あの態度で気づかないとか鈍感にもほどがあるからな。実際にあの人達が蒼依にくっついてる姿はあまり見たことはないけど、言葉の節々に蒼依への好意が見え隠れしてるし。


「蒼依は気づいた上で、明確に何かを言われた訳じゃないから放置してるだけだよね」


「そういうこと」


「要するに、ただの最低男ってわけね」


「お前って本当に俺を悪人にしないと気がすまないのな」


「実際に悪人でしょ?」


 キョトンと首を傾げる凪ちゃんは本当に可愛いと思う。凪ちゃんは純粋だからなぁ。蒼依の態度が不誠実にしか映らないのも、仕方がないよね。


「まぁ。凪の言いたいことも分からなくはないけど、蒼依としても対処が難しいんだよ。それこそ求愛されたなら断るなりなんなり出来るけどね」


「ふーん。まぁ。コイツのことはどうでもいいわ……でも、あそこまで露骨に愛情表現しておいて告白はしないなんて変な人達よね」


「皆さん名家のご令嬢だから色々と厄介なんじゃない? 私達には理解できないけど、色々と考え方が違うみたいだし」


「どういうこと? 瑠璃ちゃんは何か知ってるの?」


 知らないと言ってしまえば楽なのだが、こんなに澄んだ瞳を向けられて答えないわけにはいかない。無意識なんだろうけど凪ちゃん恐るべし!


「聞いた話によると、この学園では「付き合って欲しい」とか「好き」とかいうと、即家同士の問題になるらしいよ」


 そう普通の環境なら有り得ないことだが、ここの生徒達の場合、好意を態度で示す程度なら別にいいが当人に付き合って欲しいとか友人との会話で誰それが好きとか冗談でも言ってはならないのだ。もし、言ってしまうと、あっという間に保護者へと噂が広まって婚約やらの話になるとか。家柄がいいのも考えものだ。

 ちなみに、私にこれを教えてくれたのは、胡桃くるみ先輩だったりする。胡桃先輩はよく告白されていたらしいが、その内容は、私が知る一般的な告白である「付き合って欲しい」とか「あなたが好きです」とかの言葉は一切使われず告白と思えないような発言のオンパレードだった。例えば「花を見る度に君を思い出す」とか「君と同じ時間を過ごせたら、どれだけ幸せだろうか」などなど。

 正直に言って、普通の公立校に通っていた人間が、胡桃先輩と同じことを誰かに言われたとしても、告白だと気づけないだろう。寧ろ電波かなんかかと疑うな。だが、この学園では、その告白が普通なのだと知ったときは驚いたものだ。


「なんか、面倒なのね」


 うんざりしたような凪ちゃんの顔に思わず苦笑する。


「まあ。そのかわりといってはなんだけど桃園ももぞのさんみたいな傍迷惑な行動以外のちょっとしたアプローチなら「青春時代の甘い思い出作り」ってみなす暗黙の了解みたいなものが、この学園には存在するんだ。だから、蓬生ほうしょう先輩やその周りの方々とか僕達のファンクラブの子達も結構発言には気を遣っているんだよ」


「あの人って、そういう点では上手くやってるよな。一度も婚約云々の問題をおこしてないあたり流石だわ。なんつうか、ホストと客みたいな関係をずっと維持してるっていうかさ」


「ああ。何となく分かるかな。お互いに割り切って戯れてる感じだもんね。それじゃあ、生徒会役員とファンクラブの子達はアイドルとファンかな? ちょっと、過激なタイプは多いけど。でも、まぁ。付き合ってるとか妄想と現実の区別がつかないタイプは居ないから、まだマシかな……約一名おかしなのは居るけど彼女はファンクラブ会員じゃないし」


「確かにね。つうか、アイツはどのファンクラブにも受け入れられないんじゃない?」


「それは、そうだろうね。ファンクラブにはそれぞれ決まりがあるみたいだし、彼女は何一つ守れなそうだよ」


「性格からして、ああいう団体に入るのには向かないってことは分かるわね」


 あえて名前は言わなかったが、ちゃんと誰かが伝わるあたりクソ女に対する印象は似たり寄ったりってことらしい。


「まぁ。とりあえず、この学園では、好きとか付き合うとかに過剰反応する人がいるから凪も気をつけるんだよ。それにしても、こういう決まりとかファンクラブとか普通の学園にはないのかな?」


「好きなんて瑠璃ちゃんくらいにしか言わないし、そんな決まりもないわよ。校内でファンクラブが出来るような人自体、本物のアイドルくらいしか存在しないし。第一誰それと付き合いたいとか言うだけで親に伝わるとか有り得ないわ。そんなんじゃ、恋ばなの一つもできないじゃない!」


 凪ちゃんの口から「恋ばな」なんて言葉がでるなんて、まさか、好きな人が出来たとかじゃないよね? 今まで一度もそんなこと聞いてない。ああ、聞きたいけど聞きたくない。心臓がバクバクいう。ああ、だめだ、おちつけ、わたし。


「お前が恋ばなとかいうなんて珍しいな」


「あんた何言ってるの? 普通に考えて世間一般的に女子高生=恋ばななんでしょ? まあ。私は恋より友情に生きるけど……って、瑠璃ちゃん! どうしたの!? 大丈夫!?」


「本当だ。顔色が真っ青だよ。保健室に連れて行こうか? それとも生徒会室の仮眠室を使うかい?」


 2人の声にハッとする。全く私は何をしているのか。「恋ばな」って単語だけでこんなになるなんて驚くにしても驚きすぎだろう。色々あったから、疲れてるのかな。


「大丈夫。ちょっと、貧血気味で……」


「本当に平気? いっそ、このまま帰る?」


「平気だよ。ありがとう。凪ちゃん」


 心配そうに顔をのぞき込んでくる凪ちゃんに苦笑を浮かべる。うん。ちゃんと笑えているはずだ。


「意外と平気っぽいし。気を取り直して生徒会室行くか! 廊下で立ち止まってるよりは落ち着くしな。……というわけで、瑠璃さん俺が持つから荷物貸してよ」


「私が支えながら歩くから、手を貸してくれる?」


 大人しく蒼依にカバンを渡し、差し出してくれた凪ちゃんの腕に手を回す。


「ありがとう。蒼依、凪ちゃん」


「「どういたしまして」」


 あっ、声被ったと思った瞬間に凪ちゃんと蒼依が顔をしかめながら向き合った。これは、一波乱ありそうだな。


「ちょっと、被せてこないでよ! 気持ち悪いわね」


「俺だって好きで被せたわけじゃねーよ!」


「まぁまぁ。2人とも落ち着きなよ。廊下は走らず静かにが基本だからね」


「それなら、あんた今度あの子が騒いでたら注意しなさいよ!」


「そうだそうだ。俺に注意するんなら普段から騒いでるアイツにもちゃんとしろよ」


「ははっ。ごめん。僕が悪かったよ」


「いや、水瀬君は悪くないと思うけど」


 哀れだな水瀬。割り込まなくても、ちゃんと2人で落としどころを見つけていただろうに。私と違って2人の言い争いに慣れてないから仕方がないんだろうけどな。

 まぁ。私も普段は出来る限りとめるようにはしているが、流石に今はその気力はない。それに、なんだかんだで蒼依との口喧嘩は凪ちゃんのストレス発散になっているみたいだから、もうしばらくは放っておいても大丈夫だろう。

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